アフターストーリー：星乃 綾香編・5　作：光芒

「シューティング・スター・ドラゴン……？ 初めて見るモンスターです……」

　このカードのシンクロ素材になったスターダスト・ドラゴンがどちらかというと弓矢のような細いフォルムだったのに対し、このシューティング・スター・ドラゴンは全体が白い装甲に覆われ、翼はまるで戦闘機の主翼のように機械的かつ無骨な印象を受ける。
　しかし、それでも普通のモンスターを凌駕するほどの神秘的な姿は見る者全ての心を虜にしている。それはデュエルの相手である歩美も例外ではなかった。


※シューティング・スター・ドラゴン
シンクロ・効果モンスター
星10/風属性/ドラゴン族/攻3300/守2500
Sモンスターのチューナー1体＋「スターダスト・ドラゴン」
(1)：1ターンに1度、発動できる。自分のデッキの上から5枚めくってデッキに戻す。このターンこのカードはめくった中のチューナーの数まで攻撃できる。
(2)：1ターンに1度、フィールドのカードを破壊する効果の発動時に発動できる。その効果を無効にし破壊する。
(3)：1ターンに1度、相手の攻撃宣言時に攻撃モンスターを対象として発動できる。フィールドのこのカードを除外し、その攻撃を無効にする。
(4)：この(3)の効果で除外されたターンのエンドフェイズに発動する。このカードを特殊召喚する。


「……ですが、攻撃力は3300。禁じられた聖杯で攻撃力が上がっているヴァレルソード・ドラゴンより低いじゃないですか」
「そうね。でも、何の策も無しに私が禁じられた聖杯を使うと思うかしら？」
「まさか……このシューティング・スター・ドラゴンを出すことまでを計算して！？」
「それくらいできないと教師を名乗れないわ。特に歩美ちゃんのような才能溢れるデュエリストを育てるためにはね」
「えっ……」

　綾香の言葉を聞いて、ほんの一瞬だけではあるが嬉しそうな表情を浮かべる歩美。その様子から見るに、どんな形であっても綾香に認められることは嬉しいのだろう。
　それでもすぐにその嬉しそうな顔は消える。まだこのデュエルが決まったわけではなく、綾香が勝ったわけではない以上、綾香を許すことはできないのだから。

「と、とにかく！ いくらシューティング・スター・ドラゴンを出したところでこの局面を覆すことなど……」
「手札から魔法カード、死者蘇生を発動するわ。墓地のスターダスト・ドラゴンを特殊召喚するわ」

　シンクロモンスターであるスターダスト・ドラゴンであるが、一度フィールドを離れてから戻る形になるため、リンクモンスターのリンクマーカーの先でなくてもメインモンスターゾーンに特殊召喚できる。
　しかし、ここで守備的な効果を持つスターダスト・ドラゴンを出したところで何も変わらないのがわからない綾香ではない。当然この手順もまた勝利への道筋を拓くための一手段にしか過ぎないのだから。

「墓地の“スポーア”の効果を発動よ！ 植物族モンスター、グローアップ・バルブをゲームから除外して自身を墓地から特殊召喚するわ！」


※スポーア
チューナー（効果モンスター）
星1/風属性/植物族/攻400/守800
このカードが墓地に存在する場合、このカード以外の自分の墓地の植物族モンスター1体をゲームから除外して発動できる。
このカードを墓地から特殊召喚し、この効果を発動するために除外したモンスターのレベル分だけこのカードのレベルを上げる。
「スポーア」の効果はデュエル中に1度しか使用できない。


「スポーア……ジェット・シンクロンの手札コストですか」
「この効果で特殊召喚したスポーアのレベルは除外した植物族モンスターのレベル分アップするわ」

スポーア　星1→2

「これで決めるわ！ 私はスターダスト・ドラゴンとスポーアをリンクマーカーにセット！」
「スターダスト・ドラゴンをリンク素材に……」
「召喚条件は風属性モンスター2体！ サーキットコンバイン！ 現れなさい！ リンク2“グレートフライ”！！」


