最強タッグ？！深淵より出ずる者！④　作：はにわ改

　
「私の、ターン」

刹那の１ターン目。
握られた５枚の手札は、ここまでの流れで既に把握しており、
それによりいくつかのパターンにより、この自分がどうするかある程度の策を打ち立ててある。

そんな中で、刹那はふと透矢を見る。

「ーー透矢くん、身体はまだ痛む？」

「いや大分、治まってきた。
まだ違和感はみたいなのは残ってるけどな」

前のターンに手痛いダメージを受けた透矢。
『ラピス』と相対するこのデュエルでは、ライフポイントが減る度に『痛み』を背負うこととなる。
透矢は身をもってそれを味わったわけだが、同時に刹那は敵のカードについて観察することが出来たのだ。

「ーー聞いて、透矢くん。
敵が使うあの『Ａ・Ｄ』モンスターの特徴について、分かった事がいくつかあるの」

「分かった事？」

「前のターンを思い返してみて。

あの『Ａ・Ｄ』モンスターはどんなタイミングで、その効果を発動していたかを」

「タイミング……」

そう言われて透矢は直前の自分のターンを整理してみる。

まず『白銀の盾』の効果が発動した時、
次に『白銀の盾』が破壊された時、
そして魔法カードを使用した時。

この三つのタイミングで、『ラピス』は『Ａ・Ｄ』モンスターの効果を発動させていた。

「そう。

言い替えると、透矢くんが何らかの行動した時に、カウンターするように効果が発動していたの。

……何かに似ていると思わない？」

「似ている……？」

謎かけられて、透矢はその意味を探ろうとする。

『こちらが行動した時に、カウンターするように効果が発動』。

その刹那の言葉を自ら復唱して見せた時、透矢の中である考えが浮かんだ。

「ひょっとして……『罠（トラップ）カード』、か？」

「うん。

こちらが特定の行動をすると、『Ａ・Ｄ』モンスターが裏側から表になり、その効果を適用する。
発動後、エンドフェイズに墓地に送られる事を考えても、まさに『罠カード』そのものよ」

「そうか……」

「言ってしまえば、『Ａ・Ｄ』モンスターは『生きる罠カード』、ということね」

刹那の表現に、思わず納得させられる透矢。
だが刹那は更に続ける。

「そして、敵は一体一体、違うモンスターを召喚させていた。
すなわち、『透矢くんが踏んだ種類の罠』を、少なくとも今この瞬間は発動される可能性が限りなく低いということ！」

一体一体が違うモンスターなら、持っている『罠能力』も別物であるはず。
刹那はそう踏んだのだ。

『くす……なるほど』

黙って耳を傾けていた『ラピス』が小さく頷く。
それは刹那に対する賞賛とも取れた。

「私は手札から『混沌天使（カオス・エンゼル） リニア』を召喚！」

メインフェイズ。
刹那がモンスターを召喚。
刹那の操る『混沌天使（カオス・エンゼル）』。
光属性でありながら闇属性としても扱うことのできる、特殊なモンスター。
その象徴である、白と黒の翼を持つ、少女のような『リニア』。

レベルは２、そして『チューナーモンスター』であるという特徴を持つ。

「更に手札から魔法カード、『混沌の波動』を発動！

ーー場に『混沌天使』モンスターが存在する時に発動が可能で、デッキの上から３枚を墓地に送る！」

「おお、この流れはーー」

透矢が思い出す。
この流れは透矢と刹那がデュエルした時のそれを踏襲しているかのように、同じ進行なのだ。
刹那がデッキの上から３枚をめくり、その内容を見て小さく笑みを見せる。

「捲られた３枚は全て『混沌天使』モンスター！
この魔法効果で光属性と闇属性モンスターが１枚ずつ以上、墓地へ送られた場合、追加効果としてデッキから１枚ドロー出来る！」

『混沌の波動』の追加効果。
ここで先ず『混沌天使』の二つの属性を持つという有利性が早速発揮された。
『混沌天使』デッキを回す上で不可欠な墓地肥やしに加えて、ドロー効果。
たかが１枚なれど、刹那のデッキにおいてそれは大きな１枚である。

