第172話：未来を賭けた戦い・1　作：光芒

「精霊皇……希望皇ホープ……」

　「39」の数字を享けた精霊。それが精霊皇であるNo.39 希望皇ホープである。「Hope」＝「希望」の名を持ってこの世に生を受けた彼は元々はどこにでもいる平凡な精霊であったが、やがてその中に眠る大きな力を開花させ、精霊皇の地位へと昇り詰めた。
　しかし、ホープは決して権威や権力を求めているのではない。彼が生まれた当時はこの精霊界を治める絶対的な存在がなかったため、精霊同士が争い合っていた。その状況を憂いた彼は自らが他のNo.たちを率いて混沌としていた精霊界を1つにまとめたのである。
　そのため戦乱に荒れる精霊界を知る精霊たちからしてみれば、ホープはまさに英雄と呼んで差し支えない存在であり、それが後々の精霊界を担っていく若い精霊たちにも受け継がれていった。

「よもや、このような形で精霊界以外の生命と邂逅することになるとはな。できればもっと違う形で出会いたかった」
「どういう意味かしら？」
「……光子竜をはじめ、多くの精霊たちが人間と絆を結ぶことでより高い位置へと辿り着いているということは知っている。星乃 綾香、君と閃珖竜 スターダストのように」
「精霊皇……あなたは人間界についても理解があるようね。ねえ、何故あなたはあんな手段に行き着いたの？」

　決戦への覚悟はついていた遊希であったが、まずは精霊皇との対話を選択した。光子竜たちの話を聞く限り、精霊皇という存在は全く話の通じないような相手ではないことはわかっていた。
　そのため無用な戦いを避けた上で全てを丸く収められるのならばそれに越したことはないからだ。しかし、そんな遊希の思惑が精霊皇に通じることはなかった。

「……精霊界を守るためだ」
「精霊界を守るために、他の世界を滅ぼすことに……躊躇いはないの！？」
「っ……」

　遊希の問い詰めにホープは一瞬たじろぐ様子を見せる。彼も精霊界を守るためとはいえ、他の世界を滅ぼすということに抵抗があるようだった。しかし、それはあくまで希望皇ホープという一個の精霊としての感情であり、精霊皇である希望皇ホープとしてのそれとは違う。

「……やむを得ないのだ。私は精霊界を治める者、精霊界のためならば、何をも行う。それが罪であるとするならば……喜んで地獄に落ちよう！」

　精霊皇の覚悟は本物だ。それを理解した遊希は覚悟を決めた。

「……あなたとなら、分かり合えると思っていた。でも、やはり無理のようね！！」
―――時空竜、覚悟はいいか？
―――ここで躊躇うくらいなら、初めから来ていない。

　そう言って遊希はデュエルディスクを構えた。遊希たちとホープが話し合いで何か解決してくれることを少なからず望んでいた光子竜と時空竜だったが、それが叶わぬと見るや2体はその姿をカードに変えて遊希の手に収まる。

「光子竜、時空竜……お前たちと刃を交えなければいけないとはな。だが、精霊界のために私は退くわけにはいかんのだ！！」

　光に包まれたホープの身体は遊希や綾香と同年代、もしくは少し年下くらいの少年へと姿を変える。金色の逆立った髪に白と金を基調とした高尚な鎧をまとったまさに世界を統べる皇者に相応しい姿だった。

「人間の姿を取るのは久しぶりだな……だが、どのような姿であっても私のすることは変わらない」
「……精霊皇、せめてデュエルくらいは後腐れのないものにしましょう？」
「ああ。真剣勝負だ、天都 遊希よ！！」
「「デュエル！！」」

　人間界と精霊界。2つの世界の未来を賭けた戦いの火蓋が切って落とされた。



遊希　LP8000　手札：5枚　
デッキ：40　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0
ホープ　LP8000　手札：5枚
デッキ：38　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0



☆TURN01


「わざわざこのようなところまで来たのだ。先攻は君が取ると良い」
「……本当だったら嘗めないで、と怒っていたけど今回ばかりはことがことだもの。ありがたく頂くわ」

　遊希もこの一戦の重さを理解していた。それだけに少しでも有利なフィールドを築けるのなら、先攻を頂けるとあれば断る理由など無かった。

（精霊の皇……力もデュエルのタクティクスも精霊界最強ってことよね？）
―――ああ。後者はともかく前者は該当する。
「だったら出し惜しみしない、全力で行くわ！ 私は手札から魔法カード、ギャラクシー・トレードを発動！ 手札のギャラクシーモンスター、銀河眼の光子竜を墓地に送り、2枚ドロー！！ そして手札の銀河新星を墓地に送り、銀河戦士の効果を発動！ このカードを表側守備表示で特殊召喚するわ！ そして特殊召喚に成功した銀河戦士、手札から墓地に送られた銀河新星の効果を発動！！」


