第18話：祝祷の聖歌　作：光芒

　なし崩し的に遊希とデュエルをすることになってしまった詩織。綾香と千夏に引っ張られてきた時は半泣き状態であったが、後に引けないと察するや否や彼女の眼にも力が宿る。
　彼女自身はデュエルは苦手だ、と言っていたがそれでもこの学校に入るための厳しい試験を突破してここまで来た一デュエリスト。相当の腕前は持っていると見て間違いないだろう。

「さてデュエルディスクは……あら、また？」

　デュエルディスクによって先攻後攻の決定権は詩織に与えられる。さすがに嫌われ過ぎじゃない、と遊希は不満に思った。まあデュエルディスクが意思を持っているなんてそんなことはない……と精霊のカードを持つ遊希には言い切れないのだが。

「詩織、先攻後攻はどうするの？」
「あ、じゃあ私は後攻で……」
「そう？ じゃあ先攻は私がもらうわ」

　先攻には最初のドロー権は与えられず、バトルフェイズも行えないというデメリットがあるが、相手の罠カードを気にせずモンスターを展開できるというメリットもある。
　また自分が展開した後に“虚無空間”などの強力なメタカードを発動することで一方的にビートダウンをする戦法を取ることも可能であり、それらコンボが決まった場合はワンサイドゲームでデュエルが終わることも少なくない。
　最も先攻絶対有利というわけではなく、遊希の使う銀河悪魔のように特殊召喚が可能なモンスターが入っている場合それらのモンスターの特殊召喚能力を活かすために敢えて後攻を選択するという手もあるのだが。


「「デュエル（です）！」」



遊希　LP8000　手札:5
デッキ:40　モンスター:0　魔法・罠:0　墓地:0　除外:0
詩織　LP8000　手札:5
デッキ:35　モンスター:0　魔法・罠:0　墓地:0　除外:0



☆TURN01

（……このカードが初手に来るなら後攻の方がよかったわね……まあいいや、第2の効果は使える）
「手札から銀河悪魔を召喚。銀河悪魔の1つ目の効果は自身の効果で特殊召喚した時にしか発動できないけど、2つ目の効果は発動可能よ。銀河悪魔の2つ目の効果、手札の「ギャラクシー」モンスター1体を墓地に送ることでこのカードのレベルを4つ上げる。私は手札の“銀河の冥府竜”を墓地に送って発動するわ」
「ま、待ってください。その効果にチェーンして手札の“エフェクト・ヴェーラー”を墓地に送って効果を無効にします」


※エフェクト・ヴェーラー
チューナー・効果モンスター
星1/光属性/魔法使い族/攻0/守0
(1):相手メインフェイズにこのカードを手札から墓地へ送り、相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。


「これで銀河悪魔のレベル変動効果は無効です」
「でも墓地に送られた銀河の冥府竜の効果は発動するわ」


※銀河の冥府竜（ギャラクシー・ニーズヘッグ/オリジナルカード）
効果モンスター
星8/光属性/ドラゴン族/攻2600/守0
(1):このカードが「ギャラクシー」と名のついたカードの効果で墓地に送られた時、自分のデッキから光属性モンスター1体を墓地に送ることができる。
(2):自分の墓地に存在する光属性モンスター2体をゲームから除外することで、このカードは墓地から特殊召喚できる。


「銀河悪魔の効果で墓地に送られた冥府竜の効果でデッキから銀河新星を墓地に送る。そしてデッキから墓地に送られた銀河新星の効果でデッキから「ギャラクシー」と名のついた魔法・罠カード1枚を手札に加える。私は罠カードの銀河割断を手札に加えるわ。最後にカードを2枚セットしてターンエンドよ」


遊希　LP8000　手札:2
デッキ:38　モンスター:1（銀河悪魔）魔法・罠:2　墓地:2　除外:0
詩織　LP8000　手札:4
デッキ:35　モンスター:0　魔法・罠:0　墓地:1　除外:0


