第37話：相対する英雄　作：光芒

　Aブロックで遊希がデュエルを始める数時間前、Bブロックに分けられた千夏は開始早々デュエルの相手を探し彷徨っていた。
　しかしBブロックはBブロックで千夏同様デュエル好きが集まったのか、皆がデュエルに没頭し、逆に千夏が誰かのデュエルを終わるのを待つ状態になっていた。
　そんな中、千夏は熱狂する他の生徒の中で一人デュエルに講じず、廊下の端に机椅子一式を用意してカードと水晶玉を眺める謎の男子生徒を見つけた。
　彼の名は占部 命（うらべ みこと）といい、3年生の男子生徒で水晶占いからタロットカードまで古今東西あらゆる占いに通じている学内一の占い師と評判の学生だった。

「おや、君は確か1年の陽川 千夏さんだね」

　命は目を閉じたまま彼を怪訝そうに見る千夏に声をかけた。目を閉じているのに何故自分がここにいるのを知っているのだろうか、と不安に思いながらも無視するわけにもいかなかなかった千夏は彼の座る机の前に立つ。

「あら、私のこと知ってるのね！ そうよ！ 私が1年生でナンバー3の実力を持つ陽川 千夏よ！ さすが私、入学して3か月近くなのにもう学内の有名人！」
「僕の占いにも出てるよ。なんでも小学生なのに飛び級で入ってきたとか」
「そうそう、私は本当は……ってそんなわけないでしょ！ 正真正銘の高校1年生よ！」

　千夏がノリツッコミを決めたところで命はその目を開ける。彼はこの学校の学生らしからぬ穏やかな目をしていた。

「冗談だ。ところで君はデュエルはしないのかい？」
「……出来るならすぐにでもしたいわよ。でもみーんなデュエルしてて相手が見つからないのよ。すごくつまらないわ」
「そうか。じゃあ時間つぶしに君を占ってあげようか？ お代ならまけておくよ」

　お金取るんだ、と内心呆れる千夏であったが、命の占いはよく当たると女子たちの間で評判の占いを受けれるのならば悪い話ではなかった。

「そうねぇ……じゃあ私がこの大会で決勝に出れるか占ってほしいわ！」
「大会か。じゃあ今回はデュエルらしくこのカードで占ってあげよう」

　そういって命がデッキケースから取り出したのはタロットカードをモチーフにした【魔導書】というカード群だった。一つデッキを組める分のカードは揃っているが、命によればこのカードは専ら占いに利用するカードでデュエルに使うものではないらしい。

「じゃあ占ってあげるよ……出たカードは“魔導剣士 シャリオ”の逆位置だね」


※魔導剣士 シャリオ
効果モンスター
星4/風属性/魔法使い族/攻1800/守1300
1ターンに1度、手札から「魔導書」と名のついた魔法カードを1枚捨てて発動できる。
自分の墓地の魔法使い族モンスター1体を選択して手札に加える。


「あら、なんか勇ましそうなモンスターね！ 私にぴったりじゃない！」
「このカードは大アルカナの7番目のカードで戦車を表わしている。ちなみに正位置の意味は勝利、行動力などを指すよ」
「勝利？ じゃあ私は決勝に行けるのね！」

　その意味を聞いて喜びを見せる千夏であるが、彼女はまだそのカードの本当の意味を聞いていなかった。そんな千夏を見て気の毒そうに命はため息をつく。

「正位置ならね。しかしこのカードは逆位置だ」
「逆位置の意味は？」
「暴走、失敗、焦り、挫折」
「ちょっと、悪いことばっかりじゃない！」

　基本ポジティブで前向きな千夏であっても、当たると評判の占い師である命のその言葉にさすがに不安を覚える。命はそんな千夏を気遣って占いは100％当たるものではない、とフォローを入れるが、千夏はそのカードの意味の通りだいぶ落ち着きを無くしてしまっていた。

「そもそも占いなんて当たるも八卦当たらぬも八卦じゃない！ 私はそんな占い信じないわ！ そうだ、私とデュエルしなさいよ！ あなたも大会参加者なんでしょ！？」
「……なんか急展開だね。まあデュエルなら受けるけど……しかしカード通りさっそく暴走、焦りの目が出てるよ？」
「むむむ……そんな占いなんて私のデュエルでぶっ飛ばしてあげるんだから！」

　やがて二人のデュエルの準備が整い、デュエルディスクによって先攻後攻の決定権は命に委ねられた。命は少し考えた後、先攻を取った。

「さあ、私の大会最初のデュエル！ 行くわよ！」
「やれやれ、お手柔らかにね」


命 LP8000　手札：5
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：0　除外：0
千夏 LP8000　手札：5
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：0　除外：0


☆TURN01

「先攻は僕だよ。さて、じゃあ占い師らしく未来を伺ってみようか。僕は“D-HERO ダイヤモンドガイ”を召喚するよ」


※D-HERO ダイヤモンドガイ
効果モンスター
星4/闇属性/戦士族/攻1400/守1600
このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する時、自分のデッキの一番上のカードを確認する事ができる。
それが通常魔法カードだった場合そのカードを墓地へ送り、次の自分のターンのメインフェイズ時にその通常魔法カードの効果を発動する事ができる。通常魔法カード以外の場合にはデッキの一番下に戻す。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。


