第56話：反攻の遊希　作：光芒

☆TURN04


「私のターン、ドローよ！」

　大気竜の守りに関しての効果は確かに強力だ。しかし、エクシーズモンスターである性質上、その防御効果には限りがある。もちろんアフターケアこそ効くものの、生半可なものではエヴァクラスのデュエリストならあっさり乗り越えてくるだろう。

―――ヨルムンガンドを超えることは厳しいか？
（いや、出来なくはないわ。ただそう通用するかどうか……）
―――ハイパー・ライブラリアンの効果も厄介だな
（ええ……でもこのターン、最低でもどちらか1体は攻略しなければならない）
―――まあいい。最終的に決めるのはお前だ。

　光子竜はそれだけ言うと全てを遊希に任せた。精霊ではあるが、このデュエルにおいて全てを決めるのはデュエリストたる遊希なのだ。

「大気竜を攻撃表示に変更するわ」
「来ますネ！」
「メインフェイズ1を終えてバトルフェイズ。銀河眼の大気竜でTG ハイパー・ライブラリアンで攻撃！ 旋風のアトモスフィア・ストリーム！！」

　遊希が攻撃対象に選んだのはTG ハイパー・ライブラリアン。素の攻撃力で大気竜に劣るため、当然と言えば当然の選択なのだが、遊希としてはライブラリアンを早めに処理しておきたかった。
　このデュエルの開始時までエヴァのデッキはスカーライトを除けば主戦力となるのは「闇氷」の名のついたレベル8のシンクロモンスターだと思っていた。しかし、闇氷竜 ワームのようにレベル操作の出来るチューナーがいるということは闇氷に限らず他の汎用シンクロモンスターも存在するということになる。
　フィールド魔法・闇氷の霊域は闇氷モンスターを強化する効果のほかに“闇氷と名のついたシンクロモンスターのシンクロ召喚時”にカードをドロー出来る効果がある。一方ライブラリアンは闇氷に限らず、そして相手のシンクロ召喚成功時にもカードをドローできる。

（ライブラリアンをそのままにしておけば手札が絶えず補充される、それだけは避けたい！）

銀河眼の大気竜 ATK2500 VS TG ハイパー・ライブラリアン ATK2400

「ライブラリアンは破壊させまセン！ リバースカードオープン！ 大気竜を対象に速攻魔法、禁じられた聖槍を発動しマス！ このターン、対象となったモンスターはこのカード以外の魔法・罠カードの効果を受けなくなる代わりに攻撃力を800ポイントダウンさせマス！」

銀河眼の大気竜 ATK2500→1700

「これで大気竜は返り討ちデス！ 大気竜を守るためには効果を使いまショウ！」

　エヴァは大気竜の効果を使用するように促す。守備力3000と現時点では戦闘で破壊できないモンスターであるが、オーバーレイ・ユニットさえ使い切らせてしまえば大気竜を破壊することは容易になるし、何より自身以外のギャラクシー全てを守ることが出来る、というのは非常に厄介な効果だった。
　しかし、遊希はエヴァのその意図を見抜いていた。仮に自分がエヴァだったら真っ先に大気竜のオーバーレイ・ユニットを使い切らせに行く、と考えていたからだ。

「……大気竜のオーバーレイ・ユニットを使わせたいのね」
「な、なんでわかったんですカー？」

　動揺を悟られまいと棒読みのエヴァに対して遊希は苦笑いを浮かべる。

「顔に出てるわよ。あんた綾香や千夏並みに分かりやすいわね。でもそう思惑通りに動かないわよ。リバースカードオープン！ ライブラリアンを対象に速攻魔法、禁じられた聖槍！！」

TG ハイパー・ライブラリアン ATK2400→1600

「まさか！？ 同じカードガ……！！」
「そのまさかが起きるのがデュエルよ！！ 大気竜でライブラリアンに攻撃続行！」

銀河眼の大気竜 ATK1700 VS TG ハイパー・ライブラリアン ATK1600

エヴァ LP8000→7900

「っ……でも100程度のダメージ、すぐに倍返ししてあげマス！」
「バトルフェイズを終了。大気竜を守備表示に変更してターンエンドよ」


エヴァ　LP7900　手札2枚
デッキ：36　モンスター：1（闇氷魔竜 ヨルムンガンド）魔法・罠：2（闇氷の霊域）墓地：4　除外：3
遊希　LP8000　手札1枚
デッキ：38　モンスター：1（銀河眼の大気竜 ORU：1）魔法・罠：1　墓地：4　除外：1


