第189話：星龍皇覚醒・7　作：光芒

　蒼い炎と白銀の鎧をその身に纏った星龍皇―――ドラコニスウィルム。綾香が炎竜星-シュンゲイを素材にした幻竜星-チョウホウをシンクロ召喚することでやっと抑え込むことのできたモンスターを再度遊希はエクシーズ召喚する。
　このモンスターに近い姿をしているエルタウィルムは1ショットキルを容易にする攻撃的効果を持っているが、ドラコニスウィルムはエルタウィルムに比べて一時的な攻撃能力こそ劣っている。
　しかし、守備能力やフィールドの維持などカードとしての総合的な面でドラコニスウィルムはエルタウィルムを上回っており、3000という高い攻撃力も相まって相手取る側からしてみれば対応に苦慮するモンスターであった。

「ドラコニスウィルム……また、戻ってきた」
「今あんたのフィールドにカードはない。そしてドラコニスウィルムは自身の効果であらゆる破壊から星龍皇を守る。この子の攻撃は止められるかしら！ バトル！ 真星龍皇 ドラコニスウィルムでダイレクトアタック！ ドラコニス・バースト・ブレイズ！！」

真星龍皇 ドラコニスウィルム ATK3000

　燃え盛る炎が綾香に襲い掛かろうとする。しかし、綾香はその攻撃を前にしても決して引くことはなかった。

「リバースカードオープン！ 永続罠、竜魂の幻泉を発動！」
「2枚目の……竜魂の幻泉！？」
「墓地のボウテンコウを守備表示で特殊召喚！ そして特殊召喚に成功したボウテンコウの効果でデッキから竜星の具象化を手札に加えるわ！」
「だったら攻撃対象をボウテンコウに変更して攻撃を続行するわ！」

真星龍皇 ドラコニスウィルム ATK3000 VS 源竜星-ボウテンコウ DEF2800

「戦闘で破壊されたボウテンコウの効果！ デッキから地竜星-ヘイカンを守備表示で特殊召喚するわ！」
「っ、またしても竜星を……！」
「これで遊希、あんたの攻撃は届かなくなったわ」
「バトルフェイズを終了。私は……これでターンエンド」


綾香　LP7000　手札：2
デッキ：27　モンスター：1（地竜星-ヘイカン）魔法・罠：1（竜魂の幻泉）墓地：15　除外：1
遊希　LP3200　手札：4
デッキ：29　モンスター：1（真星龍皇 ドラコニスウィルム ORU:2）魔法・罠：2（星龍皇翔破）墓地：9　除外：1


☆TURN11


「私のターン、ドロー！……あんたの攻撃は私には届かないけど、今の私でもあんたには届かないのよね……モンスターをセット。カードを1枚セットしてターンエンドよ」

　セットカードは恐らくボウテンコウの効果でサーチした竜星の具象化だろう。綾香の言う通り、綾香の側からも遊希のドラコニスウィルムを突破する手段はないようだが、かと言って今の遊希の手札にヘイカンを含む2体のモンスターを突破する手段もなかった。


綾香　LP7000　手札：1
デッキ：26　モンスター：2（地竜星-ヘイカン）魔法・罠：2（竜魂の幻泉）墓地：15　除外：1
遊希　LP3200　手札：4
デッキ：29　モンスター：1（真星龍皇 ドラコニスウィルム ORU:2）魔法・罠：2（星龍皇翔破）墓地：9　除外：1


☆TURN12


「私のターン、ドロー！ 私は手札から魔法カード、星龍皇の煌めきを発動。手札の真星龍皇 トゥーヴァウィルムをゲームから除外して2枚ドロー！ 私は手札からフィールド魔法、星龍皇の聖域を発動！ このカードが存在する限り、私は星龍皇以外のモンスターを特殊召喚できなくなるけど、私の星龍皇モンスターの攻撃力・守備力は300ポイントアップする！」

真星龍皇 ドラコニスウィルム ATK3000/DEF2700→ATK3300/DEF3000

「手札から星龍皇 ウィルムプリムスを召喚。星龍皇の聖域の効果で攻撃力・守備力は300ポイントアップするわ」

星龍皇 ウィルムプリムス ATK1700/DEF1700→ATK2000/DEF2000

「バトル！ 星龍皇 ウィルムプリムスで地竜星-ヘイカンを攻撃するわ！」

星龍皇 ウィルムプリムス ATK2000 VS 地竜星-ヘイカン DEF0

　ウィルムプリムスの牙がヘイカンの身体を食いちぎる。セットモンスターの情報が明らかになっていない以上、攻撃力が低いモンスターから攻撃するのはデュエルの定石と言えた。しかし、ここで綾香はそのデッキの定石を覆す行動に出た。

