第61話：親友　作：光芒

　HSRチャンバライダーがシンクロ召喚されるが、不審者の攻勢はまだ終わらない。シンクロ召喚は基本的にチューナーと非チューナーモンスターが揃うことで成立する。チャンバライダーが召喚された時点で不審者のフィールドにはチャンバライダー以外ではチューナーモンスターの赤目のダイスしか存在しないはずだった。
　だが、不審者のフィールドには薄っすらと透き通った機械のようなモンスターが現れる。それはシンクロ召喚に使用されたオライオンの効果によるものだった。

『オライオンガ墓地ニ送ラレタコトデフィールドニレベル3ノ幻獣機トークン1体ヲ特殊召喚スル！』
「これで二回目のシンクロ召喚が行える……」
『レベル3ノ幻獣機トークンニレベル1ノ赤目のダイスヲチューニング！“太古ノ地球ヲ支配シタ邪ナル神ヨ、今コソ現世ニ蘇リ、破滅ト憎悪ノ嵐ヲ巻キ起コセ！”シンクロ召喚！ 目覚メヨ！“古神ハストール”！！」


※古神ハストール
シンクロ・効果モンスター
星4/風属性/爬虫類族/攻2300/守1000
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
(1)：このカードがモンスターゾーンから墓地へ送られた場合、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。墓地のこのカードを装備カード扱いとしてそのモンスターに装備する。装備モンスターは攻撃できず、効果は無効化される。
(2)：このカードの効果で相手モンスターに装備されているこのカードがフィールドから離れた場合に発動する。自分はこのカードを装備していた相手モンスターのコントロールを得る。


「古神ハストール……2体のシンクロモンスターをこうもあっさり……だけどレベルもバラバラだし攻撃力もガイアドラグーンには及ばない！」
『アタシタチノ攻撃……耐エキレルカナァ？？ バトルフェイズ！ 古神ハストールデ迅雷の騎士ガイアドラグーンヲ攻撃！』
「なんですって！？ 攻撃力はガイアドラグーンの方が上よ！！」
『構ワナイ！！』

古神ハストール ATK2300 VS 迅雷の騎士ガイアドラグーン ATK2600

不審者 LP6500→6200

　ハストールはガイアドラグーンに戦闘を仕掛けるも、ガイアドラグーンによって返り討ちに遭い破壊される。一見すると無駄な攻撃であるが、それも計算に入れての行動だった。

『コノ瞬間、モンスターゾーンカラ墓地ニ送ラレタハストールノ効果ヲ発動！ コノカードヲ装備カード扱イトシテ相手フィールドノ表側表示モンスター1体ニ装備スル！』

　破壊されたはずのハストールの姿がガイアドラグーンの後ろに現れる。その様はまるで戦いで命を落とした者が悪霊となって憑りつくかのように不気味なものであった。

『ハストールヲ装備シタモンスターハ攻撃出来ズ、効果ハ無効化サレル！』
「攻撃を封じられた……でもチャンバライダーの攻撃力でもガイアドラグーンには及ばない！！」
『リバースカードオープン！ 速攻魔法、サイクロン！ フィールドノ魔法・罠カード1枚ヲ破壊スル！ 破壊スルノハガイアドラグーンニ装備サレタハストール！』

　サイクロンによって装備カード扱いのハストールが破壊された。これでガイアドラグーンは再び攻撃可能かつ効果無効が解かれる形となる。こちらもまた一見すると意味のない行動であり、サイクロンとハストールの無駄遣い、と思われたが次の瞬間、ガイアドラグーンは不審者のフィールドに移っていた。

「なっ……！！」
―――コントロール奪取か……！？
『装備サレテイタハストールガ破壊サレタ時ハストールノ効果発動！ ハストールヲ装備シテイタモンスターノコントロールヲ永続的ニ奪ウコトガ出来ルノサ！ ソシテマダバトルフェイズノ途中！』
「ちっ……！！」
『迅雷の騎士ガイアドラグーンデダイレクトアタック！ 雷鳴槍殺！』

迅雷の騎士ガイアドラグーン ATK2600

遊希 LP6800→4200

　ガイアドラグーンの槍が遊希を貫く。まさに雷撃のような衝撃が遊希の全身に走る。

「ぐあっ……！！」
『キャハハッ！ 自分ノモンスターニ攻撃サレル気分ハドウ？ マダダヨォ！ HSRチャンバライダーデダイレクトアタック！ チャンバライダーガ戦闘ヲスルダメージステップ時、コノカードノ攻撃力ハ200ポイントアップ！』