※グレートフライ
リンク・効果モンスター
リンク2/風属性/昆虫族/攻1400
【リンクマーカー：左下/右下】
風属性モンスター2体
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1)：フィールドの風属性モンスターの攻撃力・守備力は500アップし、地属性モンスターの攻撃力・守備力は400ダウンする。
(2)：このカードが戦闘・効果で破壊された場合、自分の墓地の風属性モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。


「グレートフライがフィールドに存在する限り、全ての風属性モンスターの攻守は500ポイントアップする！」

シューティング・スター・ドラゴン　ATK3300/DEF2500→ATK3800/DEF3000
グレート・フライ　ATK1400→1900

「シューティング・スター・ドラゴンの攻撃力が、ヴァレルソード・ドラゴンを上回った！？」
「それだけじゃないわ！ グレートフライによって全ての地属性モンスターの攻守は400ダウンする！」

マドルチェ・プディンセス・ショコ・ア・ラモード　ATK3000/DEF2700→ATK2500/DEF2200
クィーンマドルチェ・ティアラミス　ATK2700/DEF2600→ATK2200/DEF2100

「……まさか、グレートフライをリンク召喚したのはこのため……」
「そうよ。竜星とのシナジーはないから普段は入れてないけど、あなたが地属性で統一されたマドルチェを使うことはわかってたからね。でもこれでサモン・ソーサレスでもクィーンマドルチェ・ティアラミスを破壊できるようになったわ！」

　この時、歩美の心中は複雑であった。確かに初見で綾香は歩美が誰かをすぐに気づくことができなかった。そこに彼女は綾香に対する対抗心を燃やしていた。
　だが、綾香はそんな過去の存在となっていたはずの自分のデッキを研究し、そしてその弱点を突いてはこのデュエルに幕を下ろそうとしている。負ける悔しさの方が確かに大きい。だが、その気持ちに匹敵するくらいに彼女の中にはまた別の感情が芽生え始めていた。

「っ……」
「そしてシューティング・スター・ドラゴンの効果を発動！ 1ターンに1度、デッキトップから5枚を確認し、その中にあったチューナーモンスターの数だけシューティング・スター・ドラゴンは攻撃できる！」

　シューティング・スター・ドラゴンのこの効果での最大攻撃回数はデッキトップ5枚全てがチューナーであることを条件にした5回。“ダーク・ドリアード”や“魔導書整理”などのカードを組み合わせるのならともかく、このカード単体でこの効果を発動することに対してはリスクの方が大きいと言わざるを得ない。

「待ってください。その効果だと……1枚もチューナーモンスターがない場合は？」
「シューティング・スター・ドラゴンは攻撃できないわ。はっきり言って運が大きく絡む効果よね」
「無茶です！ シューティング・スター・ドラゴンを召喚するまでにあなたはたくさんのチューナーモンスターを消費しました。こんな効果、成功するわけがない！！」
「そうかもしれないわね……これを決めるのはプレイングやタクティクスじゃないわ。私と歩美ちゃん……どっちの勝ちたいという気持ちが強いか、ということよ！！」

　デッキでも戦術でもない。想いの、意志の強さが全てを決める。二人の勝ちたいという想いを乗せて、綾香はデッキトップのカード5枚を手にした。次の瞬間、咆哮したシューティング・スター・ドラゴンの身体が4つに分裂した。

「！？」
「デッキトップにあったチューナーモンスターの数は……4体！！ よってシューティング・スター・ドラゴンはこのターン、4回の攻撃ができるわ！」

　デッキトップにあったチューナーモンスターは“幽鬼うさぎ”“幻獣機オライオン”“亡龍の戦慄-デストルドー”“ジャンク・シンクロン”の4体。綾香はこのデュエルにおいて、遊希から贈られたシューティング・スター・ドラゴンをシンクロ召喚してみせる、と誓っていた。
　そしてこのカードの真価を発揮するために通常よりもチューナーモンスターを大量に入れていたのである。強欲で貪欲な壺の効果で多くのチューナーが除外されてしまったとしても、攻撃不可能という事態に陥らないように。そしてこのカードで鮮烈にデュエルを決めてみせる―――それが自分を慕ってくれていた歩美に対する教師・綾香の解答であった。