「【D-HERO】……E・HERO使いの私とかち合うとかなんて巡りあわせかしら」
「D-HEROは運命を司る影のヒーロー……君の【E・HERO】とは相反する存在だね。ダイヤモンドガイの効果を発動。1ターンに1度、自分のデッキの一番上のカードを確認するよ。1番上のカードは……これは僥倖。通常魔法“デステニー・ドロー”だね。このカードを墓地に送り、次のターンの発動が確定する」


※デステニー・ドロー
通常魔法
手札から「D-HERO」と名のついたカード1枚を捨てて発動できる。デッキからカードを2枚ドローする。


「いきなりデステニー・ドロー！？ なんて引きの強さよ！」
「こればかりはデッキに感謝と言いたいところだね。まあこのデステニー・ドローの発動は次のターンだからこのターンではさほど意味は為さない。なので手札からもデステニー・ドローを発動させてもらうよ」
「2枚目！？」
「手札の“D-HERO ディアボリックガイ”を墓地に送って2枚ドローする。そして墓地のディアボリックガイの効果を発動する」


※D-HERO ディアボリックガイ
効果モンスター（準制限カード）
星6/闇属性/戦士族/攻800/守800
自分の墓地に存在するこのカードをゲームから除外して発動する。自分のデッキから「D-HERO ディアボリックガイ」1体を自分フィールド上に特殊召喚する。


「デッキからもう1体のディアボリックガイを特殊召喚するよ」

　D-HEROは個々の戦闘力はE・HEROより低い。しかし、その非力さを豊富なサポートカードと特殊効果で補っているのだ。それでもそんなテーマには切り札は存在する。HEROデッキを使う千夏にはしっかりと心当たりがあった。

「いきなりD-HEROが2体……なんか嫌な予感がするわね」
「どうやらその予感は的中したようだよ。手札から通常魔法“おろかな埋葬”を発動するよ」


※おろかな埋葬
通常魔法（制限カード）
(1):デッキからモンスター1体を墓地へ送る。


「僕が墓地に送るのは“ダンディライオン”だ。そして墓地に送られたダンディライオンの効果も発動する」


※ダンディライオン
効果モンスター（制限カード）
星3/地属性/植物族/攻300/守300
(1):このカードが墓地へ送られた場合に発動する。自分フィールドに「綿毛トークン」（植物族・風・星1・攻/守0）2体を守備表示で特殊召喚する。このトークンは特殊召喚されたターン、アドバンス召喚のためにはリリースできない。


「自分フィールド上に綿毛トークン2体を守備表示で特殊召喚する」

　命のフィールドにはトークンを含む4体のモンスターが存在する。D-HEROの中には3体の生贄を捧げることで特殊召喚できる強力なモンスターが存在する。仮にそのうちの1枚が命の手札にあるとしたら出てくるカードはおのずと想像できた。

「これで僕のフィールドには“D-HERO”を含む4体のモンスターが揃った。僕はディアボリックガイと綿毛トークン2体をリリース！ 現れろ、そしてその力を奮い運命の教示を示せ。“D-HERO ドグマガイ”！」


※D-HERO ドグマガイ
効果モンスター
星8/闇属性/戦士族/攻3400/守2400
このカードは通常召喚できない。自分フィールド上の「D-HERO」と名のついたモンスターを含むモンスター3体をリリースした場合のみ特殊召喚できる。
この方法で特殊召喚に成功した次の相手のスタンバイフェイズ時、相手ライフを半分にする。


「まさか1ターン目でドグマガイを召喚するなんて……」
「当然とはいえ、先攻は攻撃できない。僕はカードを2枚セットしてターンエンドだ。さあ、僕の占いが当たるか当たらないか……答え合わせと行こうか」


命 LP8000　手札：0
デッキ：31　モンスター：2（D-HERO ドグマガイ、D-HERO ダイヤモンドガイ）魔法・罠：2　墓地：5　除外：1
千夏 LP8000　手札：5
デッキ：35　モンスター:0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0


☆TURN02


「私のターン、ドロー！……ドローフェイズを終えてスタンバイフェイズに移るわ……」
「ではこの瞬間自身の効果で特殊召喚に成功したドグマガイの効果を発動。君のライフを半分にするよ。“ライフ・アブソリュート”！！」

千夏 LP8000→4000

「私のライフが……」
「これでかなりのライフ・アドバンテージがついた。盤面だけ見た感じでは君の方が不利だけど？」
「ふん、アドバンテージをあげただけよ！ ドグマガイなんてあっさり倒してみせるんだから！ 魔法カード増援を発動！ 私はデッキからE・HERO エアーマンを手札に加えるわ！ そして相手フィールドにのみモンスターが存在する時、手札からこのモンスターは特殊召喚できるわ！ 来て、H・C 強襲のハルベルト！！」

　千夏のフィールドにはハルベルトが現れる。そして千夏はさらに増援でサーチしたエアーマンを通常召喚し、効果でデッキからバブルマンを手札に加えた。

「ハルベルトにエアーマン……融合では無さそうだね」
「その通りよ！ 私はレベル4のハルベルトとエアーマンでオーバーレイ！ 2体の戦士族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！ 降臨せよ、約束された勝利の剣！ H-C エクスカリバー！！」

　千夏のフィールドには大剣を奮いながらエクスカリバーが舞い降りる。正義を体現した英雄に勝利のために戦場を駆け巡る英雄と運命を司る英雄。形の違う英雄が己の勝利のため、従う主のため剣を交える時が始まった。