第6話：遊希VS綾香　入学デュエル！　作：光芒

　その日は雲一つない快晴であった。青空の下、気持ちのいい春風が吹く中、デュエルアカデミア・ジャパンの入学式は予定通り執り行われた。
　遊希は時間通り登校すると、生徒が座るために用意されたパイプイスに座って入学式に臨んでいた。それでも朝早くに起きたこともあって、遊希は来賓や教員の挨拶はほとんど寝ぼけ眼で聞いていた。一方、校長として初の入学式に臨む竜司は登壇してすぐに遊希の姿を見つけると、今にも寝そうになる彼女の姿に不安を覚えるが、同時にアカデミアに入学してくれた遊希の姿を見て安心したのか慣れないスピーチを始める。
　しかし、一見ウトウトしながらも遊希は別のことにしっかりと頭を働かせていた。それはもちろんこの後のデュエルのことだ。ほとんどのことに無関心な遊希であるが、自分のほぼ唯一の取り柄でもあるデュエルに関しては他の追随を許さないほど集中力を発揮する。
　プロの世界からは既に退いているものの、彼女の頭の中ではあらゆる相手に対処できるようにカードプレイングの道筋を立てていた。それが精霊を持つデュエリストとして相応しくあるべく研鑽を積んだ遊希の真の姿であるのだ。

「……それでは、長くなってしまう前に私のスピーチはここまでとしておきましょうか。では、ミハエル先生。進行をお願いします」
「はい、わかりました」

　よほど緊張したのか、ハンカチで汗をぬぐいながら竜司はマイクの前から離れる。十分長かったですよ、と遊希は心の中で彼にダメだしをした。

「さて、普通ならここで入学式は終わりにするが……ここで君たちには見て貰いたいものがある。天都 遊希くん、立ちなさい」

　ミハエルが遊希の名を呼ぶ。会場が一気にざわめいた。遊希は自分の名を呼ばれたことに気が付くと、目を擦りながらゆっくりと立ち上がる。今の今まで居眠りしていたようであるが、自分が呼ばれたということは自分の出番が来たということ。その証拠に普段は眠たげな彼女の眼は鋭く輝いていた。

「今日は校長先生の計らいで二人の新入生代表にエキシビジョンマッチを行ってもらうこととなった。そのうちの一人が……皆も名前くらいは聞いたことがあるだろう。歴代最年少でプロデュエリストの世界に足を踏み入れた天都 遊希、彼女だ」

　遊希は無言でぺこりと頭を下げる。当然それはミハエルにではなく、昔から自分の面倒を見てくれていた竜司に対してではあるが。

「そしてその対戦相手は……入学試験で優秀な成績を修めた、星乃 綾香（ほしの あやか）くん。立ちなさい」

　名前を呼ばれた少女がゆっくりと立ち上がり、一礼の後に後方に座っていた遊希の方を振り返る。その姿を見て遊希は驚いた。肩まで伸びた茶色の髪にスレンダーな出で立ち。星乃 綾香―――竜司の娘は、かつて入学試験の時に遊希にライバル心を剥き出しにしたあの少女だったのだから。





＊





―――まさか、あの少女が校長の娘だったとはな。私も驚いたぞ。
（……そうね）

　入学式を行われていた講堂は生徒や来賓、保護者が座っていたイスが撤去され、代わりにデュエルフィールドがセットされていた。講堂は普段は朝礼などの集会や体育の授業で使われるのだが、こうして学校公式のデュエルが行われる時は専らこの講堂が使われる。
　普段講堂の床下には大型のデュエルフィールドが収納されており、ここでデュエルする者はこのデュエルフィールドを使わなくてはならない。このフィールドのデータは業務提携を結んでいる海馬コーポレーションが管理しているため、使用できないカードなどを使うことは出来ない。よってデュエリストの真の実力が試されるフィールドとも言えるのだ。

「……まさか、あなたが校長の娘さんだったとはね。まあいいわ、宜しくね」

　デュエルの前、遊希はそう言って綾香に手を差し出す。デュエリストは相手にリスペクトを持って接する。これも幼い頃に竜司から学んだことの一つだ。

「あなたの話はパパから聞いていたわ、飽きるくらいにね。今日あなたを倒して、あなたより私の方が強いってことを認めてもらうからそのつもりで」

　しかし、綾香は遊希が差し出した手に触れることなく、そう告げてデュエルフィールドへと歩いて行ってしまった。デュエルの前なのにピリピリしている、というのはわかるが余りにも敵愾心剥き出しの彼女を見てぷっ、と噴き出してしまった。

―――遊希、お前何か嫌われるようなことをしたか？
（……いや、会ったのこれで二度目なんだけど。まあいいか……ぶっ潰してあげる）

　銀河眼の光子竜は遊希の内面でメラメラと闘志の炎が燃えているのを感じ取った。やる気が出るのはいいことではあるが、女同士の見えない火花の飛ばしあいに精霊であるにも関わらず、彼は何処か冷たいものを感じた。



　エキシビジョンデュエルのルールは以下の通りである。

○初期ライフは8000
○マスタールール3
○先攻後攻はコンピューターによって決められる

　このデュエルのルールは普通のデュエルと何ら変わらない。公式大会でも用いられているルールである。しかし、世界基準のこのルールで戦うことが出来なければデュエリストとしての成功は無い。遊希と綾香がデュエルフィールドに立ち、デッキをセットするとコンピューターがデッキを読み込み、その後先攻後攻を決める。