☆TURN02

「わ、私のターンです。ドロー……速攻魔法、サイクロンを発動します。破壊するのは私から見て右側のカードです」

　詩織の発動したサイクロンで遊希のセットしたカウンター罠の銀河割断が破壊される。フィールドにギャラクシーモンスターがいる時に発動できるカウンター罠のため、相手の展開を阻害出来るこのカードを破壊されるのは遊希にとっては痛手だった。

「え、えーと……このカードを発動していいんでしょうか……」
「何？ 禁止カードとかを使っているわけじゃないんだし遠慮する必要ないわ」
「では……“手札抹殺”を発動します」


※手札抹殺
通常魔法（制限カード）
お互いの手札を全て捨て、それぞれ自分のデッキから捨てた枚数分のカードをドローする。


「互いに手札を全て捨ててそれぞれ今捨てた分のカードをドローします。私は4枚ドローですね」
「私は2枚ドローよ」

　手札抹殺は一気に手札を交換するだけではなく墓地も肥やせるパワーカード。しかしリターンも多ければリスクも多いので使用デッキは限られる。
　墓地に捨てることでカードの効果が発動するモンスターも存在するが、今捨てた瞬間発動したことは無かったので、それらのモンスターを使ったデッキではないことが推察される。強いて言えば墓地に捨てたカードには数枚モンスターが含まれていたのは確認できた。

（あのモンスター……よく見えなかったけど効果モンスターであることはわかったけど……）
―――どちらにしても注意が必要だな
「……あ、もう揃ってしまいました」

　揃った、という詩織の言葉に遊希の背中には嫌な汗が流れる。デュエルモンスターズにおいては手札に特定のカードを揃えることで勝利が決まる【エクゾディア】というモンスターがおり、大量のドローカードを用いてエクゾディアを完成させるための5枚のパーツを手札に揃える特殊勝利デッキも存在するからだ。
　いくら攻撃力に自信のある銀河眼と言えどもエクゾディア相手では話にならない。最もわずか1ターンでエクゾディアを揃えるなどよほどの豪運でもない限り不可能なのであるが。

「揃った？ まさかエクゾディアとか言わないわよね？」

　そんなわけないよね、と思いながら一応聞いてみる遊希。詩織はまさか、と勢いよく首を横に振る。

「い、いえ、実際にこのデッキを回しているとサーチカードもなしにこの2枚のカードが揃うことが少なかったので……では、儀式魔法“祝祷の聖歌”を発動します」


※祝祷の聖歌
儀式魔法
「竜姫神サフィラ」の降臨に必要。
(1):自分の手札・フィールドから、レベルの合計が6以上になるようにモンスターをリリースし、手札から「竜姫神サフィラ」を儀式召喚する。
(2):自分フィールドの儀式モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。


「儀式魔法！？」
「私は墓地のレベル3の“儀式魔人リリーサー”と“儀式魔人デモリッシャー”をゲームから除外することでサフィラの儀式召喚のためのリリース素材とします」
（リリーサーにデモリッシャー……さっきの手札抹殺で墓地に送られていたカード……）
「“天より舞い降りし竜姫、救いを求めるものに慈悲を、抗うものに神罰を下さん”儀式召喚！ 聖歌を奏で降臨せよ“竜姫神サフィラ”！！」


※竜姫神サフィラ
儀式・効果モンスター
星6/光属性/ドラゴン族/攻2500/守2400
「祝祷の聖歌」により降臨。
「竜姫神サフィラ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが儀式召喚したターンのエンドフェイズ及び、このカードがモンスターゾーンに存在し、手札・デッキから光属性モンスターが墓地へ送られたターンのエンドフェイズに、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●自分はデッキから2枚ドローする。その後、手札を1枚捨てる。
●相手の手札をランダムに1枚選んで墓地へ捨てる。
●自分の墓地の光属性モンスター1体を選んで手札に加える。


「2体の儀式魔人を儀式のための素材とした竜姫神サフィラはリリーサーとデモリッシャーの恩恵を受けます」


※儀式魔人リリーサー
効果モンスター
星3/闇属性/悪魔族/攻1200/守2000
(1):儀式召喚を行う場合、その儀式召喚に必要なレベル分のモンスター1体として、墓地のこのカードを除外できる。
(2):このカードを使用して儀式召喚したプレイヤーから見て相手は、儀式召喚したそのモンスターがモンスターゾーンに表側表示で存在する限り、モンスターを特殊召喚できない。

