日米対決前哨戦 流石出る！　作：はにわ改

　
ーー次の日の金曜日。
久遠が前日の昼に話していた通り、今日は週に１度の実技試験の日である。
実技試験とは文字通り、生徒同士によるデュエル試験。
この毎週行われる実技試験が、学期末ごとの成績に大きく反映されるため、
生徒たちは常日頃から学んだ事を生かし、入念なデッキ調整が求められる。
試験は体育館に複数設置されたデュエルスペースで順に行われ、試合ごとに教諭が張り付き、評価が決められる。



「ーー『ヴァルバレア』で、『古代の機械巨人（アンティーク・ギア・ゴーレム）』に攻撃っ！」

ーー透矢の実技試験。

透矢のエース、『轟剣の女傑 ヴァルバレア』の大剣が地に突き刺さると、相手のオベリスク・ブルー生徒が操る『古代の機械巨人』に向かって溶岩を伴った地割れが突き進む。
『ヴァルバレア』の攻撃力は自身の能力で３４００、『古代の機械巨人』の攻撃力は３０００。
対抗策が無かった相手はその攻撃によって『古代の機械巨人』を破壊され、４００の戦闘ダメージを受けてしまう。

「これで終わりだ！
『ヴァルバレア』が相手モンスターを戦闘で破壊したとき、その攻撃力分のダメージを与える！」

ブルー生徒のライフは残っていたが、それも『ヴァルバレア』によって焼き尽くされた。
ライフが０になったブルー生徒は膝を付く。
透矢のライフも１０００余りだったが、最後は持ち前の勝負強さで相手を抜き去った。

「ーーＯｈ！
トーヤ、相変わらず、調子イーみたいデスわね！」

「は、はは・・・あ、ありがとうございます、クロエ先生」

そんな透矢の試験官はクロエ。
ただし理事長モードではなく、一般教諭モードだ。
クロエの正体を知る透矢は、その片言演技が余計にわざとらしく聞こえてしまい、苦笑いを浮かべる。

「先生、別にそんな演技しなくても普通でいいじゃないっすか」

「Wｈaｔ？ナーンのコト、デースか？」

「もう、なまじ知ってると違和感ばりばりだな・・・」

白々しいクロエに、呆れる透矢。

理事長ことクロエは生徒たちの普段の様や成績を、一番近くで観察し、またそれによって一番良き道に導いてやりたいという思いから、普段は一般教諭を演じている。

ある意味で生徒たちを騙す行為だが、透矢自身はそういったクロエの考えに感ずるものがあり、秘密は守っている。
だが別に、片言の妙にハイテンションな教諭を演じなくても、と思うのだった。



「ーーお、いたいた！
よぉ、真希、千鶴！
調子はどうだ？」

試験を無事に終えて、観客席の方へ足を運んだ透矢。
たくさんの生徒たちが駄弁る中を歩き回り、真希と千鶴を探し当てた。

「お疲れ、透矢！
自分で言うのもアレだけど、あたしは絶好調！って感じかな」

「お、さすが真希さまだな！
千鶴は？」

「わ、私も・・・絶好調、かな？」

「ははは、なんだよ、千鶴！
絶好調なら、もっと自信もって言えよ！」

Ｖサインを見せながら笑顔を浮かべる真希に対して、控えめな千鶴。
ただ二人とも、いい結果を残せたようであり、透矢も嬉しそうに祝福した。

「ーー先輩！」

「お、流石！」

３人で観客席に腰を下ろしていると、そこへ現れたのは流石。
透矢が転入してきた頃は色々衝突した二人だが、今では良き先輩後輩の関係を築いている。

「聞いたぜ、流石！
お前、今日あの噂の留学生とデュエルするんだろ？」

「ああ！
先輩、耳が早いっすね！」

「へへ、相当強い、って話だぜ？
流石、大丈夫かー？」

「任しといてくれよ！
一泡吹かせて見せますってね！」

「ま、思い切りぶつかって行けよ！
俺も見てるからさ」

「了解！」

流石の相手は噂の留学生こと、アルフレッド。
どうやらクロエが特別に組んだ取り組みらしいのは、久遠の話から知っている。
透矢は流石を応援しつつも、内心ではアルフレッドがどんなデュエルを見せるのか、楽しみなのだった。
同時に流石が相手ならば、面白いデュエルになるだろうという期待もあった。

「さ、流石くん・・・その、お、応援してるから・・・頑張って、ね」

「鳴瀬・・・。
ああ、任せとけ！」

千鶴も吃りながらも、流石にしっかり応援する気持ちを伝える。
かつては千鶴のいじめの当事者だった流石。
二人の間には大きな軋轢があったはずだが、それも徐々に解れてきている。
真希は千鶴を見つつ、言葉にはしないまでも、流石に小さく笑顔を見せていた。
流石もそれに頷いて応えた。

