第2話：精霊、顕現　作：光芒

　実技試験デュエルのルールは以下の通りである。

・初期ライフは互いに8000
・先攻を取ったプレイヤーは最初のターンにドローを行えない
・先攻のプレイヤーはバトルフェイズおよびメインフェイズ2を行えない

　ルールはマスタールール3。特に何の変哲もない通常のルールと同じだ。だが、試験という緊張感の高まる場において普段と同じようにデュエルが出来るかどうかも試される。ちなみにこのアカデミアにおいてはデュエルディスクがデュエル前にコンピューターでランダムで先攻後攻を決める仕組みになっている。
　一般的にはじゃんけんやコイントスが有名であるが、先に先攻を宣言した者がそのまま先攻になるなどというローカルルールもあるため、国や地域ごとの混同を避けるためにこの仕組みにしたそうだ。

「ではデュエルディスクのスイッチを押そうか」

　そう言ってスイッチを押すミハエル。それに続いて遊希もスイッチを押す。コンピューターによって選ばれた結果、先攻はミハエル、後攻は遊希となった。
　先攻はカードを最初のターンドローできず、バトルフェイズも行えないが、相手の魔法・罠を気にせずモンスターを展開することが出来る。特に先攻1ターン目に強力な効果を持つモンスターをフィールドに召喚出来ればそのまま勝負が決まることも多い。
　一方の後攻は相手のセットした魔法・罠に注意を配る必要があるが、ドローフェイズを行えるため、相手の様子を見ながらその後の作戦をじっくりと考える事が出来る。それでも初手に相手モンスターを退けられるモンスターが来なければ次のターン以降は相手に優位を築かれてしまうため、油断は禁物だ。

「では、天都君。準備はいいかね？」
「……はい、いつでも」
（プロの舞台以外で君と戦う日が来るとは思わなかったが……今は教師と生徒の関係だ。きっちりとアカデミアのデュエルというものをその身に叩き込んであげよう）
（……今日の夕食何にしようかな……おっとまずはこっちに集中しなきゃ）

　デュエルに臨む2人はそれぞれ相手がどのようなことを考えているかなどわかるはずはない。しかし、気合を入れるミハエルに対して遊希は何処吹く風といった様子なのは周囲の人間からも見て取れた。

「「デュエル！」」


☆TURN01


「さて、先攻は私だが……」

　ミハエルは最初にドローした5枚のカードを見て不敵な笑みを浮かべる。

（おいおい、これでは私の勝ちは決まったようなものではないか）
「私は手札の“ヘカテリス”を捨ててその効果を発動する」


※ヘカテリス
効果モンスター
星4/光属性/天使族/攻1500/守1100
このカードを手札から墓地へ捨てて発動する。自分のデッキから「神の居城-ヴァルハラ」1枚を手札に加える。


（ヘカテリス……なるほど、あれだけ自信を持てるわけだ）
「私はデッキから“神の居城-ヴァルハラ”1枚を手札に加える。そして今手札に加えたヴァルハラを発動！」


※神の居城-ヴァルハラ
永続魔法
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、手札から天使族モンスター1体を特殊召喚する事ができる。この効果は1ターンに1度しか使用できない。


「ヴァルハラの効果によって私は手札から天使族モンスター1体を特殊召喚する。デュエル開始早々で悪いが、君にはこのカードの圧倒的な力の糧となってもらおうか」

　そう言ってミハエルは手札の天使族モンスター1体を見せつける。そのモンスターを目にした瞬間、遊希の目付きがやや鋭くなった。

「現われよ、無慈悲なる天の使者！“大天使クリスティア”！！」


※大天使クリスティア（準制限カード）
効果モンスター
星8/光属性/天使族/攻2800/守2300
自分の墓地に存在する天使族モンスターが4体のみの場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚に成功した時、自分の墓地に存在する天使族モンスター1体を手札に加える。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、お互いにモンスターを特殊召喚する事はできない。
このカードがフィールド上から墓地へ送られる場合、墓地へは行かず持ち主のデッキの一番上に戻る。


「クリスティア……デュエルとはいえ受験生相手にこんなカード使うんですね」
「君くらいの相手にはこれくらいのことをやらなければ割に合わないだろう。カードを1枚セットしてターンエンドだ」


ミハエル LP8000　手札2枚
デッキ:34　モンスター:1（大天使クリスティア）魔法・罠:2（神の居城-ヴァルハラ）墓地:1　除外:0
遊希 LP8000　手札5枚
デッキ:35　モンスター:0　魔法・罠:0　墓地:0　除外:0


　遊希とミハエルのデュエルが始まると同時に他の受験生が待機している控室のモニターに二人のデュエルが映し出された。まだミハエルの先攻1ターン目が終わったばかりであるが、1ターン目から強力モンスターであるクリスティアを召喚したことでこのデュエルが自分たちのしてきたデュエルとは違ったものであるということを理解していた。

（天都 遊希……クリスティアをどう突破するか見せてもらうわよ）

　その中には先程遊希に事実上の宣戦布告をしたあの少女の姿もあった。彼女の茶色い瞳にはモニターの向こうでデュエルに臨む遊希の姿のみが映っていた。


☆TURN02


「私のターン、ドロー」

　遊希がデッキからカードをドローする。ドローフェイズとスタンバイフェイズを終え、メインフェイズ1に移行する。デュエリストはこのメインフェイズ1においてモンスターの召喚や魔法カードの使用など1つのターンに出来ることのほとんどを行うことが出来る。

