第28話：反撃の闇氷竜　作：光芒

「すごい……」

　互いの1ターン目からモンスター効果や罠カードを駆使した遊希とエヴァのデュエルに綾香は思わず言葉を漏らした。

「これがプロのデュエルだ。先行の天都くんは強固なモンスターを立て、罠カードを駆使して相手の展開を挫き、エヴァくんは見たところ手札事故を起こしていたようだが、ライフを失うことも厭わず突き進むことで現状取れる最善の手を打っている。彼女たちのことを考慮して静かな環境でデュエルをさせてあげようと思っていたが、これは生徒たち皆に見せてあげるべきだったかな？」
「……それ見れるって私凄く幸せ者なのかな？」
「そうかもしれないな」


☆ TURN03


「私のターン、ドロー！」

　遊希のターンが回ってくる。先ほどのターンはブレイクスルー・スキルによってレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンの効果発動を防ぐことができた。しかしこのターンのうちにレッドアイズを倒さなければエヴァの手札にあるライトパルサー・ドラゴンを特殊召喚されてしまう。
　ライトパルサー・ドラゴンのステータス自体はさほど高いものではないが、破壊されることで墓地のレベル5以上の闇属性・ドラゴン族モンスターを蘇生出来るため、制限カードであるレッドアイズを墓地から何度も召喚されてしまうのだ。
　そしてこのレッドアイズが入っているということはエヴァのデッキは当然ドラゴン族主体のデッキであり、放置しておけばまず大量展開されて物量に押し負けてしまう恐れがあった。

（せっかくのデュエルだけど、このターンで終わらせる！）
「私は手札から通常魔法、銀河遠征を発動！ デッキからレベル5以上のギャラクシーモンスター1体を表側守備表示で特殊召喚する！ 私が召喚するのは……銀河眼の光子竜よ！！」

　銀河遠征の効果でデッキから銀河眼の光子竜が特殊召喚される。召喚された光子竜は翼を大きく広げ、全身を激しく輝かせながら咆哮する。

「これが……あの銀河眼の光子竜……とっても綺麗デス」

　エヴァのその言葉を聞いて光子竜はフン、と鼻を鳴らす。

―――あの娘、いいセンスをしているな。
（デュエル中に余計なこと言ってんじゃないわよ。ほら、とっとと素材になりなさい）
―――随分とぞんざいに扱ってくれるな。
「私はレベル8の銀河眼の光子竜と銀河の不死鳥でオーバーレイ！ 2体のギャラクシーモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築！ エクシーズ召喚！ “銀河に轟く咆哮、大いなる力をもって相対するもの全てを圧する。抗う者を押し潰せ！”ランク8！ 地の銀河眼、“銀河眼の重力竜”！！」

　遊希のフィールドには銀河眼の重力竜が降臨する。しかしその攻撃力は2800とレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンと同じであり、このまま攻撃すれば相討ちとなる。
　最もレッドアイズは相討ちにしてでも倒したいモンスターではあるのだが、せっかくの重力竜をみすみす相討ちになど遊希がさせるわけがない。

「重力竜の効果発動！ 1ターンに1度、オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、自分フィールドに存在するギャラクシーと名のついたモンスター1体を選択して発動！ 選択したモンスターはこのターンのみ2回攻撃が可能になるわ！ 私は重力竜自身を選択！」
「攻撃力2800の2回攻撃……レッドアイズを倒す算段があるというのですカ……」
「ええ、それはこのカードのオーバーレイ・ユニットにした銀河の不死鳥の効果。銀河の不死鳥をオーバーレイ・ユニットにして召喚されたエクシーズモンスターは1ターンに1度、墓地のギャラクシー1体を特殊召喚できる！ 私が召喚するのは当然、オーバーレイ・ユニットとして消費した銀河眼の光子竜よ！！」

　これで遊希のフィールドには攻撃表示で光子竜と重力竜の2体の銀河眼が並び立つこととなった。姿形は違うとはいえ、2体の銀河眼が鎮座するその光景は圧倒的なものであった。

「メインフェイズ1を終えてバトルフェイズよ！ 銀河眼の重力竜でレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンを攻撃！ “重圧のグラビティ・ストリーム”！！」
「攻撃力は同じ、迎撃するデス！ “ダークネス・メタル・フレイム”！！」

銀河眼の重力竜 ATK2800　VS　レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン ATK2800

「この瞬間、リバースカードオープン！ 重力竜を対象に通常罠、ギャラクシー・ジャベリンを発動！！」
「ギャラクシー・ジャベリン！？」
「発動後このカードはギャラクシーモンスターの装備カードとなる。そしてその攻撃力は800ポイントアップ！ これで攻撃力はこちらが上よ！」

