第41話：綺麗な花には棘がある　作：光芒

「はぁ、流石に少し疲れてしまいました……」

　Cブロックに組み分けられた詩織であったが、彼女は元来人見知りな性格である。それが災いしてか中々自分からデュエルを仕掛けることが出来ずにいた。しかし、同時間帯において相手から避けられまくっていた遊希や周りがデュエルに熱中して順番待ちになっていた千夏とは異なり、彼女に対してデュエルを挑んできた生徒は少なからずいた。
　最もそれらの生徒は皆男子生徒である。社会情勢の変化によって女性が強くなった昨今、詩織のように良い意味で前時代的な女子は男子たちの眼にはある意味魅力的に見えたのかもしれない。だが、そんな男子たちにおいそれと負ける詩織ではなく、既に3戦して2勝1敗と1年生にしては中々の成績を収めていた。
　遊希とのデュエルを経て詩織はデッキを改造した。もちろん自分のデッキのエースである竜姫神サフィラとそれをサポートする儀式召喚のギミック、両親がくれたカオス・ソルジャー-開闢の使者-が入るようなデッキを。

「うう、なんとかさっきの負けは取り返しましたが……このままでは勝ち抜くのは厳しいですね」

　パズルカードを維持しつつ規定枚数を集めるのは思っている以上に大変なことである。現に自分が倒した相手のパズルカードが0になり、目の前で予選落ちになっている。自分も決してそうならないとは限らないのだから。

「でも、ここでへこたれちゃダメですよね。私は約束したんです……みんなで決勝で会おうって」

　決意を露わにし、握りこぶしをぎゅっと作った詩織。そんな時どこからか悲鳴が聞こえてきた。何事か、と思った詩織の足は自然と声のした方へと向かっていた。そんな彼女にもやはりデュエリストとしての血が紛れもなく流れていた。





＊





「はい、私の勝ちよ」

　辿り着いた先ではデュエルに敗れたと思われる男子生徒3人組と彼ら3人を倒したと思われるデュエリストがいた。詩織は柱の陰からこっそりとその状況を覗き込む。

（……まさかあの人、3連勝したということなのでしょうか……）
「くっ……ここまでいいようにされちまうなんて……」
「しょうがないじゃない。だって私3年生だもの」
「だから言っただろ。3年の花沢先輩に挑むのは辞めとけって」

　詩織はその名前に聞き覚えがあった。1年生、とりわけ男子生徒の中で有名な生徒。家庭科部部長である3年生の花沢 薫（はなざわ かおる）の名を。

（あの人が花沢先輩……初めて見ました）

　そんな有名人を見た詩織は目を丸くしていた。

（まさか……男性の方だったなんて。私てっきり女性の方かと思い込んでました）

　その姿形を見たことない人間は皆間違えることなのだが、花沢 薫は生物学的観点ではどう見ても男である。しかし、男でありながら彼は制服にフリルをつけたり料理やメイキャップが得意などと女子以上に女子をしていた。
　そのため、男子生徒からはある意味危険人物扱いされており、2年生までの男子生徒、とりわけ顔とスタイルがいい男子生徒は彼の前に無防備な姿を晒してはいけない、という噂まで流れるほどであった。

（さすがにあの人相手に私では……）

　もちろんデュエルの腕も学内では有数な方であり、遊希やエヴァクラスの1年生ならまだしも詩織のような普通の1年生では到底太刀打ちできないほどの相手なのだ。ここは引き下がろう、と思った詩織であったが、そんな時に限って緊張していたのか足がもつれて転んでしまった。そして転んだ際に「きゃっ」と悲鳴を上げたせいでその場にいたことが薫にバレてしまった。

「いたた……」
「あら？ こんなところに可愛い子猫ちゃん」

　まるで少女漫画に出てくる王子様のように整った外見をした薫が詩織に手を差し伸べる。

「す、すいません……」
「いいのよ。ところで、貴女はこんなところで何をしていたのかしら？」
「えっ……わ、私は……」
「まあ大方今のデュエルを見ていたのね。盗み見はあまり褒められたものではないわよ？」
「ご、ごめんなさい」

　盗み見していたわけではないのに律儀に頭を下げる詩織。しかし、そんなところが薫はどこか気に入ったようだった。

「でも盗み見したくなるようなデュエルが出来るようになったってことね。それなら私嬉しいわ。そう言えば貴女もデュエリストよね？ パズルカードの集まり具合はどうかしら？」

　そう言われて詩織は手持ちのパズルカード2枚を見せる。薫は1年生ながら2枚のパズルカードを集めた詩織を素直に称賛した。そしてそれだけの腕を持つ詩織とデュエルをしたい、とも告げた。

「わ、私とデュエルですか？」
「ええ、あなたは腕利きのデュエリスト。私の勘がそう告げているわ。少なくとも今戦ったあの子たちよりかは強いってね」
「そんなの、過大評価です……」
「じゃあ私のデュエリストとしての、女としての勘が合ってるか間違ってるか。それをデュエルで試してみましょう？」
「お、女としての勘って……」

　デュエルするしないは個人の決めることなので詩織はこの申し出を断ることも出来た。しかし、彼女はこのデュエルを受けた。これが薫の言う勘なのかどうかはわからないが、詩織の中でこのデュエルから逃げてはならない、という決意が芽生えていたのである。
　コンピューターによる抽選の結果、このデュエルの先攻は薫。詩織は後攻となった。詩織の改造したデッキはサフィラを出すこともそうだが、全力を出すには時間のかかるデッキである。少なくとも相手の出方を伺った上で準備を整える必要があった。

