最強タッグ？！深淵より出ずる者！⑩　作：はにわ改

　
ーー透矢は少ないライフを更に削って行動し、残りは８００ポイント。
だがその代償として、Ｔ・Ｆモンスター『メルセディア』を降臨させ、加えて厄介な『Ａ・Ｄ』モンスターを１体屠り去った。
『ラグナシア』に負ければ死ぬ、とはっきり伝えられながらも、なおそうしたのは、水花のためと思う心であろうか。

『ーー貴様のエンドフェイズ。
このターン、効果を発動した“アクティニオン”が墓地へ送られる』

そして彼のエンドフェイズに、『Ａ・Ｄ』モンスターのデメリット効果により、『アクティニオン』が自壊。
刹那の２回目のターンを迎える。

「ーー私のターン！カードドロー！」

透矢から渡されたターンを無様な運びには出来ない。
刹那がドローする所作に自然と気迫が満ちる。

ーー手札は２枚、そして今ドローしたカードを見る刹那。
だがそれは、前のターンに『サンダルフォン』の効果によってデッキトップを操作した上で引かせた予定調和とも言えるカードだ。

「魔法カード、『混沌への追放』を発動！
墓地の光属性、闇属性モンスターを１体ずつ除外し、相手フィールド上のカード１枚をゲームから除外する！」

そして発動されるそのカード。
『ラピス』が声こそ出さないが、口を小さく開く。

「私は墓地の『混沌天使』、『サディケル』と『ヴェリエル』を除外し、
あなたの裏側モンスター、『サードリウス』を除外！」

刹那の魔法カードから放たれる光と闇を表す白と黒のエネルギーが、螺旋状に交わりながら光線を成し、それが『ラピス』のモンスターを撃ち抜く。
そうして破壊されたのは名指しした通り、『サードリウス』。
前のターン、透矢が倒せなかった事を口惜しんだモンスターを葬ったのだ。

「ーーよし、墓地送りじゃなくて除外だ！
これで少なくともあいつはもう復活してこれないぜ！」

『ふん……』

歓喜する透矢に対し、鼻を鳴らす『ラピス』。
今、残っている『Ａ・Ｄ』モンスターは残り１体。
刹那は機と見て、一気に畳み掛ける。

「私はチューナーモンスター、『リリエル』を召喚！

召喚された『リリエル』なる『混沌天使』の一角。
『リニア』と同じ小柄な身体に、白と黒の翼を携えた天使。
チューナーモンスターであり、そのレベルは２。
これで刹那の場にチューナーモンスターと『サンダルフォン』、言い換えれば非チューナーモンスターを並べた事になる。

「私はレベル６、『サンダルフォン』にレベル２、『リリエル』をチューニング！」

「シンクロモンスターを素材に、シンクロ召喚か……！」

透矢が刹那を見る。
１度はその身で味わった『混沌天使』の能力、その凄まじさ。
味方となればこれほど心強いものはない。

「光と闇、２つの力を刃と為してその手に携えーー特異点の彼方にて、永久（とこしえ）に封ぜられし天使、今ここに降誕せよ！」

『サンダルフォン』、『リリエル』が刹那の頭上に開く『異次元の穴』へと吸い込まれ、
それを生け贄として更なる力を秘めた『混沌天使』を呼び出す。

「ーーシンクロ召喚！
『混沌天使 ウリエル』！」

ーー『ウリエル』。

青く透き通った海を連想させる長い髪が見る者の心を奪う天使。
その手には光輝く刀身、黒に染まる刀身、と２つの長剣が握られている。
透矢との戦いでも召喚された、強力な攻撃能力と、自身に対する高い防御能力を併せ持った『混沌天使』。
その攻撃力は３３００と、最高クラスと言える。

「（もし、前のターンに透矢くんが何もせずにターンを終えていたらーー。
このタイミングで、『Ａ・Ｄ』モンスターの能力に阻まれていた……）」

無事召喚させた四大天使の一角を背に従えながら、刹那は透矢を見る。
その視線に気がつく透矢。

「ーーありがとう、透矢くん。
さすがは……私の最高のパートナー」

「へ？」

穏やかな笑顔でいきなりお礼を言われて、間の抜けた返事をする透矢。
刹那はそれに応えることなく、再び『ラピス』を見据える。

「『ウリエル』のモンスター効果！
シンクロ召喚成功時に、デッキから『混沌天使』モンスターを２枚、墓地へ送る！
私は『ステルヴィア』と『ソニア』を墓地へ！」

『混沌天使』のシンクロモンスターは、それぞれ召喚時に何らかの効果を発動出来る。
『ウリエル』はいわゆる、『墓地肥やし』効果。
刹那のデッキでは重要となる効果だ。

「さらに！
続けて『ウリエル』のモンスター効果！
今、墓地へ送った『ステルヴィア』、『ソニア』を除外し、
光属性、闇属性モンスターをそれぞれ除外した時に得られる２つの効果を発動！
光属性を除外した場合は『ウリエル』に２回攻撃する能力を与え、
そして闇属性を除外した場合、このターン、『ウリエル』は相手の魔法・罠・モンスター効果を受け付けない！」

これが『ウリエル』の能力。
効果に対して無敵になり、更に攻撃力３３００による２回攻撃。
これを防ぎ切るのは至難の業と言える、恐るべき力である。

『くすくす……面白い。

ーーさあ、遠慮は無用だ。
かかってくるがいい』

だが『ラピス』はその『ウリエル』の能力を前にして、動じることはない。
むしろ早く攻めてこい、と促すかのようだ。

「（……『ラピス』の場に未だ発動していないリバース２枚……。
でも、少なくとも今、『ウリエル』にはあらゆる効果は通じない）」

一瞬たりとも、警戒を怠らない刹那。
だが『ウリエル』を召喚出来た今は、攻める絶好の好機。
ーーならば。

「ーーバトルフェイズ！
『ウリエル』で裏側モンスターを攻撃！
ーー『閉ざす闇の調べ（ダーク・セパレイション）』！」

白と黒の２つの翼を躍動させ、『ラピス』のフィールドへと迫った『ウリエル』。
その黒い剣を振りかざすと、『ラピス』の裏側モンスターを真っ二つに切り裂く。
その正体はムカデのような姿の『アフロディトイス』。
必死に自身の『罠』能力発動の機会を窺っていたが、それは叶わずに破壊されたのだった。

ーーこれで『ラピス』の場にモンスターは存在しない。
そして『ウリエル』はもう１度攻撃が可能である。

「『ウリエル』、２回目の攻撃！

ーー『穿つ光の裁き（ライト・イグニッション）』！」

光輝く刃、それが『ラピス』の身体を直接突き抜ける。
攻撃力３３００による直接攻撃（ダイレクト・アタック）。
一気にそのライフを９００までに減らしたのだ。

「よしっ！
あともう少しで俺たちの勝ちだ！」

会心の一撃というべき攻撃が通り、透矢は思わず身体全身で喜びを露にする。
自分とほぼ並んだ『ラピス』のライフ。
あと一撃、あと一撃が入れば勝てるーー透矢がそう逸るのも無理はなかった。

『くすくす……』

ーー自ら作りあげた『闇のデュエル』に於けるダメージからくる『痛み』。
『ラピス』はその『痛み』を心地のよい甘美な刺激として味わっていた。
そして『ラピス』は喜びに奮える。
『小手調べ』の内に終わる事の無かったこのデュエルに。
自分に立ち向かう二人のデュエリストの力に、久しく感じたことのない高揚感を目覚めさせていたのだ。