サタン・ルキフェル①　作：はにわ改

　
「ーー『ディバイン・キャンセラー・エミリア』で攻撃！
ーー『フルバースト・キャノン』！」

ーーワシントン校の先鋒・メリッサのエースモンスター・『エミリア』。
完全武装による多数の砲塔が一斉に火を噴き、カラフルな幾重ものエネルギーの柱が相手モンスターを撃ち貫く。
そしてそのモンスターを焼き尽くすのと同時に、勝負も終わった。

「ーーオゥラァイっ！
私の勝ちっ！」

メリッサが天に向けて右手を突き出し、跳び上がるかのようなつま先立ちで、勝利のポーズを決める。
内容は最初から最後までメリッサの流れ。
多少の強引も勢いで押し通し、気持ちのいい勝利で初陣を飾る。



「ーー撃ち抜け、『バッファロー・ビル』！
ツイン・アサルト・ビースト！」

中堅・シェリル。
その内容は最早、圧倒的。
戦闘面に関しては抜群の強さを見せつける、彼女のデッキのガンナー・モンスターたちが素早く態勢を作り、相手の場を作らせない。

最後は透矢とのデュエルでも出てきた『バッファロー・ビル』が、二倍の戦闘ダメージという恐ろしい効果により、終止符を打つ。

メリッサに続き連勝を決めたシェリルは、同時にワシントン校の一回戦突破を決めたのだった。
だがメリッサのように勝利を喜んだりはせずに、無言で壇上を下りる辺りは対照的である。

やはり前回の優勝校だけあってか、ワシントン校の強さはこれまでの出場校と比べても、頭一つ抜けている、という印象を見る者にもたらした。

ーーそしてそれはモニター越しに見る、日本校も例外ではない。



「さすがにやるね……」

「あ、相手も選ばれた代表、選手、ですよね……？
それなのにーー」

ーー控え室。
炎魅子が感嘆の意を表し、千鶴も圧倒的な実力を目の当たりにして、そら恐ろしいものを感じているようだった。

「ふむ……ただ、こう言っては何ですが、あまり有益なデータは取れませんでした。
少なくともメリッサさんに関しては、私との親睦デュエルで使われたカード・戦法がほぼ大同小異ですし。

シェリルさんも五分、いや、下手をすれば三分、二分の力、と言ったところでしょう」

地影がＰＣの光を眼鏡で反射させながら、そう分析する。
彼女が言うにはまだ二人は本気ではない、という。
そう踏まえた上で、いざ彼女たちと戦うことになったとき、どう相対するべきかーー？
炎魅子・地影の共に難しい表情は、既にそれを考え始めているためのようだ。

「アルフレッドは……今回、出てこなかったみたいね、透矢？」

「……」

「透矢？」

「ーーん？あ、ああ……な、何？」

真希の呼び掛けに反応が遅れる透矢。

「いや、アルフレッドが出てこなかったね、って」

「ああ、そうだな。
ま、でもまだ大将戦があるし、ワンチャンそこで出てくるかもな？」

「残念だけどそりゃないね。
前回の大会じゃ、大将は全部、久遠がやってた。
ほら、あいつさ、目立ちたがりなところあるからさ」

「ってことは最後は久遠か……ま、どっちにしても見逃す手はないよな」

「ワシントン校は既に勝ち上がり決定だからね。
久遠にしてもアルフレッドにしても、気楽なデュエルさ」

ーーさっき、一触即発の事態が起きた控え室。
だが透矢が帰って来てクロエに謝ってからは、誰もその話題には触れない。
炎魅子も地影もまるで知らない振りをしているかのよう。

だが真希は気にしていた。
本当ならば透矢に詳細を問いたい。
さっき、刹那と何を話したのかも。

だが誰もその事に触れない『空気』を自分が壊すというのを躊躇い、真希は必死に堪えていた。

ーーかくしてモニターの向こうでは、いよいよ大将の二人が壇上に上がる。
ワシントン校の大将はやはり久遠。
相手もその実力は事前に熟知させられているのだろうか、
消化試合に過ぎないというのに、緊張と気迫に満ちた立ち振る舞いである。
それに対して久遠はーー。





（ーー面倒くさい。
本っ当に意味のない消化試合よね、この大将戦……）

久遠は明らかに気乗りではなかった。
それは態度にも明確に表れている。
消化試合には違いないが、それでもせっかく最後まで戦えるというこのルールの下、相手は気概を高めているというのに、久遠からは全くそれが感じられない。

だがそれだけではない。

久遠は朝から類を見ないほどに、機嫌が悪かった。
その理由は昨晩の一件が原因だが、当然、アルフレッドたちがそれを知る由もない。

（終わったら……どっかにフケようかな。
どーせ、私なんていてもいなくて変わんないんだしーー！）

昨晩の一件を思い出した久遠が、足で地を蹴り上げる。

（……許せない。
あんな非道な行為を提案するマナセリア先生も先生だけど、
あっさり賛成したお姉さまも大概よ……っ！）

昨日、殴られた頬。
もちろん痛みはもうないが、未だ感覚を越えた余韻が消えないでいる。

（あたしの意見なんて最初からガン無視で……。
いつもそうよ！
先生も……両親も……そして、お姉さまも！
みんなで私の事をバカにしてーー）

久遠の中で苛々が募る。
それが昨晩の一件のみならず、これまでの事が積み重なって、ということでもある。

ーーそんな中、いよいよ会場が進行し、大将戦が始まろうとしていた。

そしてーー事件は起きた。