※儀式魔人デモリッシャー
効果モンスター
星3/闇属性/悪魔族/攻1500/守600
(1):儀式召喚を行う場合、その儀式召喚に必要なレベル分のモンスター1体として、墓地のこのカードを除外できる。
(2):このカードを使用して儀式召喚したモンスターは相手の効果の対象にならない。


「っ……！」
―――これはしてやられたな……

　竜姫神サフィラの降臨はさすがに予想外だったのが遊希の顔からは笑みが消え、逆に焦りが見え始める。
しかしそれはサフィラというよりもサフィラの儀式召喚のために用いられた儀式魔人2体の効果が原因であった。

「これにはさすがの遊希も参ったって感じね……」
「えっ、何がまずいのよ。サフィラの攻撃力は2500よ？ 決して高くはないじゃない？」
「あんたねぇ、HERO使いのくせに攻撃力しか見てないの？ サフィラ自身も強力な効果を持っているけど何より厄介なのは儀式の生け贄にした儀式魔人よ？ リリーサーを儀式の生け贄にするとその儀式モンスターが表側表示で存在する限り相手は特殊召喚が封じられる。それでいてデモリッシャーを儀式の生け贄とするとその儀式モンスターは相手の対象を取るカードの効果を受けないのよ」
「ってことは……！」
「つまり遊希は特殊召喚を封じられ、対象を取る効果のカードではサフィラを倒せなくなったってことよ。それに祝祷の聖歌は墓地の自身を除外することで一度だけ儀式モンスターを破壊から守る。一度限りの“ブラックホール”や“激流葬”も通用しない。かなり強固な布陣よ」

　遊希のギャラクシーデッキは銀河眼の光子竜を始めとした高レベルのモンスターが多く、それらのモンスターを下級モンスターや魔法カードの効果で特殊召喚し、戦線を整えるというもの。
　しかしリリーサーの効果で特殊召喚を封じられてしまえば、フィールドに出せるのはサフィラより攻撃力の低い下級モンスターばかり。光子竜はアドバンス召喚こそできるものの、相手の攻撃を防ぐカードをデッキに入れていない遊希からしてみればアドバンス召喚のための生け贄をフィールドに残すことすら難しいのだ。

「メインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移行します。竜姫神サフィラで銀河悪魔を攻撃します。“竜姫の讃美歌”！！」


竜姫神サフィラ ATK2500 VS 銀河悪魔 ATK1900


「攻撃力ではサフィラの方が上かつ特殊召喚ならびに対象を取るカードを受け付けない……慢心よ、詩織！ リバースカードオープン！ 銀河悪魔を対象に罠カード、ギャラクシー・ジャベリン発動！」

　ギャラクシー・ジャベリンの効果で銀河悪魔の攻撃力は800ポイントアップし、2700ポイントまで上昇する。
　祝祷の聖歌が墓地にあるため、戦闘破壊こそ出来ないが、ここで祝祷の聖歌を墓地から除外させれば少しは破壊しやすくなる。しかし、そう遊希の思惑通りには行かない。それがデュエルである。

「で、ではこちらもダメージステップに手札のオネストの効果を発動します！」
「っ、オネスト……」

竜姫神サフィラ ATK2500→5200 VS 銀河悪魔 ATK1900→2700

遊希 LP8000→5500

「くっ……！」
「バトルフェイズを終えてメインフェイズ2は何もせずターンエンドです。そしてエンドフェイズ時にサフィラの効果が発動します。私が発動するのは“自分の墓地の光属性モンスター1体を手札に戻す”効果です。この効果で私はこのターンに墓地に送ったオネストを手札に戻します。これで、ターンエンドです」


遊希　LP5500　手札:2
デッキ:36　モンスター:0　魔法・罠:0　墓地:7　除外:0
詩織　LP8000　手札:2
デッキ:30　モンスター:1（竜姫神サフィラ）魔法・罠:0　墓地:5　除外:2