チェーン2（遊希）：銀河新星
チェーン1（遊希）：銀河戦士


「銀河新星の効果でデッキからギャラクシーの魔法・罠カード1枚を手札に加える。デッキからサーチするのは銀河遠征、そして銀河戦士の効果でデッキからギャラクシーモンスター、銀河騎士を手札に加えるわ！」
「先攻はドローができないというルールだったな。しかし、それでもカードの効果デッキを大きく回転させてきたか」
「言ったでしょう？ 全力だって。自分フィールド上にギャラクシーと名のついたモンスターが存在する時、手札から銀河騎士をリリースなしで召喚！ そして妥協召喚に成功した銀河騎士の効果が発動し、銀河騎士の攻撃力をこのターンの終了時まで1000下げて墓地に存在する銀河眼の光子竜1体を表側守備表示で特殊召喚する！」

　銀河騎士の効果で守備表示ながら、遊希が宿す精霊の1体である銀河眼の光子竜がフィールドに現れる。防御態勢を取っているが、対峙するホープを見つめる光子竜の瞳は闘志と覚悟に満ち溢れていた。

「そして手札から魔法カード、銀河遠征を発動！ デッキからレベル5以上のギャラクシー1体を特殊召喚する。来なさい、2体目の銀河戦士！！」
「レベル8とレベル5のモンスターが2体ずつ……エクシーズ召喚か」
「私はレベル5の銀河戦士2体でオーバーレイ！ 2体の機械族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！！“機光の竜は時を経て新たな進化を遂げる。仲間の命をもってその力を解放せよ！”機動せよ、サイバー・ドラゴン・ノヴァ！！」

　無機質な咆哮をあげる機械の竜。だが、その進化の到達点はそこではない。

「サイバー・ドラゴン・ノヴァ……なるほど、そう来るか」
「……さらに私はランク5のサイバー・ドラゴン・ノヴァでオーバーレイ！ 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築。エクシーズ・チェンジ！“機光竜の進化は留まらない、無限の命と無限の力を得て飛翔せよ！”サイバー・ドラゴン・インフィニティ！」

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:3 ATK2100→2700

　遊希のフィールドにエクシーズ召喚されたサイバー・ドラゴン・インフィニティ。高い制圧力を誇るモンスターであり、その強さはデュエリストなら誰もが知っているモンスターだ。
　遊希のデッキにはレベル5の機械族モンスターである銀河戦士が存在しているため、普通ならば召喚することすら難しいこのモンスターを容易にエクシーズ召喚することができる、という強みがあった。

「まだよ！ 私はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河騎士でオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚！！」

　遊希の手に握られていたのは、今わの際にあった遊望から受け取ったカードのうちの1枚だった。

（遊望、あなたから受け取ったこの力……早速使わせてもらうわ！！）
「“大いなる翼を持ちし竜は希望の銀河を往く。光輝く未来に続く道筋の魁となれ！！”目覚めなさい！―――“No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー”！！」

　「38」という数字と共に現れたのはまるで蝶や蛾のような美しくも巨大な翼を持った竜のようなモンスターだった。希望の魁となるべく、遊望から受け取ったNo.の1体。それがこのNo.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシーである。


※No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー
エクシーズ・効果モンスター
ランク8/光属性/ドラゴン族/攻3000/守2500
レベル8モンスター×2
(1)：1ターンに1度、魔法カードの効果がフィールドで発動した時に発動できる。その効果を無効にし、そのカードをこのカードの下に重ねてX素材とする。
(2)：相手モンスターの攻撃宣言時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。攻撃対象をこのカードに移し替えてダメージ計算を行う。
(3)：自分フィールドのXモンスターが戦闘・効果で破壊された場合、自分フィールドのXモンスター1体を対象として発動できる。対象のモンスターの攻撃力は、破壊されたそのモンスター1体の元々の攻撃力分アップする。


「No.か……まさかこう易々と自らの力にするとは……」
「すごい……すごいよ遊希！！」
「……私はカードを1枚セット。これでターンエンドよ」


遊希 LP8000　手札：2枚　
デッキ：35　モンスター：2（No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー ORU:2、サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:3）魔法・罠：1　墓地：3　除外：0
ホープ LP8000　手札：5枚
デッキ：38　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0


