第77話：ペンデュラムの脅威！　作：光芒

「ペンデュラム……？」
―――ペンデュラムスケール……聞いたことのない言葉だ。

　デュエルにおいて“ペンデュラム”という聞き慣れない言葉に遊希は戸惑いを隠せなかった。そんな彼女の気持ちを察したのか綾香は不敵な笑みを浮かべる。

「……まあ、そんな顔するのも無理ないわよね。だってこれはI2社と海馬コーポレーションが極秘で開発してる途中の新しい召喚方法だもの」
「新しい……召喚法？」
「ええ。ペンデュラムモンスターはモンスターカードであると同時に魔法カードでもあるのよ」

　ペンデュラムモンスターにはモンスターゾーンで発動できるモンスター効果と青と赤の2つのペンデュラムゾーンに魔法カードとしてセッティングすることで発動できるペンデュラム効果を持っている。
　そしてそのペンデュラムモンスターには“ペンデュラムスケール”というものが存在し、2体のペンデュラムモンスターをペンデュラムゾーンにセットすることでそのスケールの間の数字のレベルのモンスターを1度の機会で複数体特殊召喚できる。それが“ペンデュラム召喚”というものである。

「つまりその2体のモンスター……に表示された数字と数字の間のレベルのモンスターを一気に特殊召喚できるってことでいいのかしら？」
「そうなるわね。慧眼の魔術師のスケールは5で竜穴の魔術師のスケールは8。つまりレベル6と7のモンスターを特殊召喚できる」
「でもレベル6と7だけってなんだかケチ臭いわね」
「そうね……だからそのスケールを広げさせてもらうわ。“慧眼の魔術師”のペンデュラム効果を発動！」


※慧眼の魔術師
ペンデュラム・効果モンスター（制限カード）
星4/光属性/魔法使い族/攻1500/守1500
【Pスケール：青5/赤5】
(1)：もう片方の自分のPゾーンに「魔術師」カードまたは「EM」カードが存在する場合に発動できる。このカードを破壊し、デッキから「慧眼の魔術師」以外の「魔術師」Pモンスター1体を選び、自分のPゾーンに置く。
【モンスター効果】
(1)：このカードを手札から捨て、自分のPゾーンの、Pスケールが元々の数値と異なるカード1枚を対象として発動できる。そのカードのPスケールはターン終了時まで元々の数値になる。


「もう片方のPゾーンに「魔術師」と名のついたカードが存在する場合に発動できる。このカードを破壊するわ」

　慧眼の魔術師は自身の唱える呪文で自分の身体を破壊する。この瞬間、破壊された慧眼の魔術師を綾香が表側のままエクストラデッキに加えるのを見逃さなかった。

「ちょっと……破壊されたカードは墓地に送るものよ」
「ペンデュラムモンスターはフィールドから墓地に送られる場合エクストラデッキに表側表示で加えられる」
「なんですって！？」
「そしてペンデュラム召喚によってペンデュラムモンスターは手札のみではなくエクストラデッキからも特殊召喚できるのよ。破壊された慧眼の魔術師の効果でデッキから慧眼の魔術師以外の「魔術師」ペンデュラムモンスター1体を選んで空いたゾーンに置くわ！ 私が置くのは【スケール2】の“賤竜の魔術師”！！」


※賤竜の魔術師
ペンデュラム・効果モンスター
星6/風属性/魔法使い族/攻2100/守1400
【Pスケール：青2/赤2】
「賤竜の魔術師」のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1)：もう片方の自分のPゾーンに「魔術師」カードが存在する場合に発動できる。自分のエクストラデッキの表側表示の、「賤竜の魔術師」以外の「魔術師」Pモンスターまたは「オッドアイズ」Pモンスター1体を選んで手札に加える。
【モンスター効果】
「賤竜の魔術師」のモンスター効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1)：このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、自分の墓地の、「賤竜の魔術師」以外の「魔術師」Pモンスターまたは「オッドアイズ」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。


