第57話：満身創痍のふたり　作：光芒

「ウー……あまりそのモンスターの姿は見たくないですネー……」
「そう？ こんなに可愛らしいのに」

　怖がるエヴァに対し、遊希はソリッドビジョンなので触れることは出来ないが、掩蔽竜の足を撫でる。美的センスの違いはともかく、エヴァがピンチであることは変わらなかった。

「じゃあそんなこの子の効果を発動するわ。オーバーレイユニットを2つ取り除いてあなたのフィールドのカード2枚をゲームから除外するわ！ 除外するのはティアマトーとレッドアイズ！」

　大きくその口を開いた掩蔽竜が2体のドラゴンを頭から丸飲みにしていく。エヴァはその光景を最初は気を張って見ようとしたが、最終的には目を背け、子供のように小さな悲鳴をあげるだけだった。

「やっぱり怖いデスー！！」
（なんか綾香が可愛い可愛い言うわけがわかる気がしてきたわね）
―――まあ性格とデュエルのタクティクスの上手い下手ははあまり関係ないからな。昔のお前もこんな感じだっただろうに。
（そうだったかしら）
「さて、この効果を使用したターン、掩蔽竜は攻撃できないわ」
「私、知ってマス。この後遊希サンが何をするカ……」
「そう？ じゃあ話は早いわね！ 私は掩蔽竜でオーバーレイ・ネットワークを再構築！ エクシーズチェンジ！ ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン！！ そしてバトルフェイズ、FA・フォトンでダイレクトアタック！ 壊滅のフォトン・ストリーム！！」

ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン ATK4000

エヴァ LP7900→3900

「―――っ！！」

　ハイパー・ギャラクシーと掩蔽竜の効果でモンスターを一掃されてしまったエヴァはFA・フォトン・ドラゴンの攻撃をもろに受ける形となってしまった。7900あったライフも攻撃力4000のダイレクトアタックを受けたことで一気に半分を切ってしまった。

「メインフェイズ2。FA・フォトンの効果を発動。オーバーレイユニットを1つ取り除き、相手フィールドの表側表示のカード1枚を選択して破壊するわ。その邪魔なフィールド魔法を破壊しなさい！ ギャラクシー・サイドワインダー！」
「！？ 闇氷の霊域が……」
「私はこれでターンエンドよ。エヴァ、次のターンでFA・フォトンを破壊しなければあなたに次のターンは無い。本来の目的とはかけ離れてしまっているけど……ごめんね」


エヴァ　LP3900　手札1枚
デッキ：33　モンスター：0　魔法・罠：1（闇次元の解放）墓地：8　除外：3
遊希　LP8000　手札0枚
デッキ：37　モンスター：1（ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン ORU：0）魔法・罠：0　墓地：10　除外：1




☆TURN07


「ごめんね、なんて謝らないで下さい遊希サン。これも私が修行不足なのがいけないんですカラ……でもまだ諦めませン！ ドロー！！」

　このターンでなんとかしなければ負けが決定してしまう、だけあってエヴァのドローはより力のこもったものになっていた。

「……もはや手段に拘っている場合ではないですネ。手札から“ブラック・ホール”を発動しマス！」


※ブラック・ホール
通常魔法（制限カード）
(1)：フィールドのモンスターを全て破壊する。


「この効果でフィールドのモンスターを全て破壊デス！」

　ブラック・ホールに飲み込まれたFA・フォトン・ドラゴンは成すすべなく破壊されてしまった。どれほどの攻撃力を持ったモンスターであっても、破壊耐性がない限り総じてこれらのカードの前には無力なのである。

「本当はバトルで破壊したかったのですガ……」
「気にする必要はないわ。私だってその局面で引いたらきっと使ってたもの」
「ありがとうございマス。私はこれでターンエンドデス」


エヴァ　LP3900　手札1枚
デッキ：32　モンスター：0　魔法・罠：1（闇次元の解放）墓地：9　除外：3
遊希　LP8000　手札0枚
デッキ：37　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：11　除外：1


☆TURN08


「私のターン、ドローよ」

　エヴァ同様フィールドが空になってしまった遊希。ここは少しでもライフを削っておきたいところであったが、ドローしたのは出来れば手札に取っておきたいモンスターであった。

（このモンスターはあのモンスターを召喚するためには欠かせないカード……攻撃力も低いし迂闊に出すわけにはいかないわ）
「私はこのターン、何もせずターンエンドよ」


エヴァ　LP3900　手札1枚
デッキ：32　モンスター：0　魔法・罠：1（闇次元の解放）墓地：9　除外：3
遊希　LP8000　手札1枚
デッキ：36　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：11　除外：1


