第40話：真っすぐにあれ　作：光芒

☆TURN09


「僕のターン、ドロー！」

　命はいつにもなく熱くなっていた。自分の占いが外れそうだから、というわけではない。自分の指し示した運命という道を変えてしまおう、と誰よりも強く願う人間が目の前に現れたからだ。
　日本人は世界で最も占いが好きな人種と言っていいほど日々占いを重視する。朝の星座占いや血液型占いでその日の身なりを変えたり、風水で家具の配置を変えたりするなど日常茶飯事のことだ。それが決して悪いことではないし、それを信じる当人がそれで救われるのであればより良いことでもある。
　自分が生まれ育った時から人とはそういうものなのだろう、と思ってきた命の目にはそれだけ千夏の姿は新鮮で輝かしく見えた。そして同時に彼の中には自分でも気づかぬ間に「絶対にこの少女に勝ちたい」という気持ちが芽生えていたのだ。

（あれだけのライフアドバンテージをつけておきながらここまでひっくり返された。このままでは僕の負けだろう。しかし、僕のデッキは僕の示した運命に応えてくれたようだ）
「ダイヤモンドガイの効果で墓地に送った増援の効果を発動。デッキから戦士族の“E・HERO プリズマー”を手札に加える。そしてこのモンスターを召喚！」


※E・HERO プリズマー
効果モンスター
星4/光属性/戦士族/攻1700/守1100
(1):1ターンに1度、エクストラデッキの融合モンスター1体を相手に見せ、そのモンスターにカード名が記されている融合素材モンスター1体をデッキから墓地へ送って発動できる。
エンドフェイズまで、このカードは墓地へ送ったモンスターと同名カードとして扱う。


「プリズマー？ エアーマン以外のE・HEROも入れているのね」
「このカードの強さは君も理解していると思うけど？」
「ええ。それでいてあなたが何を狙っているか、もね……」
「本当は正規融合で出したかったけど、今の僕はまだ修行不足のようでね。あのカードを手札に呼び込むことは出来なかった。それでもこのカードで代わりを担うことは出来る。プリズマーの効果を発動！“リフレクト・チェンジ”！」

　プリズマーの身体が激しい光を放ち、水晶で出来た自身の姿を屈折させていく。千夏の目にはプリズマーは別のもっと禍々しいモンスターに姿が変化したように見えていた。

「プリズマーの効果。エクストラデッキの融合モンスターを見せることで、そのカードに記されている融合素材モンスター1体を墓地に送り、プリズマーをその素材モンスター1体として扱う。僕が見せるのはこのカード……“Dragoon D-END”だ」
「Dragoon D-END……！ 噂に聞く“最後のD”ってモンスターよね」
「ああ。このカードの融合素材はドグマガイと“D-HERO Bloo-D”。このターン、プリズマーは自身の効果でBloo-Dとして扱う」


※D-HERO Bloo-D
効果モンスター
星8/闇属性/戦士族/攻1900/守 600
このカードは通常召喚できない。自分フィールド上のモンスター3体をリリースした場合のみ特殊召喚できる。
1ターンに1度、相手フィールド上のモンスターを装備カード扱いとしてこのカードに1体のみ装備できる。
このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの攻撃力の半分の数値分アップする。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスターの効果は無効化される。


「でも融合召喚するには融合のカードがなきゃいけないし、ドグマガイも墓地にいる。今のままじゃ無理よね？」
「ああ、確かに。だがその手段を持たない僕がプリズマーの効果を使うと思うかい？ 僕は手札から通常魔法“戦士の生還”を発動する！」


※戦士の生還
通常魔法
(1):自分の墓地の戦士族モンスター1体を対象として発動できる。その戦士族モンスターを手札に加える。


「この効果でドグマガイを手札に加える。そして融合を発動！」
「融合、ここで引き当てるなんて……」
「僕はフィールドのBloo-Dとなったプリズマーと手札のドグマガイを融合！“鮮血に染まった翼翻し、この運命に終止符を！ 舞い上がれ、最後のD！” 融合召喚！ Dragoon D-END！！」


