第145話：英雄と炎拳・2　作：光芒

☆TURN06


　オーバーハンドレッド・ナンバーズとはこの精霊界でも随一の存在である。しかし、その中においてセスタスは異質の存在であると言えた。
　精霊皇に仕える者として彼らにはその格に応じた品格が求められるのだが、セスタスの辞書には品格というものが存在しない。彼の中にあるのはあくまでも戦いへの渇望。戦うことが彼の喜びであり、彼が手を焼くほどの強敵こそ親友なのだ。

「お前……色々と惜しいよな」

　デュエルの最中かつ自身のライフがピンチなのにも関わらずニカッ、とした笑顔を見せるアリト。彼はこのような状況でもこのデュエルを楽しんでいた。

「はぁ？」
「お前がもし精霊だったら俺といいコンビになれたのにな。人間にしとくのがもったいないぜ」
「ごめんなさい、私は人間に生まれたことを後悔してないの。でも褒められるのは嫌いじゃないわ。ありがと」
「どういたしまして、っと。だが俺は七星将軍。お前ら人間に負けるわけにはいかねえのさ。ってことでドロー！」

　アリトの目つきが前にも増して鋭くなったように感じた。手負いの獣ではなく、相対する敵を本気で狩りに臨む野獣のような眼に。

「おっ、いいカードを引いたぜ。俺は手札から魔法カード、増援を発動。デッキからレベル4以下の戦士族モンスター“BK シャドー”を手札に加えるぜ。そして俺は手札からBK スイッチヒッターを召喚！」


※BK スイッチヒッター
効果モンスター
星4/炎属性/戦士族/攻1500/守1400
このカードが召喚に成功した時、自分の墓地の「BK」と名のついたモンスター1体を選択して特殊召喚できる。
この効果を発動するターン、自分は「BK」と名のついたモンスター以外のモンスターを特殊召喚できない。


「BK スイッチヒッターが召喚に成功した時、墓地のBK1体を特殊召喚できるぜ！ 立ち上がれ、BK グラスジョー！」

　スイッチヒッターの効果によって墓地からグラスジョーが蘇る。グラスジョーはレベル4の戦士族モンスターだ。

「さて、そのモンスターの効果は使うのか？」
「っ……」

　ガーンデーヴァは1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ取り除いて特殊召喚されたレベル4以下のモンスターを破壊することができる。
　アリトのデッキはレベル4の戦士族モンスターで固められており、先ほどのリードブローのように召喚されるのはランク4のエクシーズモンスターが多くを占めている。それに前のターンでアリトは別のBKを手札に加えていた。それを考えると千夏は彼にエクシーズ召喚をさせたくはなかった。
　しかし、グラスジョーは効果によって破壊されることで墓地のBKをサルベージする効果を持っている。彼の墓地にはバトルフェイズが行えなくなる代わりに特殊召喚ができるBK スパーがあるため、どちらにしてもエクシーズ召喚に繋げられてしまうのだ。

「ガーンデーヴァの効果は……発動しないわ」
「そうか。こんなこと言うのもなんなんだが、破壊しといた方がお前にはよかったかもな！ 俺はスイッチヒッターとグラスジョーでオーバーレイ！ もう1度立ち上がれ！ BK 拘束蛮兵リードブロー！！」

　2体目のリードブローがアリトのフィールドに現れる。オーバーレイユニットを使い切らせて破壊耐性を失わせた上で1体目を倒した千夏であるが、今の彼女の手にはリードブローを除去できるカードは存在しなかった。

「そして俺は手札のBK シャドーの効果を発動するぜ！」


※BK シャドー
効果モンスター
星4/炎属性/戦士族/攻1800/守1400
自分のメインフェイズ時に発動できる。
自分フィールド上の「BK」と名のついたエクシーズモンスターのエクシーズ素材を1つ取り除き、このカードを手札から特殊召喚する。
「BK シャドー」の効果は1ターンに1度しか使用できない。


「自分フィールド上の「BK」となのついたエクシーズモンスターのオーバーレイユニットを1つ取り除くことでこのモンスターを手札から特殊召喚するぜ！ 取り除くのはもちろんリードブローのオーバーレイユニットだ！」

