第74話：邪なる同調　作：光芒

「レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト……その忌々しき姿……今日この時まで一度たりとも忘れたことはない！」

　スカーライトの姿を見て初めてジェームズが声を荒げた。彼にとってはスカーライトは自分とエヴァの間を引き裂いた張本人であり、このモンスターを倒すため必死に修練を重ねてきたのだ。

「エヴァとあんたの間に何があったかは知らないけど、エヴァはスカーライトと必死に向き合おうとしてるわ。あんたが黒幕の手先になっているのとは大違いね」
「くっ……君に何がわかる！！ 僕はずっと苦悩を重ねてきたのだぞ！」

　激昂するジェームズに対し遊希は至って冷静だった。エヴァをここまで傷つけられたことに対して彼女は激しい怒りを覚えていたが、その怒りが振り切れ、逆に冷静になっていた。

「エヴァの苦悩はわかるわ、私も同じ精霊使いだもの。この学校で一緒にその痛みを分かち合ったから。でも非道な手段に逃げたあんたのことなんて知る価値もないわ！ レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトの効果発動！ 1ターンに1度、自身の攻撃力以下の特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、破壊したカードの数×500ポイントのダメージを相手に与える。この効果で破壊されるモンスターの攻撃力は3000までよ！」
「そ、それでは僕のフィールドのモンスターは……」
「ふふっ、全滅ね。王たるドラゴンの前に燃え尽きなさい！！ “アブソリュート・パワー・フレイム”！！」

　レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトがプロテクターに覆われた右腕を振り上げると、ジェームズのフィールドは瞬く間に炎の海に包まれる。全てを破壊しつくす灼熱の炎によって、ジェームズのフィールドに存在するインフェルニティ・デス・ドラゴン、氷結界の龍 トリシューラ、ラヴァルバル・チェインの3体は瞬く間に消滅してしまった。

ジェームズ LP8000→6500

「ぐっ……」
「これであんたのフィールドはがら空き。バトル！ レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトでダイレクトアタック！ “灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング”！！」

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000

ジェームズ LP6500→3500

「ぐああああっ！！」

　スカーライトの炎を直に受けたジェームズの身体も先ほどのエヴァと同じように大きく後ろに吹き飛ぶ。このターンさえ凌げれば勝利、といった局面から一気に追い込まれる形となってしまったのだ。

「立ちなさい。エヴァの受けた痛みはこんなものじゃないわ」
「ゆ、遊希サン……」
「ごめん、このターンで決めれなかった」
「大丈夫……デス。今私たちの手札は0デス。なので……」
「わかってる。私たちはこれでターンエンドよ」


ジェームズ　LP3500　手札0枚
デッキ：26　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：13　除外：2
エヴァ＆遊希　LP2100　手札0枚
デッキ：35　モンスター：1（レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト）魔法・罠：2　墓地：5　除外：5


☆TURN05


「おのれ……僕のターン、ドロー！！」

　スカーライトによって一気に不利になったジェームズ。彼はカードをドローするとハンドレスを維持するためにそのカードを裏守備表示でセットしてターンを終えた。インフェルニティのハンドレス時の展開力は相当なものであるが、展開の軸となるカードを手札に呼び込めなければ元も子もない。


ジェームズ　LP3500　手札0枚
デッキ：25　モンスター：1　魔法・罠：0　墓地：13　除外：2
エヴァ＆遊希　LP2100　手札0枚
デッキ：35　モンスター：1（レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト）魔法・罠：2　墓地：5　除外：5


☆TURN06


「私たちのターン、ドローよ」

　このターン、遊希がドローしたのはモンスターカードだった。しかし、ここでエヴァはモンスターの召喚は思い止まるよう遊希に伝えた。訝しがる遊希だったが、このデュエルにおいてプレイングを指示するのはエヴァの役目である。遊希はエヴァを信じ、そのモンスターを手札に留めることにした。

「バトル。レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトで裏守備モンスターを攻撃よ！！」

　スカーライトの攻撃力は3000。リリースなしで召喚できる下級モンスターにおいてこの攻撃を耐えれるモンスターはまず存在しないといっていいだろう。最も、数値上の意味においては、だが。
　攻撃されてリバースしたのは平べったい盾のようなものの中心に骸骨が描かれたようなモンスターだった。そのカードを見て遊希は小さく舌打ちをする。

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000 VS インフェルニティ・ガーディアン DEF1700

「“インフェルニティ・ガーディアン”は僕の手札が0枚の時、戦闘およびカードの効果では破壊されない！！」


※インフェルニティ・ガーディアン
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1200/守1700
自分の手札が0枚の場合、フィールド上に表側表示で存在するこのカードは戦闘及びカードの効果では破壊されない。


「っ……面倒なモンスターを……私たちはこれでターンエンドよ」


ジェームズ　LP3500　手札0枚
デッキ：25　モンスター：1（インフェルニティ・ガーディアン）魔法・罠：0　墓地：13　除外：2
エヴァ＆遊希　LP2100　手札1枚
デッキ：34　モンスター：1（レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト）魔法・罠：2　墓地：5　除外：5


