第15話：もう一つの“ヒーロー”　作：光芒

「メインフェイズ1、まずはリバースカードオープン！ 永続罠“リビングデッドの呼び声”を発動！」


※リビングデッドの呼び声
永続罠
(1):自分の墓地のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。


「私はこの効果でエアーマンを蘇生！ そしてエアーマンは特殊召喚に成功した時も効果が発動するわ！」
（このタイミングでリビングデッド？ ガルドニクスの攻撃時に何故発動しなかった？）
「私はエアーマンのサーチ効果で2体目のシャドーミストを手札に加える」

　リビングデッドの発動タイミングを不可思議に思っていたのが顔に出ていたのか、千夏は孝輔の考えていたことを読み取ったようだった。そんな孝輔に対して千夏は軽く揺さぶりをかけてみる。

「ねえ、あなた今なんでこのタイミングでリビングデッドを発動したのか、って思ってるでしょ？」
「……」

　何処か得意げな顔をして問いかける千夏。孝輔は感情を悟られないように何の反応を見せなかった。しかし、千夏はそんな孝輔の判断に構わず続ける。

「それはね、このカードを使うためよ！ 私は2枚目の融合を発動するわ！ 私はエアーマンとシャドーミストを融合！“風の力を持つ英雄よ。漆黒の闇に潜む英雄よ。今仲間とその力を一つにし、己が力をより高みへと昇華せよ！” 融合召喚！ 現われなさい“E・HERO Great TORNADO”！！」


※E・HERO Great TORNADO
融合・効果モンスター
星8/風属性/戦士族/攻2800/守2200
「E・HERO」モンスター+風属性モンスター
このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
(1):このカードが融合召喚に成功した場合に発動する。相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力・守備力は半分になる。


「墓地に送られたシャドーミストの効果で私はデッキから“E・HERO アナザー・ネオス”を手札に加えるわ。そして融合召喚に成功したGreat TORNADOの効果が発動。相手フィールドに存在するすべてのモンスターの攻撃力と守備力を半分にするわ！ “ダウン・バースト”！」

炎王神獣ガルドニクス ATK2700→1350　DEF1700→850

「ガルドニクスの攻撃力が……！」
「効果破壊によってループが起きるなら、そのループを断ち切るだけ！ バトルフェイズ、Great TORNADOでガルドニクスを攻撃！ “スーパーセル”！！」

E・HERO Great TORNADO ATK2800 VS 炎王神獣ガルドニクス ATK1350

「思い通りにさせてたまるか！ リバースカードオープン！ 速攻魔法、炎王炎還を発動！！」


※炎王炎還
速攻魔法
自分のフィールド上及び自分の墓地の炎属性モンスターを1体ずつ選択して発動できる。選択した自分フィールド上のモンスターを破壊し、選択した墓地のモンスターを特殊召喚する。
「炎王炎環」は1ターンに1枚しか発動できない。


「この効果で攻撃対象になったガルドニクスを破壊し、もう1体のガルドニクスを守備表示で蘇生する！」

　Great TORNADOの効果で攻守の数値を半減されたガルドニクスが効果によって破壊され、墓地に眠るもう1体のガルドニクスがフィールドに特殊召喚される。当然このカードは墓地にいたモンスターのため、Great TORNADOの効果を受けておらず、かつ守備表示のためこの攻撃ではガルドニクスの蘇生ループを完全に絶つには至らなかった。

「だったら攻撃対象を蘇生したガルドニクスに変えるわ！ やっちゃって、TORNADO！」

E・HERO Great TORNADO ATK2800 VS 炎王神獣ガルドニクス DEF1800

「ああ、もう！ あとちょっとでループを断ち切れそうだったのにぃぃー！！」
「……炎王炎還は取っておきたかったが、仕方ないな。だがガルドニクスが戦闘で破壊された時、デッキからガルドニクス以外の炎王を特殊召喚できる。俺はバロンを守備表示で召喚する！」
「サーチ効果持ちのバロンかぁ……次のガルドニクスの蘇生で破壊ループとサーチの同時発動を狙おうって魂胆ね」
「その通り。せっかくのGreat TORNADOも無駄撃ちに終わるってわけだ」
「……バトルフェイズを終えてメインフェイス2に移行。私は魔法カード“貪欲な壺”を発動するわ」