「守備力0のヘイカンは撃破されるわ。でも……ヘイカンの効果は発動しない！」
「えっ……竜星の具象化も？」
「ええ。罠カードの竜星の具象化はともかく、竜星の後続を呼ぶ効果は任意効果だから発動するしないは選べるのよ」
「……ドラコニスウィルムでセットモンスターを攻撃！ ドラコニス・バースト・フレア！！」
「リバースカードオープン！ 永続罠、竜星の具象化を発動よ！」
（このタイミングで！？）

真星龍皇 ドラコニスウィルム ATK3300 VS 破面竜 DEF1100

「戦闘で破壊されて墓地に送られた破面竜の効果、そして竜星の具象化の効果を発動するわ！」


チェーン2（綾香）：竜星の具象化
チェーン1（綾香）：破面竜


「まずはチェーン2の竜星の具象化により、炎竜星-シュンゲイを、チェーン1の破面竜の効果でデッキから守備力1500以下の幻竜族モンスター、タツノオトシオヤをそれぞれ攻撃表示で特殊召喚する！！」
「タツノオトシオヤ……バトルフェイズを終了。メインフェイズ2に移り、フィールド魔法、星龍皇の聖域の2つ目の効果を発動するわ。手札または墓地から星龍皇モンスター1体をゲームから除外することで相手フィールドに表側表示で存在する魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。私は墓地の星龍皇 ウィルムアンサルをゲームから除外し、竜星の具象化を破壊する」
「条件付きとはいえ、能動的にカードを除外しつつフィールドの魔法・罠カードを破壊できるって……」
「まあ今更な話だけどね。ゲームから除外されたウィルムアンサルの効果。デッキから星龍皇 エルタウィルムをゲームから除外するわ。これで……ターンエンドよ」


綾香　LP7000　手札：1
デッキ：24　モンスター：2（タツノオトシオヤ、炎竜星-シュンゲイ）魔法・罠：1（竜魂の幻泉）墓地：18　除外：1
遊希　LP3200　手札：4
デッキ：25　モンスター：2（真星龍皇 ドラコニスウィルム ORU:2、星龍皇 ウィルムプリムス）魔法・罠：3（星龍皇の聖域、星龍皇翔破）墓地：9　除外：4


☆TURN13


「私のターン、ドロー！……遊希、このデュエル貰ったわ！ まずはフィールドのタツノオトシオヤの効果を発動！ 自身のレベルを1つ下げることでフィールドにタツノコトークン1体を特殊召喚できるわ」

タツノオトシオヤ 星7→6　タツノコトークン1体生成

「そしてこの効果は1ターンに3回まで使用することができる。さらにレベルを2つ下げて、タツノコトークン2体を特殊召喚するわ！」

タツノオトシオヤ 星6→4　タツノコトークン2体生成

　綾香のフィールドがタツノオトシオヤの効果で全て埋まる。タツノオトシオヤの素のレベルは7と高く、シンクロ召喚のためのチューナーモンスターにはやや不向きであるのだが、自身の効果によって5から7までのシンクロ召喚が可能になるのだ。
　最もタツノオトシオヤは破面竜などの幻竜族モンスターの効果に頼らなければ特殊召喚できない、という欠点こそあるが、幅広いレベルのシンクロ召喚を行えるという利点はそれを補って余りあるものであった。

「行くわ！ これが私が―――この1年間で学んだシンクロ召喚の集大成よ！！ まずはレベル1のタツノコトークンにレベル4となったチューナーモンスター、タツノオトシオヤをチューニング！“飽くなき速さを求めるものよ。今次元の壁を突き破り、新たな境地へと到達せよ！”シンクロ召喚！ 駆け抜けよ、シンクロチューナー！ アクセル・シンクロン！！」
「シンクロチューナー、アクセル・シンクロン……やっぱり、あんたの狙いは……」
「アクセル・シンクロンの効果を発動！ デッキからシンクロンモンスター1体を墓地に送り、そのモンスターのレベル分このカードのレベルを下げる。私が墓地に送るのはレベル1のジェット・シンクロン！」