　シャドー、という名が表わす通り、黒い影のような姿をしたモンスターがフィールドに現れる。攻撃力はガーンデーヴァやカミカゼを下回っているために守備表示であるが、アリトの目的はリードブローのオーバーレイユニットを能動的に取り除けることにあった。
　リードブローはBKの破壊をオーバーレイユニットを取り除くことで無効にすることができるのだが、あくまで破壊を無効にする必要はない。オーバーレイユニットを取り除くことすらできればなんでもよかったのだ。

「さて、レベル4のシャドーが特殊召喚されたがガーンデーヴァの効果は使うか？」
「つ、使わないわ。それよりもリードブローのオーバーレイユニットが減ったってことは……」

BK 拘束蛮兵リードブロー ORU:2→1　ATK2200→3000

「やっぱり……」
「リードブローの攻撃力が上がるだけじゃねえ！ 墓地に送られたオーバーレイユニットはグラスジョーだ。よってグラスジョーの効果で俺は墓地のスパーをサルベージするぜ」

　「破壊しておいた方がお前にはよかった」。アリトのその言葉は正しかった。ガーンデーヴァの効果でグラスジョーを破壊してもしなくてもどちらにせよグラスジョーのサルベージ効果を許してしまうことになるのだから。
　そう考えるとリードブローのエクシーズ召喚を許してしまった分ガーンデーヴァの効果を発動しなかったことが千夏の首を絞める結果となってしまったのである。

「ってことでバトルだ！ リードブローでカミカゼを攻撃！ ライトニング・ファースト！」

BK 拘束蛮兵リードブロー ATK3000 VS M・HERO カミカゼ ATK2700

「カミカゼは戦闘では破壊されないわ！」
「だがダメージは受けてもらうぜ！」

千夏 LP7500→7200

「くっ……たった300のダメージでもだいぶ来るわね……」

　カミカゼは自身の効果で戦闘では破壊されない。それでもダメージは発生するため、攻撃を受けた千夏の身体にはピリピリと痛みが走る。微弱な痛みだが、それでも着実に千夏の体力を奪うものであった。

「ちょっと前の俺だったらリードブローでガーンデーヴァに特攻してオーバーレイユニットを取り除いていたが……オーバーレイユニットは残しておいた方がいいだろうからな。俺はカードを1枚セット、これでターンエンドだぜ！」


アリト　LP2300　手札3枚
デッキ：31　モンスター：2（BK 拘束蛮兵リードブロー ORU:1、BK シャドー）魔法・罠：2　墓地：5　除外：0
千夏　LP7200　手札2枚
デッキ：30　モンスター：2（M・HERO カミカゼ、H-C ガーンデーヴァ ORU:2）魔法・罠：0　墓地：6　除外：2


☆TURN07


「私のターン、ドローよ！」

　M・HERO カミカゼは相手モンスターを戦闘で破壊するとデッキからカードを1枚ドローすることができる。守備表示なのでダメージこそ与えられないが、シャドーを破壊すればリードブローを除去するためのカードを引くことができるかもしれない。
　しかし、リードブローにはオーバーレイユニットが1つ残っているため、まず間違いなく1回は破壊を防がれてしまうし、次のターンで反撃を許すことになる。攻撃力を3800まで上げられてしまえば千夏のデッキではそう対処することができない。

（もしあいつのエクストラデッキにリードブローが3体いたら……ここでシャドーだけでも倒さないといけないわね）
「バトルよ！ ガーンデーヴァでリードブローを攻撃！ “ディヴァイン・アロー”！！」

