第58話：幻惑、水の銀河眼　作：光芒

「これが水の銀河眼……銀河眼の氷晶竜！」


※銀河眼の氷晶竜（ギャラクシーアイズ・ダイヤモンドダスト・ドラゴン）
シンクロ・効果モンスター
星8/水属性/ドラゴン族/攻2600/守2900
チューナー+「ギャラクシー」と名のついたチューナー以外のモンスター2体以上
(1)：
(2)：


（案の定効果はまだ分からない、ですカ）
「私は手札を使い切った。これでターンエンドよ」


エヴァ　LP3900　手札1枚
デッキ：29　モンスター：2（レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト、闇氷竜 バジリスク）魔法・罠：1（闇次元の解放）墓地：11　除外：3
遊希　LP800　手札1枚
デッキ：32　モンスター：1（銀河眼の氷晶竜）魔法・罠：0　墓地：14　除外：1


☆TURN13


「私のターンデス！ ドロー！！」

　遊希のフィールドにシンクロ召喚された水の銀河眼こと銀河眼の氷晶竜。やはり初めて見るカードなのでどのような効果を持っているかわからず、エヴァとしては慎重に動かざるを得なかった。

（チューナー以外のモンスターを2体要求し、その2体はギャラクシーでなくてはならナイ……縛りが二重にあるのできっと強い効果を持っているハズ。でも攻撃力はおろか守備力でさえもスカーライトの攻撃力に及ばないモンスターを攻撃表示……）

　確かに数値の面では氷晶竜はスカーライトに勝っているところはない。ただ未知のモンスターであるため、何をしてくるかわからない怖さが氷晶竜にはあった。だがこのまま放置すればその間に遊希は反撃の手を整えてくるはず。そのためエヴァにはこの氷晶竜を倒して勝負を決めるほかなかった。

「どんな効果を持っているかはわかりませんが、スカーライトに攻撃力で劣っている以上、怖くはありまセン！ スカーライトの効果を発動！ このカード以外の特殊召喚されたモンスターかつこのカード以下の攻撃力のモンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの数×500ポイントのダメージを与えます！ “アブソリュート・パワー・フレイム”！！」
「させない。この瞬間、氷晶竜の第一の効果が発動！ 魔法・罠・効果モンスターの効果の発動を無効にするわ！ “ダイヤモンド・フリーズ”！！」

　全てを破壊しつくさんとばかりに燃え盛る炎がスカーライトの右腕のプロテクターに宿る。しかし、その炎を纏ったスカーライトの右腕は氷晶竜のオーラによって瞬時に凍り付いてしまった。スカーライトは自身の売りの一つでもある破壊効果を封印されてしまったのである。

「そしてこの効果は1ターンに氷晶竜のシンクロ素材になったチューナー以外のモンスターの数だけ発動できる」
「つまり1ターンに2回まで魔法・罠・効果モンスターの効果の発動を無効にできる、ということですネ……でも攻撃力ではスカーライトが勝っていマス！」

　スカーライトが翼を広げ、天空へと舞い上がる。効果で破壊できない相手をどのようにして打ち倒すか。答えは簡単だ。戦闘で、力によってなぎ倒せばいい。それだけのことだった。

「バトルフェイズ！ レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトで銀河眼の氷晶竜を攻撃しマス！ “灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング”！！」
「……」

　スカーライトの放った灼熱の炎が氷晶竜に迫っていく。そしてその炎が氷晶竜に直撃しようとしたその瞬間である。氷晶竜の身体から小さな氷の粒が大量に噴出され、灼熱の炎をせき止めたのだ。

「スカーライトの攻撃が防がれタ……！？」
「この瞬間、銀河眼の氷晶竜の第二の効果が発動！」


※銀河眼の氷晶竜
シンクロ・効果モンスター
星8/水属性/ドラゴン族/攻2600/守2900
チューナー+「ギャラクシー」と名のついたチューナー以外のモンスター2体以上
(1)：相手の魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時に発動できる。そのカードの発動を無効にする。この効果は1ターンにこのカードのS素材となったチューナー以外のモンスターの数だけ発動できる。
(2)：自分フィールドに表側攻撃表示で存在する「ギャラクシー」と名のついたモンスターが攻撃対象に選択された時に発動できる。その攻撃を無効にし、相手フィールドに表側表示で存在するモンスターを全て破壊する。その後、破壊したモンスターの元々の攻撃力の合計分のダメージを相手ライフに与える。