「そんな……こんなことが……」
「バトルよ！ まずはサモン・ソーサレスでクィーンマドルチェ・ティアラミスを攻撃！」

サモン・ソーサレス　ATK2400　VS　クィーンマドルチェ・ティアラミス　ATK2200

歩美　LP8000→7800

「シューティング・スター・ドラゴンでマドルチェ・プディンセス・ショコ・ア・ラモードを攻撃！ “スターダスト・ミラージュ”！！」

シューティング・スター・ドラゴン　ATK3800　VS　マドルチェ・プディンセス・ショコ・ア・ラモード　ATK2500

　4つに分裂したシューティング・スター・ドラゴンのうち、赤い輝きを纏った1体が轟音を立てながら突撃する。まるで高速で空を翔ける戦闘機のように両翼から光の粒子を吹き出しながら、風圧でショコ・ア・ラモードを吹き飛ばした。

歩美　LP7800→6500

「続けてシューティング・スター・ドラゴンでヴァレルソード・ドラゴンを攻撃！ “スターダスト・ミラージュ・セカンド”！！」

シューティング・スター・ドラゴン　ATK3800　VS　ヴァレルソード・ドラゴン　ATK3400

　青い光を放ちながら、シューティング・スター・ドラゴンが迫る。ヴァレルソード・ドラゴンは、頭部の剣を振りかざしてシューティング・スター・ドラゴンを迎え撃とうとする。通常であれば、ヴァレルソード・ドラゴンには戦闘破壊耐性と表示形式変更効果があるため、バトルには非常に強いモンスターであると言える。
　しかし、今のヴァレルソード・ドラゴンは禁じられた聖杯で効果を無効化されているため、その実力を十分に発揮することができなかった。シューティング・スター・ドラゴンは空に描いたその軌跡でヴァレルソード・ドラゴンの身体を胴体から真っ二つに切り裂いた。

歩美　LP6500→6100

（っ……！ まさか、まさか……！！）

　シューティング・スター・ドラゴンの攻撃はあと2回残っており、更に自身の効果で強化されたグレートフライも攻撃可能な状況。今の自分ができるだけのことをした。自分のベストを尽くして作り上げたデッキであったとしても、綾香には及ばない。その事実を歩美は受け入れる他なかった。

「シューティング・スター・ドラゴンでダイレクトアタック！ これで終わりよ！！ “スターダスト・ミラージュ・クロス”！！」

シューティング・スター・ドラゴン　ATK3800×2

歩美　LP6100→0






＊





　デュエル終了と同時に、会場は生徒たちによる大歓声に包まれた。首席入学かつ高いデュエルの才能を持つ歩美が後攻ワンキルの盤面を作り上げたかと思えば、それを耐えてシューティング・スター・ドラゴンというモンスターの効果を含めたコンボで逆にワンショットキルを決めた綾香。
　二人とも教師と生徒という違う立場でありながら、共にこれからのアカデミアを背負って立つ存在である。そんな二人が魅せたデュエルは今後のセントラル校、いや日本デュエル界の未来を指し示していたと言っても良かった。

「……」
「歩美ちゃん」

　しかし、綾香はそんな歓声を気に留めることなく、真っ先に敗者となった歩美の下へと向かった。ライフが0になった瞬間、両手で顔を覆いながら歩美はその場にへたり込んでしまっていた。そんな彼女を見て、綾香は今の歩美には自分が必要であると誰に言われるもなく理解していた。

「立てる？」
「……なんで私に手を差し伸べるんですか？」
「えっ？」
「私は、私は先生に酷いことを言ってしまいました……あんなことで酷い態度を取ってしまいました。そんなこと、生徒の私がして許されることでは……！！」

　次の瞬間、綾香は歩美のことを優しく抱きしめていた。「ふえっ！？」と間の抜けた声を出して困惑する歩美の頭を撫でる綾香。身長はすっかり逆転していたが、綾香の中ではやはり歩美はあの頃のままであった。

「ううん、歩美ちゃんは何も悪くない。歩美ちゃんに気付いてあげられなかった私が悪いの」
「で、でも……」
「ごめんね、歩美ちゃん。あなたはずっと頑張ってきたんだよね。私や遊希……みんなに追いつくためにずっと。その頑張り、今のデュエルで凄く伝わってきたよ。強くなったね、歩美ちゃん。お姉ちゃん、嬉しいよ」
「綾香おねえちゃん……おねえちゃあああん！！」

