第178話：天地創造の龍　作：光芒

　星の光が満ち溢れる天空より舞い降りたのは銀河眼の光子竜と銀河眼の時空竜、2体の銀河眼の意匠を施された黒と紫の基調にした鎧を身にまとった美しい女神だった。
　風に棚引く天の川のように美しい銀色の髪、露わになった白い背中から生えるのは光輝く光子竜と機械的な時空竜の2対4枚の翼、腰からは自分の身長ほどある長い尻尾、そして右手には竜の顔が掘られた双刃の槍が握られている。そしてまだ幼さが残りながらも、漆黒の宇宙に輝く銀河のように澄んだ瞳には覚悟と決意、希望が映し出されていた。
　銀河眼の時空竜の力で一度死の淵から蘇った少女―――天都 遊望は人間と精霊の中間のような存在となりながらも、その存在は曖昧、そしてその命は短く、限りあるものとなっていた。
　しかし、一度消滅したはずの遊望は光子竜と時空竜の力の共鳴、そして誰よりも大事な存在である遊希との絆によって、純粋なる精霊として3度目の命を享けたのである。　それがこの銀河眼の希望女神（ギャラクシーアイズ・ホープフル・ゴッデス）であった。

「銀河眼の希望女神……だと！？」
「そう……銀河眼の希望女神……全ての銀河眼の頂点に立ち、全ての銀河眼を導く女神！」





※銀河眼の希望女神（ギャラクシーアイズ・ホープフル・ゴッデス、オリジナルカード）
エクシーズ・効果モンスター
ランク8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守3000
「ギャラクシー」と名のついたレベル8モンスター×3
(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。自分のエクストラデッキから「ギャラクシー」と名のついたドラゴン族モンスター1体を召喚条件を無視し、効果を無効にして自分フィールド上に特殊召喚できる。
(2):自分フィールド上に「ギャラクシー」と名のついたドラゴン族モンスターが表側表示で存在する限り、このカードは攻撃対象にならず、相手のカードの効果の対象にならない。
(3):1ターンに1度、自分の墓地に存在する「フォトン」「ギャラクシー」「サイファー」と名のついた魔法・罠カード1枚をゲームから除外して発動できる。この効果でゲームから除外したカードの効果をこのカードの効果として発動できる。





―――お姉様……あなたのおかげで、私は本当の精霊へと生まれ変わることができました。

　銀河眼の希望女神となって転生した遊望は、くるりと振り向いて遊希に微笑んで見せる。

「……遊望……うん、すごく、綺麗だよ……」
―――……お姉様……ありがとう、ございます。
「遊望。いや―――銀河眼の希望女神。どうか、その力を私に貸して」
―――はい、お姉様！！

　遊希と遊望、いや銀河眼の希望女神。1人の少女と1体の精霊が、改めて目の前に立ちはだかる希望皇たちの方へと向き直った。

「精霊皇、これが私たち姉妹の絆よ！ 銀河眼の希望女神の第一の効果を発動！ 1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ取り除くことで、自分のエクストラデッキから「ギャラクシー」と名のついたドラゴン族モンスター1体を召喚条件を無視し、効果を無効にして自分フィールド上に特殊召喚するわ！！」
「何……ホープ・ザ・ゴッドとほぼ同様の効果を……！」
―――私は全ての銀河眼を導く女神、我が槍はあらゆる銀河の竜を目覚めさせる！ 開け、銀河の扉！！

　希望女神は手にした双刃の槍を振るい、空間を切り裂いた。槍によって×字状に切り裂かれた空間には歪みが生まれ、それが轟音を上げながら開く門のように広がっていく。そんな次元の扉をこじ開けて現れたのは三つの首を持った紅く輝く銀河の龍であった。
　左右両の翼の付け根に竜の顔をあしらった真紅の龍は光子竜皇と同じく、遊希と光子竜の強い絆によって生まれた銀河龍であった。

「女神の導きに従い現れなさい！！―――超銀河眼の光子龍！！」

　逆巻く銀河の如く、荒々しき咆哮をあげてフィールドに舞い降りる超光子龍。奇しくも2体の相対する存在である超銀河眼の名を持つ龍が女神の導きによってフィールドに揃い踏む形となった。

