第92話：解き放たれた決闘者　作：光芒

第92話（番外編第11話）：解き放たれた決闘者



「私は手札の水精鱗-メガロアビスの効果を発動します！！」


※水精鱗-メガロアビス
効果モンスター
星7/水属性/海竜族/攻2400/守1900
自分のメインフェイズ時、手札からこのカード以外の水属性モンスター2体を墓地へ捨てて発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚に成功した時、デッキから「アビス」と名のついた魔法・罠カード1枚を手札に加える事ができる。
また、このカード以外の自分フィールド上に表側攻撃表示で存在する水属性モンスター1体をリリースする事で、このターンこのカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。


「手札の“水精鱗-アビスグンデ”と“水精鱗-アビスパイク”を墓地に捨てることでこのカードを手札から特殊召喚します！ この効果で特殊召喚に成功したメガロアビス、そして手札から墓地に捨てられたアビスグンデの効果が発動します！」


※水精鱗-アビスグンデ
効果モンスター
星3/水属性/水族/攻1400/守800
このカードが手札から墓地へ捨てられた場合、自分の墓地から「水精鱗-アビスグンデ」以外の「水精鱗」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚できる。「水精鱗-アビスグンデ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。


「チェーン2のアビスグンデの効果で墓地のアビスパイクを特殊召喚！ そしてメガロアビスの効果でデッキから「アビス」と名のついた魔法・罠カード1枚を手札に加えます。手札に加えるのは“アビスケイル-ミヅチ”です！ そして特殊召喚に成功したアビスパイクの効果も発動します！」


※水精鱗-アビスパイク
効果モンスター
星4/水属性/魚族/攻1600/守800
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、手札の水属性モンスター1体を墓地へ捨てて発動できる。
デッキからレベル3の水属性モンスター1体を手札に加える。「水精鱗-アビスパイク」の効果は1ターンに1度しか使用できない。


「手札の“海皇の竜騎隊”を捨てることで、デッキからレベル3の水属性モンスター1体を手札に加えます！ デッキから手札に加えるのはジェネクス・ウンディーネです。そして水属性モンスターの効果の発動のために墓地に送られた竜騎隊の効果も発動します！」


※海皇の竜騎隊
効果モンスター（準制限カード）
星4/水属性/海竜族/攻1800/守0
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上のレベル3以下の海竜族モンスターは相手プレイヤーに直接攻撃できる。
また、このカードが水属性モンスターの効果を発動するために墓地へ送られた時、デッキから「海皇の竜騎隊」以外の海竜族モンスター1体を手札に加える。


「私が手札に加えるのは海竜族モンスターの“海皇の狙撃兵”です。そして私は墓地のアビスグンデをゲームから除外し、手札の“水の精霊 アクエリア”を特殊召喚します！」


※水の精霊 アクエリア
効果モンスター
星4/水属性/水族/攻1600/守1200
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地に存在する水属性モンスター1体をゲームから除外した場合に特殊召喚する事ができる。
相手のスタンバイフェイズ毎に、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、表示形式を変更する事ができる。そのモンスターはこのターン、表示形式を変更する事ができない。


「そして私はレベル4のアビスパイクとアクエリアでオーバーレイ！ 2体の水属性モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！ “咆哮せよ、未知なる轟き！ 闇深き深海より浮上しその姿を現わしなさい！” ランク4！ “バハムート・シャーク”！！」


※バハムート・シャーク
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/水属性/海竜族/攻2600/守2100
水属性レベル4モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
水属性・ランク3以下のエクシーズモンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。
このターンこのカードは攻撃できない。


「バハムート・シャークの効果を発動します！ このカードのオーバーレイユニットを1つ取り除くことで水属性・ランク3以下のエクシーズモンスター1体を特殊召喚します！ “ゴッド・ボイス”！！」

