第16話：リハビリ　作：光芒

「やったぁー！ このデュエル私の勝ちよ！！」

　エクスカリバーの一刀両断・必殺神剣でガルドニクスを破壊されたことにより、孝輔のライフは0になった。このデュエルの勝者となった千夏は子供のようにぴょんぴょんとジャンプして喜びを全身で表す。このデュエルには遊希と綾香の名誉がかかっていたのもあるが、やはりデュエルに勝つことはデュエリストなら当然嬉しかった。

「遊希！ 綾香！ 見ててくれた！？」
「見てたわよ。いいデュエルだったわ」

　デュエルフィールドから駆け下りた千夏は傍らでデュエルの行く末を見守っていた遊希たちに抱き着いた。

「……おい」

　そんな時、敗れた孝輔たち一行が遊希たちの下へやってきた。孝輔はもちろん、彼の仲間達は皆複雑な表情をしていた。

「何！ 言っておくけど遊希たちの悪口については……」
「すまない、根も葉もない噂を広めてしまった！」

　デュエルに勝って得意げになる千夏に対し、孝輔たちは一斉に頭を下げる。

「あら、いやに素直ね」

　頭を下げて謝る孝輔たちの姿を見て千夏は首を傾げる。孝輔曰く遊希と綾香の悪評は他の学生たちの間から何処からか流れて来たものであったという。そして偶然その話をしていた時にそれを千夏に聞かれ、問い質されたことでヒートアップし、引っ込みがつかなくなってしまったのだ。

「つまりあなたたちはその噂を信じていなかった、と」
「信じるわけないだろ普通。まあそこのチ……陽川があまりにも厳しく言うから事実を言われて逆上したのかと」
「ちょっとぉ、今チビって言いかけたでしょ！？ そこは聞き逃さないからね！」
「第一入学式の後であんなデュエル見せつける奴がコネとか裏口なわけがない」
「……それもそうね」
「ちょっと！ 遊希も火野も無視しないでよ！」

　デュエルが終わった後のフィールドには千夏の元気な声だけが響き渡っていた。





＊





「私の実力、わかったでしょ！ 明日は遊希とデュエルよ！」

　勝利に勢いづいたのか、部屋に戻ってパジャマに着替えてからも元気いっぱいの千夏。旅行の夜に興奮して眠れない子供のようであるが、しかし遊希たちは寝る準備をしていたりデッキを弄っていたりと千夏の言葉を真面目に聞いている者はいなかった。

「残念、あんたはトラブル起こしたからデュエルディスクを取り上げられたでしょうが。しばらくデュエルは禁止よ」
「むーっ、じゃあ誰かディスク貸してよ」
「駄目ですよ、他人のディスクを使ったらそれこそもっと厳しい処分が……」
「あのねぇ、せっかくパパが大目に見てくれたんだからそのチャンスを無下にしないの。本当はもっと長い謹慎期間だったかもしれないのに3日で処分解いてくれるんだから、それくらい我慢しなさい」
「でも3日もデュエル出来ないのはつらいわね……まあ私はやるだけじゃなくて見るのも好きだからあんたたちのデュエルを見るのでも満足よ！」

　このデュエルバカ、と内心思いながら遊希はデッキをケースにしまうと布団を被って横になった。眠るため目を閉じようとした遊希を2段ベッドの上の段から綾香が覗き込む。

「ねえ」
「……何、これから寝るんだけど」

　不機嫌そうに答える遊希であるが、寝ぼけ眼を擦って目を開くと覗き込む綾香の顔は妙に真剣そのものであった。

「あんた明日以降どうするの？ デュエルの度に倒れたりしたらさすがに厳しいんじゃない？」
「そこは身体に慣らしていくしかないわね……この学校に来るまでほとんどデュエルしてこなかったから昔に比べて精霊のカードに対する耐性が落ちているの。まあデュエルを繰り返せば自然となんとかなると思うけど」
「もしさ、私で良ければいつでも相手になるわよ」

　綾香の中には当然遊希の助けになりたいという気持ちもあった。しかし、何より自分自身一デュエリストとして負けたまま終われないという意地もあった。リハビリをすることに勝ち負けは関係ないよね、という一概の疑念を持ちながら。

「……もう消灯時間ね」

　そう言って遊希は布団の中に顔を埋める。だが布団の中から目から上だけを出すと、心配そうに見つめる綾香に対して一言。ありがと、と不器用そうに言った。綾香はどういたしまして、と言って悪戯っぽく笑うと自分の布団に戻っていった。
　やがて消灯時間を迎え、部屋の明かりが消える。暗闇の中、寝息だけが響く静寂の世界。瞼が次第に重くなる中、遊希の脳裏には光子竜の言葉が響く。

―――遊希
（何よ、もう眠いんだけど）
―――……良い仲間に巡り会えたな
（……そうかもね）





＊





　次の日以降、千夏のデュエル禁止令が解ける3日後まではあっという間に過ぎて行った。すぐに授業が始まるわけでもなく、オリエンテーションガイダンスや授業制度などについての説明がずっと続いたからだ。
　ちなみにデュエルアカデミアの授業は単位制になっており、高校というよりかはどちらかというと大学に近い制度となっている。そのため通常の高校よりもより自己管理が大事になるのだ。

