発動せよ！ ラグナクロス・アドベント！　作：はにわ改

　
「ーー透矢くん……っ！
気が付いてくれたのはいいが、何か様子がおかしいっ！」

「『嘘』、ってなんだい？
アイツ、何をあんなに叫んでるってのさ？」

「遊戦名様……っ！」

ーー部屋の入り口、『ラピス』が張り巡らせた結界の外から中を窺うクリス・舞・蓮華の三人。
倒れた透矢が立ち上がり、ほっとしたのも束の間、
その透矢が身体を大きく振るいながら絶叫している。

その様を見て、３人は互い顔を見ながら何が起きてるのかと口々にするが、
彼が意識を失っている間に『見せられたもの』が何かを知らない以上、その理由を知る術はない。

その一方でクロエは冷めた表情のまま反応すら示さず、その側にいるエリザの蝙蝠もじっと中の様子を眺めているようだった。



「ーー嘘、だ……『お姉さん』が……『お姉さん』が死んでるなんてーー」

『……』

己の内にある全てを出し尽くすかのような絶叫の後、透矢は更に力無く呟く。
ラグナシアは目を閉じたまま何も口にせず、透矢の方を見る事もしない。

「じゃあ、俺の『夢』に現れた『お姉さん』は何なんだよっ！？
幽霊だとでも言いたいのかっ？！」

『……あながち、間違いではない。

我々も似たようなものだ 』

「んな……そんな馬鹿な！

だって、お前……！
そんな、そんな事……何だって、そんな……っ！
あの人が、死んでて、幽霊みたいなもんって……んなの、馬鹿……！
んなわけ、あるかよ……！」

完全に精神を乱した透矢の口からは、呂律の機能を失ったかのように言葉が出ていかない。
そんな透矢を背を向けたまま、受け止めるラグナシアたち騎士たち。

『くすくす……おやおや、大分ショックだったようだな。
お前、“あの女”とはそんなに関係が深かったのか？』

「うるせぇっ！
てめぇには関係ねぇっ！」

『ーー確かにあの戦いで、我はそこにいる女に“滅ぼされた”。

だが生憎、我に“死”という概念はない。
滅ぼされても、幾時か力を蓄えることで何度でも甦るのだよ』

「だから何なんだよっ！」

『いや……別に。

ただ、お前が悼むあの女が我を倒すために死んだのだとしたらーー。

くすくす……無駄な努力だったな、と思っただけだ』

「無駄な……努力、だと……！」

『くすくすくすくす……あははははっ！！
あっはっはっはっはっはっ！！』

これまで何度も耳にした、不快な『ラピス』の高笑い。
更に今、『お姉さん（アルシェリダ）』の死を笑われ、『メルセディア』たちも表情に怒りを募らせた。

『さて……そんな事よりも、だ。
いい加減、ゲームを進めてくれないか？
次が貴様の最後のターンだ。
そんなにあの女の死が悲しいなら、さっさとゲームを進行させて、お前も後を追うがいい』

ともすれば忘れそうになる、今がデュエルの真っ只中であるということ。
ライフは互いに少ないながら、『ラピス』は完全耐性を持つ『アビス・デザイア』の加護を受けている。
更に『暗黒物質（ダーク・マター）』の効果を受けた透矢にもう後はない。
このターンに何も出来なければ、先に敗北し魂を奪われた刹那の二の舞となる。

『ーー透矢。
今のお前には酷な事だというのは分かる。
だが、まずこの状況を勝って乗り切らなければならない。
マスターであるお前の力無くして、奴を倒すことは出来ないのだ！』

ラグナシアが懸命に透矢を激励する。

するとそれに促されたように、透矢はデッキの一番上のカードに手を触れさせた。

「……ラグナシア。
これだけは教えてくれ」

『……なんだ』

「『お姉さん』が……『お姉さん』が死んだのは……あいつを倒すためだったんだよな？」

『……そうだ』

「あいつが……あいつさえいなけりゃ……」

透矢がそう考えた時、彼の中で今まで以上に強い怒りが燃え上がる。
それは真実を知ってしまった事による悲しみを塗り潰し、彼の感情全てを支配する。

「許さねぇ……っ！
絶対に許さねぇっ！
俺が……俺が『お姉さん』の仇を取るっ！
そして……刹那を助けて見せるっ！」

『くすくす……心地よい殺気だ』

透矢が己を見つめる目、それは完全なる怒り、憎しみに満ちたそれとなっている。
その抑圧（プレッシャー）を肌で感じながら、『ラピス』は歓びの念に震えていた。

「負けられねぇ……俺が負けたら、『お姉さん』が報われねぇ上に、刹那まで本当に死なせちまう……っ！

ーー頼む……っ！
俺に力を……力を貸してくれ！」

『お姉さん』から託されたデッキに念じる。
あの憎き『ラピス』を倒せるカードーーそのただ一枚を引き寄せるために。

「ーーカード、ドロー！」

透矢にはもはや劣勢からくる弱気や迷いなどはない。
ただ、負けられない、勝たなくてはならないーー。
その一念がカードを引かせた。

その１枚がーー。

「……この、カード、はーー？」

己が組んだデッキであるはずなのに、『そのカード』はこれまでに見たことのないカードだった。

『（……さすがだ、我がマスター）』

ラグナシアには見ずとも分かった。
遂に……遂に、透矢（マスター）がこの状況を唯一覆す事の出来るカードを引き当てたのだ、と。

「こ……これはーーっ？！」

カードテキストを読み進める内に、透矢はまさかという思いに、倒れている刹那の亡骸を見る。

「刹那……お前……っ。
まさか、このためにあんな事をーー？」

刹那が敗北する直前に行った、一見無駄、無為に思えるあの行動。
だがそれはこの時の事を見越しての行動だったのではないか。
だとしたら刹那が何故、それを予知できたかは不明であるし、
あるいは単なる偶然なのかもしれない。

