第72話：決別の時　作：光芒

「さて、まずは墓地のヘルウェイ・パトロールの効果を発動させてもらうよ」


※ヘルウェイ・パトロール
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1600/守1200
(1)：このカードが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。そのモンスターの元々のレベル×100ダメージを相手に与える。
(2)：墓地のこのカードを除外して発動できる。手札から攻撃力200以下の悪魔族モンスター1体を特殊召喚する。


「ヘルウェイ・パトロールをゲームから除外し、手札から攻撃力2000以下の悪魔族モンスター1体を特殊召喚する。特殊召喚するのはこのモンスターだ」

　墓地から除外されたヘルウェイ・パトロールは運転するバイクに取り付けられたサイレンを鳴らしながら、異次元の扉を開き、道を作って消えていく。そしてヘルウェイ・パトロールの切り拓いた道をゆっくりと歩いてきたのは悪魔のような顔を持ち、首から下にローブを纏った怪しげなモンスターであった。

「“インフェルニティ・ネクロマンサー”を守備表示で特殊召喚」


※インフェルニティ・ネクロマンサー
効果モンスター
星3/闇属性/悪魔族/攻0/守2000
このカードは召喚に成功した時、守備表示になる。
また、自分の手札が0枚の場合、このカードは以下の効果を得る。1ターンに1度、自分の墓地から「インフェルニティ・ネクロマンサー」以外の「インフェルニティ」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚できる。


「インフェルニティ・ネクロマンサー……ですがジェームズの手札は0枚じゃありまセン」
「そう。だから効果を発動することはまだ出来ない。まだ……ね。僕はレベル4のサモンプリーストとダーク・グレファーでオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚！“禁じられし呪術により目覚めるは相反する力を持ちし者。生死を操り弄べ！ 炎の海往く海竜！”ラヴァルバル・チェイン！！」

　エクシーズ召喚されたラヴァルバル・チェインの攻撃力はわずか1800。モンスターとしての攻撃力は決して高くはない。しかし、このカードの効果はインフェルニティのみならずほとんどのデッキで活用されるものであり、その強さはデュエリストなら誰もが知るものであった。

「ラヴァルバル・チェインの効果を発動。オーバーレイユニットを1つ取り除き、自分のデッキからカードを1枚墓地に送る効果を使う。僕はこの効果でデッキから“インフェルニティ・デーモン”を墓地に送る。そしてカードを1枚セットする」
「！？ 最後のカードは魔法・罠カードでしたカ……」
「そうだよ、これで僕の手札は0。ハンドレスの完成だ！ まずはインフェルニティ・ネクロマンサーの効果を発動。墓地のネクロマンサー以外のインフェルニティ1体を蘇生する！ 冥府より蘇れ、インフェルニティ・デーモン！！」


※インフェルニティ・デーモン
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1800/守1200
(1)：手札が0枚の場合にこのカードをドローした時、このカードを相手に見せて発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。
(2)：このカードが特殊召喚に成功した時に発動できる。デッキから「インフェルニティ」カード1枚を手札に加える。この効果は自分の手札が0枚の場合に発動と処理ができる。


「そして僕の手札が0枚の時、インフェルニティ・デーモンの特殊召喚成功時にデッキからインフェルニティと名のついたカードを1枚を手札に加える。僕はデッキから罠カード“インフェルニティ・バリア”を手札に加える。そしてカードを1枚セット、ターンエンドだ」


ジェームズ　LP8000　手札0枚
デッキ：30　モンスター：3（ラヴァルバル・チェイン ORU:1、インフェルニティ・デーモン、インフェルニティ・ネクロマンサー）魔法・罠：2　墓地：3　除外：1
エヴァ　LP8000　手札5枚
デッキ：41　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0


☆TURN02


「私のターン、ドローデス！」

　後攻のエヴァがカードをドローする。プロデュエリストの世界で現役としてしのぎを削ってきたエヴァからしてみればインフェルニティの展開力はよく知っている。そのため派手に動き出される前に出来るだけ早くジェームズのライフを0にしなければならなかった。