☆TURN07


「僕のターンだ、ドロー」

　フィールドや手札においては劣勢のジェームズであったが、ハンドレスを維持し続ければインフェルニティ・ガーディアンは鉄壁の守りを誇る。ドローしたカードは魔法・罠カードだったようで、それをセットしてそのままターンを終えた。


ジェームズ　LP3500　手札0枚
デッキ：24　モンスター：1（インフェルニティ・ガーディアン）魔法・罠：1　墓地：13　除外：2
エヴァ＆遊希　LP2100　手札1枚
デッキ：34　モンスター：1（レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト）魔法・罠：2　墓地：5　除外：5


　それから互いに2ターンの間、ドローゴーの状況が続いた。エヴァと遊希は闇氷モンスターがフィールドに存在しないためあまり意味をなさないがドローしたフィールド魔法・闇氷の霊域を発動した。一方のジェームズもテラ・フォーミングでフィールド魔法をサーチすると、発動せずにフィールド魔法ゾーンにセットした。
　フィールド魔法に関しては互いのフィールドに1枚までしか存在できなかったのだが、ルールの改定により互いのフィールドに1枚ずつ存在できるようになったのだ。ただ、インフェルニティにはフィールド魔法など入る余地がない。そのため何故フィールド魔法をセットしたのかが不気味であった。そしてデュエルが動き出したのは12ターン目にあたるジェームズのターンである。

「私たちはこれでターンエンドよ」


ジェームズ　LP3500　手札0枚
デッキ：22　モンスター：1（インフェルニティ・ガーディアン）魔法・罠：3　墓地：14　除外：2
エヴァ＆遊希　LP2100　手札3枚
デッキ：30　モンスター：1（レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト）魔法・罠：3（闇氷の霊域）墓地：5　除外：5



☆TURN12


「僕のターン、ドロー……ふふふ」

　ドローしたカードを見たジェームズが不気味に笑う。このカードをドローした瞬間、前のターンまでと比べて明らかにジェームズの様子はおかしくなっていた。眼の白目の部分が漆黒に染まり、その眼の下からは血の涙のような青い線が首まで走る。その様子はまさに常人のそれとは大違いだった。

「……君たちは本当に強かったよ」
「強かった……なんで過去形なのかしら」
「君たちはこのターンで敗北するからさ。僕はリバースカードをオープン。セットしていた死者蘇生を発動する」
「死者蘇生……今あんたには手札がある。このタイミングでインフェルニティを蘇らせても何の意味もないはずよ」
『誰がインフェルニティを蘇らせると言った？ 僕が蘇らせるのはこのカードダァ！！』

　死者蘇生の効果によって墓地から特殊召喚されたのはインフェルニティではない別のモンスターだった。しかし、プロとして、学生としてデュエルについての勉強を重ねてきた遊希やエヴァが全く知らないモンスターである。


『冥府ヨリ蘇レ―――





“DT（ダークチューナー）ナイトメア・ハンド”！！』





※DT（ダークチューナー）ナイトメア・ハンド（オリジナルカード）
ダークチューナー（効果モンスター）
星10/闇属性/戦士族/攻0/守0
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、手札からレベル2モンスター1体を特殊召喚する事ができる。
このカードをシンクロ素材とする場合、ダークシンクロモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。


「レベル10の……ダークチューナー！？」
「聞いたことのない……カードデス……」
『ナイトメア・ハンドノ効果発動！ コノカードノ特殊召喚ニ成功シタ時、手札カラレベル2ノモンスター1体ヲ特殊召喚デキル！ 現レヨ、“インフェルニティ・ドワーフ”！！』


※インフェルニティ・ドワーフ
効果モンスター
星2/闇属性/戦士族/攻800/守500
自分の手札が0枚の場合、このカードが自分フィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上に存在するモンスターが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。


『行クゾ……僕ハレベル2ノインフェルニティ・ドワーフニ、レベル10ノDT ナイトメア・ハンドヲダーク・チューニング！』
「ダーク・チューニング！？」
『ダーク・チューニングハ禁ジラレシシンクロ召喚。チューナー以外ノモンスター1体ノレベルカラダーク・チューナーノレベルヲ引イタレベルノダーク・シンクロモンスター1体ヲシンクロ召喚スル！！』
「なんですって……じゃあ召喚されるのは……」

　ナイトメア・ハンドは不気味な笑い声を上げながら闇へと姿を変える。そしてその闇がインフェルニティ・ドワーフを包み込んだ。困惑するインフェルニティ・ドワーフを闇の中に生じた黒い星が襲う。インフェルニティ・ドワーフは悲鳴に似たうめき声を上げながら8つの黒い星へと無理やり姿を変えられてしまった。

『“漆黒ノ帳下リシ時、冥府ノ瞳ハ開カレル。舞イ降リロ闇ヨ！”