アクセル・シンクロン 星5→4

「そしてレベル4の炎竜星-シュンゲイにレベル4のチューナーモンスター、アクセル・シンクロンをチューニング！“ 限界を超えた速さの力を得て竜は天に昇る。光り輝く星となって降臨せよ！” シンクロ召喚！ 力を貸して―――輝竜星-ショウフク！！ ショウフクのシンクロ召喚に成功した時、その効果が発動！ このカードのシンクロ召喚のための素材にした竜星モンスターの属性の数だけフィールドのカードを持ち主のデッキに戻すわ！ 戻すのはドラコニスウィルム！」
「させない！ その効果にチェーンして真星龍皇 ドラコニスウィルムの効果を発動！」


チェーン2（遊希）：真星龍皇 ドラコニスウィルム→輝竜星-ショウフク
チェーン1（綾香）：輝竜星-ショウフク


「ドラコニスウィルムのオーバーレイユニットを1つ取り除き、このターンの終了時まで星龍皇をあらゆる破壊から守り、相手のカードの効果を受けなくする！！」
「さすがね。でもこれで終わりじゃないわ！ ショウフクの2つ目の効果を発動！ フィールドのカード1枚を破壊して墓地からチューナーモンスター1体を特殊召喚するわ！ 私はフィールドの竜魂の幻泉を破壊し、墓地からジェット・シンクロンを特殊召喚！」

　ラスタウィルムの効果によって発動を無効にされていたことでフィールドに残り続けていた1枚目の竜魂の幻泉。もうその効果を発動することはない、と無意味に残り続けていたそのカードを放置していたツケがここで回ってきた。

「レベル1のタツノコトークンにレベル1のチューナーモンスター、ジェット・シンクロンをチューニング！“天空に輝く星々の光よ。集いし願いを胸に秘め、見果てぬ道を切り拓け！”シンクロ召喚！！ 希望の力！ シンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロン！ フォーミュラ・シンクロンのシンクロ召喚に成功した時に効果発動！ デッキからカードを1枚ドローするわ！ そして手札1枚を墓地に送り、墓地のジェット・シンクロンの効果を発動！ このカードをフィールドに特殊召喚！ そして最後のタツノコトークンにジェット・シンクロンをチューニング！」
「この1ターンで何度シンクロすれば気が済むのよ……」
「ごめんね、長かったかしら？ でももうすぐ終わるから！“漆黒の翼に隠すは雨に濡れし小さき刃。雨中の空に鮮やかに舞い、全てを斬り裂け！”シンクロ召喚！ A BF-雨隠れのサヨ！！」

　綾香のフィールドにシンクロ召喚されたのはレベル8の輝竜星-ショウフク、レベル2のA BF-雨隠れのサヨ、そしてレベル2のシンクロチューナーであるフォーミュラ・シンクロンの3体。
　そしてこの3体のレベルの合計は12。遊希はかつて精霊界で綾香が遊望と対峙していた時、この布陣を朧げではあるが、覚えていた。そしてこのシンクロ召喚によって綾香は精霊・閃珖竜 スターダストの中に眠る彼女の真の力を解放させたのである。

「遊希、見てて。これが今の私ができる―――最高のシンクロ召喚よ！！」





―――私はレベル8のシンクロモンスター、輝竜星-ショウフクとレベル2のシンクロモンスター、A BF-雨隠れのサヨに！ レベル2のシンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロンをチューニング！！―――










　ショウフクとサヨの身体は10個の光へと変わり、天へ昇っていく。そしてチューナーモンスターであるフォーミュラ・シンクロンは自身の身体についた4本の車輪を高速回転させては自身の身体を閃光に変えては同じように天へと昇る。
　フォーミュラ・シンクロンが変化した金色の2つのリングとショウフクとサヨが変化した10個の星が極限の力で一つとなり、12の星となって神たる光の竜を呼び覚ます。5度のシンクロ召喚を経た上で現れるこの力こそ、精霊と共に歩んだ綾香の成長の証かつ精霊との絆の象徴であった。











―――“白き星の竜に眠りし真の力が目覚める時、天空に星の輝きが満ち溢れる。古の天に輝きし星々よ！ 今眩き雨として降り注ぎ、神となりて生まれ変われ！ 皆の絆を1つに！！”―――











―――リミットオーバー・アクセルシンクロ！！―――










―――今、この地に舞い降りよ！！―――










―――聖珖神竜 スターダスト・シフル！！―――










「……これが……聖珖神竜 スターダスト・シフル……」

　優しくも力強い、例えるならそのように表現されそうな力を光と変えて放つスターダスト・シフル。
　遊希は綾香やエヴァからこのモンスターについての話は聞いていたが、デュエルにおいて直接目にするのは初めてであった。白く美しい身体に神の名を冠するに相応しい神々しさ、スターダスト・シフルこそまさに綾香の持つ閃珖竜 スターダストの中に眠っていた真の力を解放したモンスターと言えるのだ。

