第69話：千夏との誓い　作：光芒

☆TURN06


「私のターン、ドローよ。ハイパー・ギャラクシーを消費させたところ悪いけど、今の手札は墓地に行ってくれて良かったものなのよ」
『……！？』
「私は墓地の光属性モンスター、銀河悪魔と銀河の戦乙女をゲームから除外し、銀河の冥府竜を墓地から特殊召喚するわ！！」

　銀河の冥府竜はハイパー・ギャラクシーの発動コストとして墓地に送られていたモンスターである。これで遊希のフィールドには2体のレベル8モンスターが揃った。

「私はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河の冥府竜でオーバーレイ！ 2体のギャラクシーモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！“銀河に轟く咆哮、大いなる力をもって相対するもの全てを圧する。抗う者を押し潰せ！”鳴動せよ、地の銀河眼！ 銀河眼の重力竜！！」
『……ソノカードハ……』
「銀河眼の重力竜の効果を発動！ オーバーレイユニットを1つ取り除き、自身を対象として発動！ このターン、重力竜は2回攻撃できる！！ バトルフェイズ！ 銀河眼の重力竜でセットモンスターを攻撃！ 重圧のグラビティ・ストリーム！！」

銀河眼の重力竜 ATK2800 VS 彼岸の悪鬼ファーファレル DEF1900


※彼岸の悪鬼ファーファレル
効果モンスター
星3/闇属性/悪魔族/攻1000/守1900
「彼岸の悪鬼 ファーファレル」の(1)(3)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1)：自分フィールドに魔法・罠カードが存在しない場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
(2)：自分フィールドに「彼岸」モンスター以外のモンスターが存在する場合にこのカードは破壊される。
(3)：このカードが墓地へ送られた場合、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをエンドフェイズまで除外する。

　セットモンスターは彼岸の悪鬼ファーファレル。下級モンスターだが、墓地に送られることでフィールドのモンスター1体をエンドフェイズまでゲームから除外する効果を持っている。
　しかし、重力竜はオーバーレイユニットがある場合、フィールドのギャラクシーモンスターが戦闘を行う相手モンスターの効果を無効にする。そのため、墓地に送られることで効果を発動する彼岸モンスターに対しては好相性なのだ。遊希は髑髏の仮面に墓地に送られることで効果を発動する彼岸モンスターをセットしたことを想定して重力竜をエクシーズ召喚したのである。そして重力竜の攻撃が決まる瞬間、遊希は畳みかけるかのようにリバースカードを発動する。

「この瞬間、リバースカードオープン！ 銀河眼の重力竜を対象に罠カード、ギャラクシー・ジャベリンを発動！ 重力竜の攻撃力は800ポイントアップ！」

銀河眼の重力竜 ATK2800→3600

銀河眼の重力竜 ATK3600 VS 彼岸の悪鬼ファーファレル DEF1900

「彼岸の悪鬼ファーファレルを破壊！ オーバーレイユニットを持った重力竜が存在する場合、ギャラクシーモンスターと戦闘を行うモンスターの効果は無効化される！ よってファーファレルの除外効果は発動できない！」
『クッ……』
「更に重力竜に装備されたギャラクシー・ジャベリンの効果！ 破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える！」

髑髏 LP6200→5700

「そして重力竜はこのターン、2回攻撃が可能！ 圧し潰せ！ 重圧のグラビティ・ストリーム！！」

銀河眼の重力竜 ATK3600

髑髏 LP5700→2100

『グアアアッ―――！！！』

　重力竜のダイレクトアタックを受けた髑髏の仮面の身体が大きく吹き飛び、地面に顔面から叩きつけられる。攻撃力3600のモンスターのダイレクトアタックはかなりの衝撃のようであり、それは遊希を襲おうとした髑髏の仮面からしてみても同じようだった。

『グッ……グゥゥ……』
「まだデュエルは終わっていないわ。立ち上がって、あんたには聞きたい事が山ほどあるんだから。私はこれでターンエンドよ」


髑髏　LP2100　手札3枚
デッキ：20　モンスター：0　魔法・罠：2　墓地：13　除外：3
遊希　LP3700　手札2枚
デッキ：28　モンスター：1（銀河眼の重力竜 ORU:1）魔法・罠：1　墓地：10　除外：3