「凄い……2体の超銀河眼が遊希の前に……」
「しかし、超銀河眼の光子龍の効果は無効化されている。そのため自身の効果を発動することはできない！」

　超光子龍は効果で相手フィールドのオーバーレイユニットを奪って自身の攻撃力に変えることができる。正規の方法でエクシーズ召喚していれば、精霊皇のフィールド次第ではホープ・ザ・ゴッドの攻撃力を超えることもできたはずだ。しかし、遊希はその手段を取らなかった。

「確かに超光子龍の効果は無効化されているわ。でも……私の狙いはそこじゃない！！」
「何だと……」
「銀河眼の希望女神の第二の効果を発動！ 1ターンに1度、墓地に存在する「ギャラクシー」「フォトン」「サイファー」と名のついた魔法・罠カード1枚をゲームから除外し、その効果を希望女神の効果として発動できる！」
「墓地の魔法・罠カードを……でも、遊希の墓地にこの状況を変えられるカードなんて……」
「私が除外するのは通常魔法―――“奇跡の銀河（ミラクル・ギャラクシー）”よ！！」



※奇跡の銀河（オリジナルカード）
通常魔法
(1):自分フィールド上にモンスターが2体以上存在する場合、自分の墓地に存在する「ギャラクシーアイズ」と名のついたモンスター1体を選択して発動できる。
このターンの終了時まで自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター2体を選択したモンスターとして扱い、属性・レベルまたはランク・種族・攻撃力・守備力は選択したモンスターのものと同じになる。このカードの効果を適用したモンスターの効果は無効化され、このターン相手に直接攻撃できない。



「奇跡の銀河？ そのようなカードを……いつの間に……まさか！！」
「……気づいたようね」

　精霊皇の攻撃によって遊希のライフが0になった時、発動したカードがある。ライフが0になった時、デッキから墓地に「ギャラクシー」カードを送ることでライフを1000回復できるカード、不滅の銀河。このカードの効果で遊希はギャラクシーのカードをライフが0になるたびに墓地に送っていた。この効果で墓地に送ったカードのうち1枚がこの奇跡の銀河であった。

「私が対象とするのは、No.62 銀河眼の光子竜皇。CNo.107 超銀河眼の時空龍と超銀河眼の光子龍をこのターンの終了時までNo,62 銀河眼の光子竜皇として扱うわ！！」


CNo.107 超銀河眼の時空龍→No.62 銀河眼の光子竜皇 ランク8/光属性/ドラゴン族/攻4000/守3000
超銀河眼の光子龍→No.62 銀河眼の光子竜皇 ランク8/光属性/ドラゴン族/攻4000/守3000


　奇跡の銀河の効果で2体の超銀河眼が光子竜皇へと姿を変える。しかし、奇跡の銀河の代償で効果は無効化されてしまっているため、光子竜皇の効果を得た超時空龍の攻撃ではホープ・ザ・ゴッドを倒すことができない。

「2体の光子竜皇……？ だが無意味だ。例えいくら銀河眼を並べたところでホープ・ザ・ゴッドには届かない！！」
「銀河眼、ではね……だったらこのカードならどうかしら？」
―――お姉様、行きましょう！
「ええ。私は―――いや、私たちは―――！！」





















＝＝＝No.62 銀河眼の光子竜皇として扱う、CNo.107 超銀河眼の時空龍と超銀河眼の光子龍で！！＝＝＝




















＝＝＝オーバーレイ！！＝＝＝





　2体の超銀河眼の身体が光となって天へと昇っていく。同じランクを持ち、かつ同名のNo.となるエクシーズモンスター2体によるエクシーズ召喚―――まさに前代未聞のものであった。





