黒き太陽は沈まず　作：はにわ改

　　
「ーーお、おい、ラグナシア……！」

ーー再び相まみえた両雄。
その二人の間にある因縁がただならぬ雰囲気を与え、透矢を緊張させる。

『ーー頼んだぞ、透矢。
この戦いを制する事が出来るかどうかは、お前の力如何に懸かっている』

「いや、それは分かってるけどさ！
ラグナシアはあいつの事ーー」

『私に二度同じ事を言わせるつもりか。
お前が今、やるべき事は駒である私たちを如何に効率良く使うかを考える事だ』

「ら、ラグナシア……」

『余計な事に気を取られるな、マスター』

こちらを振り向かず背を向けたまま、冷淡というべき口調のラグナシアに、透矢は突き放されたような感覚を覚える。
そんな透矢の様を、『メルセディア』、『影縫いの微刃』は後ろ目に心配そうに見つめていた。

ーーそれでも真摯にラグナシアの言葉を受け止め、デュエルに意識を戻す透矢。
確かにこのターンで自分が『ラピス』を倒す、あるいはそれが叶わないまでも、何らかの形を残さなければ、次の刹那のターンに響いてきてしまう。

「（次の奴のターンに回しちまったら、刹那はーー）」

刹那を見る。
未だに呼吸は荒く、立っている事さえ辛そうなその様。
大事な友達のそんな姿を見て、透矢を気持ちを奮い立たせる。

「ーー俺は、『メルセディア』を守備表示から攻撃表示に変更！」

そして透矢が動く。
先のラグナシアこと『女帝』の召喚に続けたのは、『メルセディア』の攻守変更ーー。

『ほう、攻撃力６００のモンスターを攻撃表示、だと？

ーーそうか。
お前、そのモンスターで“デザイア”を攻撃するつもりか？』

『ラピス』の予想に対して、透矢は応えない。
『ラピス』の頭上に鎮座する『アビス・デザイア』。
その如何にもただのモンスターではないという空気とは裏腹に、攻守は共に０。
攻撃力わずか６００に過ぎない『メルセディア』でも充分に倒せるはずである。

『残念だが……我がフィールドに“Ａ・Ｄ（アビス・ドミネーター）”または裏側表示モンスターが存在する限り、“アビス・デザイア”を攻撃する事は出来んぞ？』

「ーーっ！」

『アビス・デザイア』第三の効果。
透矢は一瞬驚いたような表情を見せるが、果たして彼の作戦は『ラピス』に見抜かれたのか。

『ラピス』がにやり、と笑みを見せる。

「ーーバトル！
『メルセディア』でその裏側モンスターを攻撃！

ーー『ピアース・スロゥ』！」

３０００以上の守備力を持ちながら、敢えて攻撃に転ずる『メルセディア』。
手に持つ黄金銃が発火音を轟かせ、その弾丸が『ラピス』のモンスターを射抜いた。
そのモンスターは『メガロディニクス』。
守備力は０であり、『メルセディア』の攻撃力でも戦闘破壊が可能。

『くす……なるほど』

『ラピス』が納得したように頷いた。
本来なら守備表示で直接攻撃が可能な『メルセディア』を敢えて攻撃表示にした理由。
それは『アビス・デザイア』を攻撃するためではなく、今の攻撃こそが本命ではないか、と。

「ーー続けて、『影縫いの微刃』のその裏側モンスターを攻撃！

ーー『影殺刃』！」

透矢の命に従って、『影縫いの微刃』が影を利用した暗殺術で更に攻撃し、破壊。
破壊したのは守備力２１００の『アクティニオン』ーー。

『くすくす……なかなかどうしてーー』

愉しそうに笑う『ラピス』。
今の透矢の攻撃は、明らかに狙い済ました行動。
即ち裏側で身を隠そうとも、その配置をしっかりと記憶し、的確に撃破。
何気ないようでいて、大事な行動。

そしてここで透矢の真なる狙いが明らかになる。

「このタイミングで！
手札から速攻魔法、『女帝の召令』を発動！」

『くす……』

「自分フィールド上、または手札に『女帝』が存在する時に発動可能！
デッキからレベル４以下の『三騎士』モンスター１体を特殊召喚する！
俺はデッキから、『蒼き槍迅』を特殊召喚！」

