最強タッグ？！深淵より出ずる者！⑤　作：はにわ改

　
ーー刹那の頭上に、ひび割れるようにし開いた異次元へ通ずる『穴』。
その向こう側には光と闇の力を併せ持つ、天界の存在が封じ込められているという。

ーー『サンダルフォン』。
金白色の川のせせらぎが聞こえるような緩やかな髪を持つ女性。
その背中には白い翼と黒の翼が三対、雄々しく生えている。
刹那の背に立つその天使は、数倍に至る身長で、フィールドを見下ろし、
その両手には悪に誅を下すための武器である銀色の鎚が握られている。

「『サンダルフォン』……俺とのデュエルの時には使われなかったモンスターだ」

透矢がその姿を見上げる。
彼と刹那の時でも召喚された『混沌天使』たち。
そのいずれも絶世とも言える美しさの中に、強大な力を感じさせる雰囲気を持ち合わせていた。

この『サンダルフォン』もまた然り。

レベルは６、攻撃力は２６００。

「ーー『サンダルフォン』がシンクロ召喚に成功した時、墓地の『混沌天使』モンスターの枚数までデッキのカードを捲り、好きな順番で並べ替えてデッキの一番上に戻す。
ただし、捲れるカードは３枚までね」

『サンダルフォン』の効果。
墓地には丁度、３体の『混沌天使』モンスターが存在する。
刹那はデッキの上から３枚を捲ると、その内容を把握し、自分の都合の良いように並べ替えてからデッキに戻す。

「そして『サンダルフォン』のモンスター効果！
光属性モンスターを墓地から除外することで、デッキの一番上のカードを墓地へ送る。
私は墓地から『ステルヴィア』を除外」

更に『サンダルフォン』の効果が適用。
その効果に従って、デッキの一番上のカードが墓地へ送られる。
言うまでもないが、その１枚は『サンダルフォン』の効果によって、確認済みの１枚だ。

「墓地へ送られたのは、『混沌天使 ヴェリエル』。
追加効果としてそのモンスターの攻撃力分、私のライフを回復する」

『ふん……』

出来レース、とも言うべきその流れに、『ラピス』が鼻を鳴らした。『ヴェリエル』の攻撃力は１６００。
その数値分回復し、刹那のライフが４６００となった。

「よし！
刹那のライフが原点を上回ったぜ！」

このターン、刹那は１０００ポイントのダメージを受けていたが、それを補い、更に余りある恩恵を『サンダルフォン』から得たのだ。

「（『サンダルフォン』の効果はもう１つ……。
闇属性モンスターを除外すれば、『サンダルフォン』の攻撃力より低いモンスター１体を破壊出来るーー）」

刹那の思考。
墓地には闇属性として扱える『混沌天使』モンスター。
『ラピス』の場には攻撃力６００の『メガロディニクス』。
『サンダルフォン』の効果で破壊する事が可能である。

「（でも、あのモンスターが他の『Ａ・Ｄ』モンスターと効果が同じだとするなら、エンドフェイズに墓地へ送られるはず。
それならば、敢えて効果を使用する意味はない、かーー）」

刹那の判断は即決。
時間にして１秒に足らない。

「私はカードを２枚セットして、ターンを終了するわ」

『エンドフェイズ。
このターンに効果を使用した“メガロディニクス”は墓地へ送られる』

「（よし……）」

刹那が頷く。
先ずはこのターン、自分が行える事を成した。
更に透矢のターンの分も合わせて、『Ａ・Ｄ』モンスターの能力も把握。
まずまずの出だし、と己の心を納得させる。
だが同時に緊張を高めてもいた。

『我のターン。
魔法カード“アビス”の効果により、ドローフェイズはスキップされる』

そして還った『ラピス』の２ターン目。
ここから３人ともドローフェイズを迎え、デッキからカードを１枚ドローするはずだが、『ラピス』にはそれは適用されない。

『代わりに我がスタンバイフェイズに、墓地のカードをシャッフルした後、ランダムに選択されたカード１枚を手札に加える』

「墓地のカードをシャッフル……」

デッキをシャッフルする、ならありふれた現象であるが、墓地のカードをシャッフルとは通常のデュエルでは、中々聞かない。
しかもランダムに墓地からカードを手札に加えるとなれば、尚更である。

「（『アビス』によって、敵のデッキは全て墓地送りにされている。
そこからランダムにカードを手札に加えるというのは、つまり通常ドローをしている事と似て非なる行為ーーか？）」

