第96話：矛を交える決闘者・1　作：光芒

第96話（番外編第15話）：矛を交える決闘者・1



　7時起きの予定が9時起きと2時間の寝坊であったが、炊事洗濯を皆で分担したおかげで10時半には全ての用事が済んだ。2日目の予定は、参加者同士のデュエルによる実戦である。
　1日目で指導を受けたことを実戦でどう生かせるか、というのが今日の課題である。もっともこの実戦に勝ち負けは関係なく、昨日1日で自分たちがどれくらい成長できたか、というものを参加者および指導するアカデミアの生徒が確認することが一番の狙いであった。

「というわけで今から対戦する組み合わせを決めます！」

　綾香が取り出したのは青眼の究極竜らしきイラストが描かれた紙袋であった。昨日寝る前に試行錯誤しながら何かを描いていた綾香であったが、それはこのお世辞にも上手ではない青眼の究極竜のイラストを描くためだったのである。

「……何よそれ」
「いやね、遥か昔に海馬コーポレーションの初代社長が『バトルシティ』って大会を開いたそうなんだけど、その時に決勝トーナメントの組み合わせを決めるために用いられたのが究極竜をモチーフにしたビンゴマシーンなんだって」
「つまりそれに肖るということでしょうか？」
「そんなところ。まあ一種の臨場感を演出するため、的な？ えっと、この袋の中には1から6の数字が書かれた紙が入っているわ。今からそれを引いてもらって、1の人は2の人、3の人は4の人、5の人は6の人とデュエルをしてもらうわ。全員のデュエルが終わったらこのくじを戻してまた引いて、その時に当たった相手をデュエルをするって仕組みよ」

　作りは安易なものであるが、くじならば誰とデュエルをするかはわからない。そのため身内メタのような対策を取るのも難しく、デュエリストのありのままの実力およびデッキの完成度を知ることができる手法であった。
　くじを引く順番であるが、年齢の若い順ということに決まり、歩美からくじを引くこととなった。歩美は緊張した面持ちで袋の中に手を入れ、取り出した紙を開く。その紙には堂々と「1」の数字が書かれていた。

「歩美ちゃんは1番ね。いきなりのデュエルになるけど、リラックスしていってね」
「ひゃ、ひゃい！ がんばりましゅ！」

　それから年齢および名前順にくじを引いていき、結衣が5番、心が3番、美夏が6番のくじを引いた。この時点で5番の結衣と6番の美夏がデュエルをすることが決まった。

「あたしの相手は結衣かー。【海皇水精鱗】……ガチデッキ相手だから燃えてくるよ」
「1回美夏さんとは全力でデュエルをしてみたかったんです。こちらこそ宜しくお願いしますね？」

　結衣と美夏。まさに水と炎のような相反するタイプである2人の少女の間には早くも火花が散っていた。

「じゃあ次は凛の番よ」
「わかりました！ えっとボクは……4番です！」
「4番ってことは心とのデュエルになるわね」
「心ちゃんとか……へへっ、宜しくね！」
「えっ……うん……」

　心の脳裏には昨日の夜の出来事がまだ残っていた。それ以降、凛は出会ったとき以上にフレンドリーになってきたのだが、逆に心が凛の顔を直視できなくなっていた。心は何故こんなことに、と自分の中に知らず知らずのうちに芽生えたとある感情を理解できずにいた。
　美夏が6番を引き、凛が4番を引いたため、最後に引くことになっていたベアトリスの番号が自ずと決まる。ベアトリスは残された2番ということになり、歩美とのデュエルになった。

「あの……ベアトリスおねえちゃん……」
「はい、なんですか？」
「その……よろしくおねがいしまちゅ！」
「はい、宜しくお願いします。初心者同士のデュエルになりますが、皆さんに成長した私たちの姿を見せてあげましょうね？」
「はい！」

　組み合わせが決まると、一同はロッジの外に出る。他のロッジでも似たようにデュエルをしている光景が伺えるため、どこも2日目は実戦形式を取るようだった。
　ちなみに今回は実戦と銘打つだけあって、デュエルの時に指導する学生が後ろにつくということはない。自分で判断し、自分でカードをプレイする。デュエリストはデュエルになるといつだって孤独な存在となるのだ。