　バハムート・シャークが雄叫びを上げると、結衣のフィールドにはイルカのような皮膚を持った美しい人魚のようなモンスターが現れた。

「特殊召喚するのは“水精鱗-アビストリーテ”です！」


※水精鱗-アビストリーテ
エクシーズ・効果モンスター
ランク3/水属性/海竜族/攻1600/守2800
レベル3モンスター×3
自分フィールド上の「水精鱗」と名のついたモンスター1体が相手の魔法・罠カードの効果の対象になった時、または相手モンスターの攻撃対象になった時、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。その対象を自分フィールド上の正しい対象となるこのカードに移し替える。
このカードが破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地から「水精鱗-アビストリーテ」以外の「水精鱗」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚できる。


「そして手札からアビスケイル-ミヅチをメガロアビスに装備します！」


※アビスケイル-ミヅチ
装備魔法
「水精鱗」と名のついたモンスターにのみ装備可能。
装備モンスターの攻撃力は800ポイントアップする。
このカードがフィールド上に存在する限り、相手フィールド上で発動した魔法カードの効果を無効にする。その後、このカードを墓地へ送る。


「アビスケイル-ミヅチを装備したことでメガロアビスの攻撃力は800ポイントアップします」

水精鱗-メガロアビス ATK2400→3200

「それだけじゃないわね……ミヅチには魔法カードの発動を1度だけ無効にする効果がある」
「その通りです。私はこれでターンエンドです！」


結衣　LP4000　手札2枚
デッキ：32　モンスター：3（水精鱗-メガロアビス（アビスケイル-ミヅチ装備）、バハムート・シャーク ORU:1、水精鱗-アビストリーテ ORU:0）魔法・罠：1（アビスケイル-ミヅチ）墓地：2　除外：1
遊希　LP4000　手札5枚
デッキ：40　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0


☆TURN02


「私のターン、ドローよ」

　遊希はデッキからカードをドローする。結衣の初手はモンスターばかりの手札だったが、フィールドには攻撃力2500以上のモンスターが2体存在し、守備力2800の壁モンスター1体が存在する。
　そしてアビスケイル-ミヅチによって1度だけであるが、魔法カードの発動を無効にされてしまう。遊希のギャラクシーデッキは魔法カードによってデッキを回転させる必要もあるため、それを止められるのは4000ライフのデュエルでは命取りと言えた。

（いいフィールドね。よく揃えたわ）
―――それでいて彼女の眼。今の彼女の眼には力がある。まるでどこからでもかかって来い、と言わんばかりの眼だ。
（……そうね。疲れが逆に作用しているのかしら？ でもそれが彼女の成長に繋がるのなら大歓迎よ）
―――それで、お前はどうするんだ？
（どうするも何も……立ち向かってくるのならば全力で叩き潰す。それが私なりの答えよ）

　遊希はにっこりと不敵な笑みを浮かべた。結衣の身体にぞくっ、と寒気に似た震えが走る。

「相手フィールドにモンスターが存在する時、このカードは手札から特殊召喚できる。来なさい、銀河悪魔！ 自身の効果で特殊召喚に成功した銀河悪魔の効果でデッキからギャラクシーモンスター1体を手札に加えるわ。私が手札に加えるのは銀河新星。そして銀河悪魔の効果を発動、ギャラクシーモンスター1体を墓地に送ることで自身のレベルを8にする！」

銀河悪魔　星4→8

「そしてデッキ・手札から墓地に送られた銀河新星の効果でデッキから「ギャラクシー」と名のついた魔法・罠カード1枚を手札に加えることができる。手札に加えるのはギャラクシー・トレードよ」
「っ……魔法カードはアビスケイル-ミヅチの効果で無効化されます！」
「魔法カードをサーチするのはおまけよ。本当の目的は銀河悪魔のレベルを8にすること」
「レベルを8に……まさか」
「そのまさかよ。私は手札からギャラクシー・シールドラゴンを召喚。そしてシールドラゴンの効果を発動。シールドラゴンのレベルをこのターンの終了時まで自分フィールドに存在する別のギャラクシーモンスターと同じレベルにする！」

