第48話：不格好な絆　作：光芒

☆TURN12


（っ……牙王の攻撃力は3100。そしてメインフェイズ2以外は効果の対象にならないため除去するのは対象を取らないカードでなければならない……）
「どうしたの？ あなたのターンよ。ドローしないなら降参ってことになるけど？」

　綾香の口から出た「降参」という言葉に美咲は目の色を変える。

「……降参？ そのようなことありえませんわ！ 私はあの藤堂 雄一郎の娘ですのよ！ 勝負を自分から降りることなど断じてありません！ ドロー！！」

　互いに負けられない意地がある。そしてその意地は共にデッキに通じていたようだった。

「私は手札から魔法カード、死者蘇生を発動します！ この効果で墓地のアルタイルを特殊召喚しますわ！」
「またアルタイル……あなたのモンスターだって私のモンスター並みにしぶといじゃない！」
「私とテラナイトたちの間には固い絆がありますの。その絆は例え誰であっても断ち切れはしませんのよ！ 特殊召喚したアルタイルの効果を発動！ 墓地のデネブを特殊召喚しますわ！ そして特殊召喚に成功したデネブの効果でデッキからベガをサーチ！ そしてベガを通常召喚しますわ！」

　ベガの効果でテラナイトが特殊召喚されなかったことから、残り1枚の手札は少なくともテラナイトではないことが確認できる。しかし、それでも美咲のフィールドには3体のレベル4モンスターが揃っていた。

「私はアルタイル、デネブ、ベガの3体でオーバーレイ！ 3体のテラナイトでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！ もう一度私に力を！ 星輝士 トライヴェール！！」

　デルタテロス同様トライヴェールも2度目のエクシーズ召喚が成功する。攻撃力こそ牙王には遠く及ばないものの、その効果は牙王であっても対処できない対象を取らない効果だ。

「トライヴェールがエクシーズ召喚に成功したことで、トライヴェール以外のカードを全て戻しますわ！」
「っ……何回食らっても嫌な効果ね」
「今貴女のフィールドはがら空き！ バトルフェイズ、トライヴェールでダイレクトアタックですわ！」

星輝士 トライヴェール ATK2100

綾香 LP6800→4700

「やりましたわ！ これでライフの差はわずか！ ここから巻き返しますわよ！」
「ふふっ、ちょっと差を縮めただけでそんな喜んじゃって。お子ちゃまね、年上なのに」
「嬉しい時に素直に喜べないなど人生を損しておいでですわ。メインフェイズ2に移行し、トライヴェールの効果を発動！ オーバーレイユニットを1つ取り除き、相手の手札1枚を墓地に送りますわ！」
「まあ、しょうがないわね……でもトライヴェールの攻撃力はわずか2100。その程度の火力じゃあっさり倒されちゃうわよ」
「確かに。後続を呼べる効果があるとはいえ、この攻撃力では心もとないですわね。なのでこうするのですわ！ 私はトライヴェールをオーバーレイユニットとしてオーバーレイ・ネットワークを再構築！」
「まさか……エクシーズチェンジ！？」
「その通り！“冬空に輝く6つの星、今一つとなりて大いなる竜を呼び覚ます！”エクシーズチェンジ！ 降臨なさい！“星輝士 セイクリッド・ダイヤ”！！」


※星輝士 セイクリッド・ダイヤ
エクシーズ・効果モンスター
ランク5/光属性/幻竜族/攻2700/守2000
光属性レベル5モンスター×3体以上
このカードは自分メインフェイズ2に、「星輝士 セイクリッド・ダイヤ」以外の自分フィールドの「テラナイト」Xモンスターの上にこのカードを重ねてX召喚する事もできる。
(1)：X素材を持ったこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いにデッキからカードを墓地へ送る事はできず、墓地から手札に戻るカードは手札に戻らず除外される。
(2)：相手の闇属性モンスターの効果が発動した時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。その発動を無効にし破壊する。


「攻撃力2700……！」
「それだけではありませんわ。このカードはデッキからの墓地肥やし、ならびに墓地からの回収は不可能となります。そして闇属性モンスターの効果の発動をオーバーレイユニットを1つ取り除くことで無効にして破壊できるのですわ」
「闇属性メタ……」
「私はこれでターンエンドですわ」


綾香 LP4700　手札1枚
デッキ：21　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：14　除外：2
美咲 LP3300　手札1枚
デッキ：26　モンスター：1（星輝士 セイクリッド・ダイヤ ORU:3）魔法・罠：0　墓地：6　除外：3


☆TURN13


「私のターン、ドローよ！」

　ライフポイントだけを見ればまだ綾香に分がある。しかし、モンスターが存在するという点では美咲の方が有利であるし、そのモンスターがセイクリッド・ダイヤというところも綾香にとっては痛かった。

