第103話：熱戦の決闘者・4　作：光芒

第103話（番外編第22話）：熱戦の決闘者・4



☆TURN08


「私のターン、ドロー……ヴィンディカイトは攻撃対象にできないんですよね？」
「はい。そのため効果を無効にされでもしない限り、戦闘では破壊できないモンスターと言っても差し支えないですね」
「そうですか……」

　戦闘で破壊できないのなら効果で破壊してしまえばいい。しかし、心の今の手札で出せるモンスターではヴィンディカイトを破壊するために必要な条件を満たしていなかった。

（……破壊はできないけど、だからといってフィールドをがら空きにはできない。だったらこっちも牽制するまで）
「私はチューナーモンスター、エーリアンモナイトを召喚！ エーリアンモナイトの効果で墓地のエーリアンモンスター1体を特殊召喚します！ 特殊召喚するのはレベル4のエーリアン・ソルジャーです！」
「2体のモンスターのレベルの合計は5……あのモンスターですね」
「私はレベル4のエーリアン・ソルジャーに、レベル1のエーリアンモナイトをチューニング！ “宇宙より飛来せし侵略者の要塞、星を侵略し我がものとせよ！” シンクロ召喚！ 宇宙砦ゴルガー！！」

　宇宙砦ゴルガーはレベル5ながら攻撃力2600と同レベルのモンスターでも高い部類の攻撃力を持っており、フィールドの表側表示の魔法・罠カードをバウンスすることでAカウンターをモンスターに乗せることができる。
　そしてそのAカウンター2つを取り除くことでフィールドに存在するカード1枚を破壊できるのだが、今互いのフィールドに表側表示で存在する魔法・罠カードは存在しない。もし存在していたのならば、その効果でヴィンディカイトを破壊し、攻撃力2600のダイレクトアタックを決めることができていた。

「除去効果は使えないけど……これでヴィンディカイトは迂闊に攻撃できない。私はカードを1枚セットしてターンエンドです」


ベアトリス LP5100 手札1枚
デッキ：29　モンスター：1（レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト）魔法・罠：1　墓地：11　除外：0
心 LP7800 手札1枚
デッキ：19　モンスター：1（宇宙砦ゴルガー）魔法・罠：1　墓地：17　除外：1


☆TURN09


「私のターン、ドロー。私はジェネクス・ニュートロンを召喚します」


※ジェネクス・ニュートロン
効果モンスター
星4/光属性/機械族/攻1800/守1200
(1)：このカードを召喚したターンのエンドフェイズに発動できる。デッキから機械族チューナー1体を手札に加える。


「私はこれでターンエンドです。そしてエンドフェイズに召喚に成功したジェネクス・ニュートロンの効果を発動します。デッキから機械族のチューナーモンスター、ジェネクス・コントローラーを手札に加えます」

　しかし、動けないのはベアトリスも一緒だった。攻撃力の劣るジェネクス・ニュートロンを出すことは自らライフを削られに行くようなもの。しかし、ここでライフを惜しんでいては開ける道も開かれないのである。


ベアトリス LP5100 手札2枚
デッキ：27　モンスター：2（レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト、ジェネクス・ニュートロン）魔法・罠：1　墓地：11　除外：0
心 LP7800 手札1枚
デッキ：19　モンスター：1（宇宙砦ゴルガー）魔法・罠：1　墓地：17　除外：1


☆TURN10


「私のターン、ドローです」
（エーリアン・ドッグ……前のターンに来てくれていれば……）

　エーリアン・ドッグはエーリアンの召喚時に手札から特殊召喚できる、いわばエーリアン版のカゲトカゲといった立ち位置のモンスターだ。仮にこのモンスターが前のターンに手札にいれば、エーリアンモナイト、エーリアン・ソルジャーと合わせてレベル8のシンクロ召喚ができていた。

「バトルフェイズ、私は宇宙砦ゴルガーでジェネクス・ニュートロンを攻撃します！ “クライシス・オブ・エーリアン”！」

宇宙砦ゴルガー ATK2600 VS ジェネクス・ニュートロン ATK1800

ベアトリス LP5100→4300

「わかってはいましたが、痛い出費ですね」

　独特な表現を使うベアトリスの言葉遣いに首を傾げながら心はこれでターンを終えた。


ベアトリス LP4300 手札2枚
デッキ：27　モンスター：2（レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト）魔法・罠：1　墓地：12　除外：0
心 LP7800 手札2枚
デッキ：19　モンスター：1（宇宙砦ゴルガー）魔法・罠：1　墓地：17　除外：1


