第13話：友がため、千夏のデュエル　作：光芒

　時計の短針が9を指す頃、千夏と遊希たちを誹謗した男子生徒の一人のデュエルが始まろうとしていた。しかし、デュエルの直前になって遊希たちはあることに気付く。

「……ねえ、ところであの相手誰だっけ」
「そう言えば見慣れない顔ね」
「まあ私たちの同級生なので、顔が分からなくても仕方ないですよね……」

　相手に聞こえないように小声で話す遊希たち。だが千夏はそんな3人の様子など気にも留めなかった。

「相手の名前なんて覚えておく必要ないわよ」
「なんで？」
「だって私があんなやつすぐ倒しちゃうんだから！ 名前を覚える必要なんて無いんだから！」

　そう言ってデュエルディスクを嵌めていない方の腕を勢いよくグルグルと回す千夏。相手がどんなデッキを使うかも判らないのにこれだけポジティブにいられるのは短所でもあるが長所でもある。
　遊希は相手がどんなデッキで来るのか、どんな戦法を使うのか、ということに頭を取られ、楽しんでデュエル出来ているかというとそうでもない。現にデュエルに至るまでの経緯が経緯である。自分だったら例え空元気でもそこまで明るく振る舞うことは出来ないだろう。

「千夏」

　遊希がデュエルリングに向かう千夏を呼び止める。

「何？ デュエルだったらこの後受けるわよ」
「これはあなたのデュエル。私たちのことなんて気にせず、自分のために戦いなさい」
「……当然！」


　意気揚々とデュエルリングに向かう千夏。対戦相手の男子生徒は無言で千夏を見つめていた。男子生徒は先程まで遊希たちの悪口を言っていたとは思えないほど真剣な面持ちだった。

「来たか」
「来てやったわよ！ ねえ、今謝ったら許してあげてもいいけど？」
「誰がそんなことするか。俺にだってメンツってもんがある。このデュエル手加減はしない！」
「いい心掛けね。じゃああんた……えーと、誰だっけ？」
「火野 孝輔（ひの こうすけ）だ。まあ覚えなくていい、負ける奴に名前を覚えてもらう必要なんてないんだからな」
「……そのセリフ、そっくりそのままお返ししてやるわ！」

　デュエル前に息巻く二人を制するかのようにミハエルがレフェリーとして姿を現す。教師陣としても因縁のある2人がデュエルを通して暴走しないかを見守る必要があった。

「怨恨はあるかもしれない、だがデュエルにおいて競うのは互いのデュエルタクティクスのみだ！ 今はただデュエルに集中すること！ それでは……デュエル開始！」
「「デュエル！」」

　ミハエルがデュエル開始を宣言したことによって、デュエルディスクが作動。デュエルディスクの内臓コンピューターによって先攻は孝輔となった。


☆TURN01

「俺のターン。俺は手札から“フレムベル・ヘルドッグ”を召喚！」


※フレムベル・ヘルドッグ
効果モンスター
星4/炎属性/獣族/攻1900/守200
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、デッキから「フレムベル・ヘルドッグ」以外の守備力200以下の炎属性モンスター1体を特殊召喚できる。


「俺はカードを2枚セットし、ターンエンドだ」


孝輔 LP8000　手札2枚
デッキ:35　モンスター:1（フレムベル・ヘルドッグ）　魔法・罠:2　墓地:0　除外:0
千夏 LP8000　手札5枚
デッキ:35　モンスター:0　魔法・罠:0　墓地:0　除外:0


「フレムベル・ヘルドッグ……炎属性のデッキのようですね」
「ええ。効果的に【フレムベル】か【ラヴァル】かしら？」
「どちらにせよあれだけの口が叩けるんだから、相当の力を持っていると見るべきね」


☆TURN02

「私のターン、ドローよ！」

　後攻の千夏がカードをドローする。前に千夏が言っていた通りのデッキ内容とすれば起点となるべきモンスターを引くことが重要になる。

「行くわ！ 私は“E・HERO エアーマン”を召喚！」


※E・HERO エアーマン
効果モンスター（制限カード）
星4/風属性/戦士族/攻1800/守300
(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●このカード以外の自分フィールドの「HERO」モンスターの数まで、フィールドの魔法・罠カードを選んで破壊する。
●デッキから「HERO」モンスター1体を手札に加える。


「エアーマン……サーチもなしに引き当てたのか」
「強いデュエリストなら当然よ！ 私はエアーマンの第2の効果を発動！ デッキから“E・HERO シャドー・ミスト”を手札に加えるわ！ そして魔法カード“融合”を発動！」


※融合
通常魔法
(1):自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。


「手札のシャドー・ミストと“E・HERO バブルマン”で融合！ 闇に潜みし英雄、水の力を携えし英雄と一つとなり、新たな力を得て再誕せよ！ 融合召喚！ 現れなさい、氷の英雄！“E・HERO アブソルートZero”！！」
　
　HERO、とりわけ【E・HERO】は個々の戦闘力こそ低いが、“融合”系の魔法カードによって融合召喚することで強力なモンスターをエクストラデッキから特殊召喚が出来る。
　シンクロのように全てのモンスターで魔法カードを使わずに召喚出来るわけでもなく、エクシーズほどの手軽さはないものの、やはり魔法カードを使い召喚するだけあってモンスターには強力な効果を持ったものが多い。特に今千夏が召喚したアブソルートZeroはその筆頭格と言っていいものだった。