ギャラクシー・シールドラゴン　星4→8

「レベル8のモンスターが2体……！？」
「私はレベル8となった銀河悪魔とギャラクシー・シールドラゴンでオーバーレイ！ 2体のギャラクシーモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！！」

　2つの銀河の名を持つ命は漆黒の身体を持つ竜へと姿を変えていく。

「“銀河に蠢く漆黒の闇、その顎をもって瞳に映る全てを喰らう。命の光、ここに潰やせ！” 現れよ、闇の銀河眼！ 銀河眼の掩蔽竜！！」
「これが……天都 遊希だけが持つ「ギャラクシーアイズ」の1体……！！」
「銀河眼の掩蔽竜の効果を発動！ このカードのオーバーレイユニットを2つ取り除き、フィールドに存在するカードを2枚まで選んで発動する！ そのカードをゲームから除外する。除外するのは……2体の水精鱗！ 掩蔽竜！ メガロアビスとアビストリーテを食らい尽くしなさい！」

　闇夜の如く漆黒の闇と化した掩蔽竜が2体の水精鱗を飲み込み、食らい尽くす。アビストリーテは破壊されることで墓地の水精鱗を蘇生する効果があるのだが、その効果も除外されてしまえば発動されることはない。

「なっ……！！」
「そして掩蔽竜を素材にオーバーレイ・ネットワークを再構築！ “銀河の瞳を持つものよ、冷たき鎧をその身に纏い、抗う者に無慈悲なる鉄槌を下せ！” エクシーズチェンジ！ ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン！！」
「攻撃力……4000……」
「FA・フォトン・ドラゴンの効果発動。オーバーレイユニットを1つ取り除き、相手フィールドに表側表示で存在するカード1枚を選択して破壊する！ バハムート・シャークを破壊！ “ギャラクシー・サイドワインダー”！！」

　FA フォトン・ドラゴンの放った光の刃がバハムート・シャークの身体を両断する。断末魔の悲鳴を上げてバハムート・シャークは崩れ落ちていく。これで結衣を守るモンスターはもういない。

（……凄い！ 凄い！ 凄い……っ！！）
「バトル！ ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴンでダイレクトアタック！ “壊滅のフォトン・ストリーム”！！」

ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン ATK4000

（これが……天都 遊希のデュエル……！！）

結衣 LP4000→0





「遊希ー！ 夕食作るから早く戻ってきてー！」
「わかった、すぐ戻るわ」

　綾香に呼ばれてロッジへと戻る遊希と結衣。その途上、遊希は隣を歩く結衣と手を繋いだ。驚いた様子を浮かべた結衣に対し、遊希は前を向いたまま話し始める。

「ごめんなさい、ちょっと熱くなりすぎちゃったわ。成長を見なきゃいけないのに、後攻ワンキルとか……」

　少し申し訳なさげな遊希の顔を見て結衣は思わず吹き出した。

「いえ、気にしていません。むしろこっちこそお礼を言いたいくらいです」
「えっ？」
「だって天都 遊希の全力のデュエルを味わうことができたんですよ！ 今日来ている人たちで私だけが……！ こんな経験、まずできないです。だから、今凄く嬉しいんです、私！」

　そう言ってニッコリと微笑んだ結衣の顔は夏の夕焼けと流れ落ちる汗によって一段と美しく、かつキラキラと輝いていた。





＊






「うん、仕込みはOKのようね」

　千夏が料理の確認をし、OKを出す。夕食を作ったのは歩美以外の5人だった。特に京都出身ということで味にうるさく、料理のスキルもある美夏とフランス生まれのベアトリスが他の3人をリードする形で夕食の仕込みは思っていた以上に問題なく終わった。

「当然よ、だってあたしがいるんだから」
「星崎さんって京都出身だったんですね。全然わかりませんでした……方言とかもないし」
「いや、一般的な京都弁を喋ってるのは祇園の人だからね？ あたしは京都でも別のところだし」
「ボクはベアトリスさんのフランス料理も楽しみだな～」
「しかしレストランとかで食べるようなものではないですよ？ ポトフとかテリーヌのような料理です」
「それでもかなり美味しいと思いますよ？」