先攻：星乃 綾香
後攻：天都 遊希

　これによって綾香の先攻が決まった。先攻はドロー出来ない代わりに相手の召喚反応罠などを気にせずモンスターの展開が可能だ。

（なーんで私って後攻が多いのかしら）
―――まあいいじゃないか、このデッキは後攻有利なのだから僥倖と思った方がいい。
（……後攻が特別不利ってわけでもないしね。どっちにせよ、私にあんな口利いたことを後悔させてやるだけよ）
―――遊希、私怨は止めておけ。
「さて、これより天都 遊希対星乃 綾香によるデュエルを行う。両者正々堂々と戦い、持てる実力を出し切って悔いのないデュエルをすること、いいな！」

　遊希と銀河眼のやり取りなどいざ知らず、審判として入ったミハエルが双方に確認を取る。遊希と綾香は共に無言で頷いた。

「それでは、デュエル開始！！」
「「デュエル！！」」

　遊希と綾香、二人のデュエルの火蓋が切って落とされた。


綾香　LP8000　手札5枚
デッキ:35　モンスター:0　魔法・罠:0　墓地:0　除外:0
遊希　LP8000　手札5枚
デッキ:37　モンスター:0　魔法・罠:0　墓地:0　除外:0


☆TURN01

「私のターン。私はモンスター1体を伏せ、カードを2枚セットする。これでターンエンドよ」

　先行を取った綾香はモンスター1体を伏せ、カード2枚セットと先攻らしく堅実に場を整える。遊希の様子を見ているのか、それとも展開するだけのカードが来なかったのか。今の時点で判断することは出来なかった。


綾香　LP8000　手札2枚
デッキ:35　モンスター:1　魔法・罠:2　墓地:0　除外:0
遊希　LP8000　手札5枚
デッキ:37　モンスター:0　魔法・罠:0　墓地:0　除外:0


☆TURN02

「私のターン、ドローよ」

　後攻の遊希がカードをドローする。遊希は受験の後デッキを改造してデッキの総枚数は42枚になっていた。
　ルール上デッキの枚数は最低でも40枚以上にしなければならないが、欲しいカードを引きやすくするためほとんどのデュエリストをデッキの総枚数を40枚にする。
　しかし、サーチ手段が豊富なデッキや【ライトロード】のようなカードが墓地に送られやすいデッキは敢えてカードを多くすることもある。遊希の使うカードにはサーチ手段を持つカードやドローソースも存在するため、その欠点を打ち消している。

「相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない時。このカードは手札から特殊召喚できる！ 現れなさい、銀河悪魔！」

　遊希のフィールドに銀河悪魔が特殊召喚される。攻撃力は1900であり、レベル4のモンスターのものとしてはかなり高い数値である。

「このカードが自身の効果で特殊召喚に成功した時、デッキから「ギャラクシー」と名のついたモンスター1体を手札に加えるわ。私はレベル4の銀河新星を手札に加える。そして銀河悪魔の第3の効果で今加えた銀河新星を墓地に送り、銀河悪魔のレベルを4つ上げるわ」

銀河悪魔　星4→星8

「更に手札から墓地に送られた銀河新星の効果でデッキから「ギャラクシー」と名のついた魔法・罠カード1枚を手札に加える。私が加えるのは“銀河遠征”。そしてそのまま銀河遠征を発動！」


※銀河遠征（ギャラクシー・エクスペディション）
通常魔法
自分フィールド上に「フォトン」または「ギャラクシー」と名のついたレベル5以上のモンスターが存在する場合に発動できる。
デッキから「フォトン」または「ギャラクシー」と名のついたレベル5以上のモンスター1体を表側守備表示で特殊召喚する。「銀河遠征」は1ターンに1枚しか発動できない。


「この効果で特殊召喚するのは……レベル8の銀河眼の光子竜よ！」

　銀河遠征の効果でフィールドに銀河眼の光子竜が舞い降りる。それでも守備表示で特殊召喚されるので、このターン攻撃することは出来ない。しかし、これで遊希のフィールドにはレベル8のモンスター2体が揃った。

―――遊希、銀河悪魔の攻撃力は1900。並の守備モンスターなら容易に破壊出来るが？
（でも先攻で伏せるということは守備力の高いカードの可能性が高い。それにあの2枚の伏せカードも気になるから……ここはあのモンスターで行くわ）
「私はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河悪魔でオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚！ 神たる竜の力を宿す騎士よ、聖なる加護の下に全てを断ち切れ！ ランク8“神竜騎士フェルグラント”！！」


※神竜騎士フェルグラント
エクシーズ・効果モンスター
ランク8/光属性/戦士族/攻2800/守1800
ランク8モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。
このターン、選択したモンスターの効果は無効になり、このカード以外のカードの効果を受けない。この効果は相手ターンでも発動できる。


「フェルグラント……いきなり厄介なモンスターを出してきたわね」
―――……フェルグラントの召喚にチェーンしてカードを発動しないか。あの2枚に召喚反応のカードは無いと見ていいだろう。
「メインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移行。バトル、神竜騎士フェルグラントでセットモンスターを攻撃！」

　剣とマントを閃かせてセットモンスターに切り掛かるフェルグラント。しかし、フェルグラントの攻撃によって姿を現したセットモンスターは遊希がまだ見たことのないモンスターだった。