第144話：英雄と炎拳・1　作：光芒

「千夏、詩織……ごめん。ごめんね」

　千夏と詩織、そしてブラック・マジシャンがセスタスとジャイアント・ハンドの足止めをしている間、綾香とエヴァ、光子竜、スカーライト、スターダストの3体はブラック・マジシャン・ガールの案内を受けて戦士領域へと向かっていた。
　戦士領域にはかつてとあるモンスターが他のモンスターを洗脳して反乱を起こした際にブラック・マジシャンと共に戦った戦友がおり、そのモンスターをリーダーとして掲げる集団が遊希たちを助けてくれるという。
　しかし、魔術師領域にいる間はそのモンスターであっても下手に介入することができないため、まずは戦士領域にまでたどり着かなければならないのだ。

「綾香サン……」
「みんなで帰るって言ったのに……私は2人を……」
「綾香。お前は何も悪くない。だから気に病むことはやめろ」

　千夏と詩織を置き去りにしてしまった。2人が望み、自分が受け入れたことでであっても綾香の心には後悔の念が強く残っていた。光子竜が綾香が気に病むことではない、と励ますが綾香は悲しげに下を向いたままだった。

「ちょっとあんた！」

　そんな時、光子竜の背に乗って道案内をしていたブラック・マジシャン・ガールが憮然とした表情で綾香を睨みつけた。

「……あたしにはよくわかんないけどさ、城に置いてきた2人ってのはあんたの仲間なんでしょ！？ だったらその仲間を信じなさいよ！」
「仲間を……信じる……？」
「あたしだってさ、その……お師匠様と離れるのは辛いよ。でもお師匠様は今まで経験してきたどんな危機も乗り越えてきた！ そんなお師匠様を信じてるからあたしは頑張れるんだよ。あんただって……仲間を信じなさいよ！ そしてこの世界に来た目的を果たしなさい！」

　魔術師としてはまだまだ未熟な少女であるが、ブラック・マジシャンは彼女の底に眠る才能、そしてその真っすぐな気持ちを買っている。そのため彼女を一人前の魔術師を育て上げることにブラック・マジシャンは自身の培ってきた魔術のイロハを彼女に可能な限り伝授すると心に決めているのだ。

「ブラック・マジシャン・ガール……ありがとね。あなたのおかげで吹っ切れたよ」
「べ、別にあんたのためじゃないし！」

　綾香に微笑まれたブラック・マジシャン・ガールは少し恥ずかしそうにそっぽを向いた。その様子を見たスカーライトとスターダストはそんな彼女を何処か嬉しそうに揶揄する。

「ツンデレ……ってやつなのかな？」
「そうだね、人間界におけるツンデレだね」
「ツ、ツンデレって何よ！ あんたたちあたしをバカにしてない！？」
（千夏、詩織……どうか、無事でいて……）





＊





アリト　LP8000　手札5枚
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0
千夏　LP8000　手札5枚
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0


☆TURN01


「先攻は俺が貰うぜ！ 俺は手札から“BK（バーニングナックラー） ヘッドギア”を召喚！！」

　アリトのフィールドには格闘家が試合の時につけるようなギアを頭につけたモンスターが現れた。


※BK ヘッドギア
効果モンスター
星4/炎属性/戦士族/攻1000/守1800
このカードが召喚に成功した時、デッキから「BK」と名のついたモンスター1体を墓地へ送る事ができる。フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードは、1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。


「ヘッドギアの召喚に成功した時、俺はデッキから「BK」モンスター1体を墓地に送ることができる！ 俺が墓地に送るのは“BK スイッチヒッター”だ！」
「BK……聞いたことないカードね」
「まあお前ら人間界には存在しないカードだからな。その分強さは格別だぜ！ そして俺のフィールドに「BK」モンスターが存在する時、こいつは手札から特殊召喚できる！ 来い、“BK スパー”！！」


※BK スパー
効果モンスター
星4/炎属性/戦士族/攻1200/守1400
自分フィールド上に「BK」と名のついたモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。この方法で特殊召喚した場合、このターン自分はバトルフェイズを行えない。


「スパーが自身の効果で特殊召喚に成功した場合、俺はバトルフェイズを行えねえ」
「でも先攻1ターン目だからそのデメリットもなし、ってことね」
「そういうことだ！ そして俺はレベル4のヘッドギアとスパーでオーバーレイ！ 2体の「BK」モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚！！」

