第4話：代償　作：光芒

　遊希の「このターンで終わらせる」という発言を聞いたミハエルは最初は意にも介さない様子であった。

「ああ、そうしてくれ……って何だと？ このターンで終わらせる？」

　しかしその発言の真意に気付くや否や、彼は顔色を変える。遊希の使用するギャラクシーモンスターは高火力のモンスターが比較的多い。そのため、ヒュペリオンを突破されてしまえば5000程度のライフなどあっさり持ってかれてしまう恐れがあった。

「ドローフェイズ、スタンバイフェイズを終えてメインフェイズ1。相手フィールドにのみモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない時、このカードは手札から特殊召喚できる。現れなさい！“銀河悪魔（ギャラクシー・デビル）”！」

　遊希のフィールドには真っ白い体をした悪魔のようなモンスターが召喚された。これまた遊希のみが持つギャラクシーモンスターの1体である。

「自身の効果で特殊召喚に成功した銀河悪魔の効果を発動」


※銀河悪魔（ギャラクシー・デビル/オリジナルカード）
効果モンスター
星4/光属性/悪魔族/攻1900/守800
(1):相手フィールドにのみモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
(2):このカードが自身の効果で特殊召喚に成功した時に発動できる。自分デッキから「ギャラクシー」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
(3):手札の「ギャラクシー」と名のついたモンスター1体を墓地に送って発動する。このカードのレベルを4つ上げる。


「発動するのは2つ目の効果。デッキから「ギャラクシー」モンスター1体を手札に加えます。加えるのはレベル8の“銀河騎士（ギャラクシー・ナイト）”です」
「レベル8のモンスターだと？ ここはレベル4のモンスターを加えてランク4のエクシーズモンスターを召喚するのが常套手段だと思うのだが？」
「その心配はありません。今手札に加えた銀河騎士は自分フィールド上にギャラクシーモンスターがいる時、手札からリリースなしで召喚することができます。現れなさい、銀河騎士！」


※銀河騎士（ギャラクシー・ナイト）
効果モンスター
星8/光属性/戦士族/攻2800/守2600
自分フィールド上に「フォトン」または「ギャラクシー」と名のついたモンスターが存在する場合、このカードはリリースなしで召喚できる。
この方法で召喚に成功した時、このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで1000ポイントダウンし、自分の墓地の「銀河眼の光子竜」1体を選択して表側守備表示で特殊召喚する。


「攻撃力2800のモンスターをリリースなしで召喚だと！？」
「しかし、この方法で召喚された銀河騎士の攻撃力はエンドフェイズまで1000ポイントダウンします」

銀河騎士 ATK2800→1800

「ですが、それと同時に墓地の銀河眼の光子竜1体を表側守備表示で特殊召喚します。蘇りなさい、銀河眼の光子竜！」

　銀河騎士の描いた光の軌跡を辿って再度銀河眼の光子竜が飛翔する。しかし銀河眼の光子竜は守備表示で蘇生されたため、このターン攻撃することは出来ない。だが、これで遊希のフィールドにはレベル8のモンスターが2体並び立った。

「行きます。私はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河騎士でオーバーレイ！ 2体のギャラクシーモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚！ 現れなさい、ランク8！“銀河眼の竜騎士（ギャラクシーアイズ・ドラゴンナイト）”！！」

　同じレベルのモンスター2体以上を素材にモンスターをエクストラデッキから召喚するのがエクシーズ召喚である。エクシーズモンスターは素材としたモンスターをオーバーレイ・ユニットとして身に纏い、それを消費することで効果を発動することが出来るのだ。
　召喚自体は比較的容易であるが、オーバーレイ・ユニットが0になると効果が発動できないというデメリットもあるため、効果の使い所が試される。


※銀河眼の竜騎士（ギャラクシーアイズ・ドラゴンナイト/オリジナルカード）
エクシーズ（効果モンスター）
ランク8/光属性/ドラゴン族/攻2800/守2600
「ギャラクシー」と名のついたレベル8モンスター×2
(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。自分フィールド上に存在する「フォトン」または「ギャラクシー」と名のついたモンスター1体をリリースし、自分の墓地に存在する「銀河眼の竜騎士」以外の「ギャラクシー」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。
(2):このカードが相手によって破壊され、墓地に送られた時、フィールドに存在するカード1枚を選択して破壊する。


「オーバーレイ・ユニットを1つ消費し、銀河眼の竜騎士の効果を発動！ 自分フィールド上のギャラクシー、銀河悪魔をリリースし、墓地のギャラクシー1体を蘇生します」
「墓地のギャラクシー？ だが墓地にはそれほど強力なギャラクシーモンスターは……」
「私が蘇生するのはオーバーレイ・ユニットとして墓地に送った銀河眼の光子竜です！ 銀河眼の光子竜を攻撃表示で特殊召喚！！」

