死の天使、降臨　作：はにわ改

　
「ーーリバース・・・オープン！」

男が放った特殊なカードにより、モンスターを破壊された挙げ句、ライフに差を付けられた舞。
だが同時にそれは舞の中に眠っていた、尋常ならざる闘志に火を点けた。

そして動く。
発動させたのは１ターン目に伏せた、５枚目のリバース・カード。

「ーー『闇の祭壇』！」

痛烈なダメージを負ったはずなのに、むしろ今までにない気迫を見せる舞。
黒装束の男たちは身体に響くものを感じていた。

「あたしの場の闇属性モンスターが破壊されたターンに発動可能！
デッキからレベル８以上の闇属性モンスターを１枚、手札に加える！」

『レベル８以上の闇属性モンスター・・・？』

「あたしが加えるのは・・・このカードさ！」

罠カード、『闇の祭壇』によって舞がデッキから直接手札に加えたそのカード。
それを見た男が仮面の奥で、驚愕の表情を浮かべる。

「そ、そのカードはーー！？」

舞が加えたカード。

ーー『死の天使 メンゲレ』。
闇属性・レベル８の最上級モンスター。
言ってしまえばただそれだけであるが、黒装束たちはまるで畏怖するかのように後ろに身を引いていた。

「ーーで？
あんたはもうやることないんだろ？
さっさとターンを終わらせな」

『う・・・うぅ、た、ターンエンド、だ』

加えたカードを左手に持ち替えて、片手で新しい煙草を口に加えさせて、その手で火を点ける舞。
何気ない行動だが、さっきまでとは動きのキレが全く違う。
さっきまで片手じゃ煙草を吸いにくい、などと宣っていたようには思えない。

「あたしのターン、ドロー。

ーーメイン！
あたしは墓地の『ウイルス』カード２枚を除外して、『死の天使 メンゲレ』を特殊召喚！」

ドローして手札２枚。
そのカードもすぐに左手に持ち替えさせると、さっき加えたカード、『死の天使』を特殊召喚させる。
墓地から『闇』、『魔』の『デッキ破壊ウイルス』カード２枚が除外されて、舞の場にそのカードが降臨。

濃紺の長い髪が顔すらも覆い隠す、白衣を着た女。
背中からはその白衣を突き破って、蝙蝠のような巨大な翼が生えている。
手には銀色に輝く医療メスが指と指の間を埋め尽くすように握られていて、いずれの刃にも鮮血が滴っている。

不気味な女型モンスター、『メンゲレ』。
レベルは８で攻撃力は最高級の３０００。

「バトル！
『メンゲレ』でプレイヤーに直接攻撃！」

『あぐ・・・！』

「『殺医療』！『解体手術開始』！」

長い髪の向こうに隠れた、メンゲレの赤い瞳が光る。
そしてタイトスカートを履いた足を駆け出させると、男へと迫り、
不気味な笑い声と共に、メスを握らせた両手を上から振り下ろさせた。

『うぐぅあああっ！』

メスが鋭く男の身体をすり抜ける。
男は激痛を味わったかのような悲鳴を上げ、地に膝を付いた。

３０００ポイントの直接攻撃を受け、ライフは一気に２０００まで減らされてしまう。

「ーー『メンゲレ』の特殊能力。
『メンゲレ』が相手に戦闘ダメージを与えた時、デッキから『ウイルス』カードを１枚手札に加えるよ。

ーーあたしはデッキから再び『闇のデッキ破壊ウイルス』を選択し、それをセット」

『メンゲレ』の特殊能力により、舞はデッキから２枚目の『闇のデッキ破壊ウイルス』を手札にし、そのまま場にセットさせた。

「更にあたしは手札から『闇の召喚術』を発動。
あたしの場の闇属性モンスター１体を選択、
その攻撃力の半分以下の闇属性モンスター１体をあたしの墓地から特殊召喚」

更に舞が発動させた魔法カード『闇の召喚術』。
それにより『メンゲレ』が選択され、その攻撃力３０００の半分以下の闇属性モンスターが舞の墓地から復活させられる。
だが元より、舞の墓地に現状モンスターは１体しかいない。

「ーー甦れ、『堕天使ナース リリー』！」

墓地から復活する、闇色に染まった看護婦、『リリー』。
彼女の攻撃力は丁度１５００だ。

「ま、バトルフェイズは終了済みだから関係ないけど、『闇の召喚術』で特殊召喚したモンスターはこのターン、攻撃は出来ない。

あたしはこれでターンは終了だ」

手早くターンを進めた舞。
見ると、男はまだ苦しんでいるようであり、膝が立ち上がっていない。

『ば、馬鹿な・・・お、俺がこ、これ程のダメージをーー』

「ーーだらしないねぇ。
早くしなよ、三下」

一方、舞は先程受けたダメージは既に完全に回復しているようである。
吸い終えた煙草を地に落として、足で踏んで消すと、
すぐさま新しい煙草に火を点ける。

「言っとくけど『メンゲレ』がいる限り、『ウイルス』カードでカードを破壊されたプレイヤーは、１枚につき１０００ポイントダメージを受けるからね」

『うぅ・・・おのれぇ』

「まだ『ウイルス』は生きてる。
しかも新しい『ウイルス』もセット済み。
ま、さっきみたく、専用カードとかいうイカサマカードを何とか引き当てるんだねぇ」

男のフィールドに未だに蝕む『ウイルス』。
しかも『メンゲレ』の存在が、新たな『ウイルス』を生み出し、男にも強力なダメージを与えていく。

舞は未だ苦しむ男を見下ろしながら、カードを引くよう促す。
追い詰められた男は膝を付いたまま、自分のターンのドローフェイズにおけるドローを行う。

そうして引いてきたカードを見た男は、咳き込みながら笑い声を上げた。

『ふ、ふはははぁ！
ひ、引いた！
引いたぞ！
“ダーク・スキュラー”！』

男はまた引いたのだ。
さっき舞に痛烈なダメージを与えた、『闇のカード』をーー。

「これで終わりだぁ！
はははっ！
ざまぁみやがれぇ！」

『闇のカード』は『この世界のカード』の干渉を受け付けない、と男は言った。
故に舞の『ウイルス』によって破壊されないのだとーー。

ーーが、この場面に至って、ついに舞がその真の力を解き放った。
男が引き当てたカードを見せつけるように、高く上げていたその手。

目に見えない早さで懐から放たれた、『銀の刃』がカードごとその手の平を貫いたのだーー。