闇から現れし者たち②　作：はにわ改

　
ーー『彼』は自分のフィールドにいる『大将軍 紫炎』の背中を見つめる。
思えば『六武使い』という二つ名の下、プロに入る前から今日まで、勝ち抜いてこれたのはこのカードのお陰だ。

ある時は相手に引導を渡し、ある時はこのカードが盾となり、自分のライフを護ってくれる。
そうしてある意味ではこのカードと二人三脚で、今の自分がある。
そしてこれからの未来があるーー。

「（こんな奴らに・・・こんな奴らに俺の『六武衆』は負けない！）」

彼は信じた。
六武衆のカードたちが、自分を守ってくれるはずとーー。

「ーー俺は手札から魔法カードを発動する」

「（おいですなったな・・・！
除去魔法カードかーー？）」

黒衣の男がディスクにセットした魔法カード。
すぐにディスクが機能し、その正体を露にする。

「ーー魔法カード・・・『クロス・ソウル』だ」

「クロス・ソウルだと！？」

発動されたカードを見て、愕然とさせられる彼。

「このターン、俺がモンスターをリリースする場合、
俺が指定する相手モンスターをリリースしなければならない。
俺が選択するのは・・・当然、『大将軍 紫炎』だ」

「（し、しまった・・・リリース効果では、俺のリバースカード、『六尺瓊勾玉』が発動出来ない・・・！）」

彼の伏せた『六尺瓊勾玉』は相手のあらゆる破壊効果を無効に出来るが、クロス・ソウルのリリース効果には無力。
こんな目に遭っている事もあり運がない、と言うべきか、
見事に効果の隙を突かれてしまったようだ。

「俺は大将軍 紫炎をリリースし・・・手札から『偉大魔獣 ガーゼット』をアドバンス召喚」

「ぐ・・・紫炎がーー」

アドバンス召喚のために必要な生け贄（リリース）モンスターは、通常は自ら用意するものだが、クロス・ソウルでそれを相手のモンスターで代用できる。
彼からすればエースモンスターを使われたことも相俟って、より強く悔しさを表情に滲ませる。

そうやって召喚されたのは、紫炎の面影などまるでない、禍々しい悪魔族モンスター。

「ガーゼットの攻撃力は、リリースしたモンスターの攻撃力の倍となる」

リリースした紫炎の攻撃力は２５００。
その倍がガーゼットの攻撃力となり、すなわちその数値は５０００。

「だが、クロス・ソウルを発動したターンは、バトルフェイズを行えない！」

そう、クロス・ソウルの無視できないデメリット。
せっかく相手のモンスターを代用して、アドバンス召喚によって強力なモンスターを召喚しても、肝心のバトルフェイズが行えないのだ。

「構わんよ。
『大将軍 紫炎』が消えてくれた今、俺の魔法・罠カードの発動制限はなくなったのだからな」

「何っ！」

「俺は手札から『ファイヤー・ソウル』を発動。
デッキから炎族モンスター１体を除外し、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージをお前に与える」

紫炎がいる間は、黒衣の男は１ターンに１度までしか魔法・罠カードを発動出来なかった。
それを消すのがクロス・ソウルの本来の目的であり、
そうして発動された『ファイヤー・ソウル』。
相手に直接ダメージを与えるカードとしては、かなりの高火力となりやすいカードだ。

「このカードの発動時、相手はデッキからカードを１枚ドロー出来る。
さぁ、ドローするがいい」

「・・・ドロー！」

『ファイヤー・ソウル』のデメリットによって、彼はデッキからカードを１枚引く。
それを一瞥し、無言で手札に加える。

「俺はデッキから『ヴォルカニック・デビル』を選択して、除外。
その攻撃力の半分、１５００のダメージを受けてもらおう」

「ぐ・・・！」

除外された『ヴォルカニック・デビル』の攻撃力は３０００。
故にその半分、１５００ダメージ。
初期ライフ４０００の３分の１以上をこれ１枚で削り取るわけだ。

地面から吹き出た火山の噴火のような炎が、彼の全身を包み込んだ。

「ぐぅうあぁぁあああっ？！」

燃え盛る火炎。
彼が上げた叫びは、本当にその灼熱の温度に晒されているかのような、苦痛の悲鳴だ。
やがてその炎が収まると、力無く両膝を付き、前のめりにうずくまる。

「ぐう・・・、うぐ・・・ふぐ・・・、
か、身体が熱い・・・な、なん、なんだ、今、のは・・・」

立体映像に過ぎないはずの炎。
しかし彼は実際に熱さを感じ、悶絶している。

「・・・言い忘れたが、このデュエルではプレイヤーが受けるダメージは、現実のものとして体感する事となる」

「ば、バカ、な・・・」

「すなわち、このデュエルは・・・『闇のゲーム』なのだ！」

「や、闇の、ゲーム・・・？」

彼は聞いたことがあった。

『闇のゲーム』という単語を。

しかしあまりにも現実離れした話であり、ただの噂かデマ程度にしか考えていなかった。

ーー今日、実際に自分が体感するまでは。

「そしてライフが０になったプレイヤーは、その命が闇に喰われる」

「い、命が・・・」

「貴様のライフが尽きた時、貴様も我らが『同志』として、新たに生まれ変わるのだ」

命が喰われる、生まれ変わる。

何の事を言っているのかは分かるはずもないが、とにかく己が身がただでは済まない事を示唆しているのは明らかだ。

だが逃げ道はない。
助けも来ない。
まるで現実世界から隔絶されたような今、生きるには己の力で切り開くしかない。

「くくく・・・もう、手遅れだ。
貴様はこのターンで消える。
貴様の信じるモンスターの手によってな」

「な、何、だと・・・！」

彼にとって絶望に満ちたターンは続く。
彼のライフが尽きる、その時まで。