―――ダークシンクロ！ 出デヨ！“ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン”！！』






※ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン（オリジナルカード）
ダークシンクロ・効果モンスター
星-8/闇属性/ドラゴン族/攻3000/守2500
ダークチューナー+チューナー以外の闇属性モンスター1体以上
1ターンに1度、自分の墓地に存在するレベル6以下の闇属性の効果モンスター1体をゲームから除外して発動する事ができる。
このカードはこのターンのエンドフェイズ時まで、この効果を発動するためにゲームから除外した効果モンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。
また、このカードが破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから「地縛神」と名のついたモンスター1体を手札に加える。


「これが……ダーク・シンクロモンスター……」
『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンノ効果ヲ発動！ 墓地ノレベル6以下ノ闇属性・効果モンスター1体ヲゲームカラ除外シ、ソノ効果ヲ得ル。僕ハレベル3ノインフェルニティ・ネクロマンサーヲ除外スル！ ソシテネクロマンサーノ効果ヲ得タワンハンドレッド・アイ・ドラゴンノ効果ヲ発動！ 墓地ノインフェルニティ・デーモンヲ特殊召喚スル！！ ソシテ手札ガ0枚ノ時ニ特殊召喚ニ成功シタデーモンノ効果デデッキカラインフェルニティカード1枚ヲ手札ニ加エル！ 手札ニ加エルノハインフェルニティ・バリアダ』
「っ……！！ でもワンハンドレッド・アイ・ドラゴンとスカーライトの攻撃力は互角よ！」
『構ワナイサ。バトル！ ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンデレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトヲ攻撃！ “インフィニティ・サイト・ストリーム”！！』
「迎撃して、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト！！ ”クリムゾン・ヘル・バーニング”！！」

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン ATK3000 VS レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000

　攻撃力は同じ3000であるため、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトとワンハンドレッド・アイ・ドラゴンは相討ちとなって共に破壊される。しかし、破壊されたワンハンドレッド・アイ・ドラゴンには隠された効果が存在する。

『ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンガ破壊サレタコトデ発動スル効果ガアル……自分ノデッキカラ“地縛神”ト名ノツイタモンスター1体ヲ手札ニ加エル！』
「“地縛神”……？」

　ダーク・チューナーやダーク・シンクロモンスター同様聞き慣れない名前のカードの存在に遊希とエヴァは動揺を隠せない。ジェームズにインフェルニティのデッキを渡した黒幕はそのデッキと共に未知のカードをも創造していたのだ。

「僕ガ手札ニ加エルノハ“地縛神 Ccapac Apu”ダ。マダ僕ノバトルフェイズハ終了シテイナイ！ インフェルニティ・デーモンデダイレクトアタック！“ヘル・プレッシャー”！！」

インフェルニティ・デーモン ATK1800

「どうするエヴァ？ 使う？」
「……お願いシマス」
「ダイレクトアタック宣言時、手札の“バトルフェーダー”の効果を発動！！」


※バトルフェーダー
効果モンスター
星1/闇属性/悪魔族/攻0/守0
(1)：相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、その後バトルフェイズを終了する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。


「このカードを特殊召喚し、バトルフェイズを強制終了させるわ！」
『フン、運ノイイコトダ……バトルフェイズヲ終エテメインフェイズ2ニ移行。僕ハセットシテイタフィールド魔法ヲ発動スル！』

　ジェームズのフィールドにセットされていたフィールド魔法が表側表示になる。その瞬間、ジェームズのフィールドには注連縄が巻かれた巨石が次々と現れる。

『僕ハフィールド魔法“神縛りの塚”ヲ発動！！』


※神縛りの塚
フィールド魔法
(1)：フィールドのレベル10以上のモンスターは効果の対象にならず、効果では破壊されない。
(2)：フィールドのレベル10以上のモンスターが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。破壊されたモンスターのコントローラーは1000ダメージを受ける。
(3)：フィールドのこのカードが効果で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから神属性モンスター1体を手札に加える。


「神縛りの塚……高レベルモンスターに耐性を与えるカード……」
「しかしこのカードはこの世界に3枚ほどしか存在しないと言われているカードデス。なんでそんなカードをジェームズが……」
『ソレハコノモンスターヲ従エルタメダ。僕ハインフェルニティ・デーモントインフェルニティ・ガーディアンヲリリース！！』

　デーモンとガーディアンの2体が生贄に捧げられ、上空には心臓を模した巨石が現れる。巨石はドクン、ドクンと脈を打ち、周囲に生じた邪気を吸収して膨張していく。

『“数多ノ魂ヲ生贄トシ、蘇レ。地ニ縛ラレシ邪神ヨ！”降臨セヨ！“地縛神 Ccapac Apu”！！』


　ジェームズのフィールドに現れた1体のモンスター。それはアカデミアの室内に収まりきらないほどの巨体を持った漆黒の身体に青いラインの入った人型のモンスターだった。