第137話：新たなる竜星　作：光芒

　早朝のデュエルフィールドは秋から冬にかけての季節であることからまだまだ夜の闇に包まれていた。東の空を桃色に染めながら太陽が徐々に昇ろうとする中、静寂に包まれたデュエルフィールドで綾香と詩織は対峙していた。

「ねえ詩織、本当にこのデュエルをしなきゃいけないの？」
「……どうしても嫌なら断って頂いても構いませんよ。最も本当に強いデュエリストなら一度受けたデュエルを拒否するということはしないと思いますが」
「っ！」

　詩織は口調こそ丁寧だったが、その穏やかな口調の裏からは何処か刺々しいものが感じられた。

―――あの様子……何処かから我々の計画が漏れていたと見るべきだな。
（やっぱり……）

　綾香の脳裏には光子竜の声が響く。デッキには入れていないものの、綾香は光子竜のカードを予備のカードホルダーに入れてあるため彼の声が聞こえるのだ。
　そして光子竜曰く、千夏と詩織は綾香とエヴァが精霊を使える2人だけで精霊界に行こうとしている、という計画に感づいていたという。2人に何も言わず行こうとしていたということについて彼女たちの怒りを買うのはもっともな話であり、綾香はそれについては何も言い返すことはできない。
　それでも目の前で対峙している詩織、そしてその様子を横で見守っている千夏のどちらかからもその計画についての具体的な言葉が出てくることはなかった。

「……わかったわ。私だって星乃 竜司の娘で精霊使いの端くれ。このデュエルを抜け出すことなんてしない」
「それでこそ綾香さんです。ではデュエルディスクを起動し、互いに先攻後攻の決定権を決めましょうか」

　起動したデュエルディスクのコンピューターによって先攻後攻の決定権がランダムで決められる。今回のデュエルにおいて決定権を得たのは詩織であった。先攻後攻の決定権を得た詩織は少し考えた後に先攻を取った。
　詩織は綾香が精霊使いとして精進するために何度もデュエルを行っていたため、綾香のデッキの内容は知り尽くしている。竜星は特殊召喚を多用するテーマのため、先攻でリリーサーを素材にしたサフィラを儀式召喚をすればそれだけで竜星お得意のシンクロ召喚を封じることができるのだ。
　しかし、デッキの内容を知り尽くしているということに関しては綾香にも言えることである。詩織がサフィラの儀式召喚を狙うのであれば、それより先にサフィラより強力なモンスターで場を固めてしまえばいいだけ。互いに互いを知り尽くしているからこそ、より洗練されたタクティクスが求められるのである。

（先攻を取られたけど……1ターン目からリリーサーを生贄にサフィラを儀式召喚できる可能性はかなり低いはず……それなら）


詩織　LP8000　手札5枚
デッキ：48　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0
綾香　LP8000　手札5枚
デッキ：38　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0


☆TURN01


「では先攻の私のターンです。私は手札から魔法カード、増援を発動します。デッキからレベル4以下の戦士族モンスター、ライトロード・アサシン ライデンを手札に加えます。そして今加えたライデンを召喚し、その効果を発動します」

　ライトロード・アサシン ライデンの効果により、デッキからカードが2枚墓地に送られる。その中にはライトロードモンスターが1枚存在したため、ライデンの攻撃力が200ポイントアップする。

ライトロード・アサシン ライデン ATK1700→1900

「モンスターの効果でデッキから墓地に送られた“ライトロード・アーチャー フェリス”の効果が発動します」


※ライトロード・アーチャー フェリス
特殊召喚・チューナー・効果モンスター
星4/光属性/獣戦士族/攻1100/守2000
このカードは通常召喚できず、カードの効果でのみ特殊召喚できる。
(1)：このカードがモンスターの効果でデッキから墓地へ送られた場合に発動する。このカードを墓地から特殊召喚する。
(2)：このカードをリリースし、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターを破壊する。その後、自分はデッキの上からカードを3枚墓地へ送る。