（ったく、手札のこのカードが活かせないじゃない……）
「私はモンスターをセットしてターンエンドよ」


綾香 LP4700　手札1枚
デッキ：20　モンスター：1　魔法・罠：0　墓地：14　除外：2
美咲 LP3300　手札1枚
デッキ：26　モンスター：1（星輝士 セイクリッド・ダイヤ ORU:3）魔法・罠：0　墓地：6　除外：3


☆TURN14


「私のターン、ドローですわ。ここに来て互いにドローが悪くなってきたようですわね。バトルフェイズ、セイクリッド・ダイヤでセットモンスターを攻撃しますわ！」

星輝士 セイクリッド・ダイヤ ATK2700 VS 闇竜星-ジョクト DEF2000

「破壊されて墓地に送られた“闇竜星-ジョクト”の効果を発動するわ！」


※闇竜星-ジョクト
チューナー・効果モンスター
星2/闇属性/幻竜族/攻0/守2000
「闇竜星-ジョクト」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
(1)：自分フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから「闇竜星-ジョクト」以外の「竜星」モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。
(2)：自分フィールドにこのカード以外のモンスターが存在しない場合、手札の「竜星」カード2枚を墓地へ送って発動できる。デッキから攻撃力0と守備力0の「竜星」モンスターを1体ずつ特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに除外される。


「あら、闇属性モンスターですのね！ お気の毒ですわ！ セイクリッド・ダイヤの効果発動！ オーバーレイユニットを1つ取り除くことで闇属性モンスターの効果の発動を無効にして破壊しますわ！」
「だから嫌だったのよ……そのモンスターは……」
「うふふ、これで貴女のフィールドはがら空きですわね。私はカードを1枚セットしてターンエンドですわ」


綾香 LP4700　手札1枚
デッキ：20　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：15　除外：2
美咲 LP3300　手札1枚
デッキ：25　モンスター：1（星輝士 セイクリッド・ダイヤ ORU:2）魔法・罠：1　墓地：7　除外：3


☆TURN15


「私のターン、ドローよ……私はカードを1枚セットしてターンエンド」


綾香 LP4700　手札1枚
デッキ：19　モンスター：0　魔法・罠：1　墓地：15　除外：2
美咲 LP3300　手札1枚
デッキ：25　モンスター：1（星輝士 セイクリッド・ダイヤ ORU:2）魔法・罠：1　墓地：7　除外：3


☆TURN16


「私のターン、ドローですわ！ ふふふ、もう手も足も出ないようですわね」
「……獲物を前に舌なめずりするような奴は三流よ」
「あら、まだ大口を叩く余裕があるようですわね。だったら全力で倒して差し上げますわ！！ バトルフェイズ、セイクリッド・ダイヤでダイレクトアタックですわ！“ダイヤモンド・スターブレス”！！」

星輝士 セイクリッド・ダイヤ ATK2700

綾香 LP4700→2000

「くっ……！！」
「このターン、モンスターを引けていれば決められたのですけど……まあいいですわ。よくここまで持ちこたえたと褒めてあげましょう。私はこれでターンエンドですわ」
「だったエンドフェイズにリバースカードを発動するわ。罠カード“貪欲な瓶”を発動よ！」


※貪欲な瓶
通常罠
「貪欲な瓶」は1ターンに1枚しか発動できない。
(1)：「貪欲な瓶」以外の自分の墓地のカード5枚を対象として発動できる。そのカード5枚をデッキに加えてシャッフルする。その後、自分はデッキから1枚ドローする。


「私は墓地のジャンク・シンクロン、死者蘇生、貪欲な壺、竜魂の幻泉2枚をデッキに戻してシャッフル。そして1枚ドローよ！」
「このドローに賭けるということですの？ ヤケっぱちですわね」
「……こういうヤケも自分に引き寄せられないと一流のデュエリストにはなれないのよ」


綾香 LP2000　手札2枚
デッキ：23　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：11　除外：2
美咲 LP3300　手札2枚
デッキ：24　モンスター：1（星輝士 セイクリッド・ダイヤ ORU:2）魔法・罠：1　墓地：7　除外：3


☆TURN17


「私のターン……ドロォーっ！！」

　ドローしたカードを見た綾香はニヤリと笑う。それは紛れもなく彼女が先ほどのヤケと一笑されたドローを引き寄せた証拠でもあった。

「私は手札から……死者蘇生を発動するわ！」
「……なっ……まさか今戻したカードを引いた……！？ そんなのインチキですわ！！」
「インチキ呼ばわりされるなんて心外ね。だって23分の1から引いちゃったんだから！ 私は墓地のヘイカンを特殊召喚するわ！ そしてさらに手札から魔法カード“調律”を発動！」