☆TURN11


「私のターンです。ドロー！ さて、そろそろ反撃と行かせてもらいます」
「反撃……？」
「私は墓地のD-HERO ディアボリックガイの効果を発動します！」
「ディアボリックガイ！？ いつの間に墓地に……」

　ディアボリックガイは墓地の自身を除外することでデッキから2体目のディアボリックガイを特殊召喚できるモンスターだ。このモンスターは最初のターンにベアトリスが発動した調律の効果でデッキトップから墓地に送られていたカードだったのである。

「ディアボリックガイを特殊召喚！ そしてジェネクス・コントローラーを召喚。私はレベル6・闇属性のD-HERO ディアボリックガイに、レベル3のジェネクス・コントローラーをチューニング！ “漆黒に染まりし鋼の身体を持つ者よ、今黒煙を上げ轟音と共に顕現せよ！” シンクロ召喚！ 出発進行！ “レアル・ジェネクス・クロキシアン”！！」

　黒煙を吐き、汽笛を鳴らしながら現れたのはまるで蒸気機関車のような姿をしたモンスターだった。このモンスターこそ【ジェネクス】を代表するシンクロモンスター、レアル・ジェネクス・クロキシアンである。


※レアル・ジェネクス・クロキシアン
シンクロ・効果モンスター
星9/闇属性/機械族/攻2500/守2000
「ジェネクス」と名のついたチューナー＋チューナー以外の闇属性モンスター1体以上
このカードがシンクロ召喚に成功した時、相手フィールド上のレベルが一番高いモンスター1体のコントロールを得る。


「レアル・ジェネクス・クロキシアン……あっ！！」
「気づいたようですね。レアル・ジェネクス・クロキシアンがシンクロ召喚に成功した時、相手フィールドで最もレベルの高いモンスター1体のコントロールを永続的に得ることができます。最も……心くんのフィールドにモンスターは1体しかいませんが」

　レアル・ジェネクス・クロキシアンが黒煙を上げて汽笛を高らかに鳴らす。次の瞬間、その音に引き寄せられるようにして宇宙砦ゴルガーがベアトリスのフィールドへと移動していく。結果的にゴルガーのコントロールがベアトリスに移り、心のフィールドにはセットカード1枚が残るだけとなってしまった。

「そんなっ……！」
「……私の計算が正しければ……一斉攻撃でもライフを0にできませんね。でもこれでデュエルの大勢は決します！ バトルフェイズ、まずはヴィンディカイトでダイレクトアタックです。“ジェネクス・ウインド・クラッシュ”！」

レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト ATK2400

心 LP7800→5400

「っ……！！」
「レアル・ジェネクス・クロキシアンで追撃！ “ジェネクス・ロコモーティブ・ストーム”！！」

レアル・ジェネクス・クロキシアン ATK2500

心 LP5400→2900

「うわああっ！！」
「最後は自分のモンスターの攻撃を受けてみてください。宇宙砦ゴルガーでダイレクトアタック！ “クライシス・オブ・エーリアン”！！」

宇宙砦ゴルガー ATK2600

心 LP2900→300

「かはっ……」

　ゴルガーの放ったビーム攻撃の直撃を受けて心の華奢な身体が吹き飛ぶ。ライフこそ残ったものの、最早風前の灯火といってもいいレベルのものであった。

「ここで決められなかったのは残念ですが、仕方ないですね。私はターンエンドです」


ベアトリス LP4300 手札3枚
デッキ：25　モンスター：3（レアル・ジェネクス・クロキシアン、レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト、宇宙砦ゴルガー）魔法・罠：1　墓地：13　除外：1
心 LP300 手札2枚
デッキ：19　モンスター：0　魔法・罠：1　墓地：17　除外：1