「自分フィールドに表側攻撃表示で存在するギャラクシーモンスターが攻撃された時、その攻撃を無効にするわ。そして……」

　氷晶竜の周囲に漂う氷の粒が防いだスカーライトの炎を吸収し膨張していく。そして一つ一つの氷の粒はどんどんと膨らみ、やがて大きな水晶体へと変化した。

「こ、これは……」
「相手フィールドに存在するモンスターを全て破壊し、破壊したモンスターの元々の攻撃力を合計したダメージを相手ライフに与える！」
「攻撃力の合計……！？」
「エヴァ、あなたのフィールドに存在するモンスターの攻撃力の合計は4200！ これで終わりよ！“ダイヤモンド・リフレクト”！！」

　氷晶竜の周囲に漂う水晶体から一斉に力が放出され、エヴァのフィールドを焼き尽くす。自分の炎で焼かれる形となったスカーライト、そしてバジリスクの身体は赤い閃光に飲み込まれる形で消滅していった。

「……これが、氷晶竜の力……なのですネ。 流石です、遊希サン！！」

氷晶竜の効果によるバーンダメージ 4200

エヴァ LP3900→0






＊





　精霊を操るデュエリスト同士である遊希とエヴァのデュエルが終わった。デュエルが終わった瞬間、エヴァはまるで糸の切れた操り人形のようにその場にパタリと崩れ落ちた。
　一方の遊希も完全制御されていないスカーライトの攻撃を2発も直に受けたため、かなり疲弊していた。しかし、遊希は自分の身体の疲れなどいざ知らず、真っ先にエヴァの元に駆け寄った。まるで初めて自分とデュエルをして傷つきながらも倒れた遊希を気にかけたあの時の綾香のように。

「エヴァ！」

　遊希に抱きかかえられたエヴァは辛そうに微笑む。

「アハハ……すっごく疲れちゃいまシタ。どうしてでしょうネ」
「心配いらないわ。私にも経験がある。精霊と少しでも心が伝われば、身体が凄い疲労感に襲われるのよ」
「……つまり、私はこの子と、スカーライトと少し近づけたということでしょうカ……それなら、凄く嬉しいデス」

　今まで感じた事のないような疲労感に襲われたエヴァはその場から動くことが出来ずにいた。そんなエヴァを遊希はお姫様抱っこの形で講堂の端、陽の光がよく当たるところへと運んでいく。

「ゆ、遊希サン！？」
「大丈夫よ、誰も見てないし」
「そういう問題では……ハワワ……」
「それより。疲れているんでしょう？ 膝を貸すわ。少し眠りなさい」
「いいんですカ？……それでは、お言葉に……甘えマス……」

　遊希に膝枕を貸してもらったエヴァは数分も経たないうちに眠りへと落ちていった。幼子のような小さな寝息を立てて眠るエヴァの頭をしばらく撫で続けていた遊希であるが、そんな彼女にもすぐに猛烈な睡魔が襲い掛かってきた。

（私も少し眠ろうかしら……光子竜）
―――ああ。わかっている。
（ここからは……あなたの仕事よ。任せたわ）
―――任された、お前は眠っていろ。

　やがて遊希も眠りに落ちていく。光子竜は遊希が眠りについたのを確認すると、空間と空間を繋ぐワームホールを開いた。普段は厳しくとも、あのような激しいデュエルの後ならば精霊の力で異なる世界と世界を繋ぐのは可能である。

『あのデュエルが功を奏したな。さあ、精霊同士のご対面だ』

　光子竜は決意を秘めてワームホールへと飛び込んでいった。光子竜の働きが遊希、そしてエヴァの二人の今後を決めるといっても過言ではなかった。
　もちろん自分の世界から異なる精霊の世界に向かう、ということは決して容易なことではない。それでも光子竜のように宿主と日常的なコミュニケーションが取れる力の強い精霊ならばその限りではなかった。