「……ねえ」
「何？」
「歩美ちゃんは大丈夫なの？」

　昨日綾香と歩美のデュエルでジャッジを務めた遊希はどうしてもルールブック片手にデュエルをしようとした歩美のことが気がかりなようだった。しかし、綾香は「ふーん」と息を吐き、胸を張る。

「大丈夫よ、なんだってこの私が教えてあげたんだから！」
「……だから不安なんだけど」
「それどういう意味よ遊希！」
「遊希サン、綾香サン。お二人のデュエルが始まりマスヨ！」

　第1試合、歩美とベアトリスは互いに向き合って礼をすると、デュエルディスクを構えた。デュエルディスクのコンピューターが起動し、先攻後攻の決定権はベアトリスへと与えられた。ベアトリスはどうしようか少し悩んだ後、先攻を取った。

「それでは、行きますよ。歩美ちゃん」
「は、はい！ がんばりましゅ！」
「デュエル！」
「でゅえる！」


ベアトリス　LP4000　手札：5枚
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0
歩美　LP4000　手札：5枚
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0


☆TURN01


「私の先攻です。まずはこのカードでびっくりさせちゃいますね。私は手札から魔法カード“予想GUY”を発動します」


※予想GUY
通常魔法
(1)：自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。デッキからレベル4以下の通常モンスター1体を特殊召喚する。


「このカードは自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できるカードで、デッキからレベル4以下の通常モンスター1体を特殊召喚できます。私が特殊召喚するのはレベル3の通常モンスターであるジェネクス・コントローラーです」

　ベアトリスのフィールドにはデッキからぴょこん、と飛び出してくる形でジェネクス・コントローラーが現れる。ジェネクスデッキはこのジェネクス・コントローラーをチューナーと利用したいモンスターが多いため、このカードを如何に出せるか、というのも大事になってくる。

「……かわいいモンスターさんだなぁ」
「ありがとうございます。見た目は機械ですが愛嬌のあるモンスターなんですよ。そして手札を1枚捨てて、手札のTHE トリッキーを特殊召喚します。私はレベル5の風属性モンスター・THE トリッキーにレベル3のジェネクス・コントローラーをチューニング！ “美しき星を覆う大気よ、今文明の技術と一つとなり青き空を駆けよ！” シンクロ召喚！ 発進せよ！ レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト！」

　ベアトリスのフィールドに現れたのはレアル・ジェネクス・ヴィンディカイト。素の攻撃力は2400とレベル8にしては低めではあるが、攻撃対象にならず、かつ相手モンスターを戦闘で破壊をすることでジェネクス1体をサーチできるという優秀な効果を持っているカードだ。

「私はこれでターンエンドです」


ベアトリス　LP4000　手札：2枚
デッキ：34　モンスター：1（レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト）魔法・罠：0　墓地：4　除外：0
歩美　LP4000　手札：5枚
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0


☆TURN02


「えっと、わたしのターン！ ドロー！」

　後攻の歩美はカードをドローすると、ドローフェイズ・スタンバイフェイズを通してからのメインフェイズ1への移行をルールブックなしでこなす。歩美はカードのプレイング自体にはさほど問題がないと判断した綾香はフェイズの入れ替わりなどに重きを置いて指導したのである。そしてその判断は間違っていなかった。

「わたしはマドルチェ・ミィルフィーヤさんをしょうかんします！ ミィルフィーヤさんのこうかでてふだから“マドルチェ・クロワンサン”さんをとくしゅしょうかんです！」


※マドルチェ・クロワンサン
効果モンスター
星3/地属性/獣族/攻1500/守1200
このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、このカードをデッキに戻す。
また、1ターンに1度、このカード以外の自分フィールド上の「マドルチェ」と名のついたカード1枚を選択して発動できる。
選択したカードを手札に戻し、このカードのレベルを1つ上げ、攻撃力を300ポイントアップする。


（あのたこさんはこうげきできないんだよね……えっと……だったら……）
「わたしはレベル3のミィルフィーヤさんとクロワンサンさんでおーばーれい！ 2体のモンスターさんでおーばーれい・ねっとわーくをこうちく！ エクシーズしょうかん！ きょうもおねがい！ 発条機雷ゼンマインさん！」