H-C ガーンデーヴァ ATK3100 VS BK 拘束蛮兵リードブロー ATK3000

「リードブローのオーバーレイユニットを1つ取り除いて破壊を無効にする！」

アリト LP2300→2200

BK 拘束蛮兵リードブロー ORU:1→0　ATK3000→3800

「カミカゼで守備表示のBK シャドーを攻撃よ！」

M・HERO カミカゼ ATK2700 VS BK シャドー DEF1400

「戦闘で相手モンスターを破壊したカミカゼの効果を発動するわ！ デッキからカードを1枚ドロー！！」

　千夏はドローしたカードを確認する。しかし、このカードではリードブローを突破することは不可能であった。

「……私はカードを1枚セットしてターンエンドよ」


アリト　LP2200　手札3枚
デッキ：31　モンスター：2（BK 拘束蛮兵リードブロー ORU:0）魔法・罠：2　墓地：6　除外：0
千夏　LP7200　手札3枚
デッキ：28　モンスター：2（M・HERO カミカゼ、H-C ガーンデーヴァ ORU:2）魔法・罠：1　墓地：6　除外：2


☆TURN08


「俺のターン、ドロー！……シャドーを破壊してエクシーズ召喚を防いだつもりでいるようだが、そう上手くは行ってくれないみたいだぜ！ 俺は手札から魔法カード“バーニングナックル・スピリッツ”を発動！」


※バーニングナックル・スピリッツ
通常魔法
デッキの一番上のカードを墓地へ送って発動できる。
自分の墓地の「BK」と名のついたモンスター1体を選択して表側守備表示で特殊召喚する。「バーニングナックル・スピリッツ」は1ターンに1枚しか発動できない。


「デッキトップを墓地に送って発動、墓地のBK1体を特殊召喚できるぜ！ 蘇れ、BK シャドー！」
「そんな、せっかく破壊したのに……」
「そしてスパーを通常召喚！ スパー自身の効果で特殊召喚されたわけじゃねえから俺はバトルフェイズを行える。俺はレベル4のBK シャドーとBK スパーでオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！！“燃え盛る炎の闘士、今鮮やかに舞い踊る！ 帝王の如く雄々しく突き進め！！”来い、俺の右腕！ “No.79 BK 新星のカイザー”！！」


※No.79 BK 新星のカイザー
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/炎属性/戦士族/攻2300/守1600
レベル4モンスター×2
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。自分の手札・墓地から「BK」と名のついたモンスター1体を選んで、このカードの下に重ねてエクシーズ素材とする。
このカードの攻撃力は、このカードのエクシーズ素材の数×100ポイントアップする。
また、このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、その時にこのカードが持っていたエクシーズ素材の数まで、自分の墓地からレベル4以下の「BK」と名のついたモンスターを選択して特殊召喚できる。


「No.……！！」
「こいつは俺と同じBKのNo.だ！ 俺に負けないくらいの熱い魂を持ってるんだぜ！ カイザーはオーバーレイユニットの数×100ポイント攻撃力をアップさせる！」

No.79 BK 新星のカイザー ATK2300→2500

「俺はNo.79 BK 新星のカイザーの効果を発動！ 手札または墓地のBK1体をこのカードのオーバーレイユニットにする！ 俺は墓地のスイッチヒッターをオーバーレイユニットにするぜ。そしてオーバーレイユニットが増えたことでカイザーの攻撃力はさらに増える！」

No.79 BK 新星のカイザー ATK2500→2600

「それでもカミカゼの攻撃力には及ばない。熱い魂とかで盛り上がってるところ悪いけど次のターンでそのモンスターは破壊してあげるわ！」
「攻撃力だけが戦いじゃないんだぜ？ バトル！ 俺は……カイザーでカミカゼを攻撃！ “バーニング・カイザー・ナックル”！！」
「えっ！？」

No.79 BK 新星のカイザー ATK2600 VS M・HERO カミカゼ ATK2700

「カイザー、お前の魂は無駄にはしねえ！ この瞬間、俺はリバースカードを発動する！ 永続罠、“エクシーズ・トライバル”！！」


※エクシーズ・トライバル
永続罠
このカードがフィールド上に存在する限り、フィールド上のエクシーズ素材を2つ以上持ったエクシーズモンスターは、カードの効果では破壊されない。
また、自分フィールド上のエクシーズ素材を2つ以上持ったエクシーズモンスターと戦闘を行った相手モンスターをダメージ計算後に破壊する。


アリト LP2200→2100

「攻撃力が下のカイザーは破壊されるけど、いったいそのカードに何の意味が……」
「エクシーズ・トライバルの効果で自分フィールド上のオーバーレイユニットを2つ以上持ったエクシーズモンスターと戦闘行ったモンスターをダメージ計算後に破壊するぜ！」