銀河眼の重力竜 ATK2800→3600

銀河眼の重力竜 ATK3600　VS　レッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴン ATK2800

エヴァ LP7200→6400

「そんな……レッドアイズが……！！」
「さらにギャラクシー・ジャベリンを装備したモンスターが戦闘で相手モンスターを破壊して墓地に送った時、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを相手ライフに与える！ 2800の半分、1400のダメージを受けなさい！！」

エヴァ LP6400→5000

「そして私には2回目の重力竜と光子竜の攻撃が残っている。2体の攻撃力の合計は5800。このデュエル、ここで終わりよ」
「……」
「重力竜の2度目の攻撃！ ダイレクトアタックよ！！」
「……私と遊希サンのデュエルは……まだ終わらせまセン！！ 手札から“速攻のかかし”を捨てて効果を発動しマス！！」


※速攻のかかし
効果モンスター
星1/地属性/機械族/攻0/守0
(1)：相手モンスターの直接攻撃宣言時にこのカードを手札から捨てて発動できる。その攻撃を無効にし、その後バトルフェイズを終了する。


「速攻のかかし……このターンじゃ決めれないわね」
「ハイ。持っていて良かったデス」
「まあいいわ。私はカードを1枚セットしてターンエンド。言っておくけどギャラクシー・ジャベリンは装備カードとなったから重力竜の攻撃力は3600のままよ」


遊希　LP8000　手札:2
デッキ:35　モンスター:2（銀河眼の光子竜、銀河眼の重力竜：ORU1）魔法・罠:2（ギャラクシー・ジャベリン）墓地:5　除外:0
エヴァ　LP5000　手札:2
デッキ:40　モンスター:0　魔法・罠:1　墓地:2　除外:2


☆TURN04


「私のターン、ドローデス！」

　このターンは速攻のかかしのおかげで遊希の猛攻を防いだ。しかしエヴァのこのドロー次第では次の遊希のターンでまず自分の負けが決定する。それだけこのドローがエヴァの命運を分けるものとなった。

「どうやら……このデュエルはまだ終わらないようデス。私は手札から通常魔法“闇氷の雫”を発動しマス！」


※闇氷の雫（あんひょうのしずく/オリジナルカード）
通常魔法
(1):自分のデッキから「闇氷」と名のついたモンスター1体を手札に加える。自分フィールドにチューナー以外の「闇氷」と名のついたモンスターが存在する場合、さらに「闇氷」と名のついたチューナーモンスター1体を手札に加えることができる。
「闇氷の雫」は1ターンに1枚までしか発動できない。


「サーチカード……本当に引きが強いのね」
「ハイ。私はこの効果でデッキから闇氷竜 ファフニールを手札に加えマス」

　この時遊希は初めてエヴァの使う【闇氷】というモンスターの存在を知った。先ほどのエヴァと男たちとのデュエルは見ていないため、遊希も綾香も彼女のデッキがどのようなものか厳密には知らないのだ。

「そして今手札に加えたファフニールは相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、手札から特殊召喚できるのデス！ おいで、ファフニール！！」

　エヴァのフィールドには黒い水晶のような氷を突き破り、その中からファフニールが現れる。黒い身体に氷の鱗を持つそのドラゴンの姿は異様なものであった。

「そしてファフニールが特殊召喚に成功した時、デッキから「闇氷」と名のついたチューナーモンスター1体を手札に加えることが出来マス！ 加えるのはチューナーモンスターの闇氷竜 バジリスク！」
「ファフニールは特殊召喚されたモンスター……あなたは召喚権をまだ残している」
「その通りデス。私は手札からチューナーモンスター、闇氷竜 バジリスクを召喚しマス！」

　エヴァのフィールドにバジリスクが召喚されたことによって、エヴァのフィールドにはチューナーとそれ以外のモンスターの2体が揃った。

「ここですぐシンクロ召喚はしまセン。闇氷には闇氷の世界があるのデス。フィールド魔法、闇氷の霊域を発動しマス！！」
「フィールド魔法！？」

　闇氷の霊域が発動されたことによって、エヴァのフィールドが闇夜のように暗く寒い氷の世界へと変貌する。

「闇氷の霊域は闇氷竜たちの住まう闇と氷の世界。このフィールドによって私のフィールドの闇氷と名のついたモンスターの攻撃力は300ポイントアップしマス！」

闇氷竜 ファフニール ATK1800→2100
闇氷竜 バジリスク ATK1200→1500

「遊希サン、これが私の可愛い闇氷竜の1体デス！ 私はレベル4の闇氷竜 ファフニールに、レベル4のチューナーモンスター、闇氷竜 バジリスクをチューニング！ “仄暗い深海に眠る罪深き魔竜よ、嫉妬の咎を背負いあらゆるものを幻惑せよ！”シンクロ召喚！ 浮上せよ、レベル8！“闇氷魔竜 レヴィアタン”！！」