　銀河騎士の効果で蘇った光子竜は騎士の効果により守備表示固定だったため、攻撃することが出来ない。しかし、銀河眼の竜騎士の効果で蘇生される場合、表示形式を問わないため、攻撃表示で蘇生させることが出来るのだ。

「攻撃力3000と2800のモンスターだと……！」
「バトルフェイズ。まずは銀河眼の竜騎士でマスター・ヒュペリオンを攻撃！」

銀河眼の竜騎士 ATK2800 VS マスター・ヒュペリオン ATK2700

「ぐっ……だがわずか100のダメージなど痛くも痒くもない！」
「100では済ませません。攻撃宣言時にリバースカードオープン！ 銀河眼の竜騎士を対象に通常罠“ギャラクシー・ジャベリン”を発動します！」


※ギャラクシー・ジャベリン
通常罠
(1):発動後、このカードは攻撃力800ポイントアップの装備カードとして自分フィールド上の「ギャラクシー」と名のついたモンスター1体に装備できる。
(2):このカードを装備したモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊し、墓地に送った時、破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える。


「このタイミングで罠カードだと！？」
「まずこのカードは攻撃力800ポイントアップの装備カードとして自分フィールド上のギャラクシーモンスター1体に装備できます。よって銀河眼の竜騎士の攻撃力は800ポイントアップ！」

銀河眼の竜騎士 ATK2800→3600

「これで竜騎士とヒュペリオンの攻撃力の差は900ポイントになります。行きなさい！“銀河・光竜槍”！！」

銀河眼の竜騎士 ATK3600 VS マスター・ヒュペリオン ATK2700

ミハエル LP5000→4100

　光り輝く白銀の槍を装備した竜騎士の一撃により、マスター・ヒュペリオンの体が貫かれ、ヒュペリオンは光の塵となって爆散する。そしてヒュペリオンを討った槍に飛散したヒュペリオンのパワーが集束されていく。

「ぐっ、ヒュペリオン……！」
「そしてギャラクシー・ジャベリンの第2の効果。このカードを装備したモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊し、墓地に送った時。そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与えます！」
「何ぃっ！？」
「ヒュペリオンの攻撃力2700の半分……1350のダメージを受けて貰います」

ミハエル LP4100→2750

「馬鹿な、私のライフが……」
「これでチェックメイトですね、ミハエル先生。銀河眼の光子竜でダイレクトアタック！ 破滅のフォトン・ストリーム！！」

銀河眼の光子竜 ATK3000

ミハエル LP2750→0



＊



「ぐっ……悔しいが、君の勝ちだ」

　デュエルに破れたミハエルはガクリと体を落としながらも、遊希の勝利を称える。まだ遊希がプロデュエリストだったころ、何回か戦ったことはあるが、その時より明らかに遊希の腕は上がっていた。
　プロデュエリストだったころの遊希はまだ小学生であり、カードに対する知識や相手デュエリストとの駆け引きなどデュエル以外のところで未熟なところが多かったのもあるのだが、15歳になった遊希はその時の弱点をほぼ克服していたのである。
　このデュエルでミハエルは一切の手抜きもしていない。しかしこの結果になったということは、彼女の実力はミハエルが思っている以上に高いことを表していた。

「ありがとうございます。試験は以上ですか？」
「ああ、あとは合格発表を待つのみになる。最も君ほどのデュエリストだ、結果はわかりきったものだろうな」
「そうですか。では……」

　一礼して試験会場を後にする遊希。ミハエルをはじめとした教師たちはもちろん、同時間帯にデュエルをしていた他の受験生までもが去っていく彼女の後ろ姿に釘付けとなっていた。一方の遊希は一切後ろを振り向くことなく歩いていく。そして試験会場から自分の姿が見えなくなった瞬間。遊希は近くの壁にもたれ掛った。

「……久々のデュエルは応えるわね」
―――まだ身体に負担はかかるのか？
「こんなの、いつまで経っても慣れないわよ」

　精霊を従えてデュエルの出来る遊希は確かに希有な存在だ。しかし、その代償は決して小さいものではない。精霊でないモンスターを召喚する時は何も起こらないのだが、銀河眼の光子竜のような精霊およびそれに準ずる一部の所持モンスターを一度でもデュエルで召喚すると彼女の身体には得体の知れない疲労感が残る。
　勿論成長と共に遊希の身体にはある程度の抵抗力はついてきている。しかし、遊希が成長するのに比例して精霊の力も増していくため、結果彼女のかかる負担はどんどん増していくのだ。

―――遊希。
「……何心配そうな声出してるのよ。大丈夫よ、私は倒れない。こんなところで倒れてなどなるもんですか」

　近くて遠い控室に遊希は足を引きづりながら向かうのであった。