第33話：登場！アイドルデュエリスト！　作：光芒

　デュエル大会の開始時刻は午前10時。その時間を知らすチャイムが鳴ると同時に学生たちは事前に振り分けられたエリアでデュエルに挑まなければならない。
　遊希たちは早めに目を覚ますと、早めに朝食を取る。今日は珍しく4人全員で朝食を作った。ゴールデンウイーク中のこともあってか、自然と味噌汁などの汁物は遊希が担当するようになっていた。
　彼女は一人暮らしの期間が長かったため、塩分や糖分といったものの調整に気を使っており、それが結果的に不規則になりがちな10代の少女たちの栄養調整に役立っていたのである。

「しかし遊希がこんな料理上手だったとはね！ てっきり下手だから作りたがらないのかと思ったわ！」
「失礼ね、面倒だっただけよ。一人暮らしをなめないでちょうだい」
「でもこうして皆さんで一緒に作った料理は自分ひとりで作った料理より美味しく感じるのは何故でしょうね？」
「それだけ私たちが仲良くなった、ってことじゃない？」

　朝食を取りながら繰り広げられるガールズトーク。ここから彼女たちは激しい戦いに赴くのである。その前くらいは他愛ない話でリラックスしたかったのだろう。取り分け、大舞台に立った経験のない遊希以外の3人は前の日から緊張が見て取れた。

―――肩の力を抜いてもらえればいいな。
（そうね。全員が全員決勝に行けるかはわからない。けど後悔しないでもらいたいわね。もちろん、私もだけど……）
―――そうだな。

　光子竜はそう言うが、光子竜も光子竜で遊希の中に未だに迷いを感じているのを理解していた。プロ経験のある彼女は綾香たちを気遣っているが、実のところ一番精神面に不安を抱えていたのは遊希だったのである。
　各人の様々な思惑が入り混じる中、時間は刻々と過ぎていき、時計の針は9時半を指していた。遊希たちは制服に着替え、部屋の外に出ると互いに手を繋ぎあって輪になった。

「いい！ この大会、どこまで行けるかわからないけど、目指すはただ一つよ！」
「はい。私たちは……決勝まで行きます」
「色々なデュエリストと対峙するかもしれないけど……私たちに求められるもの、それは……」
「勝つ！ 勝つ！ 勝つ！ それだけよ！！」

　円陣を組んで「オーッ！」と勢いよく4人は叫ぶ。そして遊希、綾香、千夏、詩織の4人はそれぞれの戦場となるエリアへと向かった。4人は誰も振り返ることはなかった。次に会うのは決勝の舞台、そう心に決めていたから。





＊





　アカデミア中に大会開始を告げるチャイムが鳴り響く。Aブロックに振り分けられた遊希はエリア内を一人歩いていた。この間何人かのデュエリストと遭遇したが、皆遊希とデュエルすることはなかった。
　同級生はもちろんのこと、遊希の存在は上級生たちの間にも響き渡っており、初戦から遊希に当たりたくない、という生徒が大半だったのだ。

（ったく……これじゃいつまで経ってもカードを集められないじゃない）
―――変に有名すぎるのも困ったものだな。
（まあいいわ。みんな初戦に当たるのが嫌なだけでそのうち嫌でも向かってくるでしょう）

　その時、遊希の耳に何処からか明るいリズムの音楽が聞こえてきた。こんな時にどこの誰が何をしているのだろうか、と音楽のする方に向かっていく。そうして辿り着いたのは音楽準備室だった。
　取り敢えず遊希は部屋をノックしてみる。音楽は聞こえてくるのだが、反応はない。ドアノブを捻ってみると、鍵が開いていたので中を覗いてみる。すると音楽準備室の中には制服とは違う、フリフリの衣装を着た少女が姿見の前で踊っていた。
　ラジカセから流れるのはテレビの歌番組で聞いたことのあるアイドルグループの曲であり、その少女は無我夢中で振りを確認しているようだった。

（……まさかのアイドル？）
―――？……アイドルとは何だ？
（アイドルってのは歌を歌ったり踊ったりする可愛い女の子やイケメンの男の子がなる職業よ）
―――この学校にそんな職業の人間がいるのか？
（聞いたことないわね）

