第21話：固まる結束　作：光芒

　ダークエンド・ドラゴンが攻撃が遊希に迫っている。この攻撃が決まれば遊希の敗北が決まってしまう。しかし、それに合わせて遊希はセットしていたカードを発動した。

「さすがね、詩織。でも私はまだ終わらない。リバースカードオープン！ 速攻魔法“銀河竜翔還（フライト・オブ・ギャラクシーアイズ）”発動！！


※銀河竜翔還（フライト・オブ・ギャラクシーアイズ/オリジナルカード）
速攻魔法
「銀河竜翔還」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1):自分の墓地、またはゲームから除外されている「ギャラクシーアイズ」と名のついたモンスター1体を自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚されたモンスターは攻撃することができず、自分のターンの終了時に手札に戻る。
(2):このカードを発動したターン、自分は「ギャラクシー」と名のついたモンスターしか特殊召喚できない。


「ギャラクシーアイズの速攻魔法！？」
「この効果で私がゲームから除外された光子竜を復活させるわ！ 帰還しなさい、光子竜！」

　亜空間の歪みを引き裂いて、光子竜が再度フィールドに舞い戻る。しかし銀河竜翔還のデメリット効果で光子竜はフィールドに存在する限り攻撃することができなくなる。最も光子竜を自身の効果で除外してしまえば、一度フィールドを離れるため、それらのデメリットは全てリセットされるのだが。

―――ふう、一時はどうなることかと思ったぞ。
（いつも自分の効果で除外されてるじゃないの）

銀河眼の光子竜 ATK3000

（攻撃力はやはり3000。ダークエンドで攻撃すれば返り討ちになってしまいますね）
「……ダークエンドの攻撃を中止し、このままターンエンドです」

　このカードの効果で特殊召喚された光子竜は攻撃することができないが、それでも攻撃力は3000。詩織からしてみれば厄介な存在には変わりない。


遊希　LP900　手札:0
デッキ:33　モンスター:1（銀河眼の光子竜）　魔法・罠:0　墓地:8　除外:2
詩織　LP1500　手札:1
デッキ:27　モンスター:2（カオス・ソルジャー-開闢の使者-、ダークエンド・ドラゴン）　魔法・罠:0　墓地:4　除外:6


☆TURN09

「さて、そろそろ決めないとね……ドローよ」

　銀河眼の光子竜の攻撃力は3000で開闢の使者とは互角。しかし開闢の使者もダークエンドも自身の効果で攻撃力に関係なくモンスターを確実に除去できる。
　さらに仮にこのターンを生き残ったとしても銀河竜翔還のデメリット効果で光子竜は手札に戻ってしまう。そのため、実質このターンが遊希に残されたラストターンと言っても過言では無い。だが、遊希に焦りの色は無い。遊希の手には反撃の手段は揃っていたからだ。

「私は魔法カード、銀河遠征を発動！ この効果で私はデッキからレベル5の銀河の雷光竜を特殊召喚するわ。そして特殊召喚された瞬間、雷光竜の効果が発動し雷光竜のレベルは自身以外のギャラクシー、すなわち光子竜と同じ8になる！」

銀河の雷光竜 星5→8

「レベル8のモンスターが2体……！」
「私はレベル8の銀河眼の光子竜とレベル8となった銀河の雷光竜でオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！ “銀河に轟く咆哮、大いなる力をもって相対するもの全てを圧する。抗う者を押し潰せ！” 今一度現れよ！ ランク8、地の銀河眼！！ “銀河眼の重力竜（ギャラクシーアイズ・グラビティ・ドラゴン）”！！」

　先程のデュエルに続いて再度重力竜がデュエルに舞い降りる。重力竜の名が表す通りフィールドには何処か重々しい空気が流れる。しかし、さっきのデュエルほど遊希の身体に負担はかかっていないようであった。

「重力竜……さっきの陽川さんとのデュエルでも見ましたが、強力な効果を持っています。しかしその攻撃力は開闢の使者に及びません！」
「このカードはギャラクシーアイズの名を冠している。つまりこのカードを呼ぶことだってできるわ」

　遊希はエクストラデッキからあのカードを取り出す。光子竜は先日こそ止めに入ったが、今日は何も言わなかった。遊希の中にあるこの力を真の意味で自分のものにしたいという意志を感じ取ったからだ。

―――もう倒れるなよ、遊希。
（ふん、見てなさい。やってやるから）
「私は自分フィールド上の「ギャラクシーアイズ」と名のついたエクシーズモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築！！ 銀河の瞳を持つものよ、冷たき鎧をその身に纏い、抗う者に無慈悲なる鉄槌を下せ！ エクシーズチェンジ！ 天孫降臨！ “ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン”！！」