＝＝＝2体の同じランク、同名のNo.で―――オーバーレイ・ネットワークを構築！＝＝＝




















＝＝＝エクシーズ召喚！！＝＝＝





















＝＝＝“銀河の瞳持ちし光の龍と時の龍よ、その力を1つとし、真の姿をこの地に現せ！！＝＝＝






















＝＝＝その命は宇宙天地を創造する鍵！ 封印されし扉を開き、未来を、希望を導け！！”＝＝＝





















＝＝＝“No.100 ヌメロン・ドラゴン”！！！＝＝＝




















　光の龍と時の龍。その2つの命が1つになって生まれたのが、金色に輝く天地創造の龍。100の数字を与えられた100番目のナンバーズ。





「No.100……ヌメロン・ドラゴンだと！？」
「100番目のナンバーズ……これが、銀河眼の真の姿……」





※No.100 ヌメロン・ドラゴン
エクシーズ・効果モンスター
ランク1/光属性/ドラゴン族/攻0/守0
同じランクの同名「No.」Xモンスター×2
(1)：1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。
このカードの攻撃力は相手ターン終了時まで、フィールドのXモンスターのランクの合計×1000アップする。
(2)：このカードが効果で破壊された時に発動できる。フィールドのモンスターを全て破壊する。その後、お互いは自身の墓地の魔法・罠カードを1枚選んでフィールドにセットする。
(3)：このカードが墓地に存在し、自分の手札・フィールドにカードが無い場合、相手の直接攻撃宣言時に発動できる。このカードを特殊召喚する。





「100番目のナンバーズ……だが、そのようなモンスターで何ができる！！」
（ランク1、攻守0……数値の上では脅威にすらならないカード……だが、なんだ、この力は……精霊皇である私が震え……畏れているだと……）
「……ヌメロン・ドラゴンの効果を発動！！ 1ターンに1度、このカードのオーバーレイユニットを1つ取り除いて発動できる効果がある！！ それは……このカードの攻撃力を相手ターンの終了時までフィールドのエクシーズモンスターのランクの合計×1000ポイントアップさせる効果！！」
「なっ……！！」

　ヌメロン・ドラゴンの咆哮と同時にフィールドには暖かな光が満ち溢れる。その光によって、フィールドに存在する全てのエクシーズモンスターの力がヌメロン・ドラゴンのもとへと集っていく。



No.100 ヌメロン・ドラゴン ランク1―――No.100 ヌメロン・ドラゴン ATK0→1000


銀河眼の希望女神 ランク8―――No.100 ヌメロン・ドラゴン ATK1000→9000


CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー ランク5―――No.100 ヌメロン・ドラゴン ATK9000→14000


No.39 希望皇ビヨンド・ザ・ホープ ランク6―――No.100 ヌメロン・ドラゴン ATK14000→20000


No.99 希望皇龍ホープ・ドラグーン ランク10―――No.100 ヌメロン・ドラゴン ATK20000→30000


No.93 希望皇ホープ・カイザー ランク12―――No.100 ヌメロン・ドラゴン ATK30000→42000


GNo.39 希望皇神ホープ・ザ・ゴッド ランク12―――No.100 ヌメロン・ドラゴン ATK42000→54000



「馬鹿な……攻撃力……54000だと！？」
「これが、私と遊望と銀河眼たちと綾香、エヴァ、千夏、詩織……みんなの絆の力よ！！ バトル！！ No.100 ヌメロン・ドラゴンでGNo.39 希望皇神ホープ・ザ・ゴッドを攻撃！！―――」




















＝＝＝“天地創造波 ヌメロン・ストリーム！！！”＝＝＝





















No.100 ヌメロン・ドラゴン ATK54000 VS GNo.39 希望皇神ホープ・ザ・ゴッド ATK5000





















（……この私が敗れる？ 精霊界の希望の象徴たる私が―――？ これが……定めなのか……？）











自身の運命を悟る精霊皇。彼の全身全霊をもってその力を目覚めさせた神が、希望が―――光へと消えていった。











精霊皇ホープ　LP2100→0












＊












「終わった……ぜんぶ……」
「遊希……遊希！！」

　全てが終わった。倒れる精霊皇の姿を見て、遊希は改めて自分の勝利を実感する。じわじわと広がってくる熱と興奮によろめく彼女に綾香が思い切り飛びついた。

「綾香……！」
「やった、やったんだよ！ 遊希！ 私たち、勝ったんだよ！！ みんな、人間界は……私たちの世界はこれで……！！」

―――人間界？ んなもん知ったこっちゃねえ。悪いが消えてもらうぜ！
「っ……綾香っ！！」

　遊希と綾香の脳裏に何者かの声が響く。遊希は咄嗟に綾香を突き飛ばした。すると、遊希の身体に何処からか杖のようなものが飛んできて直撃し、彼女の身体を壁に叩きつけた。

「がはっ……！！」
「遊希！！」
―――貴様は……アンブラル！！

　遊希を突き飛ばし、壁に叩きつけたのはこれまで遊希たちの前に姿を現していなかった七星将軍最後の1体であるNo.104 仮面魔踏士シャイニングの真の姿である“CNo.104 仮面魔踏士アンブラル”であった。