　すぐに食事に移るべきか、とも思ったが皆夏の暑い日差しの中デュエルの特訓やデッキ改造を繰り返して汗をかいていた。ベタついた肌のまま食事に移るのもなんだろう、と思った遊希たちは先に風呂に入ることを勧めた。
　このロッジの風呂は女性ならば5～6人は同時に入れるほど広くなっており、みんなで汗を流してから食事を摂ったほうがいいだろう、ということになった。

「じゃあパパっとシャワー浴びちゃうか」
「そうだね。結衣ちゃんとか汗だくだよ？」
「……匂ってませんか？」
「問題ないですよ？ 私家族以外の人とシャワーを浴びるの初めてなので楽しみです」

　そう言いながら部屋に着替えやバスタオルを取りに行く結衣・美夏・凛・ベアトリス。しかし、キッチンにいた5人の中で唯一心はその場から動こうとはしなかった。

「どうしたの？ お風呂入っちゃいなさいよ」
「あっ、いや……私はちょっと……」
「心ちゃんどうしたの？ ボクたちと一緒にシャワー浴びちゃおうよ！」

　千夏のその問いに何処か動揺した様子を見せた心であったが、付いてこないことを不審に思った凛によって無理やり連れていかれてしまった。心は何故お風呂に入りたがらなかったのだろうか、と千夏は少し疑問に思ったが、単に恥ずかしいだけなのかな、と特に気に留めることは無かった。

「歩美ちゃんお風呂入れる？ なんだったらおねえちゃんが一緒に付いて行ってあげてもいいのよ？」
「あう、だいじょうぶです……」
「本当？ 本当に大丈夫？」
「さすがにしつこい」

　鼻の下を伸ばして迫る綾香の首根っこを遊希は思い切り引っ張る。綾香の身体がつの字に曲がった。

「ちょっと！ むち打ちになったらどうしてくれるのよ！」
「親友を犯罪者にしないためならむち打ちだろうが滅多打ちだろうがなんだってしてやるわよ」
「幼稚園児とかならともかく小学生ならお風呂くらい大丈夫なのではないでしょうか……？」
「綾香サンは過保護デスネ！」

　夕食作りに参加していなかった歩美の分の着替えは美夏と結衣が持ってきてくれたようで、歩美はぽてぽてと風呂場へと向かった。






＊





「うわっ、凛ってスタイル良いのね」

　美夏が服を脱いで一糸纏わぬ姿となった凛の身体を見てまじまじと感想を述べる。凛の身体は程よく締まりながらもその身体には女性らしい丸みもところどころで見られた。
　美夏や結衣が中学1年生なのに対し、凛はボーイッシュながらも中学2年生である。わずか1年ながらも思春期の少女はその1年の間に成長の違いは思いのほか存在するのかもしれない。

「そうかなぁ……ボク修学旅行の時によくお尻の形がいいとか色々と言われたんだけど……そんなに変かなぁ」
「別に変なことではないですよ。むしろ誇るべきことだと思います」
「凛おねえちゃんいいなぁ……わたしもおっきくなったらきれいなおねえさんになれるかなぁ」
「大丈夫ですよ。歩美ちゃんも私たちくらいの歳になったらきっと美しくなっていますから。ほら、手を上げて下さい。上を脱ぎましょうね」

　最年長のベアトリスは歩美が服を脱ぐのを手伝う。アジア人の中に1人だけいる欧州人だけあってスタイルや発育の良さに関しては彼女の右に出る者はいない。それこそ彼女のスタイルは遊希やエヴァに匹敵するほどのものであった。そんな中、1人だけ服を中々脱ごうとしない少女がいた。心である。そんな彼女を見かねて美夏と凛が声をかけた。