「それじゃあ、お手柔らかにね♪」
「は、はい……では」
「デュエルよ！」「デュ、デュエルです」


薫 LP8000　手札5枚
デッキ：35　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0
詩織 LP8000　手札5枚
デッキ：45　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0


☆TURN01

「私のターンよ。私は手札からモンスターをセットするわ。そしてカードを1枚セットしてターンエンドよ」

　薫の1ターン目はモンスターとリバースカード1枚をセットするだけで終わった。初動は大人しいタイプのデッキなのだろうか。詩織としては早々にサフィラの儀式召喚に繋げたいところであった。


薫 LP8000　手札3枚
デッキ：35　モンスター：1　魔法・罠：1　墓地：0　除外：0
詩織 LP8000　手札5枚
デッキ：45　モンスター：0　魔法・罠：0　墓地：0　除外：0


☆TURN02

「わ、私のターンです。ドロー」

　後攻の詩織がドローをする。ドローカードにも欲しいカードが来なかったため、今の手札ではサフィラの儀式召喚は不可能であった。それでも全く動くことが出来ないわけではない。

「私は“魔界発現世行きデスガイド”を召喚します」


※魔界発現世行きデスガイド
効果モンスター
星3/闇属性/悪魔族/攻1000/守600
(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。手札・デッキから悪魔族・レベル3モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは効果が無効化され、S素材にできない。


「デスガイドの効果で私はデッキから儀式魔人リリーサーを表側守備表示で特殊召喚します！」
「リリーサー……儀式モンスターを使うデッキなのね」
「はい。ですが今はまだ儀式召喚をすることは出来ません……なのでその下準備をします。私はレベル3のデスガイドとリリーサーでオーバーレイ！ 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！“9つの地獄と7つの煉獄を旅する詩人よ、全ての困難を踏破し天国へと導け！”ランク3“彼岸の旅人 ダンテ”！」


※彼岸の旅人 ダンテ
エクシーズ・効果モンスター
ランク3/光属性/戦士族/攻1000/守2500
レベル3モンスター×2
(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、自分のデッキの上からカードを3枚まで墓地へ送って発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時まで、この効果を発動するために墓地へ送ったカードの数×500アップする。
(2)：このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になる。
(3)：このカードが墓地へ送られた場合、このカード以外の自分の墓地の「彼岸」カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。


「ダンテの効果を発動します。このカードのオーバーレイユニットを1つ取り除き、自分のデッキの上からカードを3枚まで墓地に送ることでこのカードの攻撃力はこのターン終了時まで墓地に送ったカードの数×500ポイントアップします。私は3枚墓地に送ります」

　ダンテのカードで墓地に送られたカードは“ライトロード・マジシャン ライラ”“ライトロード・ビースト ウォルフ”“サイクロン”の3枚だった。そのうちデッキから直接墓地に送られたウォルフの効果が発動する。


※ライトロード・ビースト ウォルフ
効果モンスター
星4/光属性/獣戦士族/攻2100/守300
このカードは通常召喚できず、カードの効果でのみ特殊召喚できる。
このカードがデッキから墓地へ送られた時に発動する。このカードを墓地から特殊召喚する。


「チェーン2でウォルフを特殊召喚します！」
「なるほど。さしずめ【ライトロード】で墓地を肥やし、墓地の儀式魔人で儀式モンスターを召喚する……ってところかしら」
（……さすが3年生。一連の動きを見ただけで改造した私のデッキを見抜かれてしまいました）
「そしてチェーン1でダンテの攻撃力は1500ポイントアップします！」

彼岸の旅人 ダンテ ATK1000→2500

「メインフェイズ1を終えてバトルフェイズに移行します。ウォルフでセットモンスターを攻撃です！」
「セットモンスターは“ダンディライオン”よ」


※ダンディライオン
効果モンスター（制限カード）
星3/地属性/植物族/攻300/守300
(1):このカードが墓地へ送られた場合に発動する。自分フィールドに「綿毛トークン」（植物族・風・星1・攻/守0）2体を守備表示で特殊召喚する。
このトークンは特殊召喚されたターン、アドバンス召喚のためにはリリースできない。


「ダンディライオン……！」

ライトロード・ビースト ウォルフ ATK2100 VS ダンディライオン DEF300

「ダンディライオンは破壊されるわ。そして墓地に送られたダンディライオンの効果で綿毛トークン2体を守備表示で特殊召喚するわ」
「っ……ダンテで綿毛トークンを攻撃します。“彼岸の叙情詩”！」

彼岸の旅人 ダンテ ATK2500 VS 綿毛トークン DEF0

「綿毛トークンは破壊されるわ。でも1体残っちゃったわね」
「出来れば直接攻撃を決めたかったのですが……バトルフェイズを終了します。バトルフェイズ終了と同時にダンテは守備表示になります」

彼岸の旅人 ダンテ DEF2500

「あら、攻防一体のいいカードね。顔もイケメンだし今度エクストラに入れてみようかしら」
「……わ、私はカードを2枚セットしてターンエンドです」
「待って。私はエンドフェイズにサイクロンを発動するわ。あなたから見て右側のカードを破壊するわね」
「……」
「あら“神の警告”。幸先良いわね、私ったら」


薫 LP8000　手札3枚
デッキ：35　モンスター：1（綿毛トークン）魔法・罠：0　墓地：2　除外：0
詩織 LP8000　手札3枚
デッキ：40　モンスター：2（彼岸の旅人 ダンテ ORU:1、ライトロード・ビースト ウォルフ）魔法・罠：1　墓地：5　除外：0


☆TURN03

「私のターンね、ドローよ。さて、反撃の時間よ。綺麗な花には棘がある、それを見せてあげるわ」