第127話：届かぬ言葉　作：光芒

「RUM（ランクアップマジック）……？」
「“RUM”。精霊界にのみ存在し、選ばれたモンスターのみが使うことを許される魔法カードです。そしてこの“RUM-七皇の剣”こそNo.の中でより強い力を持つオーバー・ハンドレッド・ナンバーズだけが使うことを許された魔法カードなのです」


※RUM-七皇の剣（ランクアップマジック-ザ・セブンス・ワン）
通常魔法
自分のドローフェイズ時に通常のドローをしたこのカードを公開し続ける事で、そのターンのメインフェイズ1の開始時に発動できる。
「CNo.」以外の「No.101」～「No.107」のいずれかをカード名に含むモンスター1体を、自分のエクストラデッキ・墓地から特殊召喚し、そのモンスターと同じ「No.」の数字を持つ「CNo.」と名のついたモンスターをその特殊召喚したモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
「RUM-七皇の剣」の効果はデュエル中に1度しか適用できない。


「このカードは自分のドローフェイズ時に通常のドローをしたこのカードを公開し続けることで、そのターンのメインフェイズ1の開始時に発動できます」
「……随分と面倒な発動条件ね」
「強い力にはいつでもリスクが伴うものです。このカードを発動することで、No.101から107までのいずれかをカード名を含むモンスター1体をエクストラデッキまたは墓地から特殊召喚し、そのモンスターと同じCNo.(カオス・ナンバーズ）と名のついたモンスター1体をそのモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚します」
「カオス……ナンバーズ……」

　遊望の口にした「CNo.(カオス・ナンバーズ）」とはNo.の中でも選ばれた強い力を持ったNo.のみが到達できる境地にある存在である。カオスの力をその身に受け入れることで、その力をさらに高いレベルに昇華させ、No.においては「進化」または「真の力を解放する」のだ。
　銀河眼の時空竜を含むオーバー・ハンドレッド・ナンバーズたちはNo.の姿は本来その身に秘めた力をセーブするための仮の姿であり、カオスの力を取り込んで解放したCNo.の姿こそが真の姿なのである。

「今からお姉さまにお見せするのは私の時空竜の真の姿です！ 七皇の剣の効果で墓地のNo.107 銀河眼の時空竜を特殊召喚します！」

　天空に七つの赤い星が瞬いた瞬間、墓地より時空竜が蘇る。時空竜は金色のオーラを纏っており、その力は先ほど対峙した時より遥かに強いものとなっていた。

「時空竜よ―――七皇の力を得て己が真の姿を解放せよ！！」

　時空竜は劈くような咆哮をあげ、金色の光となって天へと昇っていく。天空には混沌が渦巻き、光と闇が合わさった力が大爆発を起こす。その力は精霊を宿す遊希、遊望、エヴァのみならず周囲にいた竜司、綾香、千夏、詩織の4人にもはっきりとわかるほどのものとなっており、大気と大地がその力に怯えるが如く震撼を始める。

「これは……地震？」
「違う。あのカードの力よ！」

　混沌渦巻く空に輝く7つの星が点と線となって繋がった。7つの星は1つとなり、天空に剣となってその姿を顕現させる。










―――混沌の世界に七つの星輝く時。我に命与えし者、真の姿を解き放つ！ 逆巻く銀河を貫きて、時の力溢れる世界より飛来せよ！ 永遠を超える龍の星―――！！










　混沌から流れ落ちたのは1粒の雫のような光。その光はやがて1つの金色の剣のような物体へと姿を変え、その金色の剣は1体の龍へと姿を変えた。



（あのドラゴンは……私が見た……）



　3つの頭に巨大な身体と6枚の翼。身体は鋭い刃のような鱗で覆われ、右胸には自身を現す「107」の刻印。そのドラゴンこそ、綾香が遊望に敗れた瞬間に見た「金色のドラゴン」であった。










―――ランクアップ・カオス・エクシーズチェンジ！！ 顕現せよ！！ CNo.(カオス・ナンバーズ） 107！！―――










―――“超銀河眼の時空龍（ネオ・ギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン）”―――！！










※CNo.107 超銀河眼の時空龍（ネオ・ギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン）
エクシーズ・効果モンスター
ランク9/光属性/ドラゴン族/攻4500/守3000
レベル9モンスター×3
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
このカード以外のフィールド上に表側表示で存在する全てのカードの効果はターン終了時まで無効になり、このターン、相手はフィールド上のカードの効果を発動できない。
また、このカードが「No.107 銀河眼の時空竜」をエクシーズ素材としている場合、以下の効果を得る。
●自分フィールド上のモンスター2体をリリースして発動できる。このターンこのカードは1度のバトルフェイズ中に3回までモンスターに攻撃できる。