※貪欲な壺（制限カード）
通常魔法
(1):自分の墓地のモンスター5体を対象として発動できる。そのモンスター5体をデッキに加えてシャッフルする。その後、自分はデッキから2枚ドローする。


「私は墓地のアブソルートzero、エアーマン、シャドーミスト2体とバブルマンの5体をデッキに戻し、シャッフル。そして2枚ドローよ！」

　アブソルートzeroはエクストラデッキに戻るため、実質4枚を戻して2枚をドローしたことになる。また、これで融合召喚でのみ特殊召喚が可能なアブソルートzeroは再度融合召喚が可能になった。しかし融合のカードはもうデッキにはない。
　そのためアブソルートzeroを召喚するにはデッキに眠る“ミラクル・フュージョン”を引くと共に墓地に水属性のモンスターを落とすことが必要になるのだが、今の千夏の手札にはそのいずれも存在しなかった。

（……この2枚は……）
「私はこれでターンエンドよ！」


孝輔 LP4400　手札1枚
デッキ:29　モンスター:1（炎王獣バロン）魔法・罠:4（王宮の鉄壁・炎舞-「天キ」・炎王の孤島）墓地:7　除外:0
千夏 LP5200　手札4枚
デッキ:31　モンスター:1（E・HERO Great TORNADO）魔法・罠:1（リビングデッドの呼び声）　墓地:3　除外:0


☆TURN07


「俺のターン、ドロー！ スタンバイフェイズに炎王炎還の効果で破壊されたガルドニクスが蘇る！ そして自身以外のフィールドのモンスターを全て破壊！ 消えろ、Great TORNADO！！」
「っ……ごめんね、Great TORNADO」
「起死回生のモンスターも破壊されちゃ意味ないな！ 俺は炎王獣ヤクシャを召喚！ 天キの効果で攻撃力がアップ！」

炎王獣 ヤクシャ ATK1800→1900

「お前に妨害するためのカードはない。バトルフェイズ、ガルドニクスとヤクシャの2体でダイレクトアタックだ！」


炎王獣 ヤクシャ ATK1900


千夏 LP5200→3300

「くっ……！」

炎王神獣ガルドニクス ATK2700

千夏 LP3300→600

「きゃああああ！！」

　ガルドニクスのダイレクトアタックを受け、千夏の小柄な体が大きく後ろに吹き飛ぶ。
　遊希の銀河眼のように精霊の攻撃ではないため、人体に大きな影響こそ及ぼさないものの、近年のソリッドビジョンの発展によって大ダメージを受けた時や残りライフが少ない時はこのように派手な演出が為されることもある。最も見ている側からしてみれば大怪我を負っていないか不安になるほど派手な演出なのだが。

「陽川さん！」
「残りライフは600かぁ……厳しそうね」
「でも手札は4枚も残ってる。次のドローしだいでは逆転もあり得るわ」

　吹き飛ばされた時に強く打った場所を押えながら立ち上がる千夏。彼女のライフは風前の灯火だった。しかし、彼女の眼に宿る闘志の炎は消えてはいない。

「……いたた」
「半端にライフを残しちまったか。ひと思いに終わらせたかったんだがな」
「ふん、言ってなさい。私はまだ諦めてないから」
「ここでサレンダーしたら俺たちに殴りかかったことを許してやろうと思ったが……聞きそうにないな」
「当然！ サレンダーしてまで許してもらおうなんて思っちゃいないわ！」
「そうか……俺はこれでターンエンド。さあ、次がお前のラストドローだ」


孝輔 LP4400　手札1枚
デッキ:28　モンスター:2（炎王神獣 ガルドニクス、炎王獣 ヤクシャ）魔法・罠:4（王宮の鉄壁・炎舞-「天キ」・炎王の孤島）墓地:7　除外:0
千夏 LP600　手札4枚
デッキ:31　モンスター:0　魔法・罠:1（リビングデッドの呼び声）　墓地:4　除外:0