（さて、あのクリスティアだけど……）
―――突破する手段は既に揃っているな。あいつに力の差を見せてやれ。この私を使ってな。
（……一々脳内で喋りかけないでくれるかしら。鬱陶しいわね。でもその力には早速頼らせてもらう）
「私は手札から魔法カード“ギャラクシー・トレード”を発動します」


※ギャラクシー・トレード（オリジナルカード）
通常魔法
(1):手札の「ギャラクシー」と名のついたモンスター1体を墓地に捨てて発動する。自分のデッキからカードを2枚ドローする。


「私は手札の“銀河新星（ギャラクシー・ノヴァ）”を墓地に捨てて、デッキからカードを2枚ドローする。そして手札から墓地に送られた銀河新星の効果が発動します」


※銀河新星（ギャラクシー・ノヴァ/オリジナルカード）
効果モンスター
星4/光属性/雷族/攻1100/守600
(1):このカードが手札またはデッキから墓地に送られた場合、デッキから「フォトン」または「ギャラクシー」と名のついた魔法・罠カード1枚を手札に加えることができる。
(2):自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動できる。自分の墓地に存在する「銀河新星」以外の「ギャラクシー」と名のついたモンスター1体を手札に加える。
「銀河新星」の効果は1ターンに1度しか発動できない。


「墓地に送られた銀河新星の効果でデッキから私は「フォトン」または「ギャラクシー」と名のついた魔法・罠カードを1枚を手札に加えることができます。そして私は手札からこのモンスターを通常召喚。現れなさい、“銀河眼の雲篭（ギャラクシーアイズ・クラウドラゴン）”」

　遊希のフィールドにはドラゴンの幼生のような小さなモンスターが召喚される。遊希が召喚した銀河眼の雲篭はレベル1でその攻撃力は僅かに300。
　クリスティア相手の壁にするならまだしも、攻撃表示で召喚してしまったため、次のターンにクリスティアにこのモンスターが攻撃されてしまえば、遊希は一気に2500のもダメージを受けることになる。遊希がそんな弱小モンスターを召喚したことで、ミハエルは思わず目を丸くする。

「君は馬鹿か？ わずか攻撃力300のモンスターを攻撃表示で召喚するなど……」
「私はこの雲篭でクリスティアを攻略します」
「クリスティアの攻撃力は2800。それに万が一フィールドで破壊されてもこのカードは墓地からデッキトップに舞い戻るのだ。次のターンで再度ヴァルハラの効果で特殊召喚すれば……」
「……誰が戦闘で攻略すると言いましたか、ミハエル先生？」

　ミハエルが「何だと」と言い返す前に遊希は手札から魔法カードを発動させる。それは銀河新星の効果でデッキに加えた魔法カードだった。

「速攻魔法発動！“破滅のフォトン・ストリーム”！！」


※破滅のフォトン・ストリーム
速攻魔法
自分フィールド上に「ギャラクシーアイズ」と名のついたモンスターが存在する場合に発動できる。フィールド上のカード1枚を選択してゲームから除外する。
自分フィールド上に「銀河眼の光子竜」が存在しない場合、このカードは自分のターンにしか発動できない。
　

「このカードは自分フィールド上に「ギャラクシーアイズ」と名のついたモンスターが存在する場合に発動可能。その効果はフィールド上のカード1枚を選択してゲームから除外します」
「……っ、除外だと！？」
「ナイスリアクションですミハエル先生。雲篭は攻撃力こそ低いですが「ギャラクシーアイズ」の名を戴くドラゴンです。よってこのカードの発動条件を満たしています。雲篭、やりなさい」

　雲篭が小さな口をめいいっぱい開いて放った光のブレスによって、クリスティアは異次元の狭間に吹き飛ばされてしまった。いかに強力なクリスティアであろうと、ゲームから除外されてしまえば帰還系のカードを使わない限り、フィールドに再び舞い降りることは出来ない。

「くっ……まさかこんなに早くクリスティアが除去されるとは……だがそのドラゴンで攻撃したところで蚊に刺された程度のダメージしか受けないぞ！」
「ああ、そう言えばミハエル先生には雲篭の効果をお教えしていませんでしたね。説明するのも面倒なので、実際に使ってみます。雲篭の効果を発動！」


※銀河眼の雲篭（ギャラクシーアイズ・クラウドラゴン）
効果モンスター
星1/光属性/ドラゴン族/攻300/守250
このカードをリリースして発動できる。自分の手札・墓地から「銀河眼の雲篭」以外の「ギャラクシーアイズ」と名のついたモンスター1体を選んで特殊召喚する。「銀河眼の雲篭」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。
また、このカードが墓地に存在する場合、自分のメインフェイズ時に自分フィールド上の「ギャラクシーアイズ」と名のついたエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。墓地のこのカードを選択したモンスターの下に重ねてエクシーズ素材とする。
「銀河眼の雲篭」のこの効果はデュエル中に1度しか使用できない。


「1ターンに1度、雲篭をリリースすることで私は手札または墓地から雲篭以外の「ギャラクシーアイズ」1体を特殊召喚できます」
「雲篭以外の「ギャラクシーアイズ」……まさかっ！」
「そのまさかです。さあ、現れなさい……」

　遊希が手札の1枚のカードを天に掲げる。その瞬間、そのカードは眩い光に包まれ、巨大なブーメランのような物体に変化した。遊希はその物体を掴みとると、それを思い切り天に向かって投げる。
　そしてその物体を中心に周囲の粒子エネルギーが取り込まれていき、それはやがて1体の巨大な竜の姿を鮮明に象った。青い光をその身に宿し、全てを照らす大いなる竜。これが遊希の持つ“精霊”と呼ばれる特別なモンスター―――“銀河眼の光子竜”だ。