「そして『リニア』のモンスター効果！
墓地の闇属性モンスターを除外することで、墓地のレベル４以下の『混沌天使』モンスターを効果を無効にして特殊召喚！

『サミュエル』を除外して、『ステルヴィア』を特殊召喚！」

『リニア』は透矢戦でも重要なファクターを占めていたモンスター。
その効果で同じ光と闇の翼を持つ天使が特殊召喚。
そのレベルは４である。

「よし、刹那の場にチューナーとチューナーじゃないモンスターが並んだ！」

歓喜するような透矢の声。

そう、刹那は『混沌天使』の使い手であると同時に、シンクロモンスターの使い手でもある。
そのシンクロ召喚を行う上で、チューナーモンスターと非チューナーモンスターを揃えるのは基本であり、いかにそれをスムーズに行えるかが大事である。

『くす……中々、強かな娘だな。
魔法の発動、モンスター効果の発動、と、
前のターンに彼が行った行為を踏むことで、自信の仮説を確かめにきている』

刹那のここまでの行動から、『ラピス』はそこにある別の思念を感じ取っていた。
刹那は自分の『Ａ・Ｄ』モンスターに対する考察を確かめている、と。

『ふふ……お前の考察は、九分九厘的中はさせているがーー。

そこまで読んでいながら、迂闊にも動きすぎたようだな』

「動き……すぎた？」

『ラピス』が不敵な笑みを浮かべる。

『ーーこの瞬間、“メガロディニクス”を表側表示に変更！』

『ラピス』の裏側モンスター、透矢のターンから数えて４体目となる『Ａ・Ｄ』モンスターがその能力を発動する。

表側になったそのモンスターは、半透明の布ような姿。
大きな口と首を象り、地面から生えるようにしている。

『相手が１ターンに召喚・特殊召喚を合わせて二回行った時に発動！
相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊し、破壊したカード１枚につき、５００ポイントダメージを与える！』

「あぁ……っ！」

『メガロディニクス』がその大口を開けると、そこに強力に吸い込む力が発生し、刹那が召喚した２体の『混沌天使』を丸呑みしてしまう。
同時に砕け散る『混沌天使』。
追加として、刹那を１体につき５００、計１０００のダメージが襲い、ライフが３０００に減らされる。

「うぐ……っ！」

「刹那！」

ライフが減った事で、透矢が味わった痛みを刹那も味わう事になる。
歪む刹那の表情に、透矢が声を掛ける。

「くそ……、合計２回の召喚・特殊召喚ってことは、俺のターンで既にその効果を発動出来ていたのか！」

『くす、その通りだ。

ーー我はその娘が我がモンスターの能力を測っている事に気付いていた。
故にお前のターンでは敢えて発動せず、娘が地雷を踏む機会を待ったまで』

「くそっ！」

『まんまと引っ掛かってくれるとはな。
くすくす……浅はかだったな、娘』

刹那を見透かした『ラピス』の策略。
刹那はそれに引きずり込まれってしまったのか、と透矢は思わず落胆する。

「ーーふ、ふふ……いいえ。
『私の読み筋通り』よ！」

『何？』

痛みに耐えながら、『笑った刹那』。
『ラピス』が表情をしかめる。

「手札から魔法カード、『魂の同調』を発動！

このターン、フィールドから墓地へ送られたチューナーモンスターと、非チューナーモンスターを１体ずつ選択し、そのレベルの合計に等しいシンクロモンスターを特殊召喚する！」

『娘……！
最初から知った上で、わざと我が罠に落ちたというのか！』

「私があなたのモンスターを考察しているーー『その事にあなたが気付いているという事に気付いていた』！
ふふ、私も読み合いに掛けては譲れない部分があるのよ！」

『ちっ……』

「このターン、墓地へ送られたチューナー及び非チューナーモンスターのレベルの合計は６！
私はエクストラデッキより、『混沌天使 サンダルフォン』を特殊召喚！」

刹那の読み通りに運んだここまでの流れ。
その目的たるシンクロ召喚を今、実現させる。

「光と闇、２つの大いなる力交わりし時、次元の彼方に封ぜられし彼の力を呼び覚ます！

ーー降臨せよ、『混沌天使 サンダルフォン』！」

『リニア』が光を、『ステルヴィア』が闇の力を導き、刹那の頭上の空間に『入口』を生み出す。
その先の次元に封印された熾天使が刹那のフィールドに、姿を現そうとしていた。