☆TURN05


「私のターンデス、ドロー！ ライブラリアンを失ったのは痛いですガ、このカードで巻き返しマス！ 私は手札から“闇氷竜 ワイバーン”を召喚しマス！」


※闇氷竜 ワイバーン（オリジナルカード）
効果モンスター
星4/闇属性/ドラゴン族/攻1700/守1300
(1)：このカードの召喚・特殊召喚に成功した時、手札から「闇氷竜」と名のついたチューナーモンスター1体を特殊召喚できる。
(2)：このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードの属性は「水」としても扱う。


「ワイバーンの召喚に成功した時、手札から「闇氷竜」と名のついたチューナー1体を特殊召喚できるのデス！」
「……そう言えばさっきサーチしていたわね」
「ハイ！ 手札から闇氷竜 バジリスクを特殊召喚しマス！ でもシンクロ召喚のその前に手札から魔法カード・おろかな埋葬を発動しマス。私はデッキからレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンを墓地に送りマス」
「レッドアイズ……」
「そして私はレベル4の闇氷竜 ワイバーンに、レベル4のチューナーモンスター、闇氷竜 バジリスクをチューニング！ 大海に鎮座する古の女神よ、今その姿を竜に変え、全てを生み出す母となれ！ シンクロ召喚！ 降臨せよ、闇氷魔竜 ティアマトー！！」

　エヴァのフィールドには2体目の闇氷魔竜であるティアマトーが現れる。闇氷モンスターがシンクロ召喚されたことでフィールド魔法・闇氷の霊域とシンクロ召喚されたティアマトー、そして素材となったチューナーモンスター、バジリスクの効果が発動する。

「まずは闇氷シンクロモンスターがシンクロ召喚されたことで闇氷の霊域がその効果を発動しマス！ そしてシンクロ召喚されたティアマトーの効果で墓地の闇属性・ドラゴン族モンスター1体を特殊召喚する効果、さらにシンクロ素材となったバジリスクの効果も発動し、相手フィールドに存在するカード1枚を選択して破壊できマス！」
「させない！ バジリスクの効果にチェーンして大気竜の効果を発動！ このターンの終了時までギャラクシーをあらゆる破壊から守る！！」

　チェーン4で大気竜の効果、チェーン3でバジリスクの破壊効果、チェーン2でティアマトーの特殊召喚効果、チェーン1で闇氷の霊域の効果が発動する。

「でもこれでオーバーレイ・ユニットはゼロ。次のターン以降大気竜は自分を守れまセン！ チェーン2のティアマトーの効果で墓地の闇属性・ドラゴン族モンスター、レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンを特殊召喚し、チェーン1の霊域の効果で1枚ドローしマス！　そして霊域の効果でティアマトーの攻撃力は300ポイントアップデス！」

闇氷魔竜 ティアマトー ATK2800→3100

「ティアマトーの攻撃力が大気竜の守備力を上回りまシタ！」
「でも大気竜はこのターンは破壊されない」
「確かにその通りデス。そもそもティアマトーは自身のシンクロ召喚時の効果を発動した以上攻撃できまセンし、どっちみち破壊できないなら関係ないですネ。しかし、このターンでこれで終わりとは思わないことですネ！ 私はレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンの効果を発動し、墓地のワイバーンを守備表示で特殊召喚！ そしてリバースカードオープン！ 除外されている闇氷竜 ワームを対象に永続罠“闇次元の解放”を発動しマス！」


※闇次元の解放
永続罠
(1)：除外されている自分の闇属性モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。
このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊され除外される。そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。


「除外されている闇氷竜 ワームを帰還させマス！」
「チューナーと非チューナーが揃った……」
「私はレベル4のワイバーンにレベル4のワームをチューニング！ 悪魔の艦隊を率いる地獄の大総督よ、暗き深海より浮上し全てを飲み込め！ シンクロ召喚！ 現れよ！ 闇氷魔竜 レヴィアタン！！」

　エヴァのフィールドには3体の闇氷魔竜が勢ぞろいとなる。同じ大型モンスターのレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンが小さく見えるほどの巨大な3体のドラゴンが一堂に会する姿はとても精悍なものであり、対峙する相手はその姿に畏怖を覚えるのだ。

