真希vs千鶴 もう守られるだけじゃない③　作：はにわ改

　
ーー真希から発動された究極とも言える魔法・罠除去カード、『ハーピィの羽根箒』。
効果が適用されれば、千鶴の永続魔法『小さな魔法のお城』に加えて、３枚のリバース・カードが全て破壊されてしまう。

誰もが千鶴の動きに注目する。
もし、何も動きがないなら千鶴は負けるーー。

空中から姿を現した大きな鳥の翼が大きく箒のように振られて、そこから突風を巻き起こす。
その突風は千鶴のカードを横から一掃しようと、意思ある動きを見せた。
千鶴の目が３枚のリバース・カードの内の１枚に移る。

「ーーか、カウンター罠カード、『魔法失敗？！』をは、発動！」

「ーーおおっ！」

千鶴は動いてくれた。
透矢は思わず歓喜に似た声を上げてしまう。

「わ、私のフィールドに、『小さな魔法使い』がいる時に、は、発動！
魔法カードの発動と効果を無効にして、お互いに１０００ポイント、だ、ダメージを受ける！」

カウンター罠カード『魔法失敗？！』。
すると千鶴の場にいる『チコル』が、迫ってきた突風の前に立ちはだかり、その小さな両手をかざす。
その掌からピンク色の光が発せられると、そこに壁が生まれたかのように風を遮る。

どうやらチコルが魔法で障壁のようなものを作り出してくれたようだが、風の勢いが強いからか、防ぐチコルは苦しそうだ。

そんな押し引きの状態が少し続いたかと思うとーー。

突如の大爆発。

黒煙の中から、真っ黒になったチコルがその場で倒れてしまう。

「ご、ごめんね・・・チコル」

千鶴が苦笑いしながらチコルを労う。
ディスクが作り出した間抜けだが可愛らしくもあるその演出。
とにかく『ハーピィの羽根箒』は無効になり、真希と千鶴のライフは互いに１０００ずつ減って、３０００となった。

「（ーー良かった・・・千鶴ちゃん）」

最悪の事態を回避して胸を撫で下ろす透矢や、観客の一同。
しかし一番安堵したのは真希であろう。
真希の表情にはそんな心境が如実に表れていた。

「『カードを伏せる時は、除去カードに気を配ろう』、だよね、お姉ちゃん」

「千鶴ちゃん・・・」

千鶴がにっこりと笑いかけてくる。
そんな千鶴に真希も、少し緊張の糸をほどいたように笑みを見せる。

「やっぱりお姉ちゃんとデュエルするのが、私、一番楽しい」

「そ、それはあたしだって・・・」

「だからそんなお姉ちゃんと・・・一度、本気で戦ってみたかった」

「本気でーー？」

「だから今日は、お姉ちゃんに教えてもらったこと、全部思い出しながら戦うね」

未だにその全容の見えない千鶴の本心。

ーー本気でデュエル。

確かに千鶴とのデュエルで、今まで自分が本気になった事があっただろうかーー。
真希はそんな事を少し考えたりもした。

「まだお姉ちゃんには勝てないかもしれないけど・・・それでも、私、頑張るから」

千鶴の真っ直ぐな眼差し。

真希はそれを見て『何か』に気付いた。

今まで自分は千鶴にデュエルを『教えてきた』。
そうしながら少しずつ強くなっていく『妹』を微笑ましく思ってきたがーー。

「ーーあたしは手札からモンスター、召喚！
『ハーピィ・ライダー』！」

真希は思いを巡らせながらデュエルを再開。
手札から召喚されたのは、太い二足を地に着けた小型の有翼竜に乗る『ハーピィ・レディ』。
フィールドか墓地で存在する限り、名前を『ハーピィ・レディ』として扱うモンスター。

レベルは４、攻撃力は１７００。

「ーーバトルフェイズ、『ハーピィ・ライダー』で『小さな魔法使い（リトル・マジシャン） チコル』を攻撃！」

そして真希は流れに沿うように、バトルを宣言。
『ハーピィ・レディ』が手に持つ鞭で大地を叩くと、竜が主人を乗せたまま、太い二足で大地を踏み抜きながら千鶴のフィールドに迫る。