☆TURN07


『ハァ……ハぁ……私の、ターン……』

　立ち上がった髑髏の仮面であるが、叩きつけられた衝撃で髑髏の仮面の下半分が砕け、鼻から下が見えるようになっていた。輪郭から察するに髑髏の仮面もまた千夏同様遊希と同年代の少女のものと推測できる。
　千夏もそうだが、自分と同年代かつ女性のデュエリストを操り人形として自分に差し向けてくる辺りに遊希は一連の事件の黒幕の底知れぬ性の悪さを感じた。この相手もまた黒幕の被害者、同情すべきところはあるが、今は相手を倒すことだけを考えなければならない。
　それでも今の攻撃がよほど効いたのか、髑髏の仮面の手は震え、デッキからカードを中々ドローできない始末だった。痺れを切らした遊希は思わず髑髏の仮面に声をかける。

「どうしたの？ ドローしなさい」
『……遊……希……さん』
「っ！？」

　髑髏の仮面が遊希の名を呼ぶ。髑髏の仮面のエコーが掛かっていない素の声を聴いた瞬間、遊希は背中に冷たいものを感じた。千夏の時と同じように、その声はやはり聞き覚えのあるものだったからだ。

―――遊希……
（……なんで、なんでこんな時に限ってあんたの言うことが当たるのよ、千夏）





＊





　話は今日の昼間に遡る。遊希が見舞っている最中に目を覚ました千夏は遊希の手を今持てる力を振り絞って握りながら、とある言葉を遊希に伝えた。

「千夏っ……千夏っ……！」
「遊……希……お願い……」
「何？ どうしたの？ 何でも言って？」










「―――綾香と詩織を―――助けて―――」










＊





　最初は千夏のその言葉の意味を正確に理解することが出来なかった遊希。しかし、今こうして髑髏の仮面と対峙してその真意を知った。一度ひびが入った仮面の崩落は止まらず、やがて粉々に砕け散って髑髏の仮面の素顔が明らかになった。覚悟はしていた。しかし心の何処かでそんな小説のような展開はまさか起こるまいと思っていた。それでも遊希はやはりショックを隠せなかった。

『遊希……さ……ん―――』
「……そんな……あなたも……あなたもなの？ 詩織？」

　遊希がこれまでデュエルをしていた相手―――それは紛れもなく詩織であった。遊希は千夏に続いて詩織とも心身を削り合うデュエルをしていたこととなる。
　千夏の言葉の真意。それは自分と同じように捕らわれ、洗脳されてしまったため図らずもこのようなデュエルをさせられている詩織を助けてほしい、ということだったのだ。

『ごめんな……さい……私は……私は―――あっ、あああアアッ！！』

　涙を流しながら何かを訴えようとした詩織であるが、突如叫びながら頭を抑えて蹲ってしまった。恐らく洗脳が解けかけていたのだろう。それでも洗脳をかけた黒幕の力か詩織を暴走させたカードの力か、何者かによって再度洗脳が施されそうとしていた。

「詩織！？ 負けないで、詩織！！」
『アアアアッ……天都 遊希ィィ！！ 貴様ヲ倒スッ！！』
「っ！」

　自分の中に巣食う敵と戦っていた詩織であったが、そんな彼女の意志はまたしても悪しき力に屈してしまった。いつもとは180度違う鬼気迫る表情の詩織に思わず遊希はたじろぐ。
　詩織はあまり積極的な性格ではないが、その根底には正しく清い心がある。その心が逆に彼女を強い洗脳状態へとさせてしまっていたのかもしれない。

『ドロー！ 私ハ墓地ノ“幻影騎士団フラジャイルアーマー”ノ効果ヲ発動！』


※幻影騎士団フラジャイルアーマー
効果モンスター
星4/闇属性/戦士族/攻1000/守2000
「幻影騎士団フラジャイルアーマー」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1)：自分フィールドの表側表示の「幻影騎士団」モンスターが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
(2)：墓地のこのカードを除外し、手札の「幻影騎士団」カードまたは「ファントム」魔法・罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。