「……デュエルの途中だっていうのになんか見惚れちゃった。綾香、凄いね」
「未だに実感湧かないんだけどね……前までのように声を聞くこととか会話することはできないんだけど、それでも確実に言えることがあるわ。それは、私とスターダスト・シフルもあんたの光子竜やエヴァちゃんのスカーレッド・ノヴァ・ドラゴンと同じように離れていても心は、絆は繋がっているってこと！ メインフェイズ1を―――」
「メインフェイズ1終了前にリバースカードオープン！ 速攻魔法、星龍皇輪廻を発動！」
「そのカードは……」
「フィールドの星龍皇1体をゲームから除外し、そのモンスターの元々の攻撃力分私のライフを回復する！ ゲームから除外するのはウィルムプリムスよ！」

遊希 LP3200→4900

「これでスターダスト・シフルのダイレクトアタック1回だけじゃ倒せなくなったわね。でも、それが目的じゃない」
「星龍皇と名のついたカードによってゲームから除外されたウィルムプリムスの効果を発動！ フィールドに表側表示で存在するモンスター1体を持ち主の手札に戻すわ！ 対象はスターダスト・シフル！！」
「無駄よ！ その効果にチェーンしてスターダスト・シフルの2つ目の効果を発動するわ！！」

　スターダスト・シフルの右手からは光が満ち溢れ、魔法陣のようなものが形成される。そしてその魔法陣から放たれた閃光は空間の壁を突き破り、ウィルムプリムスからその力を奪い去った。


チェーン2（綾香）：聖珖神竜 スターダスト・シフル→星龍皇 ウィルムプリムス
チェーン1（遊希）：星龍皇 ウィルムプリムス


「チェーン2のスターダスト・シフルの2つ目の効果！ モンスターの効果の発動を無効にし、フィールドに存在するカード1枚を選んで破壊するわ！ 破壊するのはドラコニスウィルム！」
「……チェーン1のウィルムプリムスの効果は無効。でもフィールドの星龍皇カードはドラコニスウィルムによって守られているから破壊されない！」
「それでもこれでスターダスト・シフルを邪魔するものはいなくなったわ！ バトル！！ 聖珖神竜 スターダスト・シフルで真星龍皇 ドラコニスウィルムを攻撃！！」





―――“超新星撃（シューティング・ノヴァ・ブラスト）！！”―――





聖珖神竜 スターダスト・シフル ATK4000 VS 真星龍皇 ドラコニスウィルム ATK3300

「ドラコニスウィルムはこのターン、自身の効果によって破壊されない！！」
「でも戦闘ダメージは発生するわ！ 双方の攻撃力の差、1000ポイントのダメージを受けなさい！！」

遊希 LP4900→4200

「くっ……きゃああっ！！」

　ドラコニスウィルムの効果はこのターンの終了時まで持続するため、遊希のこのターン内での敗北はない。しかし、星龍皇の力で守られていてもその守りを上回りかねないほどの力で綾香とスターダスト・シフルは攻めてくる。星龍皇輪廻の効果で一時は盛り返したライフも戦闘ダメージによってじわじわとではあるが、削られてしまった。
　ドラコニスウィルムの効果は確かに強力無比であるが、その効果にも抜け道はある。その抜け道において最も大きなものはドラコニスウィルムのその効果の発動自体をさらに別のカードで無効にしてくることだ。スペルスピードを上回るカウンター罠はもちろん、スターダスト・シフルのようなモンスター効果の発動を無効にする類の効果を発動されてしまえば、その加護は及ばない。
　もし次の遊希のターンでスターダスト・シフルを退けるだけのカードを引けなければ、スターダスト・シフルにドラコニスウィルムは確実に破壊されるだろう。そしてさらに次のターンにおいても有効打を見いだせない場合は―――全てが泡と消える。

（……ドラコニスウィルムの破壊から守る効果を発動すれば、スターダスト・シフルによって無効化されて追加効果でドラコニスウィルムが破壊される。そして無効効果もそうだけど、スターダスト・シフルは1ターンに1度戦闘および効果での破壊を受け付けない。そんなモンスターを倒せるカードは……私のデッキには……）

