第20話：諦めない気持ち　作：光芒

☆TURN06


「私のターンです、ドロー」

　サフィラとダークエンドを処理されてフィールドががら空きになってしまった詩織。このドローに勝利を託すも光子竜を含む2体の大型モンスターを倒せるカードをこのドローでは引くことは出来なかった。

（っ、2枚目のサフィラ……私の手札には1枚目のサフィラの効果で回収したオネストがいますが、生け贄も祝祷の聖歌も手札にない以上どうしようもない……それにフィールドに光属性モンスターがいない以上、オネストは……）
「私はモンスターをセットし、ターンを終了します」

　当然詩織のセットしたモンスターはオネスト。奇しくも彼女は数ターン前の遊希と同じ対応を迫られるようになってしまっていた。


遊希　LP900　手札:0
デッキ:34　モンスター:2（銀河眼の光子竜、銀河の冥府竜）　魔法・罠:0　墓地:6　除外:2
詩織　LP4500　手札:1
デッキ:25　モンスター:1　魔法・罠:0　墓地:12　除外:2


☆TURN07


「私のターン、ドロー。ドロー、スタンバイフェイズを終えてメインフェイズ1に移行。そして何もせずバトルフェイズ。銀河の冥府竜でセットモンスターを攻撃するわ」

銀河の冥府竜 ATK2600 VS オネスト DEF1900

「そして銀河眼の光子竜で詩織にダイレクトアタックよ、破滅のフォトン・ストリーム！」（今度は少し手加減しなさいよ）
―――ふん、仕方ないな。

銀河眼の光子竜 ATK3000

詩織 LP4500→1500

　光子竜のダイレクトアタックが詩織に炸裂する。先程やりすぎだ、と遊希に一喝されたのを気にしたのか光子竜は可能な限り力を抑えて攻撃をした。それでも数値上の攻撃力は3000もあるので、全く詩織に影響が出さない、ということにはいかないのだが。

「……」
（……リアクションが薄いわね。あそこまで手加減できるの？）
―――いざリアクションが薄いからと言って不満そうな顔をするな……まあ攻撃して彼女からさっきまで感じられた闘志が微塵も感じられないのはわかったが。
（そう……）
「私はカードを1枚セット。これでターンエンドよ」


遊希　LP900　手札:0
デッキ:33　モンスター:2（銀河眼の光子竜、銀河の冥府竜）　魔法・罠:1　墓地:6　除外:2
詩織　LP1500　手札:1
デッキ:25　モンスター:0　魔法・罠:0　墓地:13　除外:2


☆TURN08

「私のターン……です」

　詩織はデッキからカードをドローする仕草を見せるが、デッキの上に手を置いたままカードをドローしようとしなかった。
　デュエリストがデッキの上に手を置く。それはサレンダーを意味し、このデュエルにおいて自ら敗北を認める行為となる。しかしサレンダーは相手が認めれて初めて成立するものであり、そのサレンダーを遊希が認めなければこのデュエルはどちらかのライフが0になるまで続けられるのだ。

「詩織……何のつもり？」
「……」

　遊希の問いかけに詩織は沈黙で返す。遊希はふぅ、と小さく溜息をついた。

「……まあサレンダーは決して恥ずかしい行為じゃない。私もプロ時代に何度かしたことはあるわ」

　遊希の脳裏には昔竜司を始めとした大人のプロデュエリスト相手に敗れた時の光景がフラッシュバックする。人間とは何故か嫌な思い出だけは瞬時に思い出せる脳をしているため、あれから数年経った今でもその時のことは鮮明に覚えているものだ。

「でもね、それをやるならまずそのデッキの上のカードをドローしてからやるべきよ。私もそう教わったから……」

　遊希はデュエル中ということもあって真剣な表情をしているが、その声は何処か諭すように優しかった。かつて自分にそう言い聞かせてくれた竜司のそれと同じように。

「そうよ詩織！ まだデュエルは終わってないんだから！」
「ええ、デュエルの結末はライフが0になるまでわからないわ！ 実際目の前の遊希があの状況からひっくり返したじゃない！」

　デュエルの行方を固唾を飲んで見守っている綾香と千夏も詩織に対して声援を送る。しかし、さっきは自分に対して諦めるな、と喝を入れたわりに綾香が詩織を応援していることに遊希は何処か複雑な気分だった。

