真希、復活　作：はにわ改

　
「ーー真希の奴、今日も出てこねぇのかな？」

「・・・」

ーー次の日の朝。

透矢は先に千鶴を迎えに行き、そして二人で真希の家の門前に立つ。
インターホンを鳴らす前に、透矢がそんな事を漏らすも、千鶴は不安そうに黙ったままだ。

この２日間会うどころか、声すら聞けていない幼馴染みに、一体何があったんだろうか。
透矢は自分に幾ばくかの要因があるなど、当然把握しているはずもなく、ただ心配するだけだ。

ーーそんな中、今日も迎えに来た二人は静かにインターホンを鳴らす。
すると少し間を置いてから、家の中から騒々しい足音がこちらに響いてくる。
そして乱暴に開け放たれた玄関から、２日ぶりに幼馴染みが姿を見せてくれた。

「ーー真希！」

「お姉ちゃん！」

「いやっほーっ、ごめんごめん！
待たせちゃったね」

トレードマークのポニーテールを揺らしながら、笑顔を見せる真希。
透矢と千鶴も嬉しそうに顔を見合わせる。

「もう、大丈夫なのか、真希」

「うん！
ごめん、心配かけてーー」

「いや、全然いいんだけど・・・お前ーー」

透矢は何かを聞こうとしたのだが、それを遮るように千鶴が透矢の腕を掴むと、何かの合図なのか首を横に振った。
透矢がその意味を知ろうとする間もなく、千鶴は真希の前に出る。

「良かった、お姉ちゃんが元気になってくれて・・・」

「千鶴ちゃん・・・ごめんね」

「いいの！
さ、お兄ちゃん、お姉ちゃん！
早く行こ！」

いつにない満面の笑顔で歩き出す千鶴。
透矢と真希は互いの顔を見て小さく笑い合うと、その千鶴の後を追いかけた。

本当は真希がどうして休んでいたのかを聞きたかった透矢だが、真希が戻ってきてくれた事に満足した。
千鶴もきっとそうであり、敢えて水を差す必要はないーー透矢は先の千鶴の行動をそう解釈した。




ーー３人、何事もなかったかのようにいつも通り会話を弾ませながら、アカデミアへと到着する。
そして校門を潜ると、そこには待っていたとばかりに久遠が３人に、いや透矢の方へ向かって駆けてくる。

「ーー透矢、くぅーん！
待ってた・・・」

声を上げながら駆けてきた久遠だったが、透矢の隣にいる真希を見るなり、まさか、という表情で立ち止まる。

「ま、真希・・・」

「久遠ーーっ」

立ち止まって互いを見合う、真希と久遠。
二人の間を結ぶ視線に、どんな意味合いが込められているのか。

「よお、久遠！
どうした、変な顔して」

「あ、あはは、な、何でもないの、透矢くん。
そんな事より、真希はもう大丈夫なの？」

「うん。
『おかげさま』で、ね」

互いに笑顔でやり取りを交わすが、真希の声には何故か力が篭っていた。
千鶴はそんな真希の変化に敏感なのか、じっと視線を送り続けてる。

「・・・透矢、千鶴ちゃん。
先、行ってて。
あたしもすぐ追い付くから」

「え、何でだよ」

「いいから、ほらほら！」

「ちょ、おいおい！」

背中を叩いて透矢を押し出す真希。
千鶴には済まなそうな表情を向けると、理解したように千鶴は透矢を引き連れて、真希の意向を呑んでくれた。

そして改めて向き合う真希と久遠。
真希は無言で距離を詰める。

「ーーこの間は忠告、ありがと。
お陰で、色々と考える事が出来た」

「・・・そう。
それで？」

冷めた調子で話す真希に、久遠も真顔で応対する。

「あたし・・・臆病過ぎたね。
あんたや刹那にちょっかい出される透矢を見て、一々それが気になって仕方なかった」

「へぇ？」

「あと、あたしが見てないところで、透矢が誰と話してるとか、いつもそればっか考えてーー」

「だから教えてあげたじゃない。
透矢くんとお姉さまがこっそり屋上であんな事をーー」

悪意に満ちたような嫌な笑みを浮かべる久遠。
だが真希はいつもの明るい笑顔で返した。

「確かにね、ちょっとショックだった。
・・・でもね、よく考えたら抱き合うぐらいのことなら、あたしだって散々やってるし」

「はぁ？」

「ま、子供の頃の話なんだけどね」

「な、何言ってるの？」

意味が分からない、という久遠に笑い声すら上げる真希。
そして笑いの衝動が収まると、真希はじっと久遠を見据えた。

「あたしね、もう少し自分に自信持ってみようと思う」

「自信？」

「うん。
あたしもね、刹那くらい積極的に透矢にアタックしてみようかなって」

「な・・・何なの」

真希の『変化』に戸惑う久遠。
すると真希は不意に歩き出すと、久遠の横に並ぶ。

「あたし・・・負けないから。
刹那にも、あんたにもね」

「・・・！」

「でも、あなたたちとはあたしも友達で居続けたいの。
だからーー正々堂々、よろしくね。
デュエルも・・・恋も」

「真希・・・！」

「じゃね！
そろそろ追いかけないと、追い付けないから！
また、後で！」

走り去ってしまう真希。
久遠は振り向いてその背を見つめるが、真希は快活な走りで校舎の中へと消えた。

「な・・・何なのよ、あれーー」

久遠は思わず地を足蹴にする。
何故、真希があんな態度を取る事が出来たのか、納得がいかない。
何より、自分の思惑通りにいかなかった事が腹ただしいようだ。

『ーー友達で居続けたいの』

「なんで・・・何でそんな風に思えるのよーーっ！」

思い出す去り際の真希の一言。

それに込められた意味がどうあれ、久遠は一番理解できなかった。
あれだけの事を言ったのに、何故自分を被虐しないのか。

納得出来ないーー理解できないーー。

そんな気持ちが久遠の中を渦巻き、今日彼女は機嫌を１日損ねる事となった。