しかし現実に、刹那のあの行動が今、全てを１つに結び、実を成そうとしている。

「刹那……お前の行動、無駄にはしねぇっ！

手札から魔法カード、『ラグナ・クロス』を発動！」

『“ラグナ”、“クロス”……だと？』

透矢が今、ドローしたばかりのカードを直ぐ様発動させると、『ラピス』が小馬鹿にするように笑ってみせる。

「このカードは……本来、自分のデッキから『女帝』を墓地に送るカード！

ーーだが、このカードの真価はそれだけじゃないっ！」

『真価……？』

「俺は自分フィールド上に存在する『ガブリエル』、つまりシンクロ・モンスターをリリースし、このカードを『ラグナクロス・アドベント』に生まれ変わらせるっ！」

『何……？』

透矢が今、発動した『ラグナ・クロス』を墓地に送り、同時に刹那が託してくれた『ガブリエル』が刹那のディスクへと還る。
すると透矢の墓地が強い光を発し、彼の周囲を明るく照らす。

『な……何だ、あの光はっ！？』

単なる光だけではない、強い波動を感じた『ラピス』。
『デザイア』を召喚してからはずっと余裕を崩さなかった『ラピス』が、ここに来て驚きをあらわにする。

そして光る墓地から飛び出してきたそのカードを受け取る透矢。
それは『ラグナ・クロス』から『ラグナクロス・アドベント』へと名を改めたカード。
そこには新たなテキストが施されてる。

「この効果は……ラグナシア！」

透矢がラグナシアを見る。

『そのカードは、我の魂を束ねるだけではない。
我の力を引き出す役割も兼ねている』

「ラグナシアの力をーー」

頷くラグナシア。

ーーその様を見ていた『ラピス』はただならぬ雰囲気を感じたからだろうか。
反射的に身体が動いた。

『我は、ここで“デザイア”の効果を発動！
“アクティニオン”を裏側で帰還させる！』

『デザイア』の自分・相手ターンに発動出来る、『Ａ・Ｄ（アビス・ドミネーター）』を除外ゾーンから特殊召喚する効果。
それにより『アクティニオン』をフィールドに潜ませる。

『くすくす……お前のライフは１００！
続けて魔法カードを発動しようとすれば、“アクティニオン”の効果で貴様は終わりだ』

『アクティニオン』は相手の魔法カードの発動に反応して表側になり、墓地の魔法カードの数に応じたダメージを与えるモンスター。
即ち先に『アクティニオン』を消さなければ、魔法カードの発動と同時に透矢のライフは尽きるーー筈だった。

『ーー“ラピス”よ。
最早、貴様の小細工はマスターには届かぬ』

『何……？』

『マスターがこのカードを引き当てた瞬間、貴様の命運は尽きた。
マスターの力を軽んじた貴様の甘さを、身を以て知るがいい』

『くす……何を馬鹿な事を』

動じないラグナシア。
彼女の言葉の意味を今、透矢が明らかにする。

「ーー魔法カード、『ラグナクロス・アドベント』を発動！」

透矢は迷わず発動させた。
『ラピス』が仕掛けた見えている罠を恐れる事なく。

『くす……愚かな。
自ら死に急ぐか！
ーー“アクティニオン”の効果を発動！』

魔法カードの発動に反応して、『アクティニオン』はリバースするーー。

……が、『ラピス』がそう宣言しても『アクティニオン』はその姿を裏側に潜めたままだった。

『な、何……どういう事だ？』

『無駄だ、と言った筈だ、“ラピス”よ。
“ラグナクロス・アドベント”の発動は無効にされず、発動の際に貴様はあらゆるカードを発動させる事は出来んっ！』

『く……小賢しい』

『ラグナクロス・アドベント』に秘められた能力の１つ。
それが『ラピス』が講じた対抗策を無力化していた。
かくして『ラグナクロス・アドベント』がその効力を解き放つ。
その効果とはーー。

「手札・フィールド・デッキから『女帝の聖杖』を墓地へ送り、エクストラデッキから『ラグナシス・アレクシア』をＴ・Ｆ召喚扱いで特殊召喚する！」

発動と同時、フィールドから墓地へと送られる『女帝（ラグナシア）』。
だがその魂は己の真なる姿を導くための糧となる。

「ーー来いっ！
『ラグナシス・アレクシア』っ！」

エクストラ・デッキから取り出されたカード。
それは通常時、名前だけ刻まれているだけで、
絵柄やテキストは何も描かれてはいない。
だが今、主の命を受けて、封印されていた絵柄・テキストが急速に浮かび上がる。
そしてそのカードから飛び出してきた光が形を成して、その真なる姿を現した。

『く……貴様、１度ならず２度もその 忌々しい姿を我の前に晒すか！』

『“ラピス”……お前が甦るというのなら、我もまた何度でも甦ろう。

そしてこの魂、我がマスターと共にあるっ！』

戦場に立っていた頃の姿、即ち全盛期の身体だと語るラグナシアの真の姿。
前は刹那とのデュエルで、そして今、闇を司る『深淵』を消し去るために。

ーー『ラグナシス・アレクシア』。
刹那戦では発揮されなかったその大いなる力が、このデュエルに光を差す。