アビス・デザイア③　作：はにわ改

　
『我のターンだ……』

『ラピス』のターン。
頭上の球体・『アビス・デザイア』から伸びる黒い管と繋がり、今もそれが不気味に脈打つ。
まるで『ラピス』に『力を与えている』かのように。

『“深淵（アビス）”の効果により、ドローフェイズはスキップ。
そしてスタンバイフェイズだ』

「（さっきまでは『深淵』の効果で墓地からランダムにカードを加えていたけど、『深闇物質（アビス・マター）』で墓地のカードは全て除外されている……）」

刹那が口許を隠しながら小さく口ずさむ。

『“深闇物質”の効果が発動。
スタンバイフェイズ開始時に、任意の除外カードを１枚墓地へ戻す』

「墓地へ戻す？」

透矢が反応した。
すると宙空に舞うカードたちの中から、ある１枚が意思を持ったように動き、『ラピス』の墓地へ帰還する。

『そして並行して“深淵”の効果が発動。
スタンバイフェイズ開始時に、墓地のカードをシャッフルし、ランダムに１枚を手札に加える。

……もっとも、墓地のカードは今戻したこのカードのみ、だがな』

「そ、そんな……！
それじゃあなたは実質、任意のカードを手札に加える事にーー？」

「しかも奴はほぼ全てのカードをゲームから除外して……くそっ！そういうことか！」

『くす……ルールを理解してくれて、何よりだ』

刹那が愕然とし、透矢が荒々しい声を上げた。
『ラピス』はデッキのカード全てを除外している。
ということは、この『深淵』・『深闇物質』の２つを併用させて手札にカードを加えるその効果は、デッキから任意のカードをサーチするに等しい。

ーーたった１枚。
たった１枚のカードがデュエルの流れを変えるとさえ言われるこのゲームに於いて、如何にそれが凶悪な効果かは、このゲームに慣れ親しんだプレイヤーなら知るに余りあるだろう。

『まだだ。
スタンバイフェイズに、裏側で存在する“グラボイド”がこのタイミングでリバースする』

『ラピス』が前の刹那のターンで帰還させた『Ａ・Ｄ（アビス・ドミネーター）』の一体、『グラボイド』。
再びその巨大な体躯の影が、透矢と刹那を覆い隠す。

『“グラボイド”のモンスター効果。
この効果でリバースした時、相手プレイヤーは自らがコントロールするカード１枚につき５００ポイントのダメージを受ける』

「くっ……！」

その恐るべき効果がまたも牙を剥く。
刹那の場にカードは２枚、即ち１０００ポイントのダメージ。
そして透矢のフィールドにはカードが３枚で、１５００ポイントのダメージ。
だが透矢の残りライフは僅か８００であるーー。

「いけない！
ーー透矢くん！」

『消えるがいい！
“クルスタル・コーラプス”！』

『グラボイド』が身体から伸びる触手を地面に打ち込むと、激しい震動と共に、地割れが二人へ向かって突き進む。
まず刹那が地割れから突き出た触手に身を貫かれてしまう。

「ーーぁあああああっ！」

「刹那！」

刹那が身体に走る激痛に悲鳴を上げ、堪らず地に膝を付く。
受けたダメージは１０００、差し引き刹那のライフは４７００へ。

『人の心配をしている場合か？』

「ーーっ！」

同じ攻撃が透矢にも迫っていた。
地面から突き出した触手が、透矢の身体を貫こうと鋭く伸びるーー。

「ーーと、透矢くん！」

痛みに苦しむ刹那が声を上げたのと同時。

「リバース・カード、オープン！」

透矢が叫ぶと、瞬間的に彼の場にいる『メルセディア』が迫る触手の前に立ち、三つ存在する内の一つの盾でそれを弾き返した。

『む……っ？！』

「『ゴールド・リフレクション』！」

間一髪、発動を間に合わせたリバース・カード。
それが透矢を絶命の危機から救った。

「自分がダメージを受ける効果が発動した時に発動！
そのダメージを０にする！
そして『メルセディア』がフィールドにいる場合は、そのダメージを相手に倍にして跳ね返す！」

『何だと……っ！』

「ーー透矢くんっ！」

正に起死回生。
痛みに苦しんでいた刹那が思わず、会心の笑みを浮かべる程に。

これにより、透矢は自身のライフを守ったばかりか、
受けるダメージを『ラピス』に跳ね返せる。

しかも１５００ダメージを倍に、３０００ポイントのダメージにして。

「いっけぇええええ！
ーー『カウンター・リタリエイション』！」

『メルセディア』が受け止めた敵の攻撃のエネルギーを吸収し、盾と盾の隙間から突き出した黄金銃が火を噴く。
それはただの弾丸ではなく、金色の光線のようなエネルギー。

『ラピス』の残りライフは９００。
透矢が見事なカウンターを決めて、勝利を掴んだーー。