「それと今の俺の目標は先輩なんで！
必ず借りは返すんで、そん時はよろしく頼みまっす！」

「上等だぜ！
俺はいつでもいいからな！」

「はい！
それじゃ、そろそろ準備してくるんで、また！」

自信をたぎらせたまま、颯爽とその場を立ち去った流石。
透矢は彼が健闘する事を信じて疑わない。


「ーーおっす、３人とも！
元気そうだね」

「遊戦名くん、千歳さん、鳴瀬さん。
実技試験、お疲れ様です」

ーー少し他の者たちに紛れて３人で駄弁っていると、そこに炎魅子、地影も姿を見せる。

「先輩、朝霧！
お疲れ様！」

透矢は生徒会メンバーとして一目置かれている彼女たちと、対等に話せる数少ない生徒の１人。
もっとも、それは他の生徒たちが引け目を感じているところがあり、彼女たちが偉ぶっているわけではない。

「透矢くん、やっほぅ！」

「お疲れ様、みんな」

そして更にその後ろからは、久遠と刹那、そして二人の間で手を結んで
歩む水花。
まず久遠が透矢に明るく声を掛け、続けて刹那が上品に振る舞う。

久遠と刹那がアカデミアで並んで歩くのはこれまで見たことなく、見る者は改めて二人は双子なのだ、と再認識させられる。

「ねぇねぇ、透矢くん？
私の名前は？」

「へ？
く、久遠、だろ？」

「あは、すごい！
透矢くん、もう私とお姉さまの区別が付けられるんだ！」

「いや、制服が違うし・・・」

わざとらしく聞いてくる久遠に、小さく笑いながら指摘する透矢。
久遠はアメリカ・アカデミアの制服である黒のブレザーであるため、一目瞭然である。

ただ、透矢はこうして刹那と久遠がならんだの見て、はっきりと『違い』を見抜いていた。
例え髪型・服装を一緒にしても見抜けるだろう、と。

「ーー久遠？
透矢くんをからかうのは止めて」

「別にからかってなんかいないわ、お姉さま」

刹那が冷ややかに叱りつけると、悪びれる様子もなく久遠はそう答え、そのまま水花から手を離し、透矢の左隣りに座る。

「透矢くん？
これからフレッドのデュエル見るんでしょ？」

「あ、ああ・・・」

「隣で一緒に見てもいい？」

「別にいいけど」

「やったぁ！ぎゅう～っ！」

久遠が思いもよらぬ態度を取った。
なんと席越しに透矢の腕にしがみついてきたのである。
それを見た真希の表情から血の気が引き、千鶴は口を両手で押さえて頬を紅潮させる。

「ちょ、ちょっと久遠！
あ、あなた透矢くんに何するのっ！？」

真っ先に動いたのは刹那。
水花の手を引くように連れたまま、久遠の傍らに立ち、刹那には珍しく取り乱したような表情を見せる。

「何って、透矢くんと一緒にデュエルをって」

「それなら、何も抱きつかなくてもいいでしょ？！それに・・・」

「それに？何かしら、お姉さま？」

「と、透矢くんの隣は私の特等席よっ！！」

「あーら、いつ、誰が、そんな事決めたのかしらぁ？」

「いいから退きなさい！久遠！
でないと怒るわよ！」

「い～や！
お姉さまの言いつけでも、これだけは聞けませんわ」

久遠が更に強く透矢に抱きついてくる。
柔らかい感触が腕を通して伝わり、無意識に照れたように戸惑う透矢。

「ば、馬鹿透矢！
なぁに、顔赤くしてんのよ！」

「い、いや、ちょっと待て、それはごか・・・いぶっ！」

「そうよ！透矢くん！？
私というものがありながら！」

真希も透矢の反応に怒り狂い、問答無用の鉄拳を頭上に浴びせる。
刹那は烈火の如く怒り狂い、久遠を引き剥がそうとしながら透矢の頬をつねる。
そこには普段の大人びた雰囲気の刹那は、陰りもない。

「あっはっはっは！
おんもろしいねぇ、なぁ、地影？」

「はぁ・・・少しは人目も考えて下さい・・・」

炎魅子は修羅場を前に、腹を押さえながら馬鹿笑いをして、地影は１人残された水花を庇いながら頭を抱える。

そんなてんてこ舞いな状況の中、下ではアルフレッドと流石のデュエルがいよいよ始まろうとしていた。