「賤竜の魔術師のペンデュラムスケールは2……」
―――つまりレベル3から7までのモンスターを同時に特殊召喚できるということか！
「さあ、恐れ慄きなさい。これが融合とも儀式ともシンクロともエクシーズとも違う……新時代の召喚！“ペンデュラム召喚”よ！！ “揺れろ魂のペンデュラム！ 天空に描け光のアーク！”」

　青い光の中に浮かび上がった賤竜の魔術師と竜穴の魔術師。その2体の間には振り子のような光が揺れ、その中心にはまるで異空間に繋がるワームホールを髣髴とさせる大穴が現れる。

「“我が手から戦場に舞い降りよ！ そして相対する者を葬り去れ！！”ペンデュラム召喚！！ 先んじて現れよ！ 慧眼の魔術師！ “EMペンデュラム・マジシャン”！！」

　綾香のフィールドには今度はモンスターとして慧眼の魔術師が現れ、その横には派手な衣装に身を包んだ奇術師のようなモンスターが現れた。


※EMペンデュラム・マジシャン
ペンデュラム・効果モンスター
星4/地属性/魔法使い族/攻1500/守800
【Pスケール：青2/赤2】
(1)：自分フィールドに「EM」モンスターがP召喚された場合に発動する。自分フィールドの「EM」モンスターの攻撃力はターン終了時まで1000アップする。
【モンスター効果】
「EMペンデュラム・マジシャン」のモンスター効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1)：このカードが特殊召喚に成功した場合、自分フィールドのカードを2枚まで対象として発動できる。そのカードを破壊し、破壊した数だけデッキから「EMペンデュラム・マジシャン」以外の「EM」モンスターを手札に加える（同名カードは1枚まで）。


「そして最後に現れるのは世にも珍しき二色の眼を持ちし竜！ その眼光で全てを捉え壊しつくせ！ “オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン”！！」


※オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン
ペンデュラム・効果モンスター
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
【Pスケール：青4/赤4】
「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン」の(1)(2)のP効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1)：自分のPモンスターの戦闘で発生する自分への戦闘ダメージを0にできる。
(2)：自分エンドフェイズに発動できる。このカードを破壊し、デッキから攻撃力1500以下のPモンスター1体を手札に加える。
【モンスター効果】
(1)：このカードが相手モンスターと戦闘を行う場合、このカードが相手に与える戦闘ダメージは倍になる。


「最上級を含む3体のモンスターが一度に特殊召喚……！！」
―――制約こそあれど、3体のモンスターを同時に特殊召喚か……
「どう、凄いでしょ？ でも1回のタイミングで特殊召喚されるから神の宣告のようなカウンター罠で召喚を無効にされるとみんなまとめて墓地に送られちゃうし、奈落の落とし穴を発動されたら一度にゲームから除外されてしまうのよ」

　そのデメリットを回避するため、綾香はツインツイスターを発動したのである。ペンデュラム召喚を銀河割断で無効化されないために。

「ペンデュラム召喚に成功したEMペンデュラム・マジシャンの効果が発動！ このカードのペンデュラム召喚に成功した時、自分フィールドのカード2枚を破壊し、この効果で破壊した分だけ同名カード以外の「EM」と名のついたモンスターを手札に加えるわ！ 私は賤竜の魔術師と竜穴の魔術師を破壊し、デッキから“EMモンキーボード”と“EMドクロバット・ジョーカー”を手札に加えるわ！」

　破壊された賤竜の魔術師と竜穴の魔術師は共にペンデュラムモンスター。よってこの2体もエクストラデッキに表側表示で加えられる。

「そして空いたペンデュラムゾーンに今サーチした【スケール1】の“EMモンキーボード”をセッティング！ そしてモンキーボードのペンデュラム効果も発動する！」


※EMモンキーボード
ペンデュラム・効果モンスター
星6/地属性/獣族/攻1000/守2400
【Pスケール：青1/赤1】
「EMモンキーボード」の(2)のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1)：もう片方の自分のPゾーンに「EM」カードが存在しない場合、このカードのPスケールは4になる。
(2)：このカードを発動したターンの自分メインフェイズに発動できる。デッキからレベル4以下の「EM」モンスター1体を手札に加える。
【モンスター効果】
(1)：このカードを手札から捨てて発動できる。手札の「EM」モンスターまたは「オッドアイズ」モンスター1体を相手に見せる。このターン、そのモンスター及び自分の手札の同名モンスターのレベルを1つ下げる。