☆TURN09


（互いに欲しいカードを引き当てられずドローゴー……大会でもこういうことありまシタ、お客さんの視線が痛かったデス。幸い今は誰もいませんガ……）
「私のターン、ドローデス！」

　現役のプロデュエリストであるエヴァも遊希同様プロの辛さを知る少女である。プロは勝つことも大事だが観客を楽しませるようなデュエルをすることも求められるため、膠着状態のデュエルは早めに終わらせなければならないのだ。そんな辛い思い出を共有する二人であるが、先にその状況を覆すカードを引けたのはエヴァであった。

「私は手札から闇氷竜 ヒュドラーを召喚しマス！ ヒュドラーが召喚に成功した時、効果が発動！」
「確かそのモンスターの効果は……」
「ヒュドラーが召喚に成功した時、デッキから闇氷竜と名のついたチューナー1体を墓地に送ることが出来マス。墓地に送るのは闇氷竜 ウロボロスデス！ そしてウロボロスは闇氷の効果で墓地に送られた時、墓地から特殊召喚出来マス！ 蘇るのデス、ウロボロス！！」

　ヒュドラーの効果によって墓地に送られたウロボロスがフィールドに蘇生される。これでエヴァのフィールドにはチューナーと非チューナーモンスターが揃う。そしてその合計レベルは8。
　先ほど掩蔽竜にトラウマを抱いていたエヴァであるが、今度は遊希が前回のデュエルのトラウマを想起させられる番である。その証拠にエヴァから仄かに漂う独特のオーラが遊希の身体と心に伝わってくる。

―――遊希、来るぞ。
（……ええ、覚悟の上よ）

　遊希はこの2体から召喚されるモンスターに備えて身構える。一方エヴァの中でもどのモンスターを出すかは決めていた。決めていたというより、このモンスターしかいない、と脳が無意識のうちに判断していた。

「行きマス！ 私はレベル4の闇氷竜 ヒュドラーに、レベル4のチューナーモンスター・闇氷竜 ウロボロスをチューニング！ 王者の咆哮、今天地を揺るがす。唯一無二なる覇者の力をその身に刻みなさい！ シンクロ召喚！ 無慈悲なる破壊の王！ レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト！！」

　フィールドに灼熱の炎を巻き上げ、天地を揺るがすかのような豪快な咆哮をあげて舞い降りるレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト。このモンスターをシンクロ召喚した瞬間、エヴァの顔が一瞬苦痛に歪むのを光子竜は見逃さなかった。

―――やはりエヴァはまだあのドラゴンをコントロール出来ていないな。精神的にも肉体的にも辛そうだ。
（だったら早く倒して楽にしてあげないとね）
―――ただそのためにはこちらがあのモンスターの攻撃に耐えなければならないがな。
（今度は……大丈夫よ、たぶん！）

　心の中で空元気。そうでもしなければならないほどスカーライトの力は強かったのだ。

「バトルフェイズ！ 私はレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトで遊希サンにダイレクトアタック！“灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング”！！」

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000

遊希 LP8000→5000

「ぐはっ……！！」

　スカーライトの直接攻撃を受けた遊希の身体が大きく後ろに吹き飛ぶ。やはり精霊の攻撃だけあって、いくらかの衝撃を受けてしまうようだった。

「遊希サン！！」
「大丈夫よ、このくらい。デュエルを続けましょう」
「……私はこれでターンエンドデス」


エヴァ　LP3900　手札1枚
デッキ：30　モンスター：1（レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト）魔法・罠：1（闇次元の解放）墓地：11　除外：3
遊希　LP5000　手札1枚
デッキ：36　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：11　除外：1


☆TURN10


「私のターン、ドロー！」
（……来てほしかったカード、ではあるけどまだこのカードは使えない……）
「私はこのターンも何もせずにターンエンド」


エヴァ　LP3900　手札1枚
デッキ：30　モンスター：1（レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト）魔法・罠：1（闇次元の解放）墓地：11　除外：3
遊希　LP5000　手札2枚
デッキ：34　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：11　除外：1


☆TURN11


「私のターン、ドローデス！ 私は手札からチューナーモンスター、闇氷竜 バジリスクを召喚しマス。そしてバトルフェイズ、まずはバジリスクで遊希サンにダイレクトアタックデス！」

闇氷竜 バジリスク ATK1200

遊希 LP5000→3800

「そしてレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトで追撃しマス！ 灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング！！」