『墓地ノコノカードヲゲームカラ除外シ、手札ノ「ファントム」罠カード・幻影剣ヲ墓地ニ送ッテデッキカラ1枚ドロー！ ソシテ墓地ノ幻影剣ト幻影翼ノ効果ヲ発動！ コノ2枚ヲゲームカラ除外シ、墓地ノサイレントブーツトラギッドグローブヲ特殊召喚スル！！』
「レベル3のモンスターが2体……！！」
『私ハレベル3ノサイレントブーツトラギッドグローブでオーバーレイ！ 2体ノモンスターデオーバーレイ・ネットワークヲ構築！ エクシーズ召喚！ 再ビ死ノ世界ヨリ蘇レ、幻影騎士団ブレイクソード！！』

　詩織のフィールドにはブレイクソードがエクシーズ召喚され、素材としたラギッドグローブの効果でその攻撃力は1000ポイントアップする。ギャラクシー・ジャベリンの効果で攻撃力の上昇した重力竜にはそれでも攻撃力では及ばないが、ブレイクソードには除去効果がある。

『ブレイクソードノオーバーレイユニットヲ1ツ取リ除キ、ソノ効果ヲ発動！ ブレイクソード自身トギャラクシー・ジャベリンヲ選択シテ破壊スル！！」
「なっ……重力竜を破壊しない！？」

　自らの命と引き換えにギャラクシー・ジャベリンを破壊するブレイクソード。これで重力竜の攻撃力は元に戻り、そしてエクシーズ召喚された自身の効果も発動する。

銀河眼の重力竜 ATK3600→2800

『エクシーズ召喚サレタブレイクソードガ破壊サレタコトニヨリ、ブレイクソードノ効果ガ発動！ 墓地ノ同ジレベルノ幻影騎士団2体ノレベルヲ1ツ上ゲテ特殊召喚スル！ 蘇レ、サイレントブーツ！ ラギッドグローブ！！』

　レベル4となったサイレントブーツとラギッドグローブがフィールドに蘇った瞬間である。遊希と光子竜に千夏とのデュエルで感じたのと似たような邪な波動が伝わってきた。

（光子竜！！）
―――ああ、間違いない。あの時のモンスター―――“クリアウイング・シンクロ・ドラゴン”と同じ力を感じた！
『私ハレベル4トナッタサイレントブーツトラギッドグローブデオーバーレイ！ 2体ノモンスターデオーバーレイ・ネットワークヲ構築！ エクシーズ召喚！！“漆黒ノ逆鱗ヲ持チシ破壊ノ竜、愚鈍ナル力ニ抗イ、敵対スル者ヲ虐殺セヨ！！”血祭リニ挙ゲヨ！“ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン”！！」

　フィールドにエクシーズ召喚されたのは漆黒の鱗を持ち、全身に刃物のような棘を持ったドラゴンだった。このモンスターこそが詩織の洗脳に最も大きな影響を及ぼしていたモンスター“ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン”である。


※ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2500/守2000
レベル4モンスター×2
(1)：このカードのX素材を2つ取り除き、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力を半分にし、その数値分このカードの攻撃力をアップする。


「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン……このカードが……詩織を！！」
『オーバーレイユニットトナッタラギッドグローブノ効果デダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンノ攻撃力ハ1000ポイントアップスル！！』

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ATK2500→3500

『更二ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンノ効果ヲ発動！ コノカードノオーバーレイユニットヲ2ツ取リ除キ、相手フィールドノ表側表示モンスター1体ヲ対象トシテ発動！ ソノモンスターノ攻撃力ヲ半分ニシ、ソノ数値分コノカードノ攻撃力ヲアップサセル！！』
「なんですって！？」
『銀河眼の重力竜ノ力ヲ奪イ取レ！！“トリーズン・ディスチャージ”！！』

銀河眼の重力竜 ATK2800→1400

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ATK3500→4900

「攻撃力……4900……」
『バトルフェイズ！！ ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンデ銀河眼の重力竜ヲ攻撃！！“反逆のライトニング・ディスオベイ”！！」