※CNo.104 仮面魔踏士アンブラル
エクシーズ・効果モンスター
ランク5/闇属性/魔法使い族/攻3000/守1500
レベル5モンスター×4
このカードが特殊召喚に成功した時、フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊できる。
また、このカードが「No.104 仮面魔踏士シャイニング」をエクシーズ素材としている場合、以下の効果を得る。
●1ターンに1度、相手フィールド上で効果モンスターの効果が発動した時、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。その発動を無効にする。その後、相手の手札をランダムに1枚墓地へ送り、相手ライフを半分にする事ができる。


　皇城地下の研究室で精霊界に充満したエネルギーを他の世界に飛ばすための装置の調整をしていた彼であるが、突如精霊皇から供給されるエネルギーが止まったことに危機感を覚えて玉座までやってきたのである。

「アンブラル……何をしている。やめろ！」
「まさかと思って来てみれば……精霊皇、あんたが負けちまうとはな。さすがの俺様もそこまでは予想できなかったぜ」
「っ……離して……」
―――卑怯者、お姉様に汚い手で触れるな！！

　遊希の身体には光子竜、時空竜、そして希望女神の3体の精霊が宿っていた。しかし、皆精霊皇とのデュエルで力を使い果たしてしまっていたため、自身ではアンブラル1体を振り払うだけの力も残されていなかったのだ。

「卑怯？ 俺に取っちゃあ褒め言葉さ。卑怯や姑息が命を持ったのがこの俺様よ」
「アンブラル、やめろ。もうすべては……」
「終わっちゃいねえよ……いや、終わらせねえ。なあ精霊皇、あんたはここまで来て諦めるのか？ 精霊界の皇なんだぞ？ あんたが諦めたら……あんたが愛したこの精霊界は消えて無くなっちまうんだぞ！！ それでもいいのか！！」
「っ……」

　アンブラルは元々は魔術師領域のいち精霊にすぎなかった。だが、彼は比較的旧態的な魔術師領域において魔術を発展させるために相対する存在でもある科学や文明の発展を訴えていた。そのことで彼は異端の烙印を押され、生来の性格や軽口も相まって謂れのない差別を受けていた。
　そんな彼の才能を見抜いたのが他ならぬ精霊皇ホープであり、アンブラルも初めて自分のことを認めてくれた精霊皇のため、悪態や軽口を叩きながらも精霊皇のために自身の持てる知識や技術を最大限に活かして精霊界のために動いてきたのだ。

「俺があんたの分まで非道を働いてやる。そうすれば……精霊界は助かる……！ だから……消えろ！ 人間があっ！！」

　アンブラルが杖を振り上げる。遊希の心臓を的確に貫くように。



「遊希サン！！」
―――待ったああっ！！



　その瞬間である。玉座の扉を貫いてエヴァとスカーレッド・ノヴァ・ドラゴンが突っ込んできたのは。突然の乱入者に驚き、不意を突かれたアンブラルが動きを止めた一瞬。漆黒の槍がアンブラルの右腕を貫いた。

「エヴァ！？」
「があっ……これは……！！」
「……もうやめろ。アンブラル」

　スカーレッドの突き破った扉からゆっくりとDark Knightが玉座に入ってきた。エヴァとのデュエルで傷ついた彼はまだ完全にその傷が癒えていないにも関わらず、遠距離から的確にアンブラルをその槍で押し退けたのだ。

「Dark Knight……！！ てめえ……」
「精霊皇、遅れてしまい申し訳ありません。Dark Knight、敗れました」
「Dark Knight……忠節ご苦労。どうやら、我々の完全敗北のようだな」
「はい。人間と精霊、2つの異なる世界によって紡がれた絆。その力が我々を完全に凌駕したのです」
「おい待てよお前ら……！ 何あっさり負けを認めてんだよ！」
「負けは負けだ。その事実は変えようもないだろう？」
「じゃあ……この世界は……精霊界はどうなるんだよ！！ 取れる手段は全て取った……残された最後の手が潰えちまった。どうすんだよ……」