「闇氷魔竜 レヴィアタンがシンクロ召喚に成功したため、フィールド魔法・闇氷の霊域の効果が発動！ そしてレヴィアタンがシンクロ召喚に成功した時にも効果が発動し、フィールドのモンスター1体をバウンスしマス！ バウンスなら大気竜でも対応できないハズ……」

　大気竜はギャラクシーに破壊耐性こそ付与できるが、バウンスなど破壊以外の除去には無力。そこが守りに優れた大気竜の抜け穴であり、最大の弱点であった。

「……出来れば取っておきたかったけど、ここで大気竜を除去されるわけにはいかないわ。レヴィアタンのシンクロ召喚にチェーンしてカウンター罠、銀河割断を発動！ レヴィアタンの特殊召喚を無効にして破壊するわ！」
「っ……シンクロ召喚自体が無効化されてしまったため、レヴィアタンの効果はもちろん霊域のドローもお預けですネ……ターンエンドデス」


エヴァ　LP7900　手札1枚
デッキ：33　モンスター：3（闇氷魔竜 ティアマトー、闇氷魔竜 ヨルムンガンド、レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン）魔法・罠：2（闇氷の霊域、闇次元の解放）墓地：6　除外：1
遊希　LP8000　手札1枚
デッキ：38　モンスター：1（銀河眼の大気竜 ORU：0）魔法・罠：0　墓地：6　除外：1


☆TURN06


「私のターン、ドロー！！」

　エヴァのフィールドには上級下級含めて4体のモンスターが存在する。4体のうち3体は攻撃力が最上級モンスターの基準でもある2800を上回っているため、このターンで全てのモンスターを攻略する、というのは“ブラック・ホール”のようなカードがない限り不可能と言っていい。
　しかしその手の不可能を可能にしてしまうのが、精霊をその身に宿すデュエリスト・天都 遊希の他のデュエリストとは異なるところである。

―――遊希、このターンが鍵だぞ！
（わかってるわ！）
「エヴァ。私はこのターンであなたのモンスターを全て殲滅するわ！！」

　光子竜の言葉通り、遊希は高らかにそう宣言する。過去たくさんのデュエルを経験してきた遊希であったが、今までこういうことはしてこなかった。それだけ彼女がこのデュエルに熱くなっている証拠であった。

「このターンで、ですカ？ そんなことが出来るはずが……」
「手札から速攻魔法、ハイパー・ギャラクシーを発動！！」
「ハイパー・ギャラクシー！？」
「ハイパー・ギャラクシーは手札を1枚捨てることで発動する速攻魔法。その効果は、自分フィールドのギャラクシー1体とフィールドに存在する攻撃力2000以上のモンスター1体をリリースしてデッキ・手札・墓地から「ギャラクシーアイズ」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する！」
「ギャラクシーアイズを特殊召喚！？」
「私は大気竜とエヴァのフィールドのヨルムンガンドをリリースし、墓地から銀河眼の光子竜を特殊召喚！！ 蘇れ、銀河眼の光子竜！！」

　墓地からフィールドに光り輝く翼を羽ばたかせて光子竜が舞い戻る。ヨルムンガンドは破壊されることで相手モンスターを道連れにする効果があるため、戦闘以外の方法でフィールドから除去する必要があったのだ。

「光子竜……！」
「そしてオーバーレイ・ユニットのない大気竜が墓地に送られた時、墓地から大気竜以外のギャラクシー1体を特殊召喚するわ！ 特殊召喚するのは攻撃力2800の銀河騎士よ！」
「大気竜にはそんな効果マデ！？ しかし光子竜の攻撃では今の私のモンスターはレッドアイズしか倒せまセン！」
「だったらこうするまでよ！ 私はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河騎士でオーバーレイ！ 2体のギャラクシーモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！ 銀河に蠢く闇の化身よ、その咢で全てを食らい尽くせ！ 銀河眼の掩蔽竜！！」

　遊希のフィールドには闇氷魔竜たちをも上回るほど巨大な掩蔽竜が現れる。掩蔽竜の姿を見た瞬間、エヴァが一瞬怯んだ様子を見せる。エヴァは前にデュエル下時に掩蔽竜に自分のモンスターを食らい尽くされた記憶があり、その姿がややトラウマになりつつあったのだった。

「さあ、反撃開始と行くわよ！！」