　アリトのフィールドに現れたのは巨大な鎖や鉄棒で身体を拘束された荒々しい戦士のようなモンスターだった。

「“有り余る力を封じられた戦士よ、魂に込めた炎を拳に宿し敵を薙ぎ倒せ！！”ランク4！“BK 拘束蛮兵リードブロー”！！」


※BK 拘束蛮兵リードブロー
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/炎属性/戦士族/攻2200/守2000
「BK」と名のついたレベル4モンスター×2
自分フィールド上の「BK」と名のついたモンスターが戦闘またはカードの効果によって破壊される場合、その破壊されるモンスター1体の代わりにこのカードのエクシーズ素材を1つ取り除く事ができる。また、このカードのエクシーズ素材が取り除かれた時、このカードの攻撃力は800ポイントアップする。


「拘束蛮兵リードブロー……見たことないモンスターだけど攻撃力は2200。倒せないレベルじゃないわ！」
「こいつは俺のデッキの切り込み隊長だ！ 倒せるもんなら倒してみな！ 俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ！」


アリト　LP8000　手札2枚
デッキ：34　モンスター：1（BK 拘束蛮兵リードブロー ORU:2）魔法・罠：1　墓地：1　除外：0
千夏　LP8000　手札5枚
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0


☆TURN02


「私のターン、ドローよ！ 私は手札から魔法カード、E-エマージェンシー・コールを発動するわ！」
「おっ、お前のデッキは【HERO】か！ 俺と同じ戦士族のデッキとはな！」
「そうね。私たちの目的もそうだけど、似たタイプのデッキを使うあんたには負けるわけにはいかないのよ！ 私はデッキからE・HERO エアーマンをサーチして召喚！ 2つ目の効果を発動してデッキからE・HERO バブルマンを手札に加えるわ！」

　千夏には得意の戦術がいくつか存在し、元々身につけていたものもあればアカデミアに入学して得たものもある。これから召喚するモンスターはアカデミア入学前から愛用しているコンボによって召喚されるモンスターだった。

「そして魔法カード、融合を発動！ フィールドのエアーマンと手札のバブルマンを融合するわ！」
「E・HEROはその名前の通り色んな属性のHEROが存在するんだよな……どれを出す気だ？」
「出すのは私のフェイバリットカードの1体よ！ “天を翔ける風の英雄よ。揺蕩う穏やかな水の英雄よ。異なる2つの力を1つにし、戦場を絶対零度の氷で包み込め！”融合召喚！ 来て、E・HERO アブソルートzero！！」

　対する千夏のフィールドには彼女のデッキのエースモンスターの一角であるアブソルートzeroが融合召喚される。攻撃力は2500と攻撃力2200のリードブローを上回っていた。

「バトルよ！ アブソルートzeroで拘束蛮兵リードブローを攻撃！ “Freezing at Moment”！！」

E・HERO アブソルートzero ATK2500 VS BK 拘束蛮兵リードブロー ATK2200

「BK 拘束蛮兵リードブローの効果発動だ！ 自分フィールドのBKが破壊される時、このカードのオーバーレイユニットを取り除くことでその破壊を免れる！」
「でもダメージは受けてもらうわよ！！」

アリト LP8000→7700

「くっ……！ だが、大歓迎だぜ！！」

　リードブローのオーバーレイユニットが取り除かれた瞬間、リードブローを縛っていた鎖が音を立てて崩れ落ちた。

拘束蛮兵リードブロー ATK2200→3000

「こ、攻撃力3000！？ なんでっ！！」
「リードブローはオーバーレイユニットが取り除かれるごとに攻撃力が800ポイントアップする！ これでアブソルートzeroの攻撃力を上回った！」
「私はカードを1枚セットして……ターンエンドよ」


アリト　LP7700　手札2枚
デッキ：34　モンスター：1（BK 拘束蛮兵リードブロー ORU:1）魔法・罠：1　墓地：2　除外：0
千夏　LP8000　手札3枚
デッキ：32　モンスター：1（E・HERO アブソルートzero）魔法・罠：1　墓地：4　除外：0