「相手フィールドにのみモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚出来マス！ 来てくだサイ、闇氷竜 ファフニール！！」

　氷の鱗に漆黒の身体を持ったドラゴンがエヴァのフィールドに特殊召喚され、その効果でデッキから同じ闇氷竜のチューナーモンスター・闇氷竜 バジリスクを手札に加える。
　この時点でジェームズはエヴァのモンスター展開に対して何かしらのアクションを見せようとはしなかった。エヴァもエヴァで先ほどジェームズがセットしたカードのことが気がかりになっていた。

（インフェルニティ・バリアは手札が0枚の時に発動出来るカウンター罠。恐らくシンクロ召喚の時に発動する効果を無効化させたいと思っているはず……厄介なカードデス。ここは早めに使わせてしまいまショウ）
「そして私は手札から魔法カード、闇氷の雫を発動。デッキから闇氷と名のついたモンスター1体を手札に加え、更に自分フィールドに闇氷と名のついたチューナー以外のモンスターが存在する場合にさらにもう1体闇氷チューナーを手札に加えることが出来マス」

　エヴァのフィールドには非チューナーの闇氷モンスター、ファフニールが存在する。よってデッキから非チューナーのヒュドラーとチューナーのバジリスクを手札に加える。

「そしてヒュドラーを通常召喚しマス！ ヒュドラーが召喚に成功した時、デッキから闇氷チューナー1体を墓地に送りマス。墓地に送るのはウロボロスデス。そして闇氷と名のついたカードの効果で墓地に送られたウロボロスは墓地から特殊召喚出来マス！ 蘇れ、ウロボロス！！」

　ファフニールは特殊召喚されたモンスターのため、エヴァには通常召喚権が残っていた。そのため、氷の鱗を纏った多頭の蛇を模したヒュドラーが召喚可能だったのである。そして召喚されたヒュドラーの効果で墓地に送られたウロボロスがエヴァのフィールドに特殊召喚された。
　これでエヴァのフィールドには非チューナーが2体、チューナー1体の計3体のモンスターが揃った。ジェームズのインフェルニティに負けないほどの展開力をエヴァの闇氷デッキは兼ね備えているのだ。

「流石だね。それでこそ君のデュエルと言える」
「褒めてくれて嬉しいデス。いつぶりでしょうカ……こんな会話を貴方とするのハ」

　そう言って何処か懐かしい目をするエヴァ。エヴァとジェームズの出会いは10年以上前に遡る。エヴァはロシアの旧貴族の家に生まれ育ち、かつての栄華こそ失われていたものの、家族にも恵まれ何不自由なく育ってきた。そんな彼女の家に縁談が持ち掛けられたのはエヴァが4歳の時である。
　相手はイギリスに本社を置く新進気鋭のIT企業『アースランド・システムズ』の創始者の家であり、その家の長子こそ今エヴァと対峙しているジェームズであった。エヴァの家は歴史が古く、それこそロシア史の教科書に名前が載っていてもおかしくないほどの名家であるが、時の流れに飲み込まれその名声もそれほどの権威を持たなくなっていた。そういった意味でも有数の家と婚姻関係を結べるとなれば、乗らないわけがない。エヴァの両親はエヴァに許可を取ることなく、その縁談に二つ返事で応じてしまった。
　家同士が決めた婚約、というものはこの時代においても確かに存在している。小説やドラマでは親が決めた縁談に反発した娘が家を飛び出したり、意中の相手と恋に落ちたり、といったストーリーがよく見られるが、エヴァとジェームズの間にはそのような波乱は見られなかった。天真爛漫なエヴァと穏やかで落ち着いたジェームズは両家の親が思っていた以上に馬が合ったようで、彼ら二人もいつしか相思相愛の仲になっていたのだ。

「いつぶりだろうね、もう朧げだよ。僕たちは自分で言うのもなんだけど、とても仲が良かったね」
「ハイ、それこそ既に夫婦のようだとよく言われまシタ」
「それでも僕たちは一緒になることは出来なかった」

