第147話：竜姫神と岩の合成獣・1　作：光芒

　千夏とアリトのデュエルが始まったその隣では、詩織とギラグことジャイアント・ハンドのデュエルも始まっていた。
　デュエルが大好きな千夏と戦うことに喜びを感じるアリトのデュエルは似たもの同士のデュエルであると言えたが、引っ込み思案で大人しい詩織と思慮分別は利くが、やはり武断派であるギラグの性格は似ているようで似ていない。そんな2人のデュエルになろうとしていた。

「では、デュエルです！」
「デュエルだ」


ギラグ LP8000　手札5枚
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0
詩織 LP8000　手札5枚
デッキ：45　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0


☆TURN01


「先攻は俺が貰う。俺は手札から“コアキメイル・ウォール”を召喚する」


※コアキメイル・ウォール
効果モンスター
星4/地属性/岩石族/攻1900/守1200
このカードのコントローラーは自分のエンドフェイズ毎に手札から「コアキメイルの鋼核」1枚を墓地へ送るか、手札の岩石族モンスター1体を相手に見せる。または、どちらも行わずにこのカードを破壊する。
相手の魔法カードが発動した時、このカードをリリースする事でその発動を無効にし破壊する。


（【コアキメイル】……厄介なデッキですね）

　【コアキメイル】は様々な属性のモンスターやカードの効果に対してメタを持つテーマであり、高ステータスでありながらフィールドに存在するだけで相手の動きを阻害することを得意とする傍ら、“コアキメイルの鋼殻”などそのモンスターごとに指定するカードをエンドフェイズに見せなければ自壊してしまうなど扱いづらい一面を持った上級者向けのモンスター群である。

「俺はカードを1枚セットしてターンエンド。エンドフェイズにコアキメイルの共通効果で手札の「コアキメイルの鋼殻」か岩石族モンスターを見せることでこのカードを維持する。もしくはそれを行わずに破壊する。俺は手札の岩石族モンスター“コアキメイル・サンドマン”を見せる」


ギラグ LP8000　手札3枚
デッキ：35　モンスター：1（コアキメイル・ウォール）魔法・罠：1　墓地：0　除外：0
詩織 LP8000　手札5枚
デッキ：45　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0


☆TURN02


「私のターン、ドローです」

　コアキメイルモンスターを召喚したギラグであるが、コアキメイルの維持コストとして見せたのはコアキメイル共通の維持カードであるコアキメイルの鋼殻ではなく、岩石族モンスターの“コアキメイル・サンドマン”。
　岩石族のコアキメイルは自身をリリースすることで相手の行動を制限する効果を持っているが、維持コストとして情報アドバンテージを相手に与えなければならない。ギラグがコアキメイル・サンドマンを見せたことで詩織はギラグのデッキの内容を大体ではあるが把握した。

（相手の方……ギラグさんのデッキは恐らく【岩石族】統一でしょうね。何より元の姿が岩のような姿をしていたのですからそうなのでしょうが……）

　岩石族はモンスターの総数こそそれほど多くないものの、個々の効果では優秀なものが多く、サポートカードも強力なものが多い。岩石族のコアキメイルもその強さを支えているカードであり、コアキメイル・ウォールは自身をリリースすることで魔法カードの発動を無効にする効果を持っている。
　そのため魔法カードの効果で特殊召喚される儀式モンスターをデッキの主軸に据える詩織としてはコアキメイル・ウォールは是が非でも除去しなければならないモンスターといえた。

「私はチューナーモンスター、ライトロード・アサシン ライデンを召喚します。そしてライデンの効果を発動。デッキの上からカードを2枚墓地に送り、その中にライトロードがあれば攻撃力を200ポイントアップします」

　ライデンの効果で墓地に送られた2枚のカードのうち、ライトロードと名のついたモンスターは1枚あった。そのモンスターはライデンと同じくチューナーモンスターであるライトロード・アーチャー フェリスであり、フェリスは墓地から詩織のフィールドに舞い戻った。
　フェリスは通常召喚することができないが、カードの効果でデッキから墓地に送られた場合に特殊召喚ができるのだ。それでもチューナーモンスター同士であるためレベル8のシンクロ召喚に繋げることはできない。