※E・HERO アブソルートZero
融合・効果モンスター
星8/水属性/戦士族/攻2500/守2000
「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する「E・HERO アブソルートZero」以外の水属性モンスターの数×500ポイントアップする。
このカードがフィールド上から離れた時、相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。


「アブソルートZero……最強の属性融合HEROと言われてるやつか」
「ええそうよ！ そして融合素材として墓地に送られたシャドー・ミストの効果も発動するわ！」


※E・HERO シャドー・ミスト
効果モンスター
星4/闇属性/戦士族/攻1000/守1500
「E・HERO シャドー・ミスト」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「チェンジ」速攻魔法カード1枚を手札に加える。
(2):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「E・HERO シャドー・ミスト」以外の「HERO」モンスター1体を手札に加える。


「私はこの効果で“E・HERO ブレイズマン”を手札に加えるわ！ そしてメインフェイズ1を終えてバトルフェイズ！ アブソルートZeroでフレムベル・ヘルドッグを攻撃！“瞬間氷結（フリージング・アット・モーメント）”！！」

E・HERO アブソルートZero ATK2500　VS　フレムベル・ヘルドッグ ATK1900

孝輔 LP8000→7400

「さらにエアーマンでダイレクトアタックよ！」

E・HERO エアーマン ATK1800

孝輔 LP7400→5600

「どう！ 私はカードを1枚セットし、これでターンエンドよ！」


孝輔 LP5600　手札2枚
デッキ:35　モンスター:0　魔法・罠:2　墓地:1　除外:0
千夏 LP8000　手札3枚
デッキ:32　モンスター:2（E・HERO アブソルートZero・E・HERO エアーマン）　魔法・罠:1　墓地:3　除外:0


「先手は陽川さんが取りましたね」
「ええ、それにアブソルートZeroはフィールドを離れると相手モンスターを全て破壊する効果があるわ！ これで相手は迂闊に動けな……遊希、どうしたの？ そんな渋い顔しちゃって」
「……いや、相手……火野君の顔を見ていたのだけど……アブソルートZeroを出されても対して動揺が見られなかったの」
「アブソルートZeroを出されても焦ってなかったってこと？」
「ええ。あのモンスターを出されると私も対応には苦心する。ということは彼のデッキはアブソルートZeroの効果を受けても構わないデッキだと思われるわ」


☆TURN03

「俺のターン、ドロー」

　手痛い一撃を受けた孝輔が最初のドローをする。

「さて、ここからやり返させて貰う。俺は魔法カード“炎王の急襲”を発動！」


※炎王の急襲
通常魔法
相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に発動できる。デッキから炎属性の獣族・獣戦士族・鳥獣族モンスター1体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズ時に破壊される。
「炎王の急襲」は1ターンに1枚しか発動できない。


「炎王の急襲！？」
「このカードは相手フィールド上にのみモンスターが存在することで発動出来る。この効果で俺はデッキから炎属性の獣族・獣戦士族・鳥獣族のモンスター1体を特殊召喚出来る。俺が呼ぶのはこいつだ！ 来い、誇り高き炎王の支配者“炎王神獣ガルドニクス”！！」

　孝輔のフィールドにはまるで火山からマグマが吹きだすかのような灼熱の炎が上がり、その中から巨大な一羽のモンスターが飛び立つ。炎と共に優雅に飛び立ったそのモンスターこそ、彼のデッキのエースモンスターである炎王神獣ガルドニクスだ。


※炎王神獣ガルドニクス
効果モンスター
星8/炎属性/鳥獣族/攻2700/守1700
このカードがカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、次のスタンバイフェイズ時にこのカードを墓地から特殊召喚する。
この効果で特殊召喚に成功した時、このカード以外のフィールド上のモンスターを全て破壊する。
また、このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、デッキから「炎王神獣 ガルドニクス」以外の「炎王」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。


「……あなた、炎王デッキの使い手だったのね。だからアブソルートZeroを前にしても怖気付かなかった、と」
「ああ。そしてガルドニクスの攻撃力は2700。お前のアブソルートZeroより高い！」
「確かに厄介なモンスターね。でも炎王の弱点くらい私も知ってるわ！ ガルドニクスの特殊召喚にチェーンして、私はリバースカードを発動するわ！ 罠カード、“奈落の落とし穴”！！」


※奈落の落とし穴
通常罠（準制限カード）
(1):相手が攻撃力1500以上のモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚した時に発動できる。その攻撃力1500以上のモンスターを破壊し除外する。


「破壊されても蘇る炎王。なら除外しちゃえばいいのよ！ 奈落の底に落ちなさい、ガルドニクス！」
「いい気になるなよ！ 俺は奈落の落とし穴にチェーンしてリバースカード発動！ 永続罠“王宮の鉄壁”！！」


※王宮の鉄壁
永続罠
(1):このカードが魔法＆罠ゾーンに存在する限り、お互いにカードを除外できない。


「このカードが存在する限り、お互いにカードを除外することが出来なくなる。そのため除外するカードである奈落の落とし穴は発動すら出来なくなる！」
「……っ！？ てことは……」
「もっとも奈落の落とし穴にチェーンして王宮の鉄壁を発動した場合は、破壊の後墓地に送ることになる。そのためガルドニクスは破壊される。しかし、除外が弱点のガルドニクスを除外出来なくなったのは痛いよなぁ！」
「……」
「さて、こっからが俺のデッキの本領発揮だ！ 覚悟しろよチビ！」
「チビチビ言うな！！ まだデュエルは始まったばかりなのよ！」