「超銀河眼の時空龍……！！」

　遊希の持つ切り札、超銀河眼の光子龍と似て非なるモンスター、CNo.107 超銀河眼の時空龍。このカードこそ遊望の切り札であり、銀河眼の時空竜の真の姿であった。

「CNo.107 超銀河眼の時空龍の効果を発動します。オーバーレイユニットを1つ取り除くことで、このカード以外のフィールドに存在する全てのカードの効果はターン終了時まで無効になり、このターン、相手はフィールド上のカードの効果を発動できません」
「っ……全体無効効果」
「時も、世界も全て私の思うがままです。“タイム・タイラント”！！」

　超時空龍から発せられた力によって遊希の中の時そのものが巻き戻るような不気味な感覚に襲われる。
　時空竜の効果である“タキオン・トランス・ミグレイション”はバトルフェイズの開始時のみに発動できる効果であり、フィールドに存在するモンスターの効果こそ無効にするが、魔法・罠カードの効果までは無効にできない。自身の効果で攻撃力上昇と2回攻撃が可能になる者の、次元幽閉やミラー・フォース系のような戦闘反応のカードは対処できないという弱点があった。
　しかし超時空龍となって得た“タイム・タイラント”はカードの種類問わず全てのカードの効果を無効にし、かつ相手にカードの発動をさせないという効果がある。最もモンスターの効果を無効化できるのは発動ターンのみと永続的に無効化する進化前より短くなっているが、召喚反応の罠やカウンター罠に対処できないという点を除けばその制圧力は火を見るよりも明らかなのだ。

「っ……！」
「これで超光子龍の効果は無効になります。まあ無効にしたところで何かが変わるわけではないですが」

　超時空龍のタイム・タイラントの効果は次の遊希のターンには切れる。そのため超光子龍の効果は次の遊希のターンになれば復活する。それでも七皇の剣によってランクアップ・カオス・エクシーズ・チェンジされた超時空龍にはオーバーレイユニットが存在しないため、超光子龍の効果自体使う意味がないのだが。

「……でも遊望。そのモンスターの攻撃力は4500で超光子龍と同じよ？ 攻撃したところで復活の福音はもう墓地には存在しない」
「そうですね。でもそれでいいんですよ、うふふっ。メインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移ります」

　遊望の微笑に合わせて超時空龍が戦闘態勢を取る。まさか本当に超光子龍と相討ちにさせるつもりなのだろうか。

「……ねえ、遊望。本気なの？」
「……お姉さま、愚問です。私は何をするにおいてもお姉さまには本気です。デュエルにおいても、お姉さまを愛し慕う気持ちでも―――CNo.107 超銀河眼の時空龍よ、お姉さまの超銀河眼の光子龍を攻撃！！」

　超時空龍の3つの頭に膨大な力が集まっていく。それに対する超光子龍も自身の持てる全てのエネルギーを収束させる。精霊としての力に格差こそあっても、どちらも攻撃力は4500。デュエルにおいては同格の2体のドラゴンの戦いはこのまま行けば互いに身を滅ぼし合うだけだ。ただ、このデュエルにおいて身を滅ぼすことすらも遊望は厭わなかった。


「行きなさい“アルティメット・タキオン・スパイラル”！！」
「迎え撃って！ “アルティメット・フォトン・ストリーム”！！」


　超銀河眼（ネオ・ギャラクシーアイズ）という名前を持つ2体の龍の攻撃は全くの互角であった。光と光は強大な力をもって混じり合い、その力はまさに天地を震撼させるほどのものとなっていた。激しい揺れと衝撃に耐えながらもデュエルを続ける遊希と遊望。2体の龍はまさにそんな姉妹のこのデュエルにかける意志を感じさせるほど力強かった。
　その力の前にデュエルのために頑丈に作られた教室の壁にはヒビが入り、ガラスが音を立てて吹き飛ぶ。その衝撃はアカデミア全体へと生じ、アカデミア全体および街全体を強い地震が襲うこととなった。机に向かって書類作業に追われていたミハエルは地震を感じ、机の下へと避難するものの、手にしたスマートフォンには地震の情報は表示されていないことに疑問を持った。

（この揺れは……一体……？）

　光子龍と時空龍の攻撃は完全に拮抗していた。しかし、硬い物同士がぶつかれば双方ともに罅が入るように、拮抗した強い力と強い力は双方に破滅をもたらす。混じり合った2つの力はやがて巨大な1つの光となり、超光子龍と超時空龍の身体を飲み込んでいった。その場にいた誰もが想定していた通り、この2体の龍の戦いは相討ちという形で幕を下ろしたのである。
　光となって消えた2体の龍。遊希と遊望のフィールドにはそれぞれ強大な力を持ったドラゴンがいたのだが、それらが一斉に消えたことで教室およびアカデミアを襲っていた力の衝動はぷつりと消えてしまった。