「さあ、遊希。デュエルをしましょう！」

　デュエル禁止令が解けた千夏はガイダンス終了後に早速遊希にデュエルを申し込む。学校の仕組みを覚えるためにいっぱいいっぱいだった4人はデュエルどころではなかったため、正直に言えばデュエルに飢えていた、というのはあった。

「……唐突ね。まあ今日の分のガイダンスは終わって後は余暇だけど」
「他の学生の皆さんはこの時間はデュエル場でデュエルをしていますからね……空きがあるといいんですけど」
「もし無かったら私いい場所知ってるわよ」

　そう言って綾香に案内されたのはアカデミア校舎の屋上だった。屋上は許可を取らないと入ることは出来ないが、そこは校長の娘。入学試験の成績も良かったため教員たちにはなんら怪しまれず屋上の使用許可を取ってきたのだ。

「風が気持ちいいわね」
「ええ、絶好のデュエル日和ね！」

　そう言ってデュエルディスクを構える千夏。彼女は既に臨戦態勢のようであった。遊希は結局千夏のデュエルの相手は自分なのか、と溜息を付くが千夏も綾香同様デュエルを通して自分のリハビリに協力してくれている。
　そう思うと悪い気はしなかった。最も千夏自身は遊希のリハビリよりも自分自身が一人でも多くの強いデュエリストとデュエルしたいという気持ちが強かったのだが。

「そうかもしれないわね……じゃあそのデュエル日和に恥ずかしくないデュエルをするわ」

　デュエルディスクによって先攻後攻の選択権は千夏に与えられる。千夏は迷いなく先攻を選んだ。展開力、サーチ力に優れたHEROなら先攻のドローなしでも問題ないと踏んだのだろう。

「「デュエル！！」」



先攻:千夏　LP8000　手札5
デッキ:35　モンスター:0　魔法・罠:0　墓地:0　除外:0
後攻:遊希　LP8000　手札5
デッキ:40　モンスター:0　魔法・罠:0　墓地:0　除外:0



「あら、遊希のデッキ枚数が増えているわね？」
「そう言えば昨日調整していましたが……」
「まあでも最近は40枚超えのデッキも珍しくないしね」



☆TURN01


「私の先攻！ 私は手札から魔法カード“E-エマージェンシー・コール”を発動するわ！」


※E-エマージェンシーコール
通常魔法
(1):デッキから「E・HERO」モンスター1体を手札に加える。


「私はこの効果でエアーマンを手札に加え、そのまま召喚するわ！ そしてエアーマンの召喚に成功した時にその効果を発動！ デッキからバブルマンを加えるわ！」

　千夏は開始早々【E・HERO】デッキにおける理想的な動きを見せていく。エアーマンの効果でサーチするHEROは状況によって変化するが、バブルマンを手札に加えるということは、やはりあのモンスターを呼び出す気なのだろう。別段恐れるほどのことでもないが、と遊希は一応身構える。

「そして魔法カード、融合を発動！ フィールドのエアーマンとバブルマンを融合！ 来て、絶対零度の氷のHERO！ E・HERO アブソルートzero！！」

　フィールドにアブソルートzeroが融合召喚された瞬間。ほのかにフィールドに冷気が迸る。近年の技術の発達はモンスターの属性によって生じるエフェクトも細かに再現しているのだ。

「初手アブソルート……なるほど、本気ね」
「遊希ほどのデュエリストだもの！ 本気で行かないとね！ 私はカードを2枚セットしてターンエンドよ！」


先攻:千夏　LP8000　手札1
デッキ:34　モンスター:1（E・HERO アブソルートzero　魔法・罠:0　墓地:4　除外:0
後攻:遊希　LP8000　手札5
デッキ:40　モンスター:0　魔法・罠:0　墓地:0　除外:0


（よし、フィールドにはアブソルートzero。そしてセットしたのは奈落の落とし穴と強制脱出装置……備えは万全よ！）



☆TURN02


「私のターン、ドロー」

　後攻の遊希がカードをドローする。しかし何故か浮かない顔だ。望みのカードを引けなかったのだろうか、と傍から見る綾香たちが首を傾げる。

「……ごめん、千夏」
「何よ」
「せっかくのデュエルだけどこのターンで終わっちゃうわ」
「ふぇっ？」

　意外なところからラストターン宣言が飛んでくる。それにはアブソルートzeroに加えて2枚のセットカードで備えは万全、と思っていた千夏も綾香たちも鳩が豆鉄砲を食らったかのように驚いた表情を隠せないでいる。

「ただリハビリ、はこなさせてもらうから」
「でっ、出来るものならやってみなさいよ！ いくら遊希でもこの布陣は容易に突破出来ないはず……」

　しかし、千夏の空元気は次に遊希の出すカードによって脆くも崩れ去ることになる。