HSRチャンバライダー ATK2000→2200

遊希 LP4200→2000

「あああっ！！」

　ガイアドラグーンの槍、そしてチャンバライダーの剣に続けて切り裂かれた遊希の身体には今まで感じた事のないような激痛が走る。意識が飛びそうになりながらもなんとかその場に立ち続ける遊希。しかし彼女の身体は悲鳴を上げており、視界すらもぼやけつつあった。

『コレデ終ワリダヨ！ チャンバライダーハ2回マデ攻撃出来ルノサ！！ チャンバライダーデ二度目ノ攻撃！ ソシテ攻撃力ハサラニ200アップ！！』

HSRチャンバライダー ATK2200→2400

―――遊希！ リバースカードを！！
「……リバースカード……オープン！！ チャンバライダーを対象に……速攻魔法、禁じられた聖槍を発動！！ チャンバライダーの攻撃力を800ポイントダウンさせる！！」

HSRチャンバライダー ATK2400→1600

遊希 LP2000→400

「―――！！」

　禁じられた聖槍の効果でチャンバライダーの攻撃力を下げたため、首の皮一枚繋がる形で遊希のライフは残った。しかし、チャンバライダーの二度目の攻撃を受けた遊希は声にならない悲鳴を上げてその場に崩れ落ちてしまった。
　例えライフが残っていたとしても、デュエリストが意識を失うなど身体の異常を訴えた場合はそのデュエリストの敗北となってしまう。そのため遊希はここで倒れてはいけないのだ。

『モシカシテイッチャッタァ？ ツマンナイノ。アタシハコレデターンエンドダヨ』



不審者　LP6500　手札1枚
デッキ：29　モンスター：2（迅雷の騎士ガイアドラグーン ORU:0、HSRチャンバライダー：ATK2400）魔法・罠：0　墓地：10　除外：0
遊希　LP400　手札2枚
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：1　墓地：8　除外：0


☆TURN06


「遊希サン！ 遊希サン！！！」
―――遊希！ しっかりしろ！ 遊希！！

　倒れてしまった遊希に光子竜とエヴァが必死に呼びかける。その呼びかけが通じたのか、遊希は薄っすら目を開けると全身を小さく震わせながら立ち上がった。

―――遊希、大丈夫か？
（あれ……私は……私は負けちゃったの？）
―――いや、まだライフは残っている。まだ負けてはいない。
（そう……なんだ。ねえ、光子竜？）
―――なんだ？
（……このデュエル……私勝てるのかな？）

　確かに遊希はまだ負けていない。ライフが1でも残っている限りデュエルに終わりはないし、ここからの逆転も可能である。しかし、デュエリストも一人の人間であり、闘志の炎が消えてしまえば脆いものである。
　遊希は立ち上がりこそしたものの、その心は折れかけていた。幼いころは優しく泣き虫だった彼女である、デュエリストとして成長し信頼できる仲間が出来て孤独ではなくなったとしても、まだ精神的には弱いところがあったのだ。

―――遊希、諦めたら全てが終わる。それにお前は約束したんじゃないのか？
（約束……）
―――綾香と、千夏と、詩織。親友たちと決勝トーナメントで相見えるという約束だ！ それを守るためにお前はここで立ち止まってはいけない、そうだろう？

　光子竜のその言葉を聞いて遊希の脳裏には綾香、千夏、詩織。3人の親友でありライバルの顔が浮かぶ。

「……みんな……そうだよね、私がここで諦めたらもうどうしようもない。私はまだ諦めない！」

　立ち上がった遊希の眼には前にも増して強い闘志が宿っていた。孝輔をはじめ非道なデュエルによって倒れた仲間たちに報いるため、そして綾香・千夏・詩織との約束を守るため。

『ソウコナクッチャ！！ モット！ モット！ 足掻イテヨォ！！』
「……私のターン、ドロー！！」

　遊希の想いが、力が籠った渾身のドロー。その想いにデッキはドローと言う形で応えた。

「私は手札から魔法カード、ギャラクシー・トレードを発動！ 手札の銀河新星を墓地に送り、デッキから2枚ドロー！ そして手札から墓地に送られた銀河新星の効果でデッキから銀河遠征を手札に加える！ そしてさらに死者蘇生を発動！！ 墓地の銀河眼の光子竜を特殊召喚する！」
『ギャラクシーアイズ……！！』
「そして今加えた魔法カード、銀河遠征を発動！ デッキからレベル5以上のギャラクシー1体を表側守備表示で特殊召喚！ 召喚するのはレベル8の銀河の冥府竜！！」

　ターン開始時にはがら空きだった遊希のフィールドにはこれで2体のレベル8のギャラクシーモンスターが居並ぶ形となった。さっきまで笑みを浮かべていた不審者の顔がここに来て初めて曇る。