「私のフィールドにはレベル4のモンスターが2体存在します」
「ランク4、のエクシーズ召喚か」
「はい。私はライトロード・アサシン ライデンとライトロード・アーチャー フェリスでオーバーレイ！ 2体のレベル4モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！“光の力をその身に受けし清らかな乙女よ、今正義を執行する聖女となりて闇を討滅せよ！” 降臨せよ！ ライトロード・セイント ミネルバ！！」

　ライトロード・セイント ミネルバはライトロードに重要である能動的な墓地肥やし効果を持ち、条件を満たした場合に手札増強効果と除去効果を併せ持っている。その分攻撃力は低いが、ライトロードデッキにおいては欠かせないモンスターの1体だ。

「ライトロード・セイント ミネルバの効果を発動します！ オーバーレイユニットを1つ取り除き、デッキの上からカードを3枚墓地に送ります」

　ミネルバの効果で墓地に送られた3枚のカードの中にライトロードはライトロード・マジシャン ライラの1枚のみだった。しかし、共に墓地に送られたカードの中にはサフィラの儀式召喚に役立つ儀式魔人リリーサーがあった。

「ライトロードが1枚あったのでデッキから1枚ドローします。そして……バトルです！ ライトロード・セイント ミネルバで……」
「ならばこのバトルフェイズの開始時にリバースカードを発動する！ 罠カード“岩投げアタック”だ！」


※岩投げアタック
通常罠
自分のデッキから岩石族モンスター1体を選択して墓地へ送る。相手ライフに500ポイントダメージを与える。その後デッキをシャッフルする。


「俺はデッキから岩石族モンスターの“タックルセイダー”を墓地に送り、君のライフに500のダメージを与える」

詩織 LP8000→7500

　投石器のような機械から投げられた石の礫が詩織の身体に直撃する。本当に石を投げつけられたかのような痛みが走った。

「きゃっ！」
「そして墓地に送られたタックルセイダーの効果を発動する！」


※タックルセイダー
効果モンスター
星4/地属性/岩石族/攻1500/守1800
このカードが墓地へ送られた場合、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して裏側守備表示にする。
●相手フィールド上に表側表示で存在する魔法・罠カード1枚を選択して持ち主の手札に戻す。
このターン、相手はこの効果で手札に戻したカード及びその同名カードを発動できない。


「タックルセイダーは墓地に送られた場合に2つの効果から1つを選択して発動できる。発動するのは1つ目の効果、相手フィールドに存在するモンスター1体を裏側守備表示にする。対象は当然ミネルバだ！」
「ミネルバが裏側表示にされたことでバトルはできなくなります……」

　詩織としてはミネルバで手札を補強しつつコアキメイル・ウォールを撃破して魔法カードを使える状況にしておきたかったが、岩投げアタックでダメージを受けるだけではなく、タックルセイダーとのコンボで攻撃すら封じられてしまった。
　岩石族のデッキに限らず、能動的に墓地を肥やせることは重要であり、岩石族のデッキであれば入っているであろうあのカードのことを考えると墓地肥やしをさせる前にデュエルを優位に進めなければならないのだ。

「……メインフェイズ2に移ります。私はカードを1枚セットしてターンエンドです」


ギラグ LP8000　手札3枚
デッキ：34　モンスター：1（コアキメイル・ウォール）魔法・罠：0　墓地：2　除外：0
詩織 LP7500　手札5枚
デッキ：38　モンスター：1（ライトロード・セイント ミネルバ ORU:1）魔法・罠：1　墓地：5　除外：0


☆TURN03


「俺のターン、ドロー。俺は手札から魔法カード、テラ・フォーミングを発動する。デッキからフィールド魔法、“岩投げエリア”をサーチし、そのまま発動する」


※岩投げエリア
フィールド魔法
(1)：このカードがフィールドゾーンに存在する限り、自分のモンスターが戦闘で破壊される場合、代わりに自分のデッキから岩石族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。この効果は1ターンに1度しか適用できない。