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000

遊希 LP3800→800

「―――っ！！」

　スカーライトの2発目の攻撃を受けた遊希であったが、ライフを削られているにも関わらず今度は吹き飛ばされずにその場に踏み止まった。ここで先ほどのように飛ばされることも出来たのだが、今度は飛ばされるわけにはいかなかった。
　ここでスカーライトの力に負けてしまっていては今後エヴァに、スカーライトに勝てる日はますます遠くなってしまう。遊希はそう思っていた。その気持ちが彼女を強くしていたのだ。

「まだ私のライフは……残っている……」
「……私はこれでターンエンドデス」


エヴァ　LP3900　手札1枚
デッキ：29　モンスター：2（レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト、闇氷竜 バジリスク）魔法・罠：1（闇次元の解放）墓地：11　除外：3
遊希　LP800　手札2枚
デッキ：34　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：11　除外：1


☆TURN12


　精霊を完璧にコントロール出来ていないエヴァ、そしてコントロールが不十分な精霊の直接攻撃を二度も受けた遊希。可憐な二人の少女はどちらも満身創痍と言っていい状態であった。
　それでもなお二人は目の前の相手を一心にその眼で見据えて動かない。彼女たちの中にある「強い相手と戦いたい」というデュエリストに宿る精神が身体を動かしていたのだ。

「……このドローで全てが決まる。お願い、応えて。私のデッキ！ ドロー！」

　遊希の願い。それはエヴァを助けること、そしてこのデュエルに勝つこと。その純粋な気持ちがドローへとつながる。

「自分フィールドにのみモンスターが存在しない時、このカードは手札から特殊召喚できる！ 来て、銀河悪魔！！」
「銀河悪魔……遊希サンのデッキのエンジンとなるモンスターですネ」
「銀河悪魔が自身の効果で特殊召喚に成功した時、デッキから「ギャラクシー」モンスター1体を手札に加えることができるわ。私が手札に加えるのは銀河の戦乙女。さらに銀河悪魔には手札のギャラクシーモンスター1体を墓地に送ることでレベルを8にする効果がある。でもその効果は今は使わないわ。私はさらにチューナーモンスター“ギャラクシーサーペント”を召喚！」


※ギャラクシーサーペント
チューナー・通常モンスター
星2/光属性/ドラゴン族/攻1000/守0
宵闇に紛れて姿を現わすと言われるドラゴン。星の海を泳ぐように飛ぶ神秘的な姿からその名が付けられた。
その姿を見た者は数えるほどしかないと伝えられるが、見た者は新たな力を得られるという。


「レベル2のチューナーモンスター！？ しかも通常モンスター……」
「そして自分フィールドにギャラクシーと名のついたモンスターが存在する時、手札から銀河の雷光竜は表側守備表示で特殊召喚できるわ！」

　遊希のフィールドにはレベル5の雷光竜、レベル4の銀河悪魔、そしてレベル2のチューナーモンスター・ギャラクシーサーペントが存在する。このままではレベルの合計は11。シンクロ召喚できるモンスターは存在するが、遊希はそのレベルのモンスターをエクストラデッキには入れていなかった。

「銀河の雷光竜が特殊召喚に成功した時、その効果が発動。雷光竜のレベルは自身以外の別のギャラクシー1体と同じレベルになるわ！ 雷光竜のレベルをギャラクシーサーペントと同じレベル2にする！」
「レベルの合計は……8！」
「さあ行くわ、これが最後に見せる“ギャラクシーアイズ”よ！ 私はレベル4の銀河悪魔とレベル2となった銀河の雷光竜に、レベル2のチューナーモンスターチューナーモンスター、ギャラクシーサーペントをチューニング！！」

　銀河悪魔と銀河の雷光竜の身体が星へと変わり、6つの光となる。そしてギャラクシーサーペントが変化した2つのリングと共鳴し、新たな姿へと生まれ変わろうとしていた。

「“銀河に煌めく儚き結晶、その輝きであらゆるものを幻惑する。彼のものに永遠の眠りをもたらせ！”シンクロ召喚！ 今こそその姿を現しなさい！“水の銀河眼”！“銀河眼の氷晶竜（ギャラクシーアイズ・ダイヤモンドダスト・ドラゴン）”！！」

　遊希のフィールドに刺さるような冷気と共に現れたのは水晶のように透き通った身体を持った大気竜と同じく美しい氷のドラゴンだった。これが遊希が持ち、今までデュエルに出してこなかった最後の銀河眼・銀河眼の氷晶竜である。