「あれ、心どうしたの？ もしかして服脱ぐの大変とか？」
「あっ……その……」
「じゃあ手伝ってあげるよ！ その服着るのも脱ぐのも難しそうだし！」
「いや、大丈夫だから……」

　一糸纏わぬ姿の凛が心の服のボタンを次々と外していく。心は恥ずかしいのか顔を真っ赤にして抵抗するも、最早抵抗らしい抵抗にはなっていなかった。

（あれ……心ちゃんって意外と身体がしっかりしてるような……女の子でもガタイのいい子は多いよね！）
「ほらほら脱いだ脱いだー！」
「だ、ダメ……」




＊





「だってしょうがないじゃない！ あんなに可愛い子がお風呂入るんだから覗く変質者とか出る危険性だって……！！」
「誰か鏡持ってきてー。変質者予備軍が何か言ってる」
「誰が変質者予備軍よ！」
「あんたよあんた」

　その頃、居間では遊希と綾香の痴話喧嘩が繰り広げられていた。最も今回の件については全面的に遊希が正しく、それをわかっていた千夏・詩織・エヴァの3人はそんな2人に構うことなく食器の準備やテーブルの清掃、テレビを見ていたりしていた。

「ともかく！ こんな田舎だからこそそういうのが出るって言うの！」
「それは田舎、というかこの県の県民に対する侮辱にあたるからやめなさいって」

　正義感と紙一重の欲望に熱くなる綾香とそれを受け流し続ける遊希。そんなに歩美ちゃんと一緒がいいのか、と匙を投げかけた瞬間である。



―――きゃあああっっ！！



　結衣たちが使っている風呂場から悲鳴が聞こえたのは。

「ねえ今のって！！」
「お風呂からデス！」
「もしかして本当に変質者が……」
「ほら言わんこっちゃないじゃない、バカ遊希！」

　バカとはなんだ、と遊希が返そうとした時、お風呂からはバスタオル1枚をまとったずぶ濡れの結衣・美夏・歩美の3人が駆けだしてきた。

「うわっ、マジでびっくりしたー……」
「ありえない……ありえないです！！」
「結衣、美夏、どうしたの？ もしかして本当に変質者でも」
「あのね、心おねえちゃんがお―――」
「わーっ、歩美ちゃんはそんな言葉口にしちゃダメだよーっ！」

　咄嗟に歩美の口を塞ぐ美夏。いったい何があったのか、と綾香と詩織が風呂場へと向かった。

「……校長先生に伝える？」
「そうしましょう！ 本当に覗きだったら許せないんだから！」

　千夏がロッジの電話を手に取ろうとした時、またしても風呂場から悲鳴が聞こえてきた。綾香と詩織のものである。

「また……！ いったいなにがどうなって……」
「あのね！ あのね……心おねえちゃんが……」

　苦笑いする美夏と怒り心頭の結衣を尻目に歩美は何かを必死に伝えようとしていた。

「心に何があったの？ 教えて歩美ちゃん」
「……心おねえちゃんが……心おにいちゃんだったの！！」
「……えっ？」

　遊希と千夏とエヴァが歩美のその言葉の意味を理解するの数秒の時を要した。まさか、と思いつつ風呂場に向かうと、そこにはがっくしと項垂れた綾香と両手で顔を隠している詩織、そして泣きじゃくる心とそれを宥めるベアトリスにバスタオルで前を隠したまま呆然と立ち尽くす凛の姿があった。

「綾香、詩織……大丈夫？」
「ごめん。ちょっと失礼するわね！」

　遊希とエヴァが綾香と詩織を気遣おうとする中、千夏は1人心の元へと向かうと、彼女が纏っていたバスタオルを少しめくった。きゃっ、という小さな悲鳴を上げる心であったが、千夏は構わず彼女の身体を確認する。

「千夏？」
「……うん、ついてる」

　心の身体には生物学的に人間の女性に存在しないものが確かに存在した。一 心―――彼女、いや彼は男性だったのである。