　二人が仲良くなった理由の一つに共通の趣味があった。それがデュエルモンスターズである。エヴァは家に古くから伝わる門外不出のカードであった闇氷デッキを、ジェームズは父の友人であったプロデュエリストから譲り受けたデッキそれぞれ使ってデュエルをしていた。
　後にエヴァは遊希に憧れ、彼女と入れ替わる形でプロの世界へと足を踏み入れ、その容姿も相まって瞬く間にスターダムを駆けあがっていった。一方のジェームズは父の跡を継ぐため必死に経営やITテクノロジーについて勉強を重ねた。そして遠くからエヴァのことをずっと応援していた。
　そんな二人を引き裂いたのが大会の優勝賞品として入手した“レッド・デーモンズ・ドラゴン”が突如変化し、精霊となった“レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト”である。たまの休みに再会した二人は普通にデュエルをしていたのだが、そのデュエルの最中にレッド・デーモンズ・ドラゴンは突如スカーライトへと変化。そしてそのスカーライトの力が暴走。ジェームズは負傷し、1年間の入院を余儀なくされてしまったのだ。
　これに激怒したジェームズの家はエヴァの家に破談を申し入れた。エヴァとジェームズは互いにそれを望まなかったが、そんな二人の願いも虚しく二人の間に取り交わされた婚約は水の泡と消えてしまったのだ。

「……私は今でもジェームズのことを愛していマス」
「僕もだよ、エヴァ」
「……それならば、何故貴方は私とデュエルをしているのですカ？ 何故……」

　周囲に認められているのにも関わらず、何故ジェームズはエヴァとこのようなデュエルをしているのか。まさかジェームズが敵として自分の前に立ちはだかることなど全く予想だにしていないことだった。

「僕はね、ずっと強くなりたかったんだ。夫として君を守るために。あの人はそんな僕に力をくれたんだよ」

　ジェームズの言う“あの人“が誰なのかをエヴァは知らない。ただこの状況において彼に力を与えたのが誰か、ということはわかる。

「あの人……そのあの人が何をしているか貴方は知っているのデスカ！？ そいつは私の大事な友達を操って非道なデュエルをさせて……」
「その人が誰であろうと僕は構わない。君との絆を取り戻せるのならば！」

　必死に自分たちの正当性訴えるジェームズであるが、そんなジェームズを尻目にエヴァは悲痛な面持ちを浮かべる。

「……ジェームズ、前言撤回デス。今の貴方を……私は愛することが出来まセン！ 私はレベル4のファフニールに、レベル4のチューナーモンスター・ウロボロスをチューニング！“仄暗い深海に眠る罪深き魔竜よ、嫉妬の咎を背負いあらゆるものを幻惑せよ！”シンクロ召喚！ 浮上せよ、レベル8！“闇氷魔竜 レヴィアタン”！！」

　今の今まで対峙するジェームズに戸惑いながらも優しげな眼を向けていたエヴァであったが、この瞬間彼への優しさ、情というものが全て失われる。例えどのような理由があろうとも、遊希と千夏・詩織の友情を弄び、雄一郎と美咲の親子の絆を愚弄した黒幕に加担したジェームズを許すことは出来なかった。尚更彼を愛しているから。
　キリスト教における七つの大罪のうちの一つである「嫉妬」。その咎を身に宿したレヴィアタンがエヴァの怒りと悲しみに呼応し、深海よりその巨体を露わにする。

「レヴィアタンがシンクロ召喚に成功した時、効果を発動しマス！ 相手フィールドに表側表示で存在するカード1枚をデッキに戻しマス！」
「そうはさせないよ。リバースカードオープン、カウンター罠！ インフェルニティ・バリアを発動！」


※インフェルニティ・バリア
カウンター罠
自分フィールド上に「インフェルニティ」と名のついたモンスターが表側攻撃表示で存在し、自分の手札が0枚の場合に発動する事ができる。相手が発動した効果モンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。