　遊希は入学直後のデュエルで召喚したギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴンをさらにエクシーズ召喚する。
　やはりこのカードのパワーは相当なものらしく、このカードにエクシーズチェンジした瞬間、遊希の気が一瞬遠くなったような気がした。しかし、重力竜を繰り返し召喚したことが功を奏したのか、以前のデュエルの時ほど負担はかからなくなっていた。

「FA・フォトン・ドラゴン……ダークエンドを攻撃されたら私のライフは……」

　ダークエンド・ドラゴンの攻撃力は効果を使用したことで2100に下がっている。FA・フォトンで攻撃すればダメージは1900で詩織のライフはゼロになり、遊希の勝ちだ。しかし遊希はその形での勝利を望んでいなかった。

「確かにこのカードでダークエンドを倒せばこのデュエルの勝者は私。でもどうせ勝つなら……」

　そう言って遊希は開闢の使者を指差す。

「詩織。あなたの切り札、開闢の使者を倒して勝つ」
「……でも開闢の使者を倒したとしてもダメージは1000。私の残りライフ1500を削りきることは不可能です！」
「確かにそれには攻撃力が足りない。だったらそれを補うまでよ！」
「攻撃力を補う？ 手札にもフィールドにもそんな手段はないはず……」
「確かに手札とフィールドにはない。でも墓地には？ 私は墓地の“オーバーレイ・ブースター”の効果を発動！」


※オーバーレイ・ブースター
効果モンスター
星5/光属性/戦士族/攻2000/守0
自分フィールド上に攻撃力2000以上のモンスターが存在する場合、このカードは手札から表側守備表示で特殊召喚できる。
この方法による「オーバーレイ・ブースター」の特殊召喚は1ターンに1度しかできない。
また、墓地のこのカードをゲームから除外し、自分フィールド上のエクシーズ素材を持ったエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターの攻撃力は、そのモンスターのエクシーズ素材の数×500ポイントアップする。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。


「オーバーレイ・ブースター！？ そんな、いつの間に墓地に……」

　この時、詩織は気付いていなかった。このオーバーレイ・ブースターを墓地に送ったのは他ならぬ詩織本人だったということに。
　元々オーバーレイ・ブースターは遊希の手札に初手から存在した。しかしこのカードは銀河戦士やサイバー・ドラゴンと併用してランク5のエクシーズモンスターを召喚するために遊希が採用したカードであり、手札にそれらのカードがない以上、事故要員と化していたのだ。
　しかしそんな事故要員が墓地に送られたのが詩織がサフィラ召喚の手段をそろえるために発動した手札抹殺だったのである。これにより遊希の手札はリセットされ、手札事故が解消されてしまった。このように一つの何でもないカードが勝敗を左右する。それがデュエルモンスターズというゲームの面白さでもあり怖さでもあった。

「墓地のこのカードをゲームから除外し、自分フィールドのエクシーズ素材を持ったエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。その選択されたモンスターの攻撃力はエクシーズ素材の数×500ポイントアップする！よってFA・フォトンの攻撃力は1500ポイントアップ！」

ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン ATK4000→5500

「攻撃力5500……」
「これで終わりよ！ FA・フォトン・ドラゴンでカオス・ソルジャー-開闢の使者-を攻撃！ “壊滅のフォトン・ストリーム”！！」

ギャラクシーアイズ FA・フォトン・ドラゴン ATK5500 VS カオス・ソルジャー-開闢の使者- ATK3000

詩織 LP1500→0





＊





「……はぁ、負けちゃいました」

　そう言ってその場にへたり込む詩織に元に遊希たちが歩み寄る。

「何言ってんのよ！ 詩織凄かったじゃない！」
「ええ。もしかしたら遊希の次に強いのは詩織かもしれないわね」

　綾香と千夏に褒められた詩織は顔を紅潮させては両手で覆い隠す。あまり褒められ慣れていないのか、かなり恥ずかしそうだった。

「うう……そんなに褒めないでくださいぃぃ……恥ずかしいです」
（詩織にとっては褒め殺しってやつなのかしら）
―――それは生まれ持った本人の気性が関係しているからな。部外者の我々にどうこう出来る問題ではないだろう。
（でも、素晴らしいデュエリストを称賛することは悪いことではないわよね？）
―――無論だ。

「私、そんなにデュエルは得意ではないですが……少しだけ自信が付いたような気がします」

　不器用な詩織の笑顔が4人の結束をより固いものにした。