「モンスターの効果で墓地に送られたことでこのカードは墓地から特殊召喚できます」
「運がいいわね……でもフェリスもライデンもチューナーよ？」

　シンクロ召喚を専門的に扱っているだけあってその手の召喚方法には綾香も一家言ある。“XX-セイバー ガトムズ”や“幻影王 ハイド・ライド”のような一部例外を除いてチューナーモンスター同士のシンクロ召喚は不可能であるため、レベル4のチューナーモンスターであるライデンとフェリスの2体でレベル8のシンクロ召喚をすることはできない。それでもこの2体のレベルは同じ4であるため、シンクロ召喚は不可能でもまた別の召喚方法が使える。

「私はレベル4のライトロード・アサシン ライデンとライトロード・アーチャー フェリスでオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！ “光の力をその身に受けし清らかな乙女よ、今正義を執行する聖女となりて闇を討滅せよ！” 降臨せよ！“ライトロード・セイント ミネルバ”！！」


※ライトロード・セイント ミネルバ
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/光属性/天使族/攻2000/守800
レベル4モンスター×2
「ライトロード・セイント ミネルバ」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1)：このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。自分のデッキの上からカードを3枚墓地へ送る。その中に「ライトロード」カードがあった場合、その数だけ自分はデッキからドローする。
(2)：このカードが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる。自分のデッキの上からカード3枚を墓地へ送る。その中に「ライトロード」カードがあった場合、その数までフィールドのカードを選んで破壊できる。


「オーバーレイユニットを1つ取り除いてミネルバの効果を発動します。デッキの上から3枚カードを墓地に送ります」

　ミネルバの効果でデッキからカードが3枚墓地に送られる。この効果で送ったカードの中に「ライトロード」のカードがあった場合、その枚数分詩織はドローできるのだ。
　しかし、墓地に送られたカードの中にライトロードカードは1枚もなく、この効果で手札を増強することはできなかった。それでもライトロードに限らず詩織のデッキは墓地に送られてもなお活きるカードが多い。

「墓地に送られたカードの中にライトロードはありませんでした。送られたカードは超電磁タートル、儀式魔人ディザーズ、祝祷の聖歌の3枚ですね」
「……どれも嫌なカードばっかじゃない」
「ふふふ、私はこれでターンエンドです」


詩織　LP8000　手札4枚
デッキ：42　モンスター：1（ライトロード・セイント ミネルバ ORU:1）魔法・罠：0　墓地：6　除外：0
綾香　LP8000　手札5枚
デッキ：38　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0


☆TURN02


「私のターン、ドローよ。そうね……私はモンスターをセット」

　綾香の手札にはミネルバの攻撃力を超えるモンスターがいなかった。そのため彼女のデッキの特徴でもある待ちのデュエルと自然に移る。

（ミネルバの攻撃力は2000、ランク4にしては低い部類に入る。でも破壊されてもアフターケアの効く効果でもあるし、何より詩織のデッキにはオネストが入っている……ここは辛抱かしら？）
「カードを2枚セットしてターンエンドよ」


詩織　LP8000　手札4枚
デッキ：42　モンスター：1（ライトロード・セイント ミネルバ ORU:1）魔法・罠：0　墓地：6　除外：0
綾香　LP8000　手札3枚
デッキ：37　モンスター：1　魔法・罠：2　墓地：0　除外：0


☆TURN03

「私のターン、ドローです。ライトロード・セイント ミネルバの効果を発動します。オーバーレイユニットを1つ取り除き、デッキからカードを3枚墓地へ送ります」

　ミネルバの力によって3枚のカードが墓地に送られる。すると、墓地に送られたカードのうち1枚が眩い光を放ち始めた。そしてその光と共に獣の頭を持った筋骨隆々の獣戦士が詩織のフィールドへと舞い戻る。

「どうやら私が墓地に送ったカードの中にはライトロードカードのライトロード・ビースト ウォルフがあったようですね。チェーン2のウォルフの効果で自身を特殊召喚し、チェーン1のミネルバの効果で今墓地に送られたライトロードの数ぶんドローします」