　仮にマドルチェ・シャトーが手札に来ていたとしてもマドルチェ・クロワンサンの攻撃力は2000止まりで自身の効果を適用してもレアル・ジェネクス・ヴィンディカイトには届かない。
そう判断した歩美は昨日綾香とのデュエルで取った手法と同じく、発条機雷ゼンマインを壁モンスターとしてエクシーズ召喚することで、守備を固める。
　レアル・ジェネクス・ヴィンディカイトは戦闘破壊しなければサーチ効果を発動することができず、それでいてゼンマインにはオーバーレイユニットを1つ取り除くことで破壊を無効にし、そのターンの終了時にフィールドのカードを1枚を選択して破壊する効果を持っている。その効果を発動されてしまえば、攻撃対象にならないヴィンディカイトであってもあっさり除去されてしまうのだ。

（……ライフは4000。マドルチェ・シャトーを出されてマドルチェたちの総攻撃を受けてしまえば負けてしまいます。なのであのゼンマインをかわしながら相手にダメージを与えられるモンスターを呼び込まなければいけませんね）
「えっと、わたしはカードを1まいセットして……これでターンエンドです」


ベアトリス　LP4000　手札：2枚
デッキ：34　モンスター：1（レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト）魔法・罠：0　墓地：4　除外：0
歩美　LP4000　手札：3枚
デッキ：34　モンスター：1（発条機雷ゼンマイン ORU:2）魔法・罠：1　墓地：0　除外：0


☆TURN03


「私のターンですね。ドロー！……いいカードが来ました」

　ドローしたカードを確認してベアトリスがにっこりと微笑んだ。ゼンマインを突破して歩美にダメージを与えられるカードなのだろうか。しかし、2回の破壊耐性を持っているゼンマインを突破するのは並大抵のモンスターでは不可能なことである。
　だがベアトリスは何も“ゼンマインを倒す”ことなど考えていなかった。何故なら今引き当てたカードはゼンマインを倒さずに歩美のライフを削ることが可能になるモンスターをシンクロ召喚するために必要なカードなのだから。

「私は手札のダンディライオンを墓地に送り、“クイック・シンクロン”を特殊召喚します」


※クイック・シンクロン
チューナー・効果モンスター
星5/風属性/機械族/攻700/守1400
このカードは「シンクロン」チューナーの代わりとしてS素材にできる。
このカードをS素材とする場合、「シンクロン」チューナーを素材とするSモンスターのS召喚にしか使用できない。
(1)：このカードは手札のモンスター1体を墓地へ送り、手札から特殊召喚できる。


「クイック・シンクロン！？……あれ、ベアトリスちゃんのデッキはジェネクスのはず……」
「このカードを入れるように私がアドバイスしたのデス！」

　エヴァがベアトリスのデッキ改造案として提案したのは【シンクロン】要素を取り入れてよりシンクロ召喚しやすいデッキにする、ということだった。
　ジェネクスのみではシンクロ召喚の幅が狭まり、戦法が固定されてしまう恐れがある。そのため、シンクロンモンスターをチューナーとして採用することで、状況に合わせた幅広い戦術が取れるようになったのだ。

「墓地に送られたダンディライオンの効果でフィールドに綿毛トークン2体を守備表示で特殊召喚します。そして私はレベル1の綿毛トークンにレベル5のクイック・シンクロンをチューニング！」

　クイック・シンクロンが銃を構えると、その照準の先では複数のカードがくるくると回っていた。クイック・シンクロンはその回っているカードに狙いを定めると、込めた弾で1発。早撃ちでカードを撃ち抜く。撃ち抜かれたのは同じシンクロンである“ドリル・シンクロン”だった。
　クイック・シンクロンは他のシンクロンと名のついたチューナーモンスターの代わりとしてシンクロンをチューナーとするモンスターをシンクロ召喚できるのである。この瞬間、クイック・シンクロンはドリル・シンクロンへとその姿を変えた。

「“進む道に幾重もの壁がそびえ立とうとも、私の行く道は変わらない。強き意志を込めて全てを貫きなさい！”シンクロ召喚！ 突き進め！ “ドリル・ウォリアー”！！」


※ドリル・ウォリアー
シンクロ・効果モンスター
星6/地属性/戦士族/攻2400/守2000
「ドリル・シンクロン」＋チューナー以外のモンスター1体以上
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。このカードの攻撃力を半分にし、このターンこのカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。
また、1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。手札を1枚捨ててこのカードをゲームから除外する。
次の自分のスタンバイフェイズ時、この効果で除外したこのカードを自分フィールド上に特殊召喚する。その後、自分の墓地のモンスター1体を選んで手札に加える。