☆TURN12


（……このドローで起死回生のカードを引けなかったら私の負け……このドローで……）

　カードに引こうとする心の手に震えが走る。心も昨日までの自分とは人間としてもデュエリストとしても比べものにならないほど成長したことは間違いない。しかし、それでもこのドローで勝利か敗北かが決まってしまう、という局面においてはすぐに思い切ることが中々できなかった。



＊



「うーん、これは勝負ありかなー。ベアトリスはエヴァさんが指導しただけあって凄い成長速度だよ」

　外野でこのデュエルを見ていた美夏と凛であったが、残りライフ300かつモンスターが1体も存在しない、という現状から率直な感想を漏らす。そんな彼女に対して黙ってデュエルを見続けていた凛は何処か思いつめたような表情をしていた。そして小さな声でブツブツと呟き始める。

「……ダメ」
「凛？」
「ダメだよ！」

　これまで座ってデュエルの行く末を見てきた凛が突如立ち上がった。そして力の限り叫んだ。

「ダメだよ！！ こんなところで負けないでよ！！」
「凛！？ いったいどうしたのさ突然……」
「一 心！ キミはさっきのデュエルでボクに勝ったじゃないか！ それなのにこんなにあっさり負けちゃうの！？ ボクが負かすまで負けないでよ！！」
（……あれ、もしかしてもしかすると凛って……）

　凛の感情をたっぷりと込めた怒声は当然デュエルをしていた心のところにも届いていた。顔を真っ赤にして怒る彼女の姿を見て、心の中にあった迷いが一気に吹き飛ばされる。

「凛ちゃん……」

　そして凛は心に対して、心は凛に対して。自分がどのような気持ちを抱いていたのかをはっきりと理解した。

（そうだ、私は……諦めない！）
「私のターン、ドロー！！……私は……カードを1枚セットしてターンエンド」

　心がターンエンドを宣言した瞬間、凛が力なくその場にへたり込んだ。


ベアトリス LP4300 手札3枚
デッキ：25　モンスター：3（レアル・ジェネクス・クロキシアン、レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト、宇宙砦ゴルガー）魔法・罠：1　墓地：13　除外：1
心 LP300 手札2枚
デッキ：18　モンスター：0　魔法・罠：2　墓地：17　除外：1


☆TURN13


（やはり……私の思惑通りでしたね。最も私が悪役になってしまうのはちょっと気が引けてしまいますが、これも勝負なので。ごめんなさい、凛さん、心くん）
「どうやら目当てのカードを引けなかったようですね。このターンで決めます。ドロー！ バトルフェイズ、私は宇宙砦ゴルガーでダイレクトアタック！ “クライシス・オブ・エーリアン”！」

宇宙砦ゴルガー ATK2600

「……ベアトリスさん」

　ゴルガーが攻撃態勢に入る中、心が顔を上げて告げる。

「……なんですか？」
「私がドローしたカードが目当てのカードではない。そんなこといつ言いましたか？」
「えっ……？」
「リバースカードオープン！ 永続罠、リミット・リバース！！ 墓地の攻撃力1000以下のモンスター1体を蘇生します！ 蘇生するのは攻撃力0の……毒蛇王ヴェノミノンです！！」

　地面を突き破り、猛毒の液を伴って毒蛇王ヴェノミノンがその姿を現わす。ヴェノミノンの素の攻撃力は0だが、墓地の爬虫類族モンスターの数だけその力を増す。

「私の墓地に存在する爬虫類族モンスターの数は……全部で12体！ よって毒蛇王ヴェノミノンの攻撃力は6000です！！」

毒蛇王ヴェノミノン ATK0→6000

「攻撃力6000……そんなモンスターに突っ込む道理はありませんね。ゴルガーの攻撃を中止してメインフェイズ2に移行します。攻撃宣言をしていないヴィンディカイトとクロキシアンを守備表示に変更します」

レアル・ジェネクス・クロキシアン DEF2000
レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト DEF1000

「ターン……エンドです」


ベアトリス LP4300 手札3枚
デッキ：24　モンスター：3（レアル・ジェネクス・クロキシアン、レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト、宇宙砦ゴルガー）魔法・罠：1　墓地：13　除外：1
心 LP300 手札2枚
デッキ：18　モンスター：1（毒蛇王ヴェノミノン）魔法・罠：2（リミット・リバース）墓地：16　除外：1