　ハンドアドバンテージでは勝っている遊希であったが、対処できないモンスターを出されてしまえばその手札もただの紙である。

「私はこれでターンエンドよ。遊希、私の全力……スターダスト・シフルの力はまだまだこんなものじゃないんだからね！」


綾香　LP7000　手札：2
デッキ：21　モンスター：1（聖珖神竜 スターダスト・シフル）魔法・罠：0　墓地：21　除外：2
遊希　LP4200　手札：4
デッキ：25　モンスター：1（真星龍皇 ドラコニスウィルム ORU:1）魔法・罠：2（星龍皇の聖域、星龍皇翔破）墓地：11　除外：5


☆TURN14


「私の……ターン……」

　遊希のターンとなったため遊希はデッキのカードをドローしようとする。しかし、引かなければという彼女の意志に反して遊希の手はカードをドローすることができなかった。
連戦における疲労もそうだが、綾香のスターダスト・シフルの存在が遊希の精神を追い込み、彼女の闘おうとする意志を、彼女の心を折ろうとしていた。

「遊希……？」
（あれ、なんで……私、どうしてドローできないの……）

　カードを持つ手が震える。元々メンタル面はあまり強くない遊希であるが、それでもデュエルからは逃げないようにということを心掛けてきた。
　自分のような人とは違う過去を持っている人間を、デュエルモンスターズの精霊というものをその身に宿した自分を、そして精霊の姿に変貌した自分を。そんな自分を支えてくれている多くの人のためにもこのデュエルを最後までやり遂げると思い、遊希はこのデュエルに臨んでいた。

（そんな……みんなが応援してくれている。みんなが支えていてくれるのに……私は……）
「ねえ、遊希。あのデュエルのこと、覚えてる？」
「あのデュエル？」
「あれももう1年前になるのかな。千夏が火野君とトラブルを起こしてデュエル禁止になった時あったじゃない？」

　入学式の後に開かれた新入生懇談会で千夏は遊希と綾香に対する根も葉もない噂について喋っていた火野 孝輔ら同級生の男子とトラブルを起こして3日間のデュエル禁止という処分を下されたことがあった。
　その処分明けに遊希はルームメイトとなった千夏・詩織と初めてデュエルをして2戦とも勝利を収めているのだが、そのデュエルの最中、遊希はあまりデュエルに乗り気ではなかった当時の詩織にある言葉をかけていた。

「遊希さ、サレンダーしようとした詩織に言ったよね。「サレンダーをするのであれば、デッキの上のカードをドローしてからしよう」って」
「……！」
「私ね、デュエルをする時はその言葉をいつも忘れないようにしているの。例えどんな結果になろうとも、残された可能性を自分から捨ててしまうようなことはしないようにしようって」
「綾香……」

　遊希は手札のカードを床に置くと、手ぶらになった両手で両の頬を同時に勢いよく叩いた。

「ちょっ、遊希！？」
「……痛い」

　涙目になりながら赤く腫れた頬を抑える遊希。遊希のことはだいぶわかってきた綾香であったが、遊希のその行動は流石に理解できなかった。

「いや、そりゃそうでしょ。ましてや今のあんたは精霊になってるんだから力強いんだし……」
「うん。でも、そのおかげで気づけた。私、大事なこと忘れてたよ。私はどんな姿になっても、どんな境遇にあったとしても天都 遊希っていう人間で、デュエリストだってことを。デュエリストはデュエルにおいては最後の最後、自分のライフが0になるまで諦めちゃいけないって。ありがとう、綾香。私……思い出せたよ」
「遊希……あれ、遊希……そのデッキ……？」

　遊希の言葉に顔を綻ばせた綾香であるが、そんな中、遊希のデッキの一番上のカードが光っているのに気が付いた。

「……これは、あの時と同じ……」

　かつて遊希とエヴァが手を組んで遊望に操られたジェームズとデュエルをした時のことを思い出した。
　あの時もデッキの一番上のカードが光り輝いており、そのカードが救世竜 セイヴァー・ドラゴンとなり、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトをセイヴァー・デモン・ドラゴンへと進化させてはジェームズを洗脳から解放させた。あの時と同じ、いやあの時以上の力を遊希はカードを握る手から感じていた。

（このカード……凄い力が伝わってくる。でも、私はこの力を―――知っている！！）





―――私のターン！！ ドロォーッ！！―――






　遊希の決意のドロー。そのカードをドローした瞬間、遊希と対峙している綾香およびデュエルスペースの脇でデュエルをじっと見守ってきた千夏・詩織・エヴァの3人の眼にはあるものが映っていた。そして4人はそのものを知っていた。なぜならば―――










―――それは、自分たちが人間界に戻る瞬間に見た白い龍だったから―――