アフターストーリー：陽川 千夏編・1　作：光芒

『銀河竜を駆る少女』　アフターストーリー






―――陽川 千夏編―――





○前書き
・時間軸は『銀河竜を駆る少女』の本編（遊希や綾香が1年生の時）から2年後の世界です（『虹彩竜と歩むもの』と同じ時間です）
・マスタールール3です（リンク召喚やリンクテーマは登場しません）。
・制限は2018.7制限です。
・番外編で応募して頂いたキャラが登場します。
・著者連載中の『虹彩竜と歩むもの』のネタバレはありません。

○最重要事項
☆Special thanks『雪と光竜と夢幻世界』著者　Alesさん









　日本の首都・東京から東海道新幹線に乗ること約2時間半。遊希たちはとある人物の誘いを受けて遥々古都・京都までやってきた。過去と現在、此岸と彼岸が入り混じるこの神秘深い都市に来ることは初めてではないものの、学校主催の修学旅行で来るのと観光目的で来るのとでは訳が違う。堅苦しいスケジュールに縛られず自分たちの行きたいところに行けるというのはティーンエイジャーである遊希たちには嬉しいものであった。

「ここが京都駅ね。何年か前に修学旅行で来たけど、来るたびに違って見えるわ」
「ここは知っていマス！ 怪獣映画で壊されてマシタ！」
「また微妙に懐かしいネタを……私たちまだ産まれてないわよね？」
「そんな映画があるんですか？」
「ええ。あの有名女優が無名時代に干からびて死ぬ役でね……」

　話が脱線しまくる四人を余所に、千夏は駅の構内を見回す。事前の打ち合わせではここに迎えが来ているはずなのだが。

「……いないわね。まさか私たちが今日来るっての忘れてるんじゃ」
「いやそんなことないでしょう……ないわよね？」
「まさかー、確かにちょっとちゃらんぽらんなところはあるかもしれないけどって……あれ？ もしかしてあそこにいるのって」

　遊希たちを迎えに来る人物と直接顔を合わせるのは2年ぶりのことになる。2年前その人物は当時中学1年生ながら、その機転の良さでデュエルのみならず様々な所で遊希たちを支えていた印象だ。そのため軽口を叩きながらも締めるところは締めている彼女にガイドを頼んだのだ。
　そんな中、綾香は駅構内のベンチに座っている一人の少女を見つけた。赤色がシンボルカラーの海外の大手ハンバーガーチェーンすらシックな黒に染まるこの街においてどうにも似つかないゆるふわな茶髪にオシャレな服装。間違いなく、その少女こそが遊希たちが探していた星崎 美夏（ほしざき みか）その人なのだが。

「……なんか知らない子を抱きしめてるんだけど」
「……あの子は」

　綾香が見つけた美夏は、自分の膝に自分と同じくらいの体形の少女は抱きしめてはなんとも言えないようなとろけた顔をしていた。美夏に抱きしめられている少女は少し不機嫌そうな顔をして虚空を見つめている。それは飼い主に付きまとわれてご機嫌斜めの黒猫のような―――例えるのが難しいが、美夏に負けず劣らず美しい少女だった。

「いやー……暑いねー……前々から約束していたこととはいえ、夏のこの時期に人を迎えに行かなきゃいけないってのは中々きついねー」
「……夏の京都の暑さはなめちゃいけない。当たり前」
「なんてったって京都は盆地なわけで。夏は暑くて冬は寒い。我ながらどうしてこんなところに生まれ育ってしまったのかと」
「それで……そんな暑い夏の京都でどうして美夏は私を抱きしめてるの」
「いや、この行動には季節も気候も関係ないから。遊貴を抱きしめるのに理由は要らないんだよ。デュエリストが何故デュエルをすると思う？ そこにカードがあるから。それと同じ理屈だ！」
「むぅ……」

　昨今男性の草食化が進み、以前ほど人目をはばからずイチャつくカップルが減っているのは目に見えてわかる。しかし、自分たちの目線の先にいる女子二人はそんな時代の流れに逆行するかのように、人目をはばからずにじゃれ合っていた。

「あれはいわゆる百合というものデスネ！ とっても尊いデス！」
「だからどこで覚えたんですかそんな知識……」
「それよりも美夏ちゃんに抱きしめられてるあの子何超やばい可愛いんだけど私も抱きしめたいもふもふしたいほっぺたふにふにしたい」
「おっとここにも人目をはばからない犯罪者予備軍が……とまあ小芝居はさておいて。で、どうするちな―――」