☆TURN08


「ラストドロー？ 言ってくれるわね……最後のドローかどうかを決めるのはあんたじゃない。この私よ！ 私のターン、ドローッ！！」

　千夏はドローしたカードに視線を走らせると、それを手札に加える。

「……確かにこのドローが私にとっての最後のドローになるわね。だって、このデュエル、私がもらったんだから！」
「……なんだと？」
「まあこのデュエルの結果は今のドローじゃなくて、前の私のターンで使った貪欲な壺による2枚ドローで決まってたわ。でもあなたは今のターンで私を仕留めきれなかったのが敗因よ！」
「ぬかせ！ ここからどうやって俺の4400のライフを0にするってんだ！」
「いい機会ね、見せてあげる！ 私のデッキに眠る“もう一つのヒーロー”をね！」

　“もう一つのヒーロー”という千夏の言葉。孝輔は最初は空元気、と高を括っていたが後にそのもう一つのヒーローの力を思い知らされる。

「相手フィールドにモンスターが存在し、私のフィールドにモンスターがいない時、このカードは手札から特殊召喚出来るわ！ 来て、“H・C 強襲のハルベルト”！！」


※H・C 強襲のハルベルト
効果モンスター
星4/地属性/戦士族/攻1800/守200
(1):相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
(2):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
(3):このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時に発動できる。デッキから「ヒロイック」カード1枚を手札に加える。


「【ヒロイック】だと！？ だがそんなモンスターを出したところで何になる！」
「このモンスターだけじゃないわ。私は手札からE・HERO アナザー・ネオスを召喚！」


※E・HERO アナザー・ネオス
デュアル・効果モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1900/守1300
(1):このカードはフィールド・墓地に存在する限り、通常モンスターとして扱う。
(2)：フィールドの通常モンスター扱いのこのカードを通常召喚としてもう1度召喚できる。
その場合このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●このカードがモンスターゾーンに存在する限り、カード名を「E・HERO ネオス」として扱う。


「これで私のフィールドには2体のレベル4モンスターが揃ったわ！」
「まさか、エクシーズ召喚まで……」
「HEROはね、融合だけじゃないのよ！ 私はレベル4のH・C 強襲のハルベルトとE・HERO アナザー・ネオスでオーバーレイ！ 2体の戦士族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！！ “約束された勝利の剣を振るい、戦場を切り拓け！”降臨せよ、ランク4！“H-C エクスカリバー”！！」


※H-C エクスカリバー
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/光属性/戦士族/攻2000/守2000
戦士族レベル4モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を2つ取り除いて発動できる。
このカードの攻撃力は、次の相手のエンドフェイズ時まで元々の攻撃力の倍になる。


「エクスカリバーの効果発動！ このカードのオーバーレイ・ユニットを2つ取り除き、このカードの攻撃力を次のあなたのターンのエンドフェイズ時まで元々の倍にするわ！！」

H-C エクスカリバー ATK2000→4000

「どう！ これで攻撃力は4000よ！」
「だからなんだってんだ！ これじゃまだ俺のライフは0に出来ないぞ！」
「そうね、だからこれを使うのよ！ 魔法カード発動、“ヒロイック・チャンス”！！」


※ヒロイック・チャンス
通常魔法
自分フィールド上の「ヒロイック」と名のついたモンスター1体を選択して発動できる。このターン、選択したモンスターは攻撃力が倍になり、相手プレイヤーに直接攻撃できない。
「ヒロイック・チャンス」は1ターンに1枚しか発動できない。


「ヒロイック・チャンス……！？」
「私はこのカードの効果でフィールドのエクスカリバーの攻撃力をさらに倍にするわ！」

H-C エクスカリバー ATK4000→8000

「攻撃力8000！？ マジかよ……こんなことが」
「さあ、これが最後の攻撃よ！ エクスカリバーでガルドニクスを攻撃！ その一振りで不死鳥を切り裂け！ “一刀両断・必殺神剣”！！」


H-C エクスカリバー ATK8000 VS 炎王神獣ガルドニクス ATK2700


　巨大化したエクスカリバーの大剣が、ガルドニクスの身体を縦に真っ二つに切り裂く。その瞬間ガルドニクスの遺骸は炎に包まれ、まるで火山が噴火するかのように大爆発を起こして消滅した。

孝輔 LP4400→0