（……綾香はどっちの応援をしているのかしら。浮気性な子）
―――いいじゃないかそれくらい。
（ふんっ、だ）

　そんな遊希の気持ちはいざ知らず。遊希と綾香と千夏、3人の友の声を受け詩織は首をぶんぶんと横に振る。そして小さく息を吐いて呼吸を整える。

「ありがとうございます皆さん。私……最後まで頑張ってみます。ドローっ！」

　詩織の決意のドロー。この局面を一発で覆せるような望んでいたカードではないが、まだ詩織には希望は残されている。

「私は手札から魔法カード、貪欲な壺を発動します！ 墓地のサフィラ、オネスト、エフェクト・ヴェーラー、クリバンデッド、ゴブリンドバーグをデッキに戻し……2枚ドローです！」

　貪欲な壺の効果でドローしたカードを見た詩織の目の色が変わった。そのカードは詩織にとってはとても大事なカードだったからだ。

（このカードは……デュエルアカデミアジャパンに合格した時に入学祝としてお父さんとお母さんが必死に探してきてくれたカード……デッキには1枚しか入れられないから引ける確率は低いけど……ここで来てくれるなんて……）
「……いいカードを引いたようね」

　遊希の問いに詩織はこのデュエルで初めて笑顔を見せる。不器用ながら、彼女らしさのつまった笑顔。

「はい、ですがまず最初にこっちです。魔法カード、死者蘇生を発動します！ 蘇らせるのはダークエンド・ドラゴンです！」
　
　死者蘇生の効果でフィールドにダークエンドが蘇る。一度墓地に送られているため、自身の効果で下がった攻撃力は元の2600に戻っていた。

「そしてもう1つ。サフィラがエースなら、このカードが切り札です！ 行きます！ 私は墓地の光属性モンスター、ライトロード・アサシン ライデンと闇属性モンスター、召喚僧サモンプリーストの2体をゲームから除外します！」

　モンスターには墓地に存在する特定の属性のモンスターをゲームから除外することでのみ手札から特殊召喚できるモンスターが存在する。そしてこのカードはこの方法でのみしか特殊召喚できない代わりに、それを補って余りある強力な力を秘めているのだ。

「“ひとつの魂は光を誘い、ひとつの魂は闇を導く！ やがて光と闇の魂は混沌の戦士の命となる！ その剣で戦いの幕を開け！”降臨せよ！“カオス・ソルジャー-開闢の使者-”！！」


カオス・ソルジャー-開闢の使者-
効果モンスター（制限カード）
星8/光属性/戦士族/攻3000/守2500
このカードは通常召喚できない。自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつゲームから除外した場合に特殊召喚できる。
1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●フィールド上のモンスター1体を選択してゲームから除外する。この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。
●このカードの攻撃によって相手モンスターを破壊した場合、もう1度だけ続けて攻撃できる。


「カオス・ソルジャー-開闢の使者-……なるほど、切り札に相応しいモンスターね」
「はい！ 私は開闢の使者の1つ目の効果を発動します。その効果はフィールド上のモンスター1体を選択してゲームから除外する効果。除外するのは……銀河眼の光子竜です！ 消えてください、“カオス・イレイザー”！ 」

　開闢の使者がその剣から放った衝撃波によって光子竜が次元の彼方にその姿を消す。これで遊希のフィールドに残ったのは冥府竜のみになってしまった。そしてその冥府竜にもダークエンド・ドラゴンが襲い掛かる。

「そしてダークエンド・ドラゴンの効果で冥府竜も墓地に送ります。“ダーク・イヴァポレイション”！」

ダークエンド・ドラゴン ATK2600 DEF2100→ATK2100 DEF1600

「ちっ……！」
「これで天都さんのフィールドのモンスターは全滅です！ 最も1つ目の効果を発動したターン、開闢の使者は攻撃できませんが、天都さんのライフを0にするにはダークエンドだけでも十分です。バトルフェイズ、ダークエンド・ドラゴンでダイレクトアタック！ “ダーク・フォッグ”！！」

　ダークエンド・ドラゴンの口から黒い煙のようなブレスが放たれる。この攻撃が直撃すれば遊希のライフは0になってしまう。遊希はまるで諦めたかのようにじっと目を閉じる。しかし彼女の左手はデュエルディスクのセットカード発動ボタンに伸びていた。