「……結局、こうなるのね。そのセットカードか何かがコンバットトリックなのかとも思ったけれど」
「お姉さま」
「……何？」
「私たちは……やはり姉妹なのですね、悲しいほどに。―――リバースカードオープン―――










―――速攻魔法、エクシーズ・ダブルバック―――










「……えっ？」

　エクシーズ・ダブルバック。このターンに破壊されたエクシーズモンスター1体とそのモンスターの攻撃力以下のモンスターを墓地から特殊召喚する速攻魔法。前のターンに遊希が発動しては遊望のライフを大きく削るのに一役買ったこのカードを遊望もデッキに入れており、そして遊希が発動した次のターンで発動する絶好の機会を得たのである。

「時の間より蘇りなさい。超銀河眼の光子龍、そして銀河眼の時空竜」

　遊望のフィールドには攻撃力4500の超時空龍と攻撃力3000の時空竜の2体が舞い戻った。対する遊希のフィールドには1枚のカードも存在しない。

「そ、そんな……嘘……」

　遊希は必死に自分の目の前で起きている状況を飲み込もうとする。しかし、そこに普段の冷静沈着な彼女の姿はない。今まさに自分に襲い掛かろうとしている2体の銀河眼を前にまるで蛇に睨まれたカエルのように動くことすらできない。まるで迷子になった子どものように狼狽えることしかできなかった。

「お姉さま、これで―――これで全てが終わります。CNo.107 超銀河眼の時空龍でお姉さまにダイレクトアタック」
「あ……ああ……」
―――遊希、逃げろ！ 遊希ッ！！

　光子竜は遊希を必死に呼びかける。それでも遊希の頭の中は真っ白になっていて動くことも考えることすらもできずにいた。

「“アルティメット・タキオン・スパイラル”！！」


CNo.107 超銀河眼の時空龍 ATK4500


―――遊希ッ！！


　超時空龍の放った一撃が遊希に直撃しようとしたその瞬間である。墓地に存在するはずの銀河眼の光子竜の身体がデュエルディスクから飛び出し、その攻撃から遊希を守るように立ちはだかった。
　それでも光子竜自体が蘇生されたわけではないため、遊希の受けるダメージが変わるわけではない。もちろん光子竜もそれはわかっていた。ただ彼は遊希を守りたかった。その気持ちが、その意志が幻影となって遊希を守ろうとしたのである。


―――ぐあああっっっ！！……遊……希……すま……な―――……
（光子竜……光子竜！！）

　遊希の目の前で光子竜の身体が消えていく。それと同時に光子竜の存在を表わす波動も徐々に感じられなくなっていった。
　




遊希 LP400→0











＊










　超時空龍の攻撃はまさに迸る光の如く教室中を包み込んだ。あまりにも激しい光に直視することはできなかったが、その場にいた誰もが感じていた。遊希がこのデュエルに敗れたという事実を。
　攻撃を受けた遊希の身体は大きく吹き飛ばされ、床に叩きつけられた。あまりにも強い力だったのか、制服はところどころボロボロになり、遊希が愛用しているデュエルディスクは無残にも破壊され、中にセットされていた遊希のデッキのカードが周囲に散乱していた。

「遊……希……遊希！！」

　敗れた遊希の眼からは一粒の涙がこぼれ落ちる。その眼に光はなく、まるで死んだ人間のそれのように虚ろになっていた。綾香は倒れたまま動かない遊希の元にふらふらになりながらも駆け寄ろうとしていた。

「綾香サン！！ 行ってはいけまセン！！」
「えっ……」

　エヴァのその声に綾香が足を止めた瞬間である。綾香が進もうとした先に超時空龍の巨大な身体が行かせてなるものか、と立ちはだかったのだ。もしエヴァが止めていなかったらきっと今頃綾香の身体は超時空龍の脚に押しつぶされていただろう。
　目の前に現れ、綾香に対して威嚇の意味を込めた咆哮をあげる超時空龍。「ひっ！」という悲鳴と共に綾香はその場に座り込んでしまった。

―――これ以上の立ち入りは許さん。私とて無碍に命を奪いたくはない。
（……っ！！）
―――遊望。
「ええ。わかっています」

　デュエルに勝利した遊望だったが、彼女も彼女でその身に宿る精霊を2度も破壊されたとなれば精神も体力も相当摩耗している状態だった。それでも超時空龍が綾香たちの動きを止めている間に翼を広げて倒れている遊希のところまで飛び上がると、意識を失った遊希の身体を抱きかかえる。

「遊希！？……遊希をどうするつもり！？」
「どうするも何も……私はお姉さまの妹ですよ？ 私の家へと帰るのです」
「家……？」
「もう私の大願は8割叶いました。もう言ってしまってもいいでしょうね。私が皆さんを操り、お姉さまと私のデュエルにこぎつけた本当の理由……それはお姉さまを私の下へと連れ帰るためです」