　遊希が千夏に美夏をどうするか、と尋ねようとした時、そこに千夏の姿は無かった。遊希が気づいた時、既に千夏は悦に浸っている美夏の頭を小突いては彼女を空想から現実へと引き戻していた。

（おっと遅かったか）
「ちょっと美夏！ あんた私たちを出迎えるって仕事ほったらかして何してるのよ！！」
「何って当然私の可愛いペッ……親友を愛でてたんですよ！ 一人で待つのも暇なんで連れてきたんです！」
「待つのが退屈だって気持ちはわからなくはないけど、だからといって役目を放り出すのは感心しないわね！ あんたが是非京都に旅行に来て下さいっていうから来たのに！」

　ギャーギャーと騒ぐ千夏と美夏は傍から見れば、大人ぶった小学生同士の口喧嘩にしか見えない。そしてそんな二人の近くにいて自分まで同類扱いされたくない、と思った黒猫の少女はそっと二人から距離を置こうとする。するとそんな彼女をこっそりと手招きする人間が一人。

「……久しぶりね。まさかあなたにも会えるとは思っていなかったわ」
「美夏がついてこい、ってうるさかったから……」
「あなたも夏休み期間中でしょう？ 貴重な休みを無駄にしてしまったかしら？」
「いい……どうせクーラーの効いた部屋で一日中パソコンに向かってるだけだから」
「そう。まあこっちとしてはあなたと再会できたことは嬉しいサプライズよ―――宮戸 遊貴（みやと ゆき）さん？」

　遊希たちと美夏が出会ったのは2年前のことだ。セントラル校主催の林間学校で遊希たちは、将来一人前のデュエリストを目指す小中学生と二泊三日の泊りがけで共に過ごすというイベントに参加した。
　そのイベントにおいて偶然出会ったのが星崎 美夏である。美夏はデュエルの経験が浅いにも関わらず、カードショップのストレージに眠っていた【陽炎獣】デッキを組みあげてはこのイベントに参加。千夏に師事した上で初心者ながら経験豊富な他の参加者から勝ち星を挙げるなどそのセンスを垣間見せていた。
　そんな美夏がイベント中にしきりに話していたのが、この宮戸 遊貴という少女についてである。通っている学校こそ違えど遊貴と美夏は親友同士であり、二人してゲームセンターで音ゲーをはじめとしたゲームで遊びまくる一方で、自分より遥かに強いデュエリストである彼女のことを美夏は親友であると同時に目指すべきデュエリストとしてその存在を匂わせていたのだ。

「……そう言って貰えるのは悪い気しないです。天都 遊希さん」

　そう言った遊貴の口元は少し緩んだように見えた。ちなみにそのイベントで美夏と再会する少し前、遊希はこの二人と出会っている。その時は美夏の粗相もあって不機嫌になってしまった遊希であるが、そんな美夏の名誉を回復しようと尽力したのが他ならぬ遊貴であった。
　入ったこともないゲームセンターに連れていかれた遊希は三人で時間が許す限り、ひたすら音ゲーというものを遊びつくした。デュエルの腕ならいざ知らず、リズムゲームにおいては一日どころか百日以上の長がある遊貴と美夏に教えて貰ってばかりだった遊希も今となっては時折ゲームセンターでそのゲームの練習をするようになったほどでもある。それだけ遊希にとってもこの二人との出会いは決して小さなものではなかったのだ。

「さて、今日は京都ガイド楽しみにしているわね。あ、ところで」
「？」
「あそこで怪しい目をしてる女の子には注意してね。あの子は可愛いものに目がないから」

　遊希の指差す先ではまるで獲物である草食動物を草むらに潜みながら見定める肉食動物のごとく目をギラリと光らせる綾香の姿があった。美夏など一部の人間に悪戯されることはよくあるが、遊貴を見る綾香の目からはそれらの人物とはまた違う恐ろしさがあった。

「……むぅ」

　デュエルの腕ならともかく、フィジカルでは勝ち目はない。勝ち目はない勝負を無理にしない。遊貴はそそくさと遊希の隣を陣取っては身の安全を確保するのであった。