「そうか、ドリル・ウォリアーなら……！！」
「ドリル・ウォリアーの効果を発動します。このカードの攻撃力を半分にすることで、このターンこのカードは相手プレイヤーにダイレクトアタックが可能になります」
「ふぇっ！？」
「つまりゼンマインをすり抜けて歩美ちゃんに攻撃できるんです」

ドリル・ウォリアー ATK2400→1200

「メインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移ります。自身の効果を発動したドリル・ウォリアーで歩美ちゃんにダイレクトアタックです！ “ドリル・シュート”！！」

ドリル・ウォリアー ATK1200

歩美 LP4000→2800

「きゃっ！」
「バトルフェイズを終えてメインフェイズ2に移ります。ドリル・ウォリアーのもう1つの効果を発動します。手札を1枚捨てて、このカードをゲームから除外します」

　ドリル・ウォリアーは手が変化したドリルで空間の壁に穴を開けると、次元の歪へと消えていく。1つ目の効果で攻撃力を半分にしたドリル・ウォリアーの攻撃力は元に戻らず、そのままのため一度フィールドを離れることで低い攻撃力を晒さずに済むのだ。
　もっともその効果ははっきり言っておまけ同然のものであり、何より重要なのは次の自分のスタンバイフェイズに帰還した際に墓地のモンスター1体を回収できるという効果が大きかった。

「ふええ……ドリル・ウォリアーさんがどこかにいっちゃった……」
（ドリル・ウォリアーの効果で制限カードである墓地のダンディライオンを回収すれば再利用できる……考えたわね、ベアトリスちゃん……）
「ヴィンディカイトを守備表示に変更してターンエンドです」

レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト DEF1000


ベアトリス　LP4000　手札：0枚
デッキ：33　モンスター：2（レアル・ジェネクス・ヴィンディカイト、綿毛トークン）魔法・罠：0　墓地：7　除外：1
歩美　LP2800　手札：3枚
デッキ：34　モンスター：1（発条機雷ゼンマイン ORU:2）魔法・罠：1　墓地：0　除外：0


☆TURN04


「わたしのターン、ドロー！……やったっ」

　ドローしたカードが待ち望んだものだったのか、歩美はカードを持っていない方の手でぎゅっとガッツポーズをした。ベアトリスはドリル・ウォリアーの効果でダイレクトアタックが可能であるが、ゼンマインを突破できない以上決して優勢とも言えない状況である。
　そのためこのドローによって歩美がベアトリスとのライフアドバンテージを覆すようなカードを引き入れた場合はマドルチェの展開力で押し切られてしまう可能性も十二分に存在するのだ。

「いいカードを引けたんですね」
「はいっ！ ってそういうのはほんとうはいっちゃいけないんですよね……でもわたしがんばりましゅ！ わたしはマドルチェ・マジョレーヌさんをしょうかん！ マジョレーヌさんの効果でデッキからマドルチェ・エンジェリーさんをてふだにくわえます！」
「マジョレーヌでエンジェリーをサーチしましたか。ですが、召喚権は使い切ってしまった以上これ以上の展開は厳しいですね？」
「えっと……しょうかんできなくなったら、しょうかんできるかいすうをふやせばいいんでしゅ！ まほうカード、えっと……でゅ、でゅあるさもんをはつどう！」


※二重召喚（デュアルサモン）
通常魔法
このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。


「なるほど……だから喜んだんですね」
「えっと、これでわたしは2かいまでモンスターさんをしょうかんできます！ エンジェリーさんをしょうかん！ そしてエンジェリーさんの効果でエンジェリーさんをリリースして、デッキからマドルチェ・メッセンジェラートさんをとくしゅしょうかんします！」