『ーー来いっ、“リューゼ”！』

透矢が発動した『女帝の召令』。
その発動に合わせて、ラグナシアが命じるように強くそう発すると、透矢のデッキから直ぐ様飛び出してきたのは、海の青を思わせる髪を持つ、長い槍を携えた戦士。
『蒼き槍迅』、その名を『リューゼリッド』。
召喚された彼女が『女帝』を前に一度膝を折り、その忠誠を表す。

「『女帝の召令』の追加効果！
フィールドに『女帝』が存在する場合、この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力を１０００ポイントアップする！」

膝を折った『リューゼリッド』にラグナシアが手に持つ月の杖の先をその頭にかざし、『光』を送り込む。
すると『力』を受け取った『リューゼリッド』の元々の攻撃力１９００が２９００へと上昇。
立ち上がった『リューゼリッド』が自身の胴一つ分長い槍を軽々と振り回し、攻撃態勢に入る。

「（そうか……透矢くんが先に、あの２体のモンスターを破壊したのは、全てこの状況を作り出すためーー）」

刹那も心の中で透矢の意思を理解する。
『メガロディニクス』を二回目の召喚・特殊召喚という今のタイミングで、
更に『アクティニオン』は魔法カードの発動をトリガーに、それぞれ『罠効果』が発動してしまう。
それを未然に防ぐべく、『メルセディア』を攻撃表示にしてまで攻撃に転じさせた。

「（そして攻撃力２９００の『蒼き槍迅』……！
これならーーっ）」

「『蒼き槍迅』でその裏側モンスターを攻撃！

ーー奥義、『龍槍撃』！」

刹那の心の声に合わせるように、透矢が宣言する。
標的は最後に残った『ラピス』の裏側モンスター。
『リューゼリッド』が一足飛びで瞬間的に『ラピス』のフィールドに踏み込み、その勢いのままにつきだされた槍の切っ先がそのカードを貫く。

裏側モンスターの正体は『サードリウス』、その守備力は２７００。
ラグナシアの力を受け取った『リューゼリッド』の攻撃力がその高い守備力を上回り、撃破せしめた。

「ーーこれで、お前のフィールドにはそいつ以外のモンスターはいない！」

『くすくす……』

「『女帝』で『アビス・デザイア』を攻撃！

ーー『ペネトレイト・アークブラスト』！」

邪魔な壁モンスターを退け、いよいよ残るは黒き太陽・『アビス・デザイア』。
それを撃滅すべく前に出るは『三騎士』の長・『女帝』・ラグナシア。
その場から動かず、月の杖を『アビス・デザイア』に向けると、その先端に光のエネルギーが集束し、巨大な球体を作り上げる。

「ーーいけない！
『アビス・デザイア』には『Ａ・Ｄ』モンスターを特殊召喚する能力がある！

この攻撃はーー！」

ーー『通らない』。
その声を待たずして、放たれた『女帝』の光弾。
闇に包まれたフィールドに、その軌跡を残しながら『アビス・デザイア』の中心を目指して突き進む。

『ーーくす』

「（動かないーー？）」

『ラピス』は動かない。
刹那の言うように『アビス・デザイア』の効果で『Ａ・Ｄ』モンスターを召喚すれば、『女帝』の攻撃をそちらに反らせるはずなのに。

すると『女帝』の放った光弾は『アビス・デザイア』に当たる直前で爆発するように弾け、フィールドを明るく照らしその威力を解き放つ。
その目映い光に腕で庇う透矢と刹那。

「ーーやったかっ？！」

それは正しく闇を掻き消す光。
このデュエルを戦う透矢たちに希望を与える輝きとなるはずだった。

ーーが、しかし。

『光』は『闇』に呑まれた。
誰の目も届かない深淵の闇。
それを覗こうとする者を阻むかのように。

光が消え、変わらず『ラピス』の頭上で暗い輝きを発する太陽。
『アビス・デザイア』は健在していた。

「な、何でだ！
何でラグナシアの攻撃がーーっ！」

通じなかったのかーー。
透矢は『アビス・デザイア』の更なる能力に、絶望を知る事になる。

『くす……無駄だ。
“アビス・デザイア”は戦闘では破壊できない』

「何、だと……？」

『ついでに言っておく。
“アビス・デザイア”はお前たちのあらゆる魔法・罠・モンスターの効果を受け付けない』

「ば、馬鹿な！
それじゃ無敵じゃねぇかっ！」

『その通りだ……くすくすくすくすくすくす……』

突きつけられた現実。
果たして無敵の『アビス・デザイア』を前に、透矢と刹那は勝つ術を見いだせるのかーー。