真っ黒だったチコルはいつの間にか元の状態で千鶴のフィールドに佇んでいたが、迫る真希のモンスターを見て、慌てた様子を見せている。

「こ、この瞬間、に、２枚のリバース・カードを発動！
『小さな魔法の防御壁（リトル・マジック・ディフェンス）』と、『リトル・マジック・サークル』！」

千鶴はまたも機を逃さず動く。
残った２枚のリバース・カード、
１枚は永続罠カード、『小さな魔法の防御壁』、そしてもう１枚は通常罠の『リトル・マジック・サークル』。

「り、『リトル・マジック・サークル』は私のフィールドに『小さな魔法使い』が存在する時、じ、自分または相手モンスターの攻撃宣言時に発動！
わ、私はデッキから『小さな魔法使い』モンスターを特殊召喚できる！」

まず『リトル・マジック・サークル』。
千鶴のフィールドに、白く光る六芒星の模様が浮かび上がった。

「デッキから・・・来て！
『小さな魔法使い（リトル・マジシャン） マリル』！」

そうしてその六芒星から、今度は緑色の煙が弾け、現れたのは『マリル』。
『チコル』と同じ格好をしており、色だけが緑と異なる。

レベルは２、攻撃力は同じく２００。

「そ、そして『小さな魔法の防御壁』は、『小さな魔法使い』モンスターが、相手のモンスターの攻撃対象になったとき、その攻撃を自分への直接攻撃に変更できるの！」

永続罠カード『小さな魔法の防御壁』。
これにより、非力な『小さな魔法使い』を戦闘から護れるが、そのためには千鶴が自ら盾とならなくてはならない。

『ハーピィ・ライダー』は頭を押さえて伏せているチコルの横を駆け抜け、千鶴へと差し迫り、竜に乗るハーピィが鞭で千鶴を叩き伏せる。

「ーーきゃっ！」

「千鶴！」

思わず小さく悲鳴を上げた千鶴。
透矢がまた声を上げる。

「『小さな魔法の防御壁』の、効果・・・。
この効果で直接攻撃を受ける場合、そのだ、ダメージを半分に、する・・・」

『小さな魔法の防御壁』の追加効果。
それにより、本来受けるはずの『ハーピィ・ライダー』の攻撃力１７００の半分、つまり８５０がダメージとなる。
千鶴のライフは２１５０となった。

「さ、更に永続魔法、『小さな魔法のお城（リトル・マジック・キャッスル）』の効果が発動！
『リトル・マジック』と名の付く魔法か罠カードが発動する度に、このカードに魔力カウンターを１つ置く！」

そしてここでようやく『小さな魔法のお城』の効果が適用。
その効果により、『リトル・マジック・サークル』、『小さな魔法の防御壁』の２枚分、合計２つの魔力カウンターが乗せられる。
２つの光がお城へと吸い込まれると、一時的に『お城』全体が光を発して、またすぐに戻る。
カウンターを使うカードは規定の数を貯めると、何らかの効果を発動するタイプが多いが、このカードは果たしてーー。

「よし、ダメージを最小限に抑えた！
いいぞ、千鶴！」

透矢が握った拳に力を込める。
彼も千鶴のデッキは知っている。
故に、まずまずの流れ、と思えてしまったようだ。

「ーーまだよ」

「え？」

すると厳しい表情のままの刹那が、そんな透矢の思いを遮った。

「本気の真希なら・・・これでターンエンドはあり得ないわ」

「あーーっ」

透矢は真希を見る。

ーー本気の真希。
そうだ、自分も１週間前に本気の真希と相対した。
あの非常に足の早い、こちらが気を抜けばそれこそ１ターンで持っていかれるーー。

その真希が本気ならばーーこんな凡庸にターンを明け渡すなんて、確かに考えられない。

「ーーまだよ、千鶴ちゃん」

「ーーあ？！」

真希が手札のカードを握る。
まだバトルフェイズは終わってはいない。

かつてはデュエル・キラーとして、それこそ十人十色のデッキを持つ生徒たちを１ターンで沈めてきた真希。
彼女のバトルフェイズはまだ始まったばかりである。