　ギラグのフィールドは巨大な投石器が複数台設置された断崖絶壁のような風景に変化する。岩投げエリアが存在する場合、自分のモンスターが戦闘で破壊される際にデッキから岩石族モンスターを墓地に送ることで1度だけ破壊を無効にすることができるのだ。
　自身をリリースすることで特定のカードの効果の発動を無効にする岩石コアキメイルたちとの相性も良く、ギラグのフィールドは着々と勝利のための軍備を整えていった。
　彼のデッキはアリトの【BK】とは異なり速攻性や火力は劣るものの、一度防備を固めてしまえば半端なデッキでは踏み越えられないようになっている。アリトとギラグはそれぞれ互いにないものを補う形でデッキを組んでいるのだ。

「メインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移る。俺はコアキメイル・ウォールで裏表示のライトロード・セイント ミネルバを攻撃する！」

コアキメイル・ウォール ATK1900 VS ライトロード・セイント ミネルバ DEF800

「破壊されたミネルバの効果が発動します！ 自分のデッキの上からカードを3枚墓地に送り、その中にあったライトロードの数だけ相手フィールドのカードを破壊します！」

　最後の力を振り絞ったミネルバによって、詩織のデッキの上から3枚のカードが光となって墓地へと消えていく。そんな中、3つの光のうちの1つがライトロード・ビースト ウォルフとなって現れた。

「墓地に送られた3枚のうちライトロードカードは……ウォルフの1枚のようですね。よってカード1枚を破壊します」

　ギラグのフィールドにはコアキメイル・ウォールと岩投げエリアの2枚のカードが存在している。攻撃力1900と下級モンスターにしては高い攻撃力を持ち、かつ魔法カードの発動を無効にするウォールとモンスターの戦闘破壊を岩石族モンスターの墓地肥やしによって1度だけ無効にできる岩投げエリア。どちらのカードも捨て置けないカードであったが、詩織は最初からどのカードを破壊するかを決めていた。


チェーン2（詩織）：ライトロード・ビースト ウォルフ
チェーン1（詩織）：ライトロード・セイント ミネルバ


「デッキから直接墓地に送られたウォルフを特殊召喚します。そして破壊するのは……岩投げエリアです！」

　ウォルフの持つ槍が光の槍となって放たれ、ギラグのフィールド魔法・岩投げエリアを貫いて破壊した。通常召喚できないというデメリットがあるためか、ウォルフの攻撃力は2100と下級モンスターにしては破格の数値であり、この攻撃力ならセットカードのない現状ならウォルフの攻撃でコアキメイル・ウォールを破壊できる。
　しかし、岩投げエリアが存在していてはその戦闘破壊は無効化されるのみではなく相手の墓地も肥やされてしまう。アリトと異なり、ギラグの使っているカードは人間の世界でもよく見られる普通のカードたちなのでその性能は詩織も知っていたが、使い手が精霊である以上、攻められる時には攻めなければいけない、という気持ちがあったのだ。

「岩投げエリアは破壊される。バトルフェイズからメインフェイズ2に移行……そうだな、俺はカードを1枚セットしてターンエンド。エンドフェイズ時に手札のコアキメイル・サンドマンを見せてコアキメイル・ウォールを維持する」


ギラグ LP8000　手札2枚
デッキ：32　モンスター：1（コアキメイル・ウォール）魔法・罠：1　墓地：4　除外：0
詩織 LP7500　手札5枚
デッキ：35　モンスター：1（ライトロード・ビースト ウォルフ）魔法・罠：1　墓地：9　除外：0