☆TURN14


「私のターン、ドロー！！ ベアトリスさん、あなたにいいものを見せてあげます！」
「いいもの……ですか？」
「私は手札からブラック・ホールを発動！ フィールドの全てのモンスターを破壊します！！」

　フィールドの中心に空いた漆黒の大穴に敵味方問わず全てのモンスターが吸い込まれていった。攻撃対象にならないヴィンディカイトを破壊したい、という意図は理解できるが、攻撃力6000のヴェノミノンを巻き添えにしてまで発動するカードなのか、とベアトリスは首を傾げる。だが次の瞬間、彼女は心のフィールドに発動された1枚のカードを見てその真意、そして自身の敗北を悟った。


※蛇神降臨
通常罠
自分フィールド上に表側表示で存在する「毒蛇王ヴェノミノン」が戦闘以外で破壊された時に発動できる。
手札・デッキから「毒蛇神ヴェノミナーガ」1体を特殊召喚する。


「既にそのカードを……引いていたのですね」
「自分フィールド上に表側表示で存在する「毒蛇王ヴェノミノン」が戦闘以外で破壊された時、全ての爬虫の神を呼び覚ますことができます。目覚めよ―――“毒蛇神ヴェノミナーガ”！！」

　デュエルフィールドを轟音と共に大きな地響きが襲った。そしてそれと共に1体の巨大なモンスターがゆっくりと地面を突き破りながら現れる。髪の毛の一本一本が蛇であるそのモンスターの両腕もまた大蛇を模しており、自身も下半身は巨大な蛇のものをしている。その禍々しいモンスターこそまさに心が言う通り「全ての爬虫の神」と呼ぶに相応しい存在だった。


※毒蛇神ヴェノミナーガ
効果モンスター
星10/闇属性/爬虫類族/攻0/守0
このカードは通常召喚できない。「蛇神降臨」の効果及びこのカードの効果でのみ特殊召喚できる。
このカードの攻撃力は、自分の墓地の爬虫類族モンスターの数×500ポイントアップする。
このカードはフィールド上で表側表示で存在する限り、このカード以外のカードの効果の対象にならず、効果も受けない。
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、このカード以外の自分の墓地の爬虫類族モンスター1体をゲームから除外する事で、このカードを特殊召喚する。
このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、このカードにハイパーヴェノムカウンターを1つ置く。
このカードにハイパーヴェノムカウンターが3つ乗った時、このカードのコントローラーはデュエルに勝利する。


「毒蛇神ヴェノミナーガ……実際に見るのは初めてです。まさに神と呼ぶにふさわしいモンスターですね」
「ヴェノミナーガの素の攻撃力は0ですが、ヴェノミノン同様に墓地の爬虫類族モンスターの数だけその力を増します。墓地には現時点で14体の爬虫類族モンスターがいるので、その攻撃力は……」

毒蛇神ヴェノミナーガ ATK0→7000

「攻撃力7000……なるほど。心くん、素晴らしいデュエルでした。私も悔いはありません」
「ベアトリスさん……行きます！ バトルフェイズ！ 毒蛇神ヴェノミナーガでベアトリスさんにダイレクトアタック！ “アブソリュート・ヴェノム”！！」

毒蛇神ヴェノミナーガ ATK7000

ベアトリス LP4300→0





＊





「心くん」

　デュエルは心の大逆転勝利で終わった。そんな興奮も冷めやらぬ中、ベアトリスが心の下へと足を運ぶ。

「ベアトリスさん、ありがとうございました。ベアトリスさんのシンクロ召喚……凄かったです」
「こちらこそ、ありがとうございました。心くんの爬虫類族の展開力には驚きました。ですが、今はこんなことをしている場合ではないですよ？」
「えっ……？」

　ベアトリスは戸惑いの色を浮かべる心にそっと耳打ちをする。

「あなたのことを大事に想っている人がいます。そしてあなたもその人のことを大事に想っている。まずはその人のところへ行ってあげてください。きっと彼女はあなたを待っています」
「っ……！！」

　心はベアトリスに深く一礼すると、すぐにその場所へと向かっていった。

（……負けたことは悔しいですが、お二人の絆が深まるのならば、私は幸せです。がんばってください、心くん）