　二重召喚の効果で歩美にフィールドにはレベル4のマドルチェモンスター2体が並ぶ。この布陣からエクシーズ召喚されるモンスターとはいえば、相場は決まっている。

「わたしはレベル4のマドルチェ・マジョレーヌさんとマドルチェ・メッセンジェラートさんでおーばーれい！ 2体のマドルチェさんでおーばーれい・ねっとわーくをこうちく！ エクシーズしょうかん！ えっと……“おかしのくにのじょおうさま！”ランク4！ “クィーンマドルチェ・ティアラミス”さん！」


※クイーンマドルチェ・ティアラミス
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/地属性/天使族/攻2200/守2100
「マドルチェ」と名のついたレベル4モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、自分の墓地の「マドルチェ」と名のついたカードを2枚まで選択して発動できる。
選択したカードをデッキに戻し、戻したカードの数まで相手フィールド上のカードを選んで持ち主のデッキに戻す。


「来ましたか……マドルチェのエースモンスター……」
「ティアラミスさんのこうかをはつどうします！ おーばーれいゆにっとを1つとって、ぼちのマドルチェさんを2体までせんたくしてはつどうします！ せんたくしたカードをデッキにもどして、ベアトリスおねえちゃんのフィールドのカードを2まいまでデッキにもどしまちゅ！ ぼちのエンジェリーさんとメッセンジェラートさんをデッキにもどして、おねえちゃんのたこさんとわたげトークンさんをデッキにもどしてください！」

　クイーンマドルチェ・ティアラミスの発した高貴かつ甘い匂いのする波動によって、ヴィンディカイトと綿毛トークンがデッキにバウンスされる。シンクロモンスターであるヴィンディカイトはエクストラデッキに、トークンである綿毛トークンはフィールドを離れた瞬間に消滅する。これでベアトリスのフィールドにはカードが1枚も存在しなくなってしまった。

（うーん、ゼンマインさんは……しゅびひょうじのままでいいよね？）
「えっと……メインフェイズ1からバトルフェイズです！ クイーンマドルチェ・ティアラミスさんでベアトリスおねえちゃんにこうげき！ “おかしのひかり”！」

クイーンマドルチェ・ティアラミス ATK2200

ベアトリス LP4000→1800

「きゃああっ！！」

　攻撃名は歩美が言っているだけあって、何とも微笑ましいものであるが、4000ライフ制で攻撃力2200のモンスターによるダイレクトアタックは十分致命傷になり得る威力を持っている。
　仮にマドルチェ・シャトーおよびそれをサーチできるテラ・フォーミングを歩美が引き当てていればこの攻撃でベアトリスのライフはさらに大きく削られていた。その点に関してはベアトリスが悪運の強さに救われた形となる。

「あうう……もう少しだったのになぁ……えっと、わたしはこれでターンエンドでしゅ」


ベアトリス　LP1800　手札：0枚
デッキ：33　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：7　除外：1
歩美　LP2800　手札：3枚
デッキ：33　モンスター：2（クイーンマドルチェ・ティアラミス ORU:1　発条機雷ゼンマイン ORU:2）魔法・罠：1　墓地：1　除外：0


☆TURN05


（このターンにドリル・ウォリアーが戻ってきますが……このドローが勝負の分かれ目、というやつになりそうですね。良いカード、来てください！）
「私のターン、ドローです！」

　ベアトリスがドローしたカード―――それは決して望んでいたカードではなかった。しかし、彼女の脳裏には昨日エヴァから聞いた言葉が流れ浮かんでいた。

―――決して望むカードを引けなかったとしても、そのカードでできることを探しまショウ！

（エヴァさん、少し予定は変わりましたが……勝ちに行きます！）
「このスタンバイフェイズにドリル・ウォリアーはフィールドに帰還します。そして戻ってきたドリル・ウォリアーの効果で墓地のモンスター1体をサルベージできますが……手札に戻すのはクイック・シンクロンです！」

　ベアトリスがドリル・ウォリアーの効果で回収するのは汎用性の高いダンディライオンだと思い込んでいた一同であるが、彼女が戻したのはクイック・シンクロン。特殊召喚効果を持っているが、上級モンスターのため通常召喚には1体のリリースが必要となる。
　基本に立ち返るならここでダンディライオンを回収し、シンクロ素材なり壁モンスターとして活用してティアラミスとゼンマインを処理できるモンスターに繋げるのが常道なのだが、ベアトリスがドローしたカードはそのクイック・シンクロンと最も好相性なカードの1枚であった。