　アンブラルの行為は卑怯な物であることは否めない。しかし、彼の言うこともまた事実であった。精霊皇を倒し、人間界の滅亡を防いだとしても、精霊界を破滅の運命から救う手立てはない。

「遊希サン……」
「エヴァ、ありがとう。あなたがいなかったら……」
「アウウ……頭をなでなでしないでくだサイ」
「ねえ遊希、私たちにも何かできることはないのかな？ このまま精霊界が消えちゃうのは嫌よ」
「ええ……」

　そして精霊皇たちの計画を未然に防ぐ形となった以上、遊希たちもこのまま何もせずにいるつもりはない。しかし、言うだけなら誰にでもできることであり、実行することは難しい。何せこの精霊界を統治する精霊皇や七星将軍たちが動いてもどうしようもなかったことである。そのため精霊をその身に宿すだけの人間でしかない遊希にできることはかなり少なかった。

（……私たちにできること……あるのかしら……？）
「精霊皇！！」

　遊希たちが必死に考えている時だった。玉座にラグナ・ゼロが駆け込んできたのは。

「ラグナ・ゼロ……どうした、そんなに急いで」
「あの……その……！」
「どうしたラグナ・ゼロ。言いたいことがあるのであれば伝わるように話せ」
「も、申し訳ありません、お兄様……実は、皇城の外に精霊たちが……集まりつつあるのです！！」
「なんだと？」

　ラグナ・ゼロの報告を聞いた精霊皇とDark Knight、アンブラルは玉座から外へと駆け出していく。遊希たちもラグナ・ゼロに伴われながら玉座を出ると、玉座へと向かう回廊には数体の精霊たちが集っていた。彼らはこの皇城に最初に駆けつけた精霊たちであり、早く駆けつけた精霊たちを代表して皇城へと入ってきたのである。

「あれは……」
「各領域の精霊たちのようです。いったいなぜ……」

　人間形態から元の希望皇ホープの姿に戻った精霊皇の前にはホープよりも巨大な精霊も彼の前に首を垂れていた。巨大な精霊たちが頭を下げているその様を見ると改めて精霊界における精霊皇の力の大きさを思い知らされた。

「お前たちは……」
「精霊皇、何言わずに皇城に上がる無礼をお許しください」

　中心にいた筋骨隆々とした老人の上半身に青い海竜の下半身を持った精霊が恭しく言った。
　この場に集ったのは水領域の【水精鱗】をまとめる水精鱗-ガイオアビス、炎領域の【陽炎獣】のトップである陽炎獣バジリコック、天領域に所属する【マドルチェ】の女王・クィーンマドルチェ・ティアラミス、【ヴェノム】の絶対神にして爬虫領域の一角を統治する毒蛇神ヴェノミナーガ、機領域において交通機関や自然エネルギーの開発を行う【ジェネクス】のレアル・ジェネクス・クロキシアンの6体の精霊である。
　今ここにいる精霊たちはそれぞれ各領域の部族を代表する精霊たちである。精霊皇を前にした彼らは精霊皇に対して頭を下げながらも、決意を秘めた眼をしていた。

「水領域に炎領域、天領域、爬虫領域、そして機領域……何故このようなところに」
「理由など申し上げるまでもありません。我々は精霊皇の御為にその持てる力を発揮したく参りました。精霊界を滅びの定めから救うために」
「な……何故それを！？」
「オレハシッテイル！ 精霊界ヲマモルタメニ、人間界ヲ、ホカノセカイヲホロボスヲ！」
「精霊界の危機、精霊皇だけに負担を強いるわけには参りませんわ」
「これは妾たちだけの考えではない、皆同じ考えじゃ」
「ミンナ集ッテイマス！ 精霊界ヲ救ウタメニ！！」

　精霊たちの言葉は正しかった。精霊界の中心部に位置する皇城は他の領域に周辺を囲まれる形で建っている。そんな皇城をまるで取り囲むかのように東西南北、四方八方から精霊たちが皇城目指して集結していたのだから。
　そしてそんな精霊たちの先導を勤めるのはその世界や領域に名を轟かせていた腕利きの精霊たち。そして―――人間界からやってきた2人の少女だった。