「インフェルニティ・バリアはインフェルニティが存在し、かつ手札が0枚の時に発動できる。レヴィアタンの効果の発動を無効にして破壊するよ」

　レヴィアタンの放った波動がインフェルニティ・バリアによって跳ね返され、レヴィアタンは爆発四散して沈んでいった。

「これでいいんデス。これで厄介なインフェルニティ・バリアは無くなりまシタ！ 私はフィールドのドラゴン族モンスター、ヒュドラーをゲームから除外し、手札からレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンを特殊召喚しマス！！」
「レッドアイズ……レヴィアタンは囮というわけか」
「まだデス！ 私の墓地に存在する闇属性モンスターは3体ちょうど。よってダーク・アームド・ドラゴンを手札から特殊召喚！」

　エヴァのフィールドのレヴィアタンは破壊されてしまったが、代わりにドラゴン族デッキのキーカードといえるレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン。そして闇属性デッキの破壊の化身ともいえるダーク・アームド・ドラゴンがフィールドへと居並ぶ。
　レヴィアタンの効果をインフェルニティ・バリアで封じたうえで破壊したジェームズであったが、より強力なモンスターを並べられてしまう形となってしまった。

「レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンの効果を発動しマス。墓地のファフニールを特殊召喚！ そして特殊召喚に成功したファフニールの効果でデッキから闇氷のチューナーモンスター、闇氷竜 ワームを手札に加えマス！」
「レッドアイズは通すよ。でもその効果の発動にチェーンして罠カード“インフェルニティ・ブレイク”を発動する」


※インフェルニティ・ブレイク
通常罠
自分の手札が0枚の場合に発動できる。
自分の墓地の「インフェルニティ」と名のついたカード1枚を選択してゲームから除外し、相手フィールド上のカード1枚を選択して破壊する。


「墓地のインフェルニティ・バリアをゲームから除外して発動。ダーク・アームド・ドラゴンを破壊する！」
「っ……メインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移行しマス。レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンでインフェルニティ・ネクロマンサーを攻撃！“ダークネス・メタル・フレイム”！！」

レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン ATK2800 VS インフェルニティ・ネクロマンサー DEF2000

「インフェルニティ・ネクロマンサーは破壊される。この瞬間、墓地の“インフェルニティ・リベンジャー”の効果が発動するよ」


※インフェルニティ・リベンジャー
チューナー（効果モンスター）
星1/闇属性/悪魔族/攻0/守0
このカードが墓地に存在し、自分の手札が0枚の場合、「インフェルニティ・リベンジャー」以外の自分フィールド上のモンスターが相手モンスターとの戦闘によって破壊され自分の墓地へ送られた時、このカードを墓地から特殊召喚できる。
この効果で特殊召喚したこのカードは、その戦闘によって破壊された自分のモンスターの元々のレベルと同じレベルになる。


「墓地からこのカードを特殊召喚。インフェルニティ・リベンジャーのレベルは破壊されたネクロマンサーと同じ3になるよ」

インフェルニティ・リベンジャー 星1→3

「……チューナーは残したくないデスね。ファフニールでリベンジャーを攻撃しマス！」

闇氷竜 ファフニール ATK1800 VS インフェルニティ・リベンジャー DEF0

「私はカードを2枚セットしてターンエンドデス」


ジェームズ　LP8000　手札0枚
デッキ：30　モンスター：2（ラヴァルバル・チェイン ORU:1、インフェルニティ・デーモン）魔法・罠：0　墓地：5　除外：2
エヴァ　LP8000　手札2枚
デッキ：36　モンスター：2（レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン、闇氷竜 ファフニール）魔法・罠：2　墓地：5　除外：1


　大型のモンスターを複数体召喚したエヴァだったが、ジェームズのハンドレスコンボの前に1のダメージも与えることが出来なかった。攻めあぐねるエヴァに、ジェームズのデッキは牙を剥いて襲い掛かろうとしていた。