（エヴァが言っていたな。ただのカードが突如変化したと。それはつまりこの世界で精霊が生まれたということになる。精霊は普通精霊の世界で生を受けるものと思っていたが……）

　自分が物を知らぬだけなのか。それともそのような例外が起こるような状況にあるのか。光子竜だけではその真実を見極めることは出来なかった。

『さて、着いたか』

　光子竜がワームホールを抜けると、そこは溶岩が噴出する灼熱の世界だった。光子竜が遊希とコミュニケーションを交わす宇宙空間とは180度違う環境である。

『私は銀河眼の光子竜！ どういう理由か人間・天都 遊希の身体に宿ったデュエルモンスターズの精霊だ！ この世界に形成する者、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト！ お前と話がしたい！』

　光子竜が世界全体に伝わるように大声で叫ぶと、それに返すように何処からか声が聞こえた。それは遊希や綾香といった人間でいうと10代の若い少女が出すような若い声だった。

『そんな大声で叫ばなくても聞こえているわよ！ ったく、傷に響くんだからやめてよねマジで……』
『……まさかそんな軽いノリで来るとはな』

　マグマの中から飛び立ったのは紛れもなく、先ほどまで遊希と対峙していたレッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライトそのものである。先ほどのデュエルで破壊されたのが響いているのか、飛ぶことすら辛そうだった。

『そっちが固すぎんのよ。まあ他の奴がどんな口調や性格かなんてあたしには関係ないけど！』
『……どんな形にしても同じ精霊とこの世界で巡り合えたことは喜ばしいことだ』
『まあね、それにこっちも聞きたい事色々あるし』
『聞きたい事？』
『ねえ、どうしたらあたしはあの子と……エヴァと心を通わせられるの？』

　スカーライトは同じ精霊の光子竜に自分の正直な気持ちを吐露した。この世に生を受けた時、自分はエヴァの元にいた。言うなればスカーライトにとってエヴァは育ての親のような存在であると言ってもいい。
　彼女は心優しいエヴァと心を通わせたかった。しかし、どうやっても自分の気持ちは伝わらないどころか自分を使うせいでエヴァもエヴァとデュエルする人々も傷つけてしまう。それによって苦しむエヴァの姿を見るのはスカーライトも苦しかったのだ。

『あんたはあんたの宿主の子とまるで親子や兄妹のように仲良くやってるじゃない？ なんで？ なんであんたに出来てあたしとエヴァに出来ないの？』
『こればかりは私自身も何故かはわからない。そもそも私が何故この世界にいるのかもわからないし、何故遊希とコミュニケーションが取れるのかもはっきりとはわからない。ただ推測ではあるが、遊希は元々その才があったとは思うがな』

　遊希とエヴァ。生まれた月や国は違えど二人は天才デュエリストである。しかし、遊希は幼い時から目の前に現れた光子竜と難なくコミュニケーションを取ることができ、プロデビューからわずか数年間の活動で歴史に名を残した。
　対するエヴァは既にプロとして活躍していた同い年の遊希に憧れ、一生懸命努力しては遊希と入れ替わる形でプロの世界に飛び込み現在進行形で成功を収めている。
　生まれ持った才を持つ遊希と努力によって才を開花させたエヴァ。同じ天才でも二人のタイプはまるで違うのだ。

『じゃあどうすればいいのよ！ あたしもう傷つくあの子は見たくない！！』
『そう感情的になるな。お前とエヴァの間には厚い壁があるかもしれないが、兆しはある。少なくともこのデュエルで私はそう感じた。これからも彼女と向き合い続けろ。エヴァはお前から逃げない。お前もそれに応えるんだ』
『応える、かぁ。簡単そうに言ってくれちゃって……ねえ、あたしにそれが出来るのかな？』
『出来る。お前が出来ると思えばより確実に、な』

　そう言われたスカーライトは少し黙って考え込むと、「ありがと」と不器用に礼を告げた。いつになるかはわからないが、きっとエヴァとスカーライトの間には強い絆が生まれることだろう。

（今の私に出来るのはこれぐらいだろうか？ ……遊希、お前もエヴァを支えてくれ）