刹那はやはり、『ラピス』の一挙一動を考察し続けている。

かくして、『ラピス』墓地からカードを手札に加えた。
それを一瞥した後、その視界が透矢と刹那を捉える。

『この瞬間、我がフィールドの“グラボイド”がその効果を解き放つ』

「あいつの場の……５体目のモンスターか！」

『ラピス』の場に唯一残ったモンスター。
透矢の目に、裏側のそのカードの周りから黒い煙のようなものが立つのが映った。

『我がスタンバイフェイズに、このカードが裏側守備表示で存在する時、このカードを表側守備表示に変更する。

ーー現れよ、“グラボイド”！』

『ラピス』が宣言すると、不意に強い揺れと地鳴りがフィールドを激しく襲い、透矢と刹那の身体がよろめく。

「な、なんだ？！」

「こ、これはーー？」

透矢と刹那が揺れに耐えながら、裏側から表側に返った『グラボイド』のカードを見る。
そして『ラピス』のフィールドの地面が大きく隆起し、それが張り裂ける。
そしてそこから姿を現したのは、巨大なエイのような姿形をした、焦げ茶色の『物体』。
両側のヒレのような部分からは、細長い触手が無数に伸び、顔に当たる部分は目はなく、大きく開いた口からもまた、長い触手が無数に生えている。
そして恐らく見えているだけが全体像ではないのだろう、太い尻尾のような部分は土の中に隠れて、どれ程の長さかは伺い知れない。

「で、でけぇ……！
これが奴のエースモンスターなのか！？」

『グラボイド』が現れるのと同時に、収まる揺れ。
『サンダルフォン』をも凌ぐ巨大なスケールに、透矢が声を上げる。

レベル８、攻撃力は２６００。

「く……『サンダルフォン』と同じ攻撃力！」

更に刹那が汗を滲ませながら口にする。
だが攻撃力は同じでもその能力はまるで違う。
まして今までの『Ａ・Ｄ』モンスターを考えれば、それが生半可ではないのは承知の上だ。

『“グラボイド”の効果！
自身の効果でリバースした時、相手は己がカードの枚数１枚につき、５００ポイントのダメージを受ける！』

「何っ、カード１枚につき、５００ダメージだと？！」

「私は３枚……、透矢くんの場には２枚のカード……」

すなわち刹那は１５００ポイント、透矢は１０００ポイントダメージということか。

『くす、痛みを味わえ……！

ーー“クルスタル・コーラプス”！』

『グラボイド』が両の無数の触手を地面に打ち込むと、再び強烈な揺れが二人を襲う。
すると二人の真下の地面が裂け、そこから『グラボイド』から地中を通して伸びた触手が同時に二人を貫いた。

「ぐぅあああああっ！！」

「ぁあああああっ！」

実際に身体を突き抜けるような『感覚』。
それに起因して発生する『激痛』、『苦痛』。
二人の悲鳴を聞き、『ラピス』の顔が愉快、とばかりに残忍に歪む。

透矢のライフは１３００に。
刹那のライフが３１００へと落ち込んだ。

『くすくす……“グラボイド”の効果はこれだけではない。
相手のカード１枚につき、“グラボイド”の攻撃力は５００ポイントアップする』

「な、なんだ、とぉ……？」

強烈な激痛に耐える中、『グラボイド』の更なる能力。
『相手』のカード１枚につきーーこの場合、透矢と刹那のカードを合計して数え、その攻撃力は２５００ポイントアップし、攻撃力は５１００となるーー。

「こ、攻撃力、５１００……？」

刹那が揺らぐ視界の中で、とてつもない攻撃力を見せられる。
倍に近い攻撃力を身につけたその攻撃を受け、ダメージを受ける事になったとしたら、果たしてどうなってしまうのか。
自分、あるいは透矢はそのダメージに耐えられるだろうかーー。

『くすくす、先ずは貴様からだ、娘！
“グラボイド”を攻撃表示に変更し、その天使を攻撃！

ーー“フォッサマグナ”！！』

『グラボイド』がまるで海に飛び込むようにその巨体を地面に埋めた。
そして大地震を思わせる揺れと共に、その地響きは刹那へと向かう。

『グラボイド』と『サンダルフォン』の攻撃力差は２５００。
この一撃で刹那のライフが０になるわけではないが、問題は肉体を襲う『痛み』。

『ラピス』の圧倒的カードパワーが、刹那を襲うーー。