「そして手札の“ボルト・ヘッジホッグ”を墓地に送り、今回収したクイック・シンクロンを特殊召喚します！」
「ボルト・ヘッジホッグ！？ そうか……だからベアトリスちゃんは……」
「なるほど。ボルト・ヘッジホッグにはあの効果がありますからネ」
「墓地のボルト・ヘッジホッグの効果を発動します！」


※ボルト・ヘッジホッグ
効果モンスター
星2/地属性/機械族/攻800/守800
(1)：自分メインフェイズに発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果は自分フィールドにチューナーが存在する場合に発動と処理ができる。
この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。


「自分フィールドにチューナーモンスターが存在するため、このカードを墓地から特殊召喚します！ そして私はレベル2のボルト・ヘッジホッグにレベル5のクイック・シンクロンをチューニング！」

　クイック・シンクロンはまたしても銃を取り出してはグルグルと回るカードの中から1枚のモンスターを撃ち抜く。それはボンベのような姿をしたモンスターだった。

「“その戦士身に宿すは灼熱の闘志。唸る拳を震わせ、地平の彼方へと突き進め！”シンクロ召喚！ 燃え上がれ！ “ニトロ・ウォリアー”！！」


※ニトロ・ウォリアー
シンクロ・効果モンスター
星7/炎属性/戦士族/攻2800/守1800
「ニトロ・シンクロン」＋チューナー以外のモンスター1体以上
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分のターンに自分が魔法カードを発動した場合、このカードの攻撃力はそのターンのダメージ計算時のみ1度だけ1000ポイントアップする。
また、このカードの攻撃によって相手モンスターを破壊したダメージ計算後に発動できる。
相手フィールド上に表側守備表示で存在するモンスター1体を選択して攻撃表示にし、そのモンスターにもう1度だけ続けて攻撃できる。


「ふええ……つよそうなモンスターさん……」
「ドリル・ウォリアーの効果を発動します！ このカードの攻撃力を半分にしてダイレクトアタックを可能にします。そしてメインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移行します！ まずはドリル・ウォリアーで歩美ちゃんにダイレクトアタックです！ “ドリル・シュート”！」

ドリル・ウォリアー ATK1200

歩美 LP2800→1600

「あうう……」
「そしてニトロ・ウォリアーでクイーンマドルチェ・ティアラミスを攻撃です！ “ダイナマイト・ナックル”！！」

ニトロ・ウォリアー ATK2800 VS クイーンマドルチェ・ティアラミス ATK2200

歩美 LP1600→1000

「ティアラミスさん、ごめんなさい……このデュエル、わたしまけないからね？」
「……申し訳ありません、歩美ちゃん。このデュエルは私の勝ちです」
「ふぇっ！？ で、でもニトロ・ウォリアーさんもドリル・ウォリアーさんももうこうげきしちゃったんじゃ……？」
「ニトロ・ウォリアーの第2の効果を発動します。このモンスターの攻撃で相手モンスターを破壊した後、相手フィールド上に表側守備表示で存在するモンスター1体を選択して攻撃表示にし、そのモンスターにもう1度続けて攻撃できるんです！」
「おもてがわしゅびひょうじ……ゼンマインさん！？」

　ニトロ・ウォリアーの両腕から放たれた灼熱の波動を受けて守備表示になっていたゼンマインが攻撃表示へと変化。その固い守りを解いてしまった。機雷と名乗るだけあって防御力こそ高いものの、自ら戦うモンスターではないため、その攻撃力は下級モンスターレベルであった。

「ニトロ・ウォリアーで発条機雷ゼンマインを攻撃！ “ダイナマイト・ナックル・セカンドフィスト”！！」

ニトロ・ウォリアー ATK2800 VS 発条機雷ゼンマイン ATK1500

「ゼンマインさんのおーばーれいゆにっとを1つとって、ゼンマインさんのはかいをむこうにします！！」
「ですが、戦闘ダメージを受けてもらいます！」

歩美 LP1000→0

　オーバーレイユニットを消費することで破壊こそ免れたゼンマインであるが、その分戦闘で発生した超過ダメージまでは防ぐことはできなかった。歩美のライフは0となり、1戦目のデュエルはベアトリスに軍配が上がった。