　遊希が光子竜の質問に答えていた時、気配を感じたのか振りむった少女と目が合った。

「あーっ！！」

　少女は遊希を指さして遊希の元に近づいてきた。あまりに急に近づいてきたので遊希は思わず後ずさりする。

「あなた、天都遊希ちゃんだよね！？ 」

　遊希は上履きの色から上級生であることを察知し、無下に扱うことは出来ないと敬語で応対する。

「え、ええ。そうですけど……」
「私ずっとテレビであなたのこと応援してたんだよ！ だからこの学校に入ってきてくれて本当に嬉しかったんだ！ 握手して！」
「は、はい……」

　遊希はその少女のあまりの迫力にされるがままだった。すると少女は自分ばかりが一方的に喋ってしまっていることに気が付いたのかはっ、と手で口を抑える。

「ごめんごめん、私ばっかり喋っちゃったね。私は2年生の神内 綾那（かみうち あやな）！ アイドル研究会の部長をやってるんだよ！」
「アイドル……研究会？」
「うん！ まあ部員は私一人なんだけどね……だからこの大会で成績を残して部員を勧誘するの！ それでアイドルになって歌って踊れるデュエリストになるんだ！」

　このまま綾那のペースで喋られては気圧されたままになってしまう。これからデュエルをするかもしれない相手にデュエル前からペースを掴まれてしまうとやり辛いと感じた遊希は話をデュエルのことへと変えることにした。

「そうですか……神内先輩。先輩はもうデュエルは？」
「えーとね、ちょっと前に1回デュエルして勝ったよ！ だからカードは2枚！」

　遊希はその外見からまだデュエルはしていない、と思っていたが彼女は既にカードを2枚所有していた。見た目こそアイドルを志望するだけあって可憐な少女であるが、デュエルには普通に勝てるだけの腕前を持っているようだった。

「遊希ちゃんは？」
「……私は、まだ1戦も」
「だったらさ！ 私とデュエルしよっ？ 遊希ちゃんってすごく強いしプロの世界でも活躍していたんだよね！ だったらそんな強い人とデュエルすれば私もアイドルに近づけるはず！」

　自分とデュエルすることでアイドルになれるとは限らない、とは遊希は言えなかった。ただ、今まで自分を避けてきた他の学生とは違って遊希の実力を認めた上で遊希とデュエルをしたい、と言う綾那の気持ちは素直に嬉しかった。

「そ・れ・に……遊希ちゃんに勝ったらアイドル研究会の知名度が上がって入部志望の可愛い女の子が増えるはず！……にしし」

　良くも悪くも正直な人だな、と遊希は内心苦笑いした。何はともあれ、デュエルをするには準備室では狭すぎるため、デュエルが出来そうな場所に移動することにした。
　綾那はアイドル衣装のまま移動していたため、必要以上に他の学生の注目を集めた。その結果、2人のデュエルには大会中にも関わらず数人のギャラリーが出る始末だった。

「じゃあデュエルディスクちゃんに先攻後攻の決定権を決めてもらおうね！」

　そう言ってディスクを起動する二人。互いのディスクが共鳴しあい、先攻後攻の決定権は綾那に委ねられた。

（あ、やっぱり）
―――遊希、お前は本当にその手の運がないな。
（うるさい）
「じゃあねぇ……綾那の先攻で！」
「わかりました。では私が後攻ですね」
「うん！ じゃあ、神内 綾那のアイドルらしいデュエルで……みんなのハートを撃ち抜いちゃうんだからねっ！！」
「……じゃあ行きますか」
「「デュエル！！」」


綾那　LP8000　手札5枚
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0
遊希　LP8000　手札5枚
デッキ：37　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0


☆TURN01


「綾那ちゃんのターンだよ！ まず私はモンスターをセットするよー！」

　綾那はまずモンスターをセットする。遊希は綾那がどんなデッキを使うのか後攻として出来るだけ早く見極めたかった。

（……アイドルとか言うくらいだから使うカードにも拘りがありそうね）
―――そういうものがあるのか？
（恐らくね。たぶんアイドルらしい可愛いカードを使うかもしれないわ。例えばファンシーな絵柄の【マドルチェ】とか）
―――なるほど。だが、マドルチェはあまりセットするイメージではないが。
（リクルーターの可能性もあるかもしれないわ）