チェーン2（詩織）：ライトロード・ビースト ウォルフ
チェーン1（詩織）：ライトロード・セイント ミネルバ

　今のミネルバの効果で墓地に送られたライトロードはウォルフのみであるため、詩織のドローできるカードは1枚。それでもカードの効果を利用してどんどんモンスターを展開していくため、彼女の手札は今のミネルバの効果もあって5枚となっていた。
　詩織のデッキの勝ち筋は主に2つ。1つは前々から警戒している通り、リリーサーとデモリッシャーを素材に儀式召喚したサフィラでこちらの特殊召喚を封じること。そしてもう1つの勝ち筋はライトロードを墓地に肥やして裁きの龍を複数体特殊召喚することだ。純正のライトロードではないため、彼女のデッキに入っている裁きの龍の数は2枚であるが、それでも2体で直接攻撃をされれば6000ダメージを受けてしまい、一気にこちらが不利になってしまう。
　墓地がまだ十分に肥えていないため、このターンに裁きの龍を出される心配はないと言っていいが、あの5枚の手札の中に1体でも裁きの龍があるならばそうも余裕でいられなくなるのだ。

「まだです。私は魔界発現世行きデスガイドを召喚します」
「デスガイド……！！」
「デスガイドの効果を発動します。手札またはデッキからレベル3・悪魔族のモンスター1体を特殊召喚します」

　この局面で詩織が特殊召喚するのは十中八九儀式魔人リリーサー。前のターンにミネルバの効果で墓地にデモリッシャーが送られていたため、ここでリリーサーを出されれば間違いなくサフィラが儀式召喚されるだろう。
　仮にサフィラおよび2枚目以降の祝祷の聖歌が手札に無ければ彼岸の旅人 ダンテなどのランク3のエクシーズ召喚を決められ、さらに墓地を肥やされる。そう考えると綾香の取る手は1つしかなかった。

「デッキからレベル3・悪魔族の儀式魔人リリーサーを表側守備表示で特殊召喚します！」
「だったらその特殊召喚にチェーンしてリバースカード発動！ 罠カード、激流葬！！」
「……っ、竜星ですからあるのはわかっていますがここでセットしていましたか……」
「さらに激流葬にチェーン！ 永続罠、竜星の具象化！」

チェーン2（綾香）：竜星の具象化
チェーン1（綾香）：激流葬

　綾香の発動した激流葬によって、綾香のフィールドにセットされていた地竜星-ヘイカン、詩織のフィールドに存在していたライトロード・セイント ミネルバ、ライドロード・ビースト ウォルフ、魔界発現世行きデスガイド、儀式魔人リリーサーの計5体のモンスターが破壊される。
　デスガイドの効果にチェーンして激流葬を発動する手もあったが、それだとタイミングを逃してしまうため破壊される綾香の竜星の効果を発動することはできない。ライトロード・セイント ミネルバの2の効果を発動させてしまうというリスクもあるが、それをもってしても綾香は竜星の効果で後に繋ぐ必要があった。

「相手のカードの効果で破壊されたミネルバの効果が発動します！ デッキの上からカードを3枚墓地に送り、その中のライトロードカードの数だけ相手フィールドのカードを破壊します！」
「それにチェーンして破壊されたヘイカンの効果を発動！ デッキから竜星1体を守備表示で特殊召喚するわ！ 来て、水竜星-ビシキ！ そしてモンスターが破壊されたことで竜星の具象化の効果も発動し、デッキから炎竜星-シュンゲイを攻撃表示で特殊召喚！！」

チェーン3（綾香）：竜星の具象化
チェーン2（綾香）：地竜星-ヘイカン
チェーン1（詩織）：ライトロード・セイント ミネルバ

　激流葬を打った直後にも関わらず、綾香のフィールドにはシュンゲイとビシキ、2体の竜星モンスターが現れる。相手ターン中におけるシンクロ召喚といい、綾香のデッキは相手ターンであろうとも相手を翻弄するかのごとく目覚ましく動くのが売りの1つでもあるのだ。