　エクシーズ・トライバルの効果でオーバーレイユニットを2つ以上持っていたカイザーと戦闘をしたことにより、カミカゼが破壊される。戦闘破壊されないということから壁としても重用されるモンスターであるが、効果破壊に対する耐性は持っていないのだ。

「そんな、カミカゼ！？」
「そして相手によって破壊されたカイザーの効果も発動！ こいつのオーバーレイユニットの数だけ墓地のBKを特殊召喚できるぜ！」
「……なんですって？」
「カイザーのオーバーレイユニットは3つ！ よって墓地のBK3体を特殊召喚だ！ 戦いのリングに舞い戻れ、グラスジョー！ シャドー！ スイッチヒッター！！」

　アリトのフィールドには3体のBKが蘇生されたことで、リードブローを含めて4体のBKが居並んだ。バトルフェイズ中の特殊召喚であるため、ガーンデーヴァの効果では破壊することができない。さらにカミカゼが破壊されているため、カミカゼの持っていた永続効果である相手モンスターの攻撃制限効果も失われていた。

「さあ歯を食いしばりな！ 俺はリードブローでガーンデーヴァを攻撃！ ライトニング・ファースト！」

BK 拘束蛮兵リードブロー ATK3800 VS H-C ガーンデーヴァ ATK3100

千夏 LP7200→6500

「くっ！！」
「グラスジョーでダイレクトアタックだ！！」

BK グラスジョー ATK2000

千夏 LP6500→4500

「きゃああっ！！」
「シャドーで追撃！！」

BK シャドー ATK1800

「リバースカードオープン！ 永続罠、リビングデッドの呼び声！ 墓地のハルベルトを蘇生するわ！！」
「だったらハルベルトを攻撃！」

BK シャドー ATK1800 VS H・C 強襲のハルベルト ATK1800

「上手く防がれたか……スイッチヒッターでダイレクトアタック！」

BK スイッチヒッター ATK1500

千夏 LP4500→3000

「っ……！？ がはっ……！！」

　BK4体の総攻撃で千夏のライフは一気に4200も削られた。精霊界のデュエルは当然表面的にも内面的にもダメージを及ぼす。
　全ライフのうち半分が一気に消し飛んだのだから精霊でもなければ精霊使いでもない千夏の脳裏には一撃一撃が重く、BKたちの拳をその身で受けるたびに目の前には星がちらついていた。

「おいおい……足元がおぼつかないじゃねえか、そんなんで戦えるのか？」
「た、戦えるか戦えないかの……問題じゃないわ……戦うのよ、私は！！」

　千夏は目線を横にやった。隣では自分と同じように精霊であるジャイアント・ハンドことギラグ相手に詩織が必死で応戦していた。詩織も自分と同じように痛みに、苦しみに耐えながら戦っている。
　彼女たちの心には「遊希を助け出す」という目的があり、その目的が果たされるまでは決して倒れることはできないし倒れるつもりもない。その小さく、華奢な体を支えている思いがある限り。

「へっ、いい心がけだ。メインフェイズ2、俺はシャドーとスイッチヒッターでオーバーレイ！」

　アリトのエクストラデッキにリードブローは2体しか入っていなかった。そのため3体目のリードブローをここでエクシーズ召喚するということはできないが、千夏のデッキがレベル4のモンスターを多用するデッキであることが分かった以上、アリトのエクストラデッキにも存在するこのカードは千夏に対するメタカードとしても弓を引く。

「来い、ランク4！ H-C ガーンデーヴァ！！」
「ガーンデーヴァ……」
「だったら示してみろよ、お前らの熱い気持ちってのをな！ ターンエンドだ！」


アリト　LP2200　手札2枚
デッキ：29　モンスター：2（BK 拘束蛮兵リードブロー ORU:0、H-C ガーンデーヴァ ORU:2、BK グラスジョー）魔法・罠：2（エクシーズ・トライバル）墓地：7　除外：0
千夏　LP3000　手札3枚
デッキ：28　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：11　除外：2