　遊望の眼からは涙がこぼれ始める。遊望は遊希たち家族と共にこれから長い時を共に過ごすはずだったが、彼女の命は理不尽な手によってわずか7年で幕を閉じてしまった。
　しかし何の因果か精霊として新たな命を与えられた彼女は奪われた遊希との時間を取り戻すべく、精霊としての力を蓄え、計画を成就させるため、自らの願いを叶えるため、全てを実行に移した。
　I2社からカードを、海馬コーポレーションから開発中のデュエルディスクを奪い、綾香たちを洗脳して操り、そして今日遊希たちの目の前に現れた遊望。それも全て遊希を奪いに来るためだったのである。


「お姉さま、これからはずっといっしょ。もう誰にもお姉さまを渡しません。私たちの失われた姉妹の時間をこれから、取り戻しましょう？」


　遊望は遊希を抱き抱えたまま身を低く屈めた超時空龍の背に飛び乗ろうとする。そんな遊望を綾香が呼び止める。ここで自分が動かなければいけない、確証はないが、彼女はそう感じてならなかった。

「待って！ それは遊希が望んだことなの！？」
「お姉さまは……望んでいないでしょうね」
「だったらそんな無理やりな方法を取る必要はないじゃない！ もし生きてるんだったら、また昔のように暮らせばいいんじゃないの！！」
「……死んだことになっている人間を受け入れてくれる場所がこの世界にあると思うのですか？ あなたは。今でこそだいぶ薄れたとはいえ、お姉さまはずっと1人で苦しんできた。親殺し、妹殺し―――謂れのない誹謗中傷をその身で受けてきたお姉さまの心の痛みが、苦しみが、あなたにわかるか！！」
「っ！？」
「精霊をその身に宿しもしないくせに、利いた風な口を利くな！ あなたのような力もないくせに綺麗事を言う人間など……反吐が出る」

　遊望はそう言って超時空龍の背へと飛び乗った。超時空龍が咆哮を上げた瞬間、天井に渦のようなものが生じ始めた。

「あれは……」
「このワームホールは人間界と精霊界を繋ぐもの。No.のような選ばれた者だけが開くことのできるのです。最も、お姉さまの光子竜やエヴァ・ジムリアのレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトでも開けないことはないとは思いますが……うふふっ」
―――遊望、時間だ。
「ええ、わかっています。それでは皆様、今までお姉さまと仲良くして頂いてありがとうございました。形だけの上っ面の絆だったとしても、お姉さまは幸せだったでしょう。ですがもう心配ありません。お姉さまは私と共に精霊界で恒久の時を生きるのですから」

　このままだと遊希が精霊界へと連れていかれてしまう。絶対に止めなければいけない、とは思うものの綾香はその場から動くことができなかった。遊望に言われた「精霊をその身に宿さない力なき者」という言葉が彼女の心に深く刺さっていた。

（精霊を持たない私は……遊希の心の痛みを理解できていなかったの……？）
「綾香！ 綾香！！」
「千……夏……」
「遊希さんが……遊希さんが！！」
「遊希サンを連れてなどいかせまセン！ スカーライト！！」

　この中で唯一精霊を持つエヴァがスカーライトを召喚し、超時空龍を止めようとする。しかし、スカーライトと超時空龍では力の差があまりにも大きすぎた。スカーライトの放った灼熱の炎は超時空龍の作り出したバリアによって防がれ、弾き返されてしまった。

―――っ！
―――無駄だ。今の貴様の力では私に触れることすら不可能だ。
―――ねえ……超時空龍。
―――……何だ。
―――あんたは、こんなことをして、それで満足なの？
―――……！

　超時空龍はそれ以上スカーライトの言葉に応えることはなかった。そして遊希を連れた遊望、超時空龍の姿はワームホールの向こうへと消えていった。





「うそ……そんな……うそでしょ……遊希……遊希ぃぃぃ！！」





　先ほどまでの喧騒が嘘のように静かになった教室には綾香の泣き叫ぶ声だけが響き渡っていた。親友の、自分を呼ぶその声は―――遊希にはもう届かない。










＊










「うふふっ、お姉さま。これで私とお姉さまはずっと一緒。これから姉妹の時を作り直しましょう？」

　人間の世界と精霊界を繋ぐワームホールを進む超時空龍の背の上で遊望は遊希の身体をぎゅっと抱きしめていた。遊望は先ほどから遊希に対してささやきかけるが、虚ろな眼をした遊希はまるで人形のようにそれに応えることはない。

―――遊望。
「……なんですか、時空龍？」
―――お前は、これで良かったのか？
「……」

　遊望はその問いかけには応えなかった。






（……多くの人間を殺め傷つけ私はきっと地獄に落ちるでしょう。ですが、それも覚悟の上です。お姉さまを―――滅びの運命から守れるのならば）