☆TURN02


「なるほど、1ターン目からNo.とサイバー・ドラゴン・インフィニティ……君の実力は本物だ。認めようか」
「それはどうも、まあ今褒められてもそんな嬉しくないけど」
「君が全力を出したのだ。ならば私も全力で応えよう、私のターン。ドロー」

　後攻のホープはドローしたカードを手札に加える。カードをドローする瞬間の彼の表情を注意深く見ていた遊希であるが、彼の表情には一切の変化が見られなかった。そのためドローしたカードが彼にとってどのようなカードなのかを推測する、ということができなかった。

「私は手札から魔法カード、ブラック・ホールを発動。フィールドのモンスターを全て破壊する」
「いきなり……させない。私はフィールドのタイタニック・ギャラクシーの効果を発動！“消滅のスケイルズ・ストーム”！！」

　タイタニック・ギャラクシーの翼からは鱗粉のような光が放たれ、ホープが発動したブラック・ホールを取り込んだ。


チェーン2（遊希）：No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー→ブラック・ホール
チェーン1（ホープ）：ブラック・ホール


「タイタニック・ギャラクシーは1ターンに1度、魔法カードの発動を無効にし、自身のオーバーレイユニットに変換できる」
「……つまりブラック・ホールは無効ということか」

No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー ORU:2→3

「ならば次の手だ。私は手札から“希望星 アウストラリス”を召喚」
「【希望星】……？」

　ホープのフィールドに召喚されたのは弓を持った人馬のような光り輝くモンスターであった。精霊皇の従者にして、精霊皇の化身を降臨させるために動く者たち。それが精霊皇の操る【希望星（きぼうせい）】というモンスターだ。


※希望星（きぼうせい）アウストラリス（オリジナルカード）
効果モンスター
星4/光属性/獣戦士族/攻1700/守1100
(1):このカードの召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。自分のデッキから「希望星」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える。
(2):このカードをX素材としている「希望皇ホープ」と名のついたXモンスターは以下の効果を得る。
●1ターンに1度、自分のデッキから「ZW」と名のついたモンスター1体を手札に加える。


「希望星 アウストラリスの効果を発動。このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、自分のデッキから「希望星」と名のついたモンスター1体を手札に加える」
「サーチャー……させない！ アウストラリスの効果にチェーンしてサイバー・ドラゴン・インフィニティの効果を発動！ オーバーレイユニットを1つ取り除き、カードの効果の発動を無効にして破壊するわ！」


チェーン2（遊希）：サイバー・ドラゴン・インフィニティ→希望星 アウストラリス
チェーン1（ホープ）：希望星 アウストラリス


「サイバー・ドラゴン・インフィニティの効果でアウストラリスは破壊される」

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ORU:3→2　ATK2700→2500

「通常召喚権はこれで消費した。このターン、あなたはもう動けない」
「……私は手札から魔法カード“スピカの祈り”を発動する」


※スピカの祈り（オリジナルカード）
通常魔法
(1):自分の墓地に存在する「希望皇ホープ」「希望星」「ZW」と名のついたモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。


「スピカの祈りの効果で墓地のアウストラリスを特殊召喚する！ そして手札の“希望星 エスカマリ”は自分フィールド上に「希望皇ホープ」「希望星」「ZW」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、手札から特殊召喚できる」


※希望星 エスカマリ
効果モンスター
星4/光属性/機械族/攻0/守2200
(1):自分フィールド上に「希望皇ホープ」「希望星」「ZW」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。
(2):このカードをX素材としている「希望皇ホープ」と名のついたモンスターは以下の効果を得る。
●このカードのX召喚に成功した時、デッキからカードを1枚ドローする。


ホープのフィールドには弓を持った人馬のようなモンスターと、天秤のようなモンスターの2体が存在する。この2体のレベルはそれぞれ4。エクシーズ召喚のための条件を満たしていた。

「レベル4のモンスターが2体……」
―――来るぞ、遊希！！
「私はレベル4の希望星 アウストラリスと希望星 エスカマリでオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚！！」










―――その背に背負うは希望。その手に握るは精霊界の未来。数多の願いを宿し降臨せよ！―――









―――我が化身！！ “No.39 希望皇ホープ”！！―――










　天空より現れた光り輝く大剣のようなモンスターが展開し、やがて光を纏った戦士へと姿を変える。No.39 希望皇ホープが―――精霊皇の化身が―――今、この戦場に降臨した。