「ミネルバの効果でカードを3枚墓地へ……墓地に送られた“ライトロード・メイデン ミネルバ”の効果が発動します！」


※ライトロード・メイデン ミネルバ
チューナー（効果モンスター）
星3/光属性/魔法使い族/攻800/守200
このカードが召喚に成功した時、自分の墓地の「ライトロード」と名のついたモンスターの種類以下のレベルを持つドラゴン族・光属性モンスター1体をデッキから手札に加える事ができる。
このカードが手札・デッキから墓地へ送られた時、自分のデッキの上からカードを1枚墓地へ送る。
また、自分のエンドフェイズ毎に発動する。自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。


「このカードがデッキまたは手札から墓地に送られた時、自分のデッキの上からカードを1枚墓地へ送ります。そしてライトロードが墓地に送られたことでライトロード・セイント ミネルバの効果も発動！ 綾香さんのフィールドのカード1枚を破壊します！ 破壊するのはシュンゲイです！」

チェーン2（詩織）：ライトロード・セイント ミネルバ
チェーン1（詩織）：ライトロード・メイデン ミネルバ

　2体の“ミネルバ”の効果によって綾香のフィールドで灼熱の炎を纏って昂っていたシュンゲイが破壊される。しかしモンスターの命が尽きる時に新たに生まれ変わるのが竜星の持つ力である。

「っ……でもシュンゲイが破壊されたことでその効果が発動するわ！ デッキからチューナーモンスター、闇竜星-ジョクトを守備表示で特殊召喚するわ！」

　綾香のフィールドにはビシキとジョクト、守備力2000のモンスターが2体居並ぶ。共に下級モンスターの中では最高クラスの守備力を持つモンスターであり、並大抵の下級モンスターはおろかランク4以下の一部エクシーズモンスターの攻撃なら軽く弾き返せるであろう強固な守りを敷いてきた。

（……私の手札にはまだ祝祷の聖歌がありません。これではどうしようもないですね）
「私はこれでターンエンドです」


詩織　LP8000　手札5枚
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：14　除外：0
綾香　LP8000　手札3枚
デッキ：35　モンスター：2（水竜星-ビシキ、闇竜星-ジョクト）魔法・罠：1（竜星の具象化）墓地：3　除外：0


☆TURN04


（手札が5枚もあるのに今まで最上級クラスのモンスターを召喚していない……今詩織は手札事故を起こしている。そう考えると今攻めるしかないわね）
「私のターン、ドローよ！」

　このターンで一気に詩織のライフを削りに行きたい綾香であったが、綾香もまた有効打を与えられるモンスターを引くことはできなかった。フィールドには既にチューナーと非チューナーが揃っているため、レベル4のシュンゲイもしくはレベル3のヘイカンあたりをドローできればレベル7か8のシンクロ召喚に繋ぐことができたのだが。

「私は風竜星-ホロウを召喚！」

　綾香のフィールドには風竜星-ホロウが召喚される。このモンスターもビシキやジョクト同様攻撃力が低く、守備力の高い竜星モンスターの1体であり、3体で攻撃しても詩織には1のダメージも与えられない。

「攻撃力0のモンスターを召喚……シンクロ召喚ですか。レベルの合計は……5」
「行くわ、これも私の新しい力よ！ 私はレベル2の水竜星-ビシキとレベル1の風竜星-ホロウにレベル2のチューナーモンスター、闇竜星-ジョクトをチューニング！」

　綾香の持つ新しい力。それは綾香の下に舞い降りた新たなる力を持った竜星の1体だった。

「 “星に宿りし自然の力よ、今1つとなりて更なる進化の源となれ！！” シンクロ召喚！ 目覚めよ、シンクロチューナー！“源竜星-ボウテンコウ”！！」

　星のように眩く輝く金色の竜が天に向かって咆哮した。