「私はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河の冥府竜でオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！ 全てを食らい尽くせ、闇の銀河眼！ 銀河眼の掩蔽竜！！」
『……掩蔽竜……ヘヘへ、ソウクルンダァ……』
「掩蔽竜の効果を発動！ オーバーレイユニットを2つ取り除き、フィールドのカードを2枚までゲームから除外する！ 除外するのはガイアドラグーンとチャンバライダーの2体よ！！」

　ガイアドラグーンとチャンバライダーの2体は掩蔽竜の大顎に飲み込まれていく形でゲームから除外される。遊希のライフを1ターンで6400も削り取った不審者のフィールドは掩蔽竜によってあっさり一掃されてしまった。もっとも遊希の怒りはこの程度では収まらない。

「掩蔽竜を素材にオーバーレイ・ネットワークを再構築！ エクシーズチェンジ！！ 降臨せよ、ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン！！ そしてメインフェイズ1を終えてバトルフェイズ！ ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴンでダイレクトアタック！！“壊滅のフォトン・ストリーム”！！」

ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン ATK4000

不審者 LP6500→2000

『グギャアアッ！！』

　ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴンの直接攻撃を受けた不審者の身体が大きく吹き飛んだ。フード付きのコートを身にまとっていたことから分かり辛いのだが、不審者はかなり小柄であったため、この一撃は遊希以上に身体に響くようだった。

「……このターンで決めたかったけど仕方ないわね。私はカードを1枚セット。これでターンエンドよ」


不審者　LP2000　手札1枚
デッキ：29　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：10　除外：1
遊希　LP400　手札1枚
デッキ：30　モンスター：1（ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン ORU:1）魔法・罠：2　墓地：13　除外：1


☆TURN07


『……』

　このターンは不審者のターンとなっているが、不審者は倒れたまま動かなかった。不審者もこれまで数多くのデュエルを行ってきた影響か身体に疲労がたまり切っていたのだろう。

「……どうやらこのデュエルはここで終わりのようね。どうせならトドメを刺してやりたかったけど……」

　そう言って遊希がデュエルを中断して不審者の元に歩み寄ろうとした瞬間、不審者は奇声を上げて飛び上がるようにして立ちあがった。

『デュエルゥ……デュエルゥ……』
（何よ、驚かせて。まだデュエル出来るんじゃない）
―――なっ……！？

　上を向きながらうわ事のように呟く不審者。遊希が振り返って元の場所に戻ろうとすると不審者は戻ろうとする遊希に突如声をかけてきた。

『サスガダネ天都 遊希……コレマデ戦ッテ来タ誰ヨリモ強クテ可憐デ美シイ……』

　デュエルの最中ながら急に遊希のことを褒めだす不審者。最もこのような卑劣なデュエリストに美辞麗句を並べられても何も嬉しくない。遊希は背を向けたままその言葉に答えることは無かった。

『コノ身体ノ元ノ持チ主ガオ前ニ勝チタイト強ク願ウワケモ分カルヨォ……』

　だがこの瞬間、遊希の中に疑問が浮かぶ。それは不審者の発した「この身体の元の持ち主」という言葉である。これまで遊希はアカデミアの制服を何らかの方法で手に入れた外部の人間が侵入し、生徒を襲っているのだと思っていた。
　しかし、この不審者の言葉が真実であるならば、別の誰かが無関係の人間を操ってデュエルをさせていることになる。
　当然このようなことをする人間の言うことなど信用できないが、ダメージを受けた瞬間に実際に身体に痛みが感じることといい、このデュエルはいくらなんでも腑に落ちないことが多すぎる。それがその言葉の説得力を大きく増していた。

「ねえ、今の言葉どういうことかしら？ この身体の元の持ち主って―――」
―――駄目だ、振り返るな！ 遊希！！

　真実を確かめるべく振り返る遊希。次の瞬間、遊希は言葉を失った。光子竜は遊希に咄嗟に声をかけるが遅かった。

「えっ……なんで……どうして……」

　身体も心も限界を越えている。それでもなお気丈に振る舞っていた遊希であったが、この瞬間遊希の両方の目からは大粒の涙が堰を切ったかのように流れ出してきた。



「どうして？……どうして……どうして私はあんたとデュエルをしているの？……ねえ、答えてよ。千夏」



　倒れた不審者が立ち上がった時、思い切り立ち上がったために被っていたフードが取れていたのである。そして、そのフードの下から現れたのは間違いなく今朝共に予選を勝ち抜くことを誓ったはずの親友の顔であった。