「そして綾那はこのカードを発動するよ！ 永続魔法“機甲部隊の最前線”！！」


※機甲部隊の最前線
永続魔法
機械族モンスターが戦闘によって破壊され自分の墓地へ送られた時、そのモンスターより攻撃力の低い、同じ属性の機械族モンスター1体を自分のデッキから特殊召喚する事ができる。この効果は1ターンに1度しか使用できない。


「……えっ？」
「そしてもう1枚カードをセットしてターンエンドだよ！」


綾那　LP8000　手札2枚
デッキ：35　モンスター：1　魔法・罠：2（機甲部隊の最前線）　墓地：0　除外：0
遊希　LP8000　手札5枚
デッキ：37　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0


☆TURN02


「私のターン、ドロー」

　後攻の遊希がカードをドローする。綾那の発動したカードは機甲部隊の最前線。予想だにしなかったカードを発動されたことに遊希はやや動揺していた。

―――可愛らしいカードを使うんじゃなかったのか？
（……わ、私だって見通しを誤ることくらいあるわよ！ 笑うなら後で笑いなさい！）
「相手フィールド上にのみモンスターが存在する時、このカードは手札から特殊召喚できます！ 現れて、銀河悪魔！ そして銀河悪魔が自身の効果で特殊召喚に成功した時、デッキからギャラクシーモンスター1体を手札に加えます。私がサーチするのは銀河新星。そして銀河悪魔は手札のギャラクシー1体を墓地に送ることで自身のレベルを4つ上げます！」

銀河悪魔 星4→8

「そしてギャラクシーの効果で墓地に送られた銀河新星の効果が発動！ デッキからギャラクシーと名のついた魔法・罠カード1枚を手札に加えます。私が加えるのは銀河遠征！そして銀河遠征をそのまま発動します！ 銀河遠征の効果でデッキからレベル8のギャラクシーモンスター、銀河眼の光子竜を特殊召喚します！」

　銀河遠征の効果で光子竜がフィールドに舞い降りる。入学式の時以来に見る光子竜の輝きに対峙する綾那は純粋に「きれーい！！」と子供のような感想をあげていた。

（……エヴァもそうだけど、ああいうタイプはちょっとやり辛いわね……）
「私はレベル8となった銀河悪魔と銀河眼の光子竜でオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、 エクシーズ召喚！！ 現れなさい、神たる竜の力を宿す騎士！ 神竜騎士フェルグラント！！」

　遊希のフィールドには神竜騎士フェルグラントがエクシーズ召喚される。このカードの強さはデュエリストなら誰もが知っていた。フェルグラントを見た綾那の顔には初めて緊張の色が灯る。

「メインフェイズ1を終えてバトルフェイズ！ フェルグラントでセットモンスターを攻撃します！ “ディヴァイン・ドラゴンブレード”！！」

　フェルグラントの攻撃で綾那がセットしていたモンスターが表側表示となる。そのモンスターはドラゴンを模した物々しい機械のモンスターだった。

「セットモンスターは“可変機獣 ガンナードラゴン”ちゃんだよ！」


※可変機獣 ガンナードラゴン
効果モンスター
星7/闇属性/機械族/攻2800/守2000
(1)：このカードはリリースなしで通常召喚できる。
(2)：このカードの(1)の方法で通常召喚したこのカードの元々の攻撃力・守備力は半分になる。


「ガンナードラゴン！？」

　神竜騎士フェルグラント ATK2800 VS 可変機獣 ガンナードラゴン DEF2000

「守備力2000のガンナードラゴンちゃんは破壊されちゃったけど、この瞬間！ 機甲部隊の最前線の効果が発動するよ！ 来て、マイフェイバリットモンスター！ “リボルバー・ドラゴン”ちゃん！！」

　綾那のフィールドには頭部と両腕が拳銃のような形をした機械の竜が特殊召喚される。その銃口は遊希を今にも撃ち抜かんと怪しく光り輝いていた。