　今まで歩美が押し殺していた感情が爆発し、それが大粒の涙となって零れ落ちる。掛け違えていたボタンが元に戻ったのを見届けて遊希は席を立つ。

（全く……見せつけてくれちゃって。でも、良かったわね。綾香、歩美ちゃん）





＊





「あー、お腹空いた！」
「朝からデュエルの授業三昧でしたからね。星乃先生はお昼どちらで？」
「えへへ……実は……」
「あら、今日もですか？ 本当に仲良しさんなんですから」
「いい妹を持って幸せよ」

　腹の虫が鳴く頃を見計らって職員室を出る綾香。彼女の視線の先には二人分の手製のお弁当を持っては綾香が出てくるのを心待ちにしていた歩美の姿があった。

「おねえちゃん、遅いよー」
「あはは、ごめんごめん。でも学校でおねえちゃんはダメよ？ 先生って呼びなさい？」
「……はーい。でも今日のお弁当は腕によりをかけて作ったんですからね」
「おっ、それは楽しみね」

　二人の絆は、8年という時が経っても切れることない。そしてそれはこれまでも……これからも。









『銀河竜を駆る少女』　アフターストーリー：星乃 綾香編　　　完



Special Thanks：ター坊 様












○ゲストキャラクター詳細


諏訪部 歩美（すわべ　あゆみ）
性別：女
年齢：15歳（本編登場時は7歳）
身長：170㎝

デュエルアカデミア・セントラル校に首席で入学した一年生の女子生徒。肩まで伸びた栗色のパーマのかかった髪が特徴的であり、その愛らしい顔つきと立ち振る舞いで男女問わず魅了する美少女。
新入生の中では学業・デュエル共にトップクラスの成績を修めている。8年前にセントラル校が開催した学生との交流合宿に参加しており、そこで出会った綾香にデュエルの手解きを受けていた。
その時はルールブックを片手にデュエルをするなど初心者中の初心者であったが、合宿最終日には才能の片鱗を見せており、綾香ら当時のセントラル校の生徒たちからは将来を嘱望されていた。
セントラル校入学に際して、教師として赴任した綾香に再会するも、その変わりっぷりに彼女が歩美だと気付けなかった綾香に失望。無視をするなどそっけない態度を取り続けてきたが、デュエルでその心中を吐露し、最終的には仲直りに成功。強くなった自分を認めて貰ったことで改めて綾香を師として仰いでいる。
……ちなみに、8年前と比べて身長を含め色々な場所（意味深）が大きくなったが、その理由は「よく寝て、よく遊び、よく牛乳を飲んだ」からだという。


使用デッキ：【マドルチェ】
基本的には純マドルチェのデッキだが、デュエルの相手によって【閃刀姫】や【トロイメア】などマドルチェ以外のカードを絡めてデッキを使っている。
主な戦術は“マドルチェ・エンジェリー”と“マドルチェ・ホーットケーキ”のコンボから始まり、最終的にはリンクモンスター“フレッシュマドルチェ・シスタルト”やエクシーズモンスター“クィーンマドルチェ・ティアラミス”“マドルチェ・プディンセス・ショコ・ア・ラモード”などの強力なモンスターを“マドルチェ・シャトー”とともに展開。
その効果でワンショットキルを狙うなど、その見た目に合わないような豪快なデュエルを魅せる。





○あとがき
ということで、5回に渡った「アフターストーリー：星乃 綾香編」はこれで完結となります。ちなみに、何故歩美ちゃん編を最初に書いたかというと、ただ単に大人になった歩美ちゃんを書きたかったのと、7月の制限改訂でハリファイバーとサモン・ソーサレスが消えるんじゃないか、と思ったからだったりします（現状この2体でできることが多すぎるんですよね……）。

このアフターストーリーの完結によって「銀河竜～」の方の更新はまたしばらくお休みとなります。その代わりと言ってはなんですが、私の別作品である「虹彩竜～」の方の更新を再開するので、もし宜しければそちらもどうぞ（ダイマ