☆TURN03


「俺のターン、ドロー！ 俺は手札から“BK グラスジョー”を召喚！」


※BK グラスジョー
効果モンスター
星4/炎属性/戦士族/攻2000/守0
このカードが攻撃対象に選択された時、このカードを破壊する。このカードがカードの効果によって墓地へ送られた時、自分の墓地から「BK グラスジョー」以外の「BK」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える事ができる。


「行くぜバトルだ！ リードブローでアブソルートzeroを攻撃！ “ライトニング・ファースト”！！」

BK 拘束蛮兵リードブロー ATK3000 VS E・HERO アブソルートzero ATK2500

千夏 LP8000→7500

「がはっ……！！」

　炎の拳が氷の英雄の身体を貫いた。その瞬間、千夏の身体には実際に自分が殴られたかのような鈍痛が走る。千夏はこの痛みを覚えていた。かつて遊望に操られて遊希とデュエルをした時と同じ痛みだったのである。

「この痛みは……やっぱり」
「俺たちのデュエルは身体にダメージが生じる。下手な精霊でも耐えられない痛みにお前ら人間はどこまで耐えられるかな？」
「っ……アブソルートzeroがフィールドを離れたことでアブソルートzeroの効果を発動……！ 相手フィールドのカードを全て破壊する！」

　アブソルートzeroの砕け散った身体が氷の刃となってアリトのフィールドに降り注いだ。リードブローは自らのオーバーレイユニットを取り除くことで自分の身体を守るが、傍らのグラスジョーはその身体を貫かれて砕け散った。
　しかし、今のアリトにとって相手デュエリストが戦慄するであろうアブソルートzeroの破壊効果はまさに渡りに船といったものとなっていた。

「リードブローのオーバーレイユニットが取り除かれたことでリードブローの攻撃力はさらにアップする！ そしてグラスジョーが効果で破壊されたことで墓地のBK1体を手札に加えるぜ！」

BK 拘束蛮兵リードブロー ATK3000→3800

　リードブローの攻撃力は3800にまで達し、アリトはヘッドギアの効果で墓地に送られていたBK スイッチヒッターを手札に戻した。千夏にとっては逆転のきっかけにしたかったアブソルートzeroの破壊効果であるが、アリトはそれを逆手に乗って二の矢三の矢を撃ち込んでくる。
　これまで彼女が相対したデュエリストの中ではまず間違いなく最強クラスの相手であり、遊希やエヴァをも上回る試合運びに千夏はただただ悔しさを滲ませることしかできなかった。

（そんな……zeroの効果をここまで利用されるなんて……）
「俺はこれでターンエンドだぜ！ さあ、どんどん殴り合おうぜ！！」


アリト　LP7700　手札3枚
デッキ：33　モンスター：1（BK 拘束蛮兵リードブロー ORU:0）魔法・罠：1　墓地：3　除外：0
千夏　LP7500　手札3枚
デッキ：32　モンスター：0　魔法・罠：1　墓地：5　除外：0


☆TURN05


（相手は強い……きっと私じゃ勝てないかもしれないかも。でもこのデュエルは勝ち負けじゃないわ。無理言ってついてきた以上、なんとしても遊希を助けるんだから！）
「私のターン、ドロー！！」

　千夏がドローしたカードは元々千夏のデッキに入っていないカードであり、まさにこのような局面に遭遇した時のために入れたカードだった。
　千夏のデッキには元々「融合」をサーチできるE・HERO ブレイズマンが入っており、ブレイズマンでサーチできるのはあくまで普通の「融合」魔法のみだった。そのため、従来の【E・HERO】デッキにおいてブレイズマンでサーチできないこのカードを入れるメリットは少なくなっていた。
　それでもこのカードはまさにHEROデッキにおける逆転可能なカードであり、このカードを入れたのも他ならぬ遊希のアドバイスを受けてのものだった。

「……遊希、あんたのアドバイス……聞いておいて正解だったわ。相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できるわ。来て、H・C 強襲のハルベルト！ そして私は手札から魔法カード“ミラクル・フュージョン”を発動！！」


※ミラクル・フュージョン
通常魔法
(1)：自分のフィールド・墓地から、「E・HERO」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。