☆TURN04


「私のターン、ドローです！ 私は手札から魔法カード、儀式の下準備を発動します！」
「儀式の下準備……君のデッキは純粋なライトロードではじゃないというのか？」
「ライトロードじゃない、と言えば嘘になりますね……ですが私のデッキのエースカードはこのモンスターです。私はデッキから儀式魔法、祝祷の聖歌とその儀式魔法に記された儀式モンスター、竜姫神サフィラを手札に加えます！ そして今サーチした祝祷の聖歌を発動！ 墓地の儀式魔人リリーサーと儀式魔人デモリッシャーの2体をゲームから除外することで儀式のためのリリース素材とします！」

　詩織の墓地には幸運にもリリーサーとデモリッシャーの儀式魔人コンビが1組揃って送られていた。墓地の儀式魔人を自身をリリースすることでそのレベル分の儀式召喚のための生贄として使用することができるのだ。

「“天より舞い降りし竜姫、救いを求めるものに慈悲を、抗うものに神罰を下さん！”儀式召喚！ 降臨せよ、竜姫神サフィラ！！」

　讃美歌のような美しい歌声と光を伴って天空から竜姫神サフィラが詩織のフィールドに舞い降りる。儀式魔人リリーサーと儀式魔人デモリッシャーを儀式の生贄に捧げているため、サフィラが存在する限りギラグは一切の特殊召喚を封じられ、さらにサフィラ自身は相手のカードの効果の対象にならなくなった。攻撃力こそ最上級モンスターと比較すると低めではあるが、それでも2500はあり、自身の効果でオネストを再利用し続ければ戦闘によって非常に強くなれるのだ。

「リリーサーとデモリッシャーを素材にした竜姫神サフィラ……なるほど、ライトロードと噛み合っているな」
「これが私のデッキです。あちらの方……アリトさんのようにエクシーズ召喚などモンスターを特殊召喚するのであればまずこのカードを倒さなければならくなりました」

　比較的静かなデュエルが繰り広げられる横では千夏とアリトがHEROとBKによる熱いデュエルを繰り広げていた。見た目の派手さこそあちらの方が上であるが、こちらのデュエルもまた穏やかながらも徐々にボルテージを増しつつあった。

「ではバトルフェイズに移ります。竜姫神サフィラでコアキメイル・ウォールを攻撃します！“竜姫の讃美歌”！」

竜姫神サフィラ ATK2500 VS コアキメイル・ウォール ATK1900

ギラグ LP8000→7400

「ぐっ……」
「そしてライトロード・ビースト ウォルフで攻撃です！」

ライトロード・ビースト ウォルフ ATK2100

「それ以上の攻撃はさせないぞ、リバースカードオープン！ 罠カード“ガード・ブロック”！」


※ガード・ブロック
通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローする。


「ウォルフの攻撃による2100ダメージは0になり、俺はカードを1枚ドローする」
「大きなダメージは与えられませんでしたか……ですがサフィラがいる限りあなたは特殊召喚ができません。私はカードを1枚セットしてこれでターンエンドです。そしてエンドフェイズにこのターンに儀式召喚の成功したサフィラの効果を発動します」
「竜姫神サフィラ……確か儀式召喚に成功した場合か墓地に光属性モンスターが送られたターンのエンドフェイズに3つの効果から1つを選んで発動できるんだったな」

　詩織はこの効果のうち、墓地の光属性モンスターを手札に戻す効果で手札から墓地に送ったオネストをサルベージしてサフィラを戦闘破壊から守るようにしている。しかし、今の時点では手札にも墓地にもオネストは無かったため、発動する効果は2つ目のハンデス効果を発動することにした。

「サフィラの効果のうち発動するのは2つ目の効果です。相手の手札をランダムに1枚選んで墓地に送ります」

　サフィラの力によってギラグの手札のうち1枚が墓地に送られた。そのカードがどのカードかを知るのは持ち主であるギラグのみであった。


ギラグ LP7400　手札3枚
デッキ：30　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：7　除外：0
詩織 LP7500　手札4枚
デッキ：33　モンスター：2（竜姫神サフィラ、ライトロード・ビースト ウォルフ）魔法・罠：2　墓地：11　除外：2