　氷の浮いた黒い海から浮上したのは全身を氷で出来た棘と鱗に覆われた大海蛇を模したモンスターだった。その大きさは蛇のような姿をしているだけあってか、光子竜よりも遥かに巨大なモンスターであった。


※闇氷魔竜 レヴィアタン
シンクロ・効果モンスター
星8/闇属性/ドラゴン族/攻2900/守2100
「闇氷竜」と名のついたチューナー+チューナー以外のドラゴン族モンスター1体以上
(1)：このカードのS召喚に成功した時、相手フィールドに表側表示で存在するカード1枚を選択して発動する。選択したカードを持ち主のデッキに戻す。
(2)：このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、自分のデッキからレベル4以下の「闇氷竜」と名のついたモンスター1体を特殊召喚できる。


「闇氷魔竜……！」
（―――強大な力を感じる。だが……あの時感じた力の正体はこいつではない）
「闇氷魔竜 レヴィアタンの効果発動！ このカードのシンクロ召喚に成功した時、相手フィールドに表側表示で存在するカード1枚を選択して発動しマス！ 選択したカードを持ち主のデッキに戻しマス！」
「デッキバウンス！？」
「そしてそれにチェーンしてチューナーとなった闇氷竜 バジリスクの効果とフィールド魔法、闇氷の霊域の効果が発動しマス！ チェーンは何かありマスか？」
「……何もないわ」
「ではチェーン処理デス。チェーン3で闇氷竜 バジリスクの効果、チェーン2で闇氷の霊域の効果、チェーン1で闇氷魔竜 レヴィアタンの効果が発動デス！ チェーン3、バジリスクの効果でフィールドのカード1枚を選択して破壊しマス！ 破壊するのは銀河眼の光子竜デス！」

　バジリスクの力を得たレヴィアタンの眼が激しく輝く。その瞬間、光子竜の身体は瞬く間に漆黒の氷に包まれ、爆散した。

「光子竜！」
―――ふん、中々やるな……まだ来るぞ、気を抜くなよ！ 遊希！！
「チェーン2！ 闇氷の霊域の効果で闇氷シンクロモンスターの召喚に成功したためデッキからカードを1枚ドロー！ そしてチェーン1！ レヴィアタンの効果で重力竜をエクストラデッキに戻しマス！」

　そしてレヴィアタン自身の効果で起こされた大渦に重力竜が飲み込まれ、エクストラデッキに強制的にバウンスされてしまった。これにより遊希のフィールドに存在した2体の銀河眼は瞬く間に一掃されてしまった。

「そして霊域の効果でレヴィアタンの攻撃力も300ポイントアップしマス」

闇氷魔竜 レヴィアタン ATK2900→3200

「遊希のフィールドのモンスターが……」
「これで天都くんのフィールドに残るのはセットカード1枚のみとなってしまったね」

　竜司の言う通り、残ったセットカードは1枚のみ。レヴィアタンのみならば大して恐れることはないのだが、エヴァの猛攻はこれでは収まらない。

「さらにリバースカードを発動しマス！ 永続罠、リビングデッドの呼び声デス！」
「リビングデッド……！？」
「墓地のレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンを特殊召喚しマス！ そしてレッドアイズ・ダークネス・メタルドラゴンの効果を発動！ 今度こそ手札のライトパルサー・ドラゴンを特殊召喚しマス！」


※ライトパルサー・ドラゴン
星6/光属性/ドラゴン族/攻2500/守1500
このカードは自分の墓地の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつゲームから除外し、手札から特殊召喚できる。
また、手札の光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ墓地へ送り、このカードを自分の墓地から特殊召喚できる。
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、自分の墓地のドラゴン族・闇属性・レベル5以上のモンスター1体を選択して特殊召喚できる。


　1ターン前の終了時にはモンスターすら存在しなかったエヴァのフィールドであったが、わずが1枚のドローから攻撃力2500以上のモンスターが3体も並ぶ有様となった。
　対する遊希のフィールドにはセットカードが1枚存在するのみであり、遊希が制するかと思われたデュエルは瞬く間にエヴァ優勢へと傾いてしまったのだ。

―――遊希！
「……」