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ATK4900 VS 銀河眼の重力竜 ATK1400

遊希 LP3700→200

「ああああっ！！」
「遊希サン！！」

　ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの顎から生えた刃が弱体化した重力竜の身体を貫く。そしてその攻撃は重力竜を貫いた後、遊希の元まで達し、遊希の身体には鋭利な刃物で突き刺されたような激しい痛みが走った。声にならない悲鳴を上げ、吹き飛ばされる遊希であったが、そんな彼女を後ろにいたエヴァが全身を使い、自身も倒れながらなんとか受け止める。

「遊希サン！ 怪我はないデスカ……？」
「……エヴァ……ごめん、助かった」
「良かったデス……無事で……」
「なんとかライフは残っているからね……でももうそろそろヤバいかもしれない」

　残っていると言ってもライフは残り200である。吹けば飛ぶ、まさに風前の灯火といえるライフしか遊希には残されていなかった。

「そんな……」
「大丈夫、皆の前でも言ったでしょ。私は……ライフが尽きるまで諦めないって」

　エヴァに支えてもらいながらではあるが、なんとか立ち上がった遊希はフラフラになりながらも所定の場所まで戻る。詩織はそんな遊希を見てもなおダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンと同じ残虐性をその眼に宿していた。
　千夏もそうだったように、やはりダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンを倒さなければこのデュエルに勝利はないし、詩織を助けられない。そのため遊希は倒れるわけにはいかなかった。

『私ハ……コレデターンエンドダ』


詩織　LP2100　手札4枚
デッキ：18　モンスター：1（ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ATK4900、ORU:0）　魔法・罠：2　墓地：12　除外：6
遊希　LP200　手札2枚
デッキ：28　モンスター：0　魔法・罠：1　墓地：12　除外：3


☆TURN08


「私のターン……ドローッ！！」
―――遊希、大丈夫か！？
「……大丈夫……なわけないじゃない。今にも意識が飛びそうよ……でも、ここで倒れるわけには行かないでしょ……」

　遊希は出来ることならもうこのようなデュエルなど辞めて倒れてしまいたい。そう思わせるほどダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの攻撃は痛かった。
　それでも彼女には倒れることなど出来なかった。竜司と雄一郎のデュエルを目の当たりにし、自分の甘さと弱さを知った。病床の千夏の言葉を聞いて残された自分がしなければならないことを知ったのだから。

「これは、千夏との約束。千夏のために誓ったこと！ だから詩織……今、助けてあげるね」
『何ダト？』
「私は手札から魔法カード、死者蘇生を発動！！」
『死者蘇生……サセヌ！サセヌゾオオッ！！ リバースカード……』

　遊希が手札から発動しようとした死者蘇生にチェーンして詩織はリバースカードを発動しようとした。特殊召喚にチェーンするリバースカードなのだから、恐らくカウンター罠か何かだったのだろう。しかし、詩織はリバースカード、と言いかけた途端突然黙り込んでしまった。

「……詩織？」
『アッ……ガアアッ……ヤメロ……出テ来るな……！！』
―――恐らく、詩織本来の性格が洗脳を取り払おうとしているのかもしれないな。
『遊希さん……！』
「詩織？ 詩織！？」
『死者蘇生にチェーンするカードは……ありません。早く……！』
「私は死者蘇生の効果で墓地の重力竜を特殊召喚する！ そして重力竜をエクシーズチェンジ！ 現れなさい、ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン！！」

　遊希のフィールドに現れた重力竜がFA・フォトン・ドラゴンにエクシーズチェンジする。この時点においても詩織はリバースカードを発動しようとはしなかった。

「FA・フォトン・ドラゴンの効果発動！ オーバーレイユニットを1つ取り除き、フィールドに表側表示で存在するモンスター1体を破壊する！ 消えなさい……ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン！！ “ギャラクシー・サイドワインダー”！！」

　遊希の怒りと決意が乗り移ったかのようなFA・フォトン・ドラゴンの力によってダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの身体が粉々に砕け散る。これで詩織を守るモンスターはいなくなった。

「バトル！ ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴンでダイレクトアタック！ “壊滅のフォトン・ストリーム”！！」

ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン ATK4000

詩織 LP2100→0