※Dragoon D-END
融合・効果モンスター
星10/闇属性/戦士族/攻3000/守3000
「D-HERO Bloo-D」＋「D-HERO ドグマガイ」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
1ターンに1度、相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。選択した相手モンスターを破壊し、そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。この効果を発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。
また、自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在する場合、自分の墓地の「D-HERO」と名のついたカード1枚をゲームから除外する事で、このカードを墓地から特殊召喚する。


「これが最後のD……」
「君とのデュエルは久しぶりに熱くなったデュエルだった。D-ENDはそのデュエルの幕を下ろすに相応しいモンスターだ。Dragoon D-ENDの効果！ 1ターンに1度、相手モンスター1体を選択して発動する。選択したモンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを与える。最も今君のフィールドにはモンスターは1体しか存在しないけどね」
「カミカゼの攻撃力は2700。私の残りライフも2700……」
「そういうことだ。さあ、これで終わりだ！ カミカゼを対象にD-ENDの効果を発動！！ カミカゼを破壊し、その攻撃力分のダメージを与える！！ “Dragoon Fears”！！」

　D-ENDから放たれた真紅の光弾がカミカゼに迫る。この効果がそのまま決まれば千夏の負けだった。

「……まだこのデュエルは終わらないわ！ リバースカードオープン！」
「リバースカード！？ この局面で何を？」
「カミカゼを対象に速攻魔法“禁じられた聖槍”を発動！」


※禁じられた聖槍
速攻魔法
(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターはターン終了時まで、攻撃力が800ダウンし、このカード以外の魔法・罠カードの効果を受けない。


「禁じられた聖槍！？」
「このターンカミカゼはこのカード以外の魔法・罠の効果を受けなくなる代わりに攻撃力が800下がる！ D-ENDの効果で与えるのは破壊した時の攻撃力分のダメージ！ よって私が受けるダメージは1900よ！！」

M・HERO カミカゼ ATK2700→1900

千夏 LP2700→800

「っ……！？ なんとか持ちこたえたわ！！」
「ここも凌ぐか……面白い。D-ENDの効果を発動したターン、僕はバトルフェイズを行えない。僕はカードを1枚セットしてターンエンド。首の皮一枚で繋がった、そんな感じだけどどっちにしても次のターンで終わる。仮にD-ENDを破壊したところでD-ENDは僕のスタンバイフェイズに墓地のD-HEROを除外することで何度でも蘇生する。だから君が勝つにはこのターンで決めなければいけない。それを忘れないようにね」
「……」


命 LP2700　手札：2
デッキ：16　モンスター：1（Dragoon D-END）魔法・罠：1　墓地：21　除外：1
千夏 LP900　手札：3
デッキ：25　モンスター:0　魔法・罠：2（リビングデッドの呼び声）墓地：13　除外：0


☆TURN10


「私のターン！ ドロォー！！……このデュエル。私の勝ちよ！ 私は手札からE・HEROブレイズマンを召喚！ ブレイズマンの効果でデッキから2枚目の融合を手札に加えるわ！」
「2枚目の融合……そういえば君の手札にはまだあのカードが残っていたな」
「融合を発動！ 私はフィールドのブレイズマンと手札のバブルマンを融合！“炎と水の英雄よ、相反する力を一つにし、戦場を絶対零度の氷で包み込め！”融合召喚！ 来て、E・HERO アブソルートzero！！」

　千夏のフィールドにアブソルートzeroが舞い降りる。しかし、アブソルートzeroの攻撃力は2500。仮に何らかの方法で墓地のバブルマンを蘇生するなど自身以外の水属性モンスターを増やしたところで攻撃力はD-ENDと並ぶだけ。破壊されても自己蘇生を持つD-ENDに対してアブソルートzeroが真っ向から立ち向かっても勝ち目はまずないと言っていいだろう。

「アブソルートzero。効果こそ強力だがそのモンスターではD-ENDには勝てない！」
「ええ。確かにアブソルートzeroではD-ENDに勝てない。第一自爆特攻してもD-ENDはすぐに蘇っちゃうし私がダメージを受けるだけだもの。でもアブソルートzeroでは勝てなくても、別のHEROならあなたを倒すことは出来る！」
「別のHERO？ この状況で別のHEROを呼ぶ手段など……っ！！」