　千夏がミラクル・フュージョンを使いたがらなかったのにはこのカードの融合素材としたモンスターがゲームから除外されてしまうというデメリットもあった。
　HEROの潤滑油的な役割を果たし、特殊召喚に成功するだけでデッキからHEROをサーチできるエアーマンはその効果も相まって高い汎用性を誇る。それ故に制限カードに設定されているなど、その強さはカードを作ったI2社も理解している。
　そんなエアーマンを一度除外してしまえば、再利用は基本的に難しくデッキが回らなくなる恐れもあった。しかし、そんな事態すらも覚悟して千夏はミラクル・フュージョンを今この瞬間に発動したのであった。

「私は墓地のエアーマンとバブルマンを除外して融合召喚するわ！ “風の英雄と水の英雄の魂は死してなお生き続ける！ 奇跡の力をもって新たなる命として生まれ変われ！！” 融合召喚！ E・HERO Great TORNADO！！」
「Great TORNADO……そう来るか」
「Great TORNADOの融合召喚に成功した時、相手フィールドに存在するモンスターの攻撃力を半分にするわ！“ダウンバースト”！！」

BK 拘束蛮兵リードブロー ATK3800→1900

「ぐっ、リードブローの攻撃力が……」
「リードブローにオーバーレイユニットはもう存在しないわ。よって破壊を防ぐことはできない！ バトル、今度は……こっちの番よ！ E・HERO Great TORNADOでBK 拘束蛮兵リードブローを攻撃！“スーパーセル”！！」

E・HERO Great TORNADO ATK2800 VS BK 拘束蛮兵リードブロー ATK1900

アリト LP7700→6800

「リードブロー！！」
「リードブロー、粉砕！ そしてハルベルトで追撃！！」

H・C 強襲のハルベルト ATK1800

アリト LP6800→5000

「ハルベルトが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、デッキから「ヒロイック」カード1枚を手札に加えるわ！ 私はデッキからH・C エクストラソードを手札に加えるわ！」
「へっ、俺のライフをここまで削るとはな！ 人間の癖にやるじゃねーか！！ 最も次のターンで倍返しするだけだけどな！」
「……まだよ」
「何？」

　千夏が予めセットされていたリバースカードを発動した。速攻魔法―――マスクチェンジ。HEROを新たなるHEROへと生まれ変わらせる魔法。

「マッ、マスクチェンジだとぉ！？」
「HEROは新しい姿に生まれ変わるわ！ E・HERO Great TORNADOを墓地に送りエクストラデッキから同じ属性の「M・HERO」1体を特殊召喚するわ！ “竜巻を操りし英雄よ、今神たる風操りし英雄へと生まれ変われ！” 変身召喚！ M・HERO カミカゼ！！」
「っ……！？」
「まだ私のバトルフェイズ中よ、カミカゼであんたにダイレクトアタック！“疾風怒濤”！！」

M・HERO カミカゼ ATK2700

アリト LP5000→2300

「うおおっ！！……てめえ……！！」
「わかった？ 人間を嘗めたら痛い目を見るってこういうことなのよ！ 私は手札からH・C エクストラソードを召喚！ そしてレベル4のハルベルトとエクストラソードでオーバーレイ！ 2体の戦士族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！“神より放たれしその矢はあらゆるものを貫く！ 決して逃がすな！”ランク4“H-C ガーンデーヴァ”！！」


※H-C ガーンデーヴァ
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/地属性/戦士族/攻2100/守1800
戦士族レベル4モンスター×2
相手フィールド上にレベル4以下のモンスターが特殊召喚された時、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除く事で、その特殊召喚されたモンスターを破壊する。
この効果は1ターンに1度しか使用できない。

「けっ、よりによってそいつかよ……」
「エクストラソードをオーバーレイユニットにしたことでガーンデーヴァの攻撃力は1000ポイントアップするわ！」

H-C ガーンデーヴァ ATK2100→3100

「あんたは精霊界でも相当の強さなんでしょ？ だったらこれくらいしないとね……私はこれでターンエンドよ！！」

　ライフでは圧倒的大差を付けている。それでも勝ちを確信できない。それだけアリトの醸し出す灼熱の炎のような闘気が千夏の眼には見えていたからだ。


アリト　LP2300　手札3枚
デッキ：33　モンスター：0　魔法・罠：1　墓地：4　除外：0
千夏　LP7500　手札2枚
デッキ：30　モンスター：2（M・HERO カミカゼ、H-C ガーンデーヴァ ORU:2）魔法・罠：0　墓地：6　除外：2