「このカードを発動したターンのメインフェイズに発動。デッキからレベル4以下のEMモンスター1体を手札に加えるわ。私が手札に加えるのは2体目のEMドクロバット・ジョーカー！ そしてペンデュラム・マジシャンの効果で手札に加えた1体目のスケール8、ドクロバット・ジョーカーをPゾーンにセッティング！」

　ペンデュラム・マジシャンの効果で破壊されたことで空いていた綾香のペンデュラムゾーンにモンキーボードとドクロバット・ジョーカーの2体がセットされることで、三度青い光の中に2体のペンデュラムモンスターが浮かび上がる。
　片方のペンデュラムゾーンにEMモンスターが存在することでモンキーボードのデメリット効果が無くなり、綾香はレベル2から7までのモンスターをペンデュラム召喚できるようになった。最もペンデュラム召喚自体は1ターンに1度までなのでこのターンに再度ペンデュラム召喚をすることはできないのであるが。

「私はまだ通常召喚をしていないわ。モンキーボードの効果で手札に加えたドクロバット・ジョーカーを召喚！！」


※EMドクロバット・ジョーカー
ペンデュラム・効果モンスター
星4/闇属性/魔法使い族/攻1800/守100
【Pスケール：青8/赤8】
(1)：自分は「EM」モンスター、「魔術師」Pモンスター、「オッドアイズ」モンスターしかP召喚できない。この効果は無効化されない。
【モンスター効果】
(1)：このカードが召喚に成功した時に発動できる。デッキから「EMドクロバット・ジョーカー」以外の「EM」モンスター、「魔術師」Pモンスター、「オッドアイズ」モンスターの内、いずれか1体を手札に加える。


「召喚に成功したドクロバット・ジョーカーの効果発動！ デッキからドクロバット・ジョーカー以外のEMモンスターか魔術師ペンデュラムモンスター、オッドアイズモンスター1体のうちいずれか1体を手札に加える。私は2体目のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを手札に加える！」
「っ……あれだけのカードをプレイしたのに手札がまだ4枚もあるなんて……」
「それがペンデュラム召喚の恐ろしさ、ってやつよ。最後にフィールドのオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを対象に墓地の“貴竜の魔術師”の効果を発動！」


※貴竜の魔術師
ペンデュラム・チューナー・効果モンスター
星3/炎属性/魔法使い族/攻700/守1400
【Pスケール：青5/赤5】
(1)：もう片方の自分のPゾーンに「魔術師」カードが存在しない場合にこのカードは破壊される。
【モンスター効果】
このカードをS素材とする場合、ドラゴン族モンスターのS召喚にしか使用できず、他のS素材に「オッドアイズ」モンスター以外のモンスターを使用した場合、このカードを持ち主のデッキの一番下に戻す。
(1)：このカードが手札・墓地に存在する場合、自分フィールドのレベル7以上の「オッドアイズ」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのレベルを3つ下げ、このカードを特殊召喚する。


「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンのレベルを3つ下げて、このカードを特殊召喚！」
「そんなカードいつの間に……しかもチューナーモンスターってことは……まさかシンクロ召喚も？」
「そのまさかよ！ 私はレベル4となったオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンにレベル3のチューナーモンスター、貴竜の魔術師をチューニング！“その美しくも雄々しき翼翻し、光の速さで敵を討て！”シンクロ召喚！ 飛翔せよ！“クリアウィング・シンクロ・ドラゴン”！！」
「……！！ そいつは……千夏の……」

　綾香のフィールドにはクリアウィング・シンクロ・ドラゴンが舞い降りる。千夏を操るにあたって最も大きな力を発揮したモンスターであり、遊希にとっては因縁の深いモンスターの1体である。

