地影vsメリッサ プライドを賭けた決闘②　作：はにわ改

　
「ーーほぅ・・・朝霧地影と、メリッサがデュエルか。
これは見ものだな」

ーー観客席、透矢たちとはかなり離れた場所。
その席に腿で頬杖を突いた前傾姿勢で座るクリスが、今から始まろうというデュエルを見て笑みを浮かべる。

「朝霧・・・データを取るべく、自らデュエルに臨んだか」

隣に腕を組んで座るのはクロエ。
自校の生徒たちの拙戦に、機嫌を悪くしていたが、
四天王・地影の登場ということで、期待を寄せる。

「朝霧は前回、メリッサとの戦いで充分に力を発揮できていなかったがーー印象には残っているよ。
緻密な作戦と手堅い戦い方を主とした、プロデュエリストに近い戦い方をする」

「うむ。
少しでも自分が有利になれば、ジリジリと差を広げていくスタイル・・・だったな」

「『だった』、とはどういう事だ？」

クロエの含みある言い方に、クリスがすかさずその意味を訊く。

「ーー変わったんだよ、地影は。
遊戦名と戦い、そして負けーーあの子は自分が望む戦いに正直になったのだ」

「・・・？
いまいちよく分からないな」

「ふふ・・・見ていれば分かる。
少なくとも、去年と同じ轍を踏んだりはしないさ」

「ほぅ・・・ならば拝見するとしよう」

敢えて全ては語らないクロエ。
語ったら興が削がれてしまう、というその口調から、
クリスもそれ以上突っ込むことはせずに、己が眼で見極めようとする。

ーー今まではシェリル・メリッサ側の常勝ムードであったが、この地影はそう簡単にそれを許しはしまい。
クリス・クロエはお互い、同じ期待を胸に観戦を楽しむのだった。







「ーー私の先攻から始めさせて頂きます！」

ーー地影の先攻。

英語を使いこなす地影に、通訳係は必要ない。
側に付く教師はただ審判の役割を果たすのみとなった。

「まず、私はカードを１枚セットし、手札から『活火鉱石（かっかこうせき）』を守備表示で特殊召喚！」

まず魔法・罠カードゾーンにリバース・カードをセットした後に、モンスター『活火鉱石』を特殊召喚させた。
現れたのは高熱により赤く染まる、幅１メートル程の岩石。
レベルは２、守備力は８００。

「『活火鉱石』は自分の場にモンスターがいない場合に特殊召喚が可能！
続けて、私は手札から魔法カード『奇跡の鉱脈』を発動！」

ーー発動された魔法カード、『奇跡の鉱脈』。
透矢との戦いでも使用されたカードであり、自分フィールド上の岩石族モンスター１体を破壊して、デッキからカードを２枚ドローするカードだ。

「私は『活火鉱石』を破壊して２枚ドロー！
そして『活火鉱石』の効果が発動します！
このカードが破壊された時、フィールド上の魔法・罠カード１枚を破壊する！」

「ーーわぉ、マジで？
フィールド上の魔法・罠って、チカゲのカードしかないよ？」

２枚ドローの代償として、『活火鉱石』を自ら破壊した地影。
しかも『活火鉱石』を破壊した事でその岩石の内にあった熱が火を噴き、地影が最初に伏せたカードを破壊してしまう。

「ーー抜かりなく！
これが狙いなのですから！
私が最初に伏せたこの『地殻胎動』は、セット状態のまま破壊された時に効果が発動します！」

「ワッツ？！」

「セット状態のこのカードが破壊された時、墓地のレベル３以下の岩石族モンスターを特殊召喚し、
更に『地帝』か『溶帝』と名の付くモンスター１枚をデッキから手札に加えます！」

そう、最初にカードをセットし、それをわざと破壊したのはこのコンボを実現させるため。
『地殻胎動』の効果により、今破壊された『活火鉱石』が再び地影の場に召喚される。

そしてーー。

「私はデッキから『溶帝 ウルカニウス』を手札に加え、
復活させた『活火鉱石』をリリースして、『ウルカニウス』をアドバンス召喚！」

地影はまだこのターン、通常召喚を行っていない。
『地殻胎動』で加えた『溶帝 ウルカニウス』が『活火鉱石』を生け贄に召喚される。

ーー大地が吹き飛ぶように裂け、紅蓮の赤で染まった甲冑と仮面を被った巨人。
その甲冑の内からは蒸気が溢れ出しており、仮面の奥では２つの目が切れ長に赤く煌めく。

レベルは６、攻撃力は２４００。

「ーー『ウルカニウス』の効果発動！
アドバンス召喚に成功した時、デッキからレベル４以下の岩石族モンスターを墓地へ送り、その守備力の半分のダメージを相手ライフに与えます！」

「えぇっ！？」

「私はデッキから『翡翠の鉱石』を墓地へ送り、その守備力の半分、１０００ポイントのダメージを受けて頂きます！」

『ウルカニウス』の効果により、墓地に送られた『翡翠の鉱石』のレベルは３で、守備力は２０００。
『ウルカニウス』が両手を重ねて握り拳を作ると、その拳を大地に打ち立てる。
それによりメリッサのフィールドに激しい揺れをもたらすと、地から噴き出したマグマが、メリッサを呑み込む。

「にゃーーっ！！」

リアルな演出に、思わずしゃがんでガードするメリッサ。
ライフがいきなり４０００から３０００へと減らされる。

「更に墓地へ送った『翡翠の鉱石』の効果！
このカードが墓地へ送られた時、このカードよりもレベルの低い岩石族モンスターを墓地から特殊召喚出来ます。
私は再び『活火鉱石』を特殊召喚！」

「ま、また出てきた！」

地影の一連のコンボ。
それにより、『活火鉱石』がまたもや地影のフィールドに守備表示で置かれる。
これで地影の場には『ウルカニウス』と『活火鉱石』が場に並び、手札は４枚。
実質手札１枚の損失でこの場を作り上げ、更にメリッサのライフを１０００削った事になる。

「カードを２枚セットして、私はターンを終了します！」

そして２枚のリバース・カード。
地影がいきなり大きく動きを見せた１ターン目がようやく終わりを告げた。

『（ーー妙、だな。
チカゲ・アサギリのデッキはもっと緩やかな流れだったはず。
なのに１ターン目からこれ程の動きを見せるとはーー）』

隣で別の生徒とデュエルするシェリルは、横目に意識を傾けて地影の一挙一動を観察している。
だが地影が見せた動きは、去年の大会のそれとはまるで違っていた。

「あっはは！
オーケー、オーケー！
楽しいデュエルになりそう！
あたしも頑張っちゃうよっ！」

「・・・」

そして地影と相対するメリッサは、持ち前の性格なのだろうか、
どんどんテンションを上げていく。
自分のターンを迎える前からダメージを受け、更に上級モンスターを召喚されたというのに、気負いしている様子がまるでない。
あるいはたかが親睦デュエル、という気持ちからくる開き直りか。

いずれにしても、地影の表情は真剣そのもの。
これから始まるメリッサのターンを、その動きを観察しつつ対応するべく緊張の糸を解かない。

「それじゃ、あったしのターン、ドロー・かぁぁあど！」

やたら大振りに腕を動かし、カードをドローするメリッサ。
果たしてメリッサはどんな動きを見せてくるのかーー。