※調律
通常魔法
(1)：デッキから「シンクロン」チューナー1体を手札に加えてデッキをシャッフルする。
その後、自分のデッキの一番上のカードを墓地へ送る。


「私はデッキからジャンク・シンクロンを加え、その後デッキの一番上のカードを墓地に送るわ。そしてジャンク・シンクロンを召喚し、その効果を発動！」
「……貴女、自分が何をしたかわかってらっしゃいますの？ ジャンク・シンクロンは闇属性のモンスター。セイクリッド・ダイヤで無効にして差し上げますわ！」
「だったらそのセイクリッド・ダイヤの効果にこっちもチェーンさせてもらうわ！ 手札からセイクリッド・ダイヤを対象に速攻魔法、禁じられた聖杯を発動するわ！ セイクリッド・ダイヤの攻撃力を400ポイント上げる代わりにその効果を無効にする！ よってジャンク・シンクロンの効果は無効化されない！！」

星輝士 セイクリッド・ダイヤ ATK2700→3100

「そんな！？」
「チェーン2のセイクリッド・ダイヤの効果は効果が無効にされたことで発動しない。そしてチェーン1のジャンク・シンクロンの効果で墓地のレベル2、ビシキを特殊召喚よ！」
「チューナーモンスターと非チューナーモンスターが揃いましたわね……ですがダイヤの攻撃力は3100。並大抵のモンスターでは突破できませんわ！」
「私は、レベル3のヘイカンとレベル2のビシキに、レベル3のチューナーモンスター、ジャンク・シンクロンをチューニング！」

　ジャンク・シンクロンが3つの輪に姿を変え、その中でヘイカンとビシキが5つの星へと変化する。そして5つの星と3つの輪は破壊の化身へと姿を変えていく。

「“天空の星集う時、怒号の魔神を呼び覚ます！ 破壊の力をもって私を勝利へ導きなさい！！”シンクロ召喚！ 粉砕せよ！“ジャンク・デストロイヤー”！！」


※ジャンク・デストロイヤー
シンクロ・効果モンスター
星8/地属性/戦士族/攻2600/守2500
「ジャンク・シンクロン」+チューナー以外のモンスター1体以上
このカードがシンクロ召喚に成功した時、このカードのシンクロ素材としたチューナー以外のモンスターの数までフィールド上のカードを選択して破壊できる。


「ジャンク・デストロイヤー！？」
「ジャンク・デストロイヤーがシンクロ召喚に成功した時、このカードのシンクロ素材になったチューナー以外のモンスターの数までフィールドのカードを選択して破壊できるわ！ 破壊するのはセイクリッド・ダイヤとあなたのセットカードよ！」
「っ……！！」
「チェーン発動はないみたいね。だったら効果処理に移るわ！ やっちゃって、ジャンク・デストロイヤー！“タイダル・エナジー”！！」

　ジャンク・デストロイヤーの放った衝撃波によってセイクリッド・ダイヤとセットカードが破壊される。これで再び美咲のフィールドのカードが一掃されてしまった。そしてジャンク・デストロイヤーの巨大な拳が唸りを上げて美咲に迫る。

「バトル！ ジャンク・デストロイヤーでダイレクトアタック！“デストロイ・ナックル”！！」

ジャンク・デストロイヤー ATK2600

美咲 LP3300→700

「きゃあああっ！！」
「……仕留めきれなかったかぁ……ターンエンドよ」


綾香 LP2000　手札1枚
デッキ：20　モンスター：1（ジャンク・デストロイヤー）魔法・罠：0　墓地：15　除外：2
美咲 LP700　手札2枚
デッキ：24　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：11　除外：3


☆TURN18


「……私は、私は負けるわけにはいかないのですわ！ ドロー！！」

　美咲は渾身のドローをする。彼女はそのカードに目を配り、手札に加えると俯きながら声を震わせ、必死に言葉を振り絞る。

「今回は……今回は貴女に勝ちを譲ってあげますわ……」
「藤堂先輩……」
「私はプロの娘！ プロにはプロの矜持というものがありますわ！ サレンダーなど致しません！ 最後に華々しく散るのもまたプロの生き様！！ さあ、ひと思いに決めなさい！！ ターンエンド！！」


綾香 LP2000　手札1枚
デッキ：20　モンスター：1（ジャンク・デストロイヤー）魔法・罠：0　墓地：15　除外：2
美咲 LP700　手札3枚
デッキ：23　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：11　除外：3


☆TURN19


「……私のターン、ドロー！ バトル！ ジャンク・デストロイヤーでダイレクトアタック！ デストロイ・ナックル！」

ジャンク・デストロイヤー ATK2600

美咲 LP700→0





＊





「今回は私が勝ったけど……どっちに転んでもおかしくないデュエルでした。このデュエルを糧に今後とも切磋琢磨していきましょう？」
「私、馴れ合いは好きじゃありませんの」

　パズルカードを受け取った綾香はハンカチで涙を拭う美咲にそう告げるが、美咲の態度はなお辛辣だった。

「……素直じゃないんだから。でもまあ、同じプロの娘って共通点があるんだしさ、相談くらいは乗ってあげるわよ？」
「……ま、まあそっちが相談に乗ってほしいなら話を聞いてあげないこともありませんわよ」

　最後まで二人の向いている方向は逆だった。しかし、不格好ながら、この時二人にはまた違った形で絆が生まれたのかもしれなかった。