「それじゃあ次に出すモンスターにも驚きなさい！ 私はレベル4のEMドクロバット・ジョーカーと慧眼の魔術師でオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！“漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙！”今、降臨せよ！“ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン”！！」
「詩織のカードまで……」

　クリアウィング・シンクロ・ドラゴンとダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン。千夏と詩織、二人を操るにあたって黒幕が介した未知なる2体のドラゴン。その2体が遊希の前に並んで立ちはだかった。

「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの効果を発動！ オーバーレイユニットを2つ取り除き、フィールドに存在するモンスター1体の攻撃力を半分にし、自身の攻撃力に加える！ 対象は銀河眼の光子竜よ！“トリーズン・ディスチャージ”！！」

　ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの発達した牙から発せられた漆黒の電撃が銀河眼の光子竜を縛り上げ、その攻撃力を奪う。

銀河眼の光子竜 ATK3000→1500
ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ATK2500→4000

―――ぐっ……！
（光子竜！）
「そしてバトル！ クリアウィング・シンクロ・ドラゴンで銀河眼の光子竜を攻撃！“旋風のヘルダイブ・スラッシャー”！！」

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン ATK2500 VS 銀河眼の光子竜 ATK1500

（っ……光子竜、ごめん！）

遊希 LP8000→7000

　銀河眼の光子竜は自身と相手をゲームから除外することができる効果を持っており、この効果を発動できれば戦闘においてはほぼ無敵のモンスターと言える。
　しかし、クリアウィング・シンクロ・ドラゴンは1ターンに1度、フィールド上で発動したレベル5以上のモンスターの効果の発動を無効にして破壊し、この効果で破壊したモンスターの攻撃力分自身の攻撃力を上げる効果を持っている。
　そのため銀河眼の光子竜の効果はクリアウィング・シンクロ・ドラゴンの前では意味をなさず、逆にクリアウィング・シンクロ・ドラゴンの攻撃力を5500まで上げさせてしまう。光子竜の攻撃力を吸収したダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンも存在するため、この効果で攻撃力を上げられてしまえば遊希のライフはあっという間に0になってしまう。遊希には光子竜を見捨てるしかないのだ。

―――構わないさ。墓地に送られるのは慣れているからな……それよりも自分の心配をしろ！
「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンで銀河眼の竜騎士を攻撃！“反逆のライトニング・ディスオベイ”！！」

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ATK4000 VS 銀河眼の竜騎士 ATK2800

遊希 LP7000→5800

「やられてばっかじゃいられない……！ 相手に破壊された銀河眼の竜騎士の効果を発動！ 相手フィールドのカード1枚を破壊する！ ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンを道連れにしなさい！！」

　ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの牙によって貫かれた銀河眼の竜騎士は最後の力を振り絞って手に持っていた剣をダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの喉元に突き刺す。ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンは怒号のような断末魔を上げながら倒れていった。

「さすが、転んでもただじゃ起きないわね。EMペンデュラム・マジシャンでダイレクトアタックよ！」

EMペンデュラム・マジシャン ATK1500

遊希 LP5800→4300

「っ―――！！」
「まさかこの猛攻を耐えるとはね。ワンショットキルをそのまま食らった千夏や詩織とはやっぱ違う。でも、それでこそ遊希よ。私はこれでターンエンド」


遊希 LP4300　手札2枚
デッキ：36　モンスター：0　魔法・罠：1　墓地：6　除外：0　エクストラデッキ：14
綾香 LP8000　手札4枚
デッキ：27　モンスター：2（クリアウィング・シンクロ・ドラゴン、EMペンデュラム・マジシャン）魔法・罠：2（EMモンキーボード、EMドクロバット・ジョーカー）墓地：5　除外：0
Pゾーン：青（EMモンキーボード：スケール1）赤（EMドクロバット・ジョーカー：スケール8）エクストラデッキ：17（13＋Pモンスター：4）