サタン・ルキフェル③　作：はにわ改

　
ーー久遠と戦う相手の生徒は、まだ序盤ながら形勢がこちらに傾いているのを感じていた。
『聖なるあかり』で闇属性モンスターの召喚をシャットアウトし、『暗闇を吸い込むマジックミラー』でフィールド・墓地で発動する闇属性モンスターの効果もシャットアウト。
その上で、攻撃力２８００の『クリスティア』を従える。

危惧すべきはこちらのフィールドを荒らすような全体除去カードだが、先の久遠の行動を見る限り、恐らくまだ手札に握ってはいまい、と。

このまま何事もなければーー勝てるかもしれない。

昨年の優勝校の大将にして、圧倒的実力を見せつけたあの久遠にーー。

そのために、普段使い慣れた植物族デッキを捨てて、対久遠用に特化したこのデッキを用意したのだからーー。

「……（なによ……あれ。
完全に私に対するメタ張って、完封でもしようっていうの？）」

舌打ちする久遠。

久遠もさすがに気付いている。
相手のあのデッキは久遠専用のメタデッキである、と。

だがそのあまりの露骨さに、久遠は苛立ちを隠せない。

「（……ムカつく……こいつ、大観衆の前で私に恥をかかせるつもりなのねーー）」

沸々と高まる怒り。

「（許さない……こいつもーー私の『敵』、だ！）」

今、やや荒んでいる彼女の心がそう思わせたか。
久遠には目の前の相手が、自分を不当に陥れようとしている悪辣漢、のようにしか思えなかった。

ーー潰してやる。

ーー私を陥れ、疎外しようとする奴は絶対に許さない。

ーー潰すっ！

歪んだ闘志が光となって、久遠の瞳に宿る。

「ーー私はカードを１枚セットしてから、魔法カード、『虚無の宝札』を発動！」

久遠は手札の１枚を魔法・罠カードゾーンにセットした後、そのカードを発動させる。

「このカード以外の手札が３枚以下の時に発動できるカード！
私は手札を全て除外し、その後、お互いにその枚数だけカードをドローする」

魔法カード『虚無の宝札』により、久遠は残った３枚の手札を除外し、そして新たに３枚のカードを補充。
だがこのドローは相手にも適用されて、こちらは何のリスクもなく３枚ものカードを加える事となった。

「くす……そして、この瞬間、モンスター効果、発動！」

「何っ！？」

１度は除外ゾーンに送ったあるモンスターカードを、再び手に取る久遠。

「ーー『混濁の崇拝者』！
このカードが自分のフィールドまたは手札から除外された時、相手フィールド上に存在する魔法・罠カードを１枚破壊する！」

「なに……、除外ゾーンで発動する効果ーー？！」

「そう……当然、『マジックミラー』で無効には出来ない。

よってこの効果で『マジックミラー』を破壊！」

砕け散る『マジックミラー』。
これでまず久遠は一つの『ロック』を解除してみせた。

「ーー（ふん……ガバガバじゃない）。
更に手札より魔法カード『悪魔の飽食』を発動！」

「う……っ」

「手札の悪魔族モンスターを墓地へ送り、そのモンスターの攻撃力以下のモンスターの効果をエンドフェイズまで無効にして、
更にこの効果を受けた相手モンスターの攻撃力の合計数値だけ、私のライフを回復する！」

「無効に……回復、だって？！」

「私は攻撃力３１００の『イビル・ロード』を墓地へ送り、
『クリスティア』、『聖なるあかり』の効果を無効！
更にその攻撃力だけライフを回復する！」

発動された『悪魔の飽食』により、相手の２体のモンスターは時期限定ではあるが効果を無効にされ、
更にその攻撃力の合計、２８００ポイントが久遠のライフに加わり、６８００とする。
だが大事なのはライフよりも『クリスティア』・『聖なるあかり』の両方の効果を封印したこと。
これで久遠は全てのロックから解き放たれた。

「さて……遠慮なくいくわ。
ーーエクストラデッキの『混濁魔神（カオス・デビル） アスタロト』のモンスター効果発動！
このカードを墓地に送り、そのレベルと同じになるように、悪魔族のチューナーモンスター、チューナー以外の悪魔族モンスターを、私のデッキから相手の場に特殊召喚する」

そして遂に解き放たれる、久遠のエクストラデッキに眠る『魔神』の能力。
発動したが最後、最早久遠の生み出す大いなる流れを食い止めるのは不可能。
少なくとも、ワシントン校にはそれが出来る者はいなかった。

「私はデッキより、『魔神の落とし子』と『イビル・ゲイザー』を貴方の場に特殊召喚！」

『混濁魔神』の共通効果が発動し、久遠のデッキから放たれる悪魔たち。
球体の中に薄ら笑いを浮かべる赤子・『魔神の落とし子』、
巨大な一つ目と斑模様の丸い身体から無数の触手が生える『イビル・ゲイザー』。
それらが、相手の２体のモンスターを挟むようにして特殊召喚された。

「ーーそしてリバース・カード、オープン。
ーー魔法カード『所有者の刻印』！」

「そ、それはーー！」

「全てのモンスターのコントロールは持ち主に戻るーー。
くすくす、私のモンスターは返して頂きますわ」

久遠が『虚無の宝札』を発動する前に伏せておいたカード。
それがこの『所有者の刻印』であり、『混濁魔神』の効果とで凄まじいシナジーを示す。

これにより、『魔神の落とし子』、『イビル・ゲイザー』のコントロールは、元々の持ち主である久遠のフィールドへと戻された。

ーー同時に。
久遠の場には、チューナーと非チューナーモンスターが揃えられたのだ。

「あれれーー？
これって結局、久遠の勝ちパターンになってない？」

「『虚無の宝札』で、『悪魔の飽食』を引き当てているあたり、若干運に頼ってはいたがな。

ーーまぁ、あれも我々ワシントン校の生徒たちが既に通った道だ」

「惜しいな。
自分の場を守る何らかの手段を用意できていれば、あるいは久遠を封殺出来ていたかもしれないんだけどな……」

メリッサ・シェリル・アルフレッドが口々に語る。
この３人は既にこのデュエルの結末を見通したのだ。

ーーだが、クリスは口にはしないものの、違和感を感じている。

「……（おかしい……。
何故、『アスタロト』を捨てた？
相手の場にバックがないなら、『アスタロト』で相手を倒せるはずなのにーー？）」

久遠・炎魅子戦でのフィニッシャー、『アスタロト』。
暴虐を司る彼の魔神の力を使えば、このデュエルは決着する。
だが久遠はそうしなかった。

「（……まさか）」

クリスは一抹の不安を覚える。
そしてそれは当たっていたのだ。

久遠は『あのカード』を呼ぶつもりなのであるーー。

久遠のデッキの最強のカードにして、魔王の中の魔王をーー。