　その時、命はずっとセットされたままのカードの存在を思い出した。

「リバースカードオープン！ 速攻魔法、マスクチェンジ！！」
「やはり……2枚目のマスクチェンジ！」
「私はフィールドのアブソルートzeroを墓地に送り、このHEROをエクストラデッキから特殊召喚するわ！“その手に携えしは全てを溶かす酸の銃。己が信じる正義のために悪を撃ち抜け！” 変身召喚！“M・HERO アシッド”！！」


※M・HERO アシッド
融合・効果モンスター
星8/水属性/戦士族/攻2600/守2100
このカードは「マスク・チェンジ」の効果でのみ特殊召喚できる。
このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊し、相手フィールド上の全てのモンスターの攻撃力は300ポイントダウンする。


「アシッドの特殊召喚に成功した時、相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊するわ。でもその効果にチェーンしてフィールドを離れたアブソルートzeroの効果も発動！ 相手フィールドのモンスターを全て破壊する！ 消えなさい、D-END！！」

　アブソルートzeroの発した冷気によってD-ENDが破壊される。墓地にD-HEROが存在する限り、何度でも蘇るD-ENDだが、それも次のターンのこと。このターンのうちにはフィールドには戻ってこないのだ。

「くっ……！ D-END！？」
「チェーン1でアシッドの効果が発動。でも破壊するカードがないから意味ないんだけどね！」
「しかしアシッドの攻撃力は2600。僕のライフは100残る！ ライフが1でも残っている限り僕の負けはない！」

　命の言う通りだ。ライフが1でも残っている場合まだデュエルは続く。しかし、その命の勝利への道筋を、千夏が手札から発動したカードが断ち切った。

「手札から魔法カード発動！ 死者蘇生！！」
「死者……蘇生……！！ そうか……ここでそのカードを呼び込むか……」
「私は墓地からアナザー・ネオスを特殊召喚するわ！ そしてバトルフェイズ！ アナザー・ネオスでダイレクトアタック！！」

E・HERO アナザー・ネオス ATK1900

命 LP2700→800

（陽川 千夏……彼女は運命に惑わされることなく自分を信じた。その強い気持ちがこの勝利を呼び込んだ……！！）
「これで最後よ！ アシッドでダイレクトアタック！ 撃ち抜け！“Acid bullet！！”」

M・HERO ATK2600

（デュエリストの魂は……運命をも乗り越える、か）

命 LP800→0





＊






「いいデュエルだった。これが僕のパズルカードだよ。僕の分まで頑張ってくれよ？」
「ありがとう……ってあなたはこれで終わりなの？」
「ああ。今のが初デュエルだったからね。でも悔いはないさ。君のようなデュエリストに敗れたのならね」

　負けたにも関わらず清々しい微笑みを浮かべる命。千夏はそんな彼の気持ちを斟酌してかしっかりと決意を秘めた眼で命からカードを受け取った。

「そう……なんだ。でも心配しないで、私は絶対に決勝トーナメントに行ってやるんだから！ もちろん、あなたの分も精一杯デュエルあげるんだから！」
「期待しているよ。そうだ、せっかくだから君の今後の運勢を占わせてもらいたいんだけど」
「占いは……もういいかな。それよりも時間が惜しいわ、早速次のデュエル相手を探さないと！ それじゃあね！ またデュエルしましょう！」

　そう言ってエリアの奥に走っていく千夏。命は何も言わず占い用のデッキからカードを引いた。

「“魔導戦士 フォルス”の正位置か」


※魔導戦士 フォルス
効果モンスター
星4/炎属性/魔法使い族/攻1500/守1400
1ターンに1度、自分の墓地の「魔導書」と名のついた魔法カード1枚をデッキに戻し、フィールド上の魔法使い族モンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターのレベルを1つ上げ、攻撃力を500ポイントアップする。


「勇気・強固な意志・不撓不屈……